珪様から、1000HITお祝い記念に、頂きました〜vv


本当に、本当に、ありがとうございます!!(大感謝)

こういうシーン、大好きなんですよぉぉ〜!!(叫)

感激のあまり、涙が出そうです〜!!!!!

綾瀬から、精一杯の感謝の気持ちを込めて、このイラストから咄嗟に

思い浮んだ駄文(超SS)などを書いてみました。

若しかして、私の駄文、無かったほうが良かったかも・・・(ちょい後悔)

このイラストのイメージを壊してもO.K.という寛大な方は、

読んでやって下さいな。




微睡





「はーさん・・・・・・?居る?」
ソロリ、と開きかかった障子に手を掛け、紫呉は声を掛けた。
そこでまだ、はとりが自分を待っていてくれることを願って――――










その日は、珍しくはとりの方から電話があって。
電話越しに囁かれた甘い言葉に、思わず切なくなって、これから遊びに行っても
いいかな、と自分から、はとりにそう云ったのは、今から数時間も前のこと。

下駄を履き、いそいそと出掛けようとしたその矢先、玄関先でバッタリ担当の
"みっちゃん"に会ってしまったのが運の尽き。
今、急いでるからまた後でね、などという云い訳が、お堅いみっちゃんに
勿論、通用する筈もなく―――
ズルズルと引き摺られるかのように、書斎に閉じ込められ、愛用のワープロと
格闘し終わったのがつい先刻。












「・・・はーさん・・・・・・?」
見慣れたはとりの広い背中が見えて、紫呉がホッとしたのも束の間で。
その背中が振り返って、自分の名前を呼ぶことは、遂になかった。
待たされたことを、怒っているのかもしれない。

座敷に足を踏み入れた瞬間、急に不安になる。
硝子戸の向こうに見える木から、ホロホロと葉が、風と共に、落ちた。

謝ろうと思い、後ろから回り込んで、はとりの顔を見た瞬間――――
思わず自分の頬が緩むのが解る。
きっと、待ち草臥れてしまったのだろう。
穏やかな寝息を立てて、はとりは眠っていた。

自分が、此処へ来るまでの間に、読んでいたのか、はとりの手からは
ハードカバーの洋書が落ち掛けていて―――
庭から吹く穏やかな風が、右手に持ったままの本の頁を捲って、通り過ぎた。



「・・・はーさんってば。こんな薄着で寝てたら、風邪引くよ」
苦笑しながら、肩からずり落ちそうになっている上着を掬い上げて、掛け直してやる。
疲れているのかもしれない。
自分は由希や夾と共に、本家から距離を置いているから良いけれど。
毎日、慊人の面倒を看なければならないはとりは、此処を出る訳にもいかず。
その上、他人の記憶を隠蔽するという、特殊な能力を持ってしまったが為に、
彼が要らぬ重荷を背負わなければならないのは、必至だった。

人は生まれた時から、宿命があると聞いたことはあるが。
若しも、そうだとしたら―――
きっと自分は、運命の残酷さと、己の無力さを、呪わずにはいられないだろう。

時々、ほんの時々、自分は生涯ずっと、この檻の中で生活をしなければならない
のだろうかと考えると、ゾッとすることがある。
不安な現実から逃避しようと足掻いてみても、何も変わらないことなど
解り切っているのに。
それでも、自分という人間は、如何してこうも、往生際が悪いのだろう。



――――



フと紫呉の視界に、はとりの形の良い唇が映った。
眠っている人間に、つい悪戯をしたくなるのが自分の癖で。
何時も隙のないはとりに、こんなことが出来る機会は滅多にない。

穏やかに呼吸を繰り返すはとりの口元を見ながら、
紫呉はそこに、自分の人差し指を這わせる。
ソッ、とかさついた唇を撫でると、はとりの寝息が当たった。擽ったい。
この唇が重ね合わされると、もう何も考えることが、出来なくなる。
自分を狂わせるのは、彼の手と、この唇なのかもしれない―――




そう思った瞬間。
胸の辺りに、締め付けられたような痛みが走った。
触れなければ良かった、と後悔する。
まだ起きる気配のない彼を見て、紫呉は何だか切なくなってしまった。


何時ものあの低い声で、自分を読んで欲しい。
何時ものあの甘い声で、囁いて欲しい。
何時ものあの温かい手で、自分に触れて欲しい。


折角、久しぶりに、はとりの顔が見れたというのに。
こんな自分の顔を、彼に見せたかった訳ではないのに。
ギュッ、と唇を噛んで、紫呉は踵を返した。
帰ろう、と、半開きになったままの障子に、手を伸ばす。



刹那―――



「・・・紫呉―――
自分の名を呼ぶ声がした。
突然、後ろから、凄い力で手首を掴まれ、引き寄せられる。
咄嗟のことで、如何することも出来ず、紫呉はそのまま躰を捻り、
倒れ込むように、はとりに凭れた。



「人を散々待たせて置きながら、声も掛けずに帰るとは、いい度胸だな」

「・・・はーさん・・・・・・何時から起きてたの・・・?」


声は掛けたんだけれども・・・という呟きは、抱き締められた瞬間に霧散した。
硝子戸から差し込む陽光が、はとりの黒髪を艶やかに照らし出す。
髪を掻き上げる度に放たれる煌めきは、その隠された瞳の輝きを見ているようで。
先刻まで抱いていた哀しい想いは、あっという間に消えてしまった。
泣きそうな表情をしてしまったことを、後悔する。
ぼんやりとした表情で、はとりの顔を眺めていると、何時の間にか
彼の顔が間近にあって―――
気が付いたら、唇を奪われていた。


「・・・して欲しかったんだろう?」
――――


はとりの方は、先刻まで居眠りをしていたことなど、何処吹く風、といった調子だ。
結局、はとりには全てが解っていたようで。
紫呉は何となく、この後に起こることを予想して、天井を仰いだ。


「・・・今日は―――・・・・・・」


はとりの低くて、甘い声が、耳元を擽った。
それだけで、意識が弛緩しそうになる。
何時の間にか、座敷の障子は閉じられていて。
薄い障子紙を通して、仄暗い室内に影絵が出来る。
自分の顔に当たるはとりの髪からは、陽の香りがした。



唇と唇を重ね合わせる。
やがて、密かな笑い声が零れて、口付けは次第に激しいものへと、変じていった。
陽光が、ふわふわと心地良く感じられ、紫呉は、はとりに全てを委ねる。
唾液と、摩擦音が部屋の中に響き――――
吐息と睦言とが、緩々と溶け合っていった。


<了>