漢方アラカルト


■漢方薬と中医薬


「漢方」という言葉は中国語ではなく、和製用語すなわち日本で作られた言葉なのです。すなわち、蘭方(オランダ医学)ないしは和方(日本固有の医学)に対して作られた言葉で、漢字や漢文と同じように「漢」とは「中国の漢の時代」と説明される場合もありますが、もっと広く中国そのものを現す言葉といった方が正しいでしょう。すなわち「漢方」とは中国固有の伝統医学という意味です。そして中国そのものでは、自分の国の伝統医学のことを「中医学」と表現しています。 したがって「漢方」も「中医学」も、もともと中国伝統医学のことを指し、日本と中国で言い方が違っただけのものです。ただし、もとは中国で発祥した医学でしたが、それぞれの国において独自の展開をみせて伝わったために、「日本の漢方」と「現代中医学」とでは考え方に若干の違いが発生しています。

日本の漢方は初め朝鮮半島を通って日本に伝えられていました。奈良平安時代になると、遣唐使によって日本に伝えられましたが、まだ庶民のものではありませんでした。鎌倉時代になると、やっと漢方医学も庶民のものとなりました。室町時代には田代三喜(たしろさんき)などが中国に渡って、中国医学を持ち帰りました。中国から伝えられた中国医学は曲直瀬道三(まなせどうざん)などによって発展していきましたが、鎖国によって外国との交流が少なくなった江戸時代になると吉益東洞(よしますとうどう)を中心とした「古方派」と呼ばれる人達が「傷寒論(しょうかんろん)」という書物を基礎にして、日本独特の考え方をもった今の日本漢方の基礎を作りました。明治以降、この流れを汲む湯本求真(ゆもときゅうしん)や大塚敬節(おおつかけいせつ)などが現在の日本の漢方を発展させていきました。 中医学と日本の漢方のもっとも大きな違いは、中医学が「黄帝内経(こうていだいけい)」を基礎として、陰陽五行などの理論を駆使して、病証を把握して、弁証していくのに対して、日本の漢方は、病理哲学的な理論を考えずに、直接症状から処方を考えていくのが特徴です。このため中医学はどちらかというと理論的で、病気を治すということだけでなく、病気を予防したり、健康で長生きするための養生法なども重要視されてきました。そして、現代に至っての最も大きな違いは、現在中国では中医学専門の大学を卒業した中医師といわれるお医者さんが沢山いることと、中医学専門の病院があることです。日本漢方にも沢山の優れた点がありますが、中医学の歴史、層の厚さ、現在の教育制度、一般の人の理解などを総合すると、やはり「中国」が本場であることを実感せざるにはいられません。

効く漢方薬はおいしい

 健康な人が飲めばまずいのに、その薬と証(しょう)がぴったり合った場合には、おいしく感じられることがあります。証に合った薬は比較的飲みやすく、気持ちよく飲めるものです。初めのうちは飲みやすかったのに、途中から急にまずく感じるようになることがあります。これは、証が変わったことを示しています。証が変わったら、今度はその証に合った薬を用いますが、薬の飲みやすさが、薬をかえる時期の目安と考えてもよいでしょう。


■漢方薬にも副作用がある

 漢方薬に副作用がないといわれるのは、漢方治療の長い歴史と経験から、作用の強い生薬を入れる場合には、それと反対の作用をする薬を微妙にまぜ合わせているからです。
 ただし副作用がまったくないわけではありません。証のまったく合わない薬を服用し、発汗や下痢が止まらなくなるなど、ときに思わぬトラブルが起こることもあります。これは、毒性の強い生薬の入った薬を用いることで起こることが多いのです。
 次のような生薬の含まれた漢方薬は、長期間飲みつづけたり、一度に大量に飲まないなど、慎重に服用してください。
●附子(ぶし)……トリカブトの根で、正しく使用すれば強心作用や鎮痛作用がありますが、吐きけやのぼせ、どうきが起こることもあります。
●大黄(だいおう)……下剤・解毒効果がありますが、飲みすぎると下痢が止まらなくなることがあります。
●甘草(かんぞう)……鎮痛・消炎作用をもっています。誤って使用すると、むくみが出ることもあります。
●麻黄(まおう)……ぜんそくの治療によく用いられます。重度の心臓病の人が用いると、狭心症を起こすことがあります。
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)……虚証タイプ(体力のない人)に向く薬。これを実証タイプでのぼせぎみの人(体力のありすぎるタイプ)が用いると、めまいや頭痛、耳鳴り、肩こりが悪化する

漢方薬酒
昔、医という文字は『醫』とかかれたように、薬酒は医療の分野で早くから用いられていました。また、お酒には体を温め、食欲を増し、血の流れをよくするなどの働きがあり、他の薬の効き目を強める働きがあります。薬の形を示す漢字の1つ醴(れい)は薬酒のこと。人参酒(にんじんしゅ)はじめ、地黄酒(じおうしゅ)、鹿茸酒(ろくじょうしゅ)、枸杞酒(くこしゅ)、五加皮酒(ごかひしゅ)など多種多様。

■漢方薬の瞑眩(めんげん)
漢方治療で快方に向かう途中にまれに起こる、一時的な現象です。個人差があり、その期間も様々ですが、身体が正常に向かっている証拠ですから、心配せずに、服用を続けてください。

■ドーピング禁止薬物
漢方の生薬である「麻黄」は、ドーピング禁止薬物である「エフェドリン」を含んでいます。漢方製剤は、さまざまな生薬を一定の法則で配合したものです。さまざまな名前の漢方製剤があります。「麻黄」を含む漢方製剤は以下のようなものがあります。葛根湯・杏蘇散・桂麻各半湯・五虎湯・五積散・小青龍湯・神秘湯・独活葛根湯・防風通聖散・麻黄湯・麻杏甘石湯などの漢方製剤を使う場合は、必ず専門家の診断を受けましょう。「麻黄」がドーピング禁止薬物であることも伝えましょう。

■漢方薬の種類

煎じ薬:草や木の根などを乾燥させて刻んだもの。原始的だが、一番自然に近く、効果も良い。ただし、煎じるのに手間がかかる。味もやはり少し飲みにくいものが多い。
粉 末:草や木の根などを細かい粉末にしたもの。飲むのは楽で煎じる手間も要らないが、一度に大量には服用出来ない。
丸 薬:粉末を蜂蜜などで練って、丸くしたもの。大きさもいろいろある。大きい物は、一つ一つ、臘でくるんであり、飲むときは臘をわって飲む。粉末よりも、さらに飲みやすい。
エキス剤:草や木の根などを煎じて得られたエキスを澱粉などに吸着させて、飲みやすくしたもの。煎じる手間も要らないし、粉末よりは、多くの生薬を一度に服用出来る。ただし、エキスを作る時に、有効成分が100%抽出されるとは限らない。
エキス剤はさらに、形によって、細粒、顆粒、錠剤、丸薬、カプセルなどに分類される。