るし様の素敵サイトへは此方からどうぞvv



るし様から、頂きました〜♪


UPするのが遅れてしまって、誠に申し訳ありませんっっ!!

もう二人の逞しさにドキドキですわvv

特に注目すべきは、肩の辺りで(さり気なく)繋がれた二人の手!!

何気に紫呉を独占するはとりと、

紫呉のカメラ目線も最高で・・・・・・

この包帯が、また良いんですよねぇ(しみじみ)

るし様、このような拙サイトに、ラブラブなはぐれイラスト、

本当に本当に、ありがとう御座いました〜!!(大感謝)

修羅場中故、この素敵なイラストのイメージを崩してしまうような

ヘタレSSしか書けませんでしたが、

これが、私なりの精一杯の感謝の気持ちだったりします。

若しもお気に召されましたら、どうか貰ってやって下さいませ。





目を開けると、黒く陽に灼けた天井があった。

木目や染みや埃の描く有機的な模様が、視界を覆っている。
差し込む光線だけが、仄かに揺らめいていて――――
薄汚れ変色した壁や、床の間に掛けてある軸、書籍(ほん)と雑誌の類までが、
全て青に反射して見えた。


半身を起こしながら、掛蒲団を除ける。
襖の破れ目からソロリ、と侵入してきた風は、項を擽り、耳元で渦を巻きながら、
静かに彼を掻き乱した。

深い眠りに陥落(おちい)っていた所為だろうか。
頭は平生よりも幾分重く、彼は暫く朦朧としていた。



窓の向こうには、四角く切り取られた紺碧の空が広がっている。
何処までも高く澄んだ蒼穹に、深く冴えた翠層。
蕭条とした日であった。

秋の到来を思わせるような湿った大気が、薄膜を張ったように街全体を包んでいた。
緩く息を吐き出すと、やおら下駄を突っ掛け、庭へ降りる。



戸外へ出た瞬間、旋風に土埃が舞って――――
前を合わせずに羽織った薄物の被風(ひふ)が、風に揺れた。
路傍(みちばた)に、黄ばんだ銀杏の葉がパラパラと落ちる。
何時もと変わらぬ長閑な景観のはずなのに、何所か落ち着かない。


途端、無闇に煙草が欲しくなり、彼は懐を探った。
片手だけで取り出した煙草を口の端に挟み、火を点ける。
呼吸をするかのように、肺の底まで烟を送り込み、緩緩と吐き出すと
漸く目が醒めてきた。

至福の瞬間。
そうして彼は、空へ吸い込まれて行く白い渦を、目線だけで追うた。


音は、ない。

声一つしない、沈静(ひっそり)とした静寂。

だが、彼は己の背後に悄然と立つ人影に気付いていた。
斯くして――――



―――紫呉」


男は、彼の名を呼んだ。
あぁ、何という優しい声だろう。
その声を聞くだけで、自然に躰が反応する。
疼くような感触に、擽ったい幸福感。
果たしてこの想いは、一つ残らずその男に届いているだろうか。

僅かに綻んだ口許だけはそのままで。
彼はゆるりと振り返ると、青空を背景にして立つその男に、声を掛けた。





・・・・・・いらっしゃい、はーさん」








傷瘡



「今日は一体如何したの?」

「・・・・・・・・・」

「珍しいじゃない・・・・・・はーさんの方から来るなんて」


紫呉が戻って来た時、はとりは相変わらずの無表情で。
壁に倚凭(よりかか)りながら、無言で新聞を読み耽っていた。
顔を上げようともしないので、表情すら窺えない。

そんなはとりの様子に苦笑しながらも、紫呉は無造作に濃く熱い茶を勧め、
その(わき)へ擦り寄るように座った。

自分も湯飲みを口に運びながら、香ばしく焙られた葉の匂いを嗅ぐ。
すると急速に気分が清清(すがすが)しくなり、まるで蘇生(いきかえ)ったような心持になった。




「そんなに、僕に逢いたかったの?」


揶揄(からか)うような口調でそう云って、湯飲みから顔を上げる。
こうして、はとりと話をするのは、実に久しぶりのことで。

だから本当に逢いたかったのは、淋しかったのは――――
若しかすると、自分の方だったのかもしれない。




「何を云ってるんだ?電話で散々、来るように催促したのはお前の方だろう・・・?
それとも―――

来ない方が良かったのか、とそこで漸くはとりは眼鏡を外し、此方を見た。
片眉を上げるはとりの表情が、湯気越しに浮かぶ。

紫呉は空の湯飲みを、もう一度啜る真似をして、

「あれぇ・・・?そうだったっけ?」

と、恍けたような口調で云った。
如何やら全て、見透かされていたらしい。
何食わぬ顔で、急須から茶を注ぎ足し、再び湯飲みを手にする。
フワリとした湯気が立ち昇って鼻先にあたり、そこは僅かに湿った。
視界が暈け、歪んで――――

はとりの唇が、僅かに動く。



「ずっと、俺を―――待ってたんだろう・・・・・・?」



そのたった一言で。

血潮が俄に、頬に上った。

同時に、瞬きも出来ない程の早さで引き寄せられ、貪るように唇を塞がれる。
躰を降下して行く舌と指に翻弄されて、紫呉は粟立つ快感を堪えきれず、
躰を震わせた。
紫呉の手から、湯飲みが離れ――――
畳に染みが広がって行く。



――んっ、ふ・・・・・・ちょっ、人肌が恋しい季節には、まだ早過ぎるんじゃ―――


慌てて上げた声が障子に響いて、媚びているように聞こえるのが何とも情けない。
何時の間に、窓掛(カーテン)を閉めたのだろう。
薄暗い部屋に、饐えた臭い。
暖色系の如何わしい明かりに照らし出された蒲団は、
淫靡な幻想しか齎さなかった。



「・・・っ、あ・・・・・・やぁ―――


緩い愛撫だけが施され、紫呉は堪らず声を上げる。
快楽と苦しさで目尻に浮かんだ涙が、一滴だけ頬を伝った。


「嫌・・・・・・なのか?」


「そうじゃない・・・けど、まだ陽も沈みきっていないのに・・・・・・」


朱に染まった自分の顔を楽しげに眺めるはとりを、
紫呉は忌々しげに睨め付ける。
はとりは、狡い。
自分がその誘いを拒めないことなど、解りきっているくせに――――


「誘ったお前が―――悪い。諦めるんだな」


そう云うなり、はとりは左手でネクタイを緩めた。
着物の袷からするりと滑り込んできた手に、身悶えする。
心の奥にさえ届きそうな、熱の籠もったはとりの眼差しが、
紫呉を焦がした。
左右に大きく割り開かれた着物が、スルリと肩から滑り落ちる。


「ふっ、あ・・・ぁ、は・・・・・・さんっ!!」


やんわりと自身を握り込まれて、紫呉の躰が跳ねた。
溶け合うような感覚に、陶然と酔う。
少しでも、この人に―――はとりに近付きたい。
触れたい、というその欲求だけが、頭を擡げ。
気が付くと、無我夢中で虚空を掻いたその手は、はとりの左腕を掴んでいた。




――――刹那。



妙な違和感が、紫呉を包む。


別に何かあった訳でもない。
その時、はとりは顔色一つ変えなかったし、
自分は焦点の定まらぬ眸に、己を抱く人の姿を映していた。



それでも――――



紫呉は半ば無意識に、はとりの厚い胸板を押し返していた。

それは弱々しい程の、拒絶。

決して気が萎えた訳ではなかったが、
指先に残った厭な感触は、とても忘れられそうになかった。


胸中で渦を巻く得体の知れない不安が、紫呉を襲う。



「・・・何で、脱がないの?」


声が、掠れた。
震える手を精一杯伸ばし、はとりの襯衣(シャツ)を引っ張る。



「・・・・・・・・・」



何故黙っているのだろう。
何時もそうだ。
はとりは肝心なことを、自分に知られまいとして胸の内に仕舞い込んでしまう。
自分はそれ程、はとりに信頼されていないのだろうか。

若しも、そうだとしたら。
こんなに哀しい思いをしたことは―――ない。

喉を迫り上がる嗚咽を必死で噛み殺しながら、紫呉は云った。



「はとり。僕は―――誤魔化せないよ」



自分を組み敷いたまま硬直したはとりの顎から、その首筋へと汗が伝う。
力無く垂れた腕が、ゆるりと空を掻いた。

ポタリ、と落ちる汗の滴は、涙のようで。
躰を起こし、着衣の乱れを整えると、紫呉はそのまま一つ一つ、
はとりの襯衣の釦を外して行った。
その下から、まだ赤みと肉の盛り上がりの残った生々しい裂傷が、
(あらわ)になる。



―――っ!!これ、慊人が・・・っ・・・!?」



心臓を、貫かれたような気がした。
何と残酷な待遇(とりあつかい)なのだろう。

哀憐(あわれみ)とも恐怖(おそれ)とも呼べない複雑な感情が、
(はげ)しく紫呉の胸中を往来する。


日常に諾々と流されて暮らす間に、これ程悲惨な状況が半ば当たり前のように
なってしまったなんて、信じたくなかった。
何処からか入り込んだ、身を切り裂くような冷たい風が、頬に当たる。


その時、自分の顔は少し蒼ざめていたのかもしれない。
躰中が戦慄(ふる)えるような心地さえした。
涙すら流れぬ己の瞳に、少しずつ狂気の光が宿っていくのが解る。


込み上げてくるこの感情を、激昂を―――(おさ)えきれなくて。
紫呉は、はとりに背を向けた。

はとりの瞳は、己の全てを見通してしまうから。
こんな汚い―――醜い自分は、見られたくなかった。



瞬間――――



―――俺は、大丈夫だから・・・・・・」

お前が気に病むことはないんだ、と背後から抱き竦められて、紫呉は我に返った。
自分の顔色から、その心中を忖度したのだろうか。
振り向いてはとりを見上げると、その深く澄んだ目付きは、快活な色を失い、
不安の色を帯びていた。

はとりの大きな手が、頬に触れる。

あぁ、大丈夫だ―――と思った。
繋ぎ止めていてくれるこの手がある限り、自分はまだ正気でいられる。

紫呉はまるで介抱でもするかのように、はとりの腕に掌を乗せた。
そこから感じ取れる脈動。
それだけが今の自分の、唯一の心の支えだった。


余りに非力な自分。
永遠の(くびき)
自分は、はとりの心中を察することなど出来ないし。
慊人に対抗する力を――――抗う術を持つことだって、出来やしないけれど。


せめて、この優しい優しい人が、もうこれ以上苦しむことのないように。


紫呉はまだ血の乾いていないそこに、己の唇を押し充てた。
はとりの傷の深さを、自らの躰に刻み込むかのように。

染み入るような沈黙が、周囲(まわり)を包んだ。























                         *























消毒液(リゾール)の刺激臭が、鼻腔から脳天へ抜けた。
紫呉の左手には、純白の包帯。


「痛む・・・・・・?」

―――いや」


消毒を終えた後、傷口に綿布(ガーゼ)を当てて止血をすると、
紫呉は慎重に包帯を巻き始めた。

巻き始めは環行帯で、先ず一周。
そこから、はみ出た包帯の端だけを、三角形に折り曲げ、
さらに、包帯の幅の三分の一をずらして重ねながら、後は螺旋状に。

コツ(、、)は、抹消部から中心部へと、包帯の中央部に親指を当てながら、
皮膚の上で転がすように、折転帯で。
最後に、傷口の上に結び目が来ないよう、紫呉は細心の注意を払いながら、
テープで固定した。


「・・・・・・意外に、上手いもんだな」

「そぉ?惚れ直した?」


狡猾で矮小な自分の、精一杯の強がり。
どうせ一笑に付されてお終いだろうと思っていたのに。
フワリと、後ろ髪を撫ぜられた。


「あぁ―――惚れ直した」

そのまま強く、抱き締められる。
揺れる窓掛の隙間から、吹き込む穏やかな風に乗せて、
ありがとう、と云うはとりの、声にならない囁きが聞こえたような気がした。



どうやら、この鼓動の昂まりが止むまでには、もう少し時間が必要らしい。



少しでも、その痛みを和らげてあげたかった。

少しでも、その切ないまでの苦しみを理解してあげたかった。

自分と共に居ることで。
はとりに少しでも、温暖(あたたかさ)を感じ取って欲しかった。



もう、嗚咽(すすりなき)は聞こえない。


紫呉は緩緩と瞼を閉じた。
そこに、接吻けが落とされる。
はとりの唇は、首筋、耳朶を彷徨った後、紫呉の肌に痕を残して。
長く伸びた二つの影は、畳に吸い込まれ、溶け込むように――――消えた。






<了>