ポルトガル人の道1  Santiago - O Porto


 サンティアゴ・メノールのアルベルゲ早朝。昨日立てた計画より少し早めに行動開始する。目が覚めてしまえば横になっている理由は特に無い。疲れてもいないし。地下のキッチンでインスタントスープを作って朝飯にしようかと降りていくと、キッチンは終日開いてるんじゃなくて、この時間は鍵を掛けて閉じているようだ。こんな早い時間にキッチンにやって来たことがなかったので知らなかった。朝飯は途中のどこかで食べればいいやと駅に向かって歩き出す。まだ真っ暗で道端の街頭だけが光っている。駅へ行くには確かこの道で良かったんだよなと自問自答する。間違いなくこの道だと思うが、もし違っていたら大変だ。歩き旅の時と違って交通機関を利用するときはこういうのが厄介だ。

 サンティアゴ駅には5:50に着く。暗闇にぼんやりと浮かび上がった駅舎が寂しそうだが、中に入っていくと大きなコロコロバッグや、私と同じようなバックパックを背負った沢山の旅行者が静かに電車の時間が来るのを待っていた。さすがに子供なんか一人もいない。
 駅の表示板にはA Corunaやその先のオウレンセ、マドリッド行きの出発時間が見えるので必要な情報をメモしておく。マドリッドは巡礼が終わってからは必ず行くが、他の行き先も必要になるときがあるかも知れないので。ガイドブックを持っていない私には大事な情報だ。

 Vigo行きの時間が迫ってきたので地下道を歩いて指定のホームに移動する。地下から上がるところにはセキュリティーチェックがあって、荷物の検査とチケットのチェックがあった。でも、セキュリティーのマネだけしている感じで真剣とは程遠い。駅には巡礼の象徴である帆立貝を小さなリュックに取り付けて、大きなコロコロを引いている女性がいる。この人も巡礼なのか?どういうスタイルの巡礼をするんだろう。巡礼路でコロコロを転がしている姿が思い浮かびおかしくなったが、コロコロはどっかに預けて小さなザックだけで歩くのだろう。よく目にした軽装ペリグリノの正体はこれか?

 6:17、定刻どおりに出発する。ポルトに行くのは昨年に続き2回目なので幾分気楽さがある。昨年はバスで移動したが今回は列車。列車は乗換えがあるのでそれが面倒だが、中を自由に動き回れる開放感が魅力だ。

 Vigoにも時間通りに到着。ここはスペインとポルトガルとの国境の駅だ。ポルトガルへは直通列車がないので、ここでポルト行きに乗り換える必要がある。発車までには1時間20分もあるので駅構内のバルで朝飯を食べることにする。カフェコンレチェが1.35ユーロでジャガイモ入りのトルティージャは倍の2.60ユーロだった。何度かビールと一緒にトルティージャを食べたことはあるが、いつもコミで支払っていたので単品価格は知らなかった。あとでガッカリしないようにトルティージャは高いものと覚えておこう。

 このバルでいい時間つぶしができた。いま8時20だから発車までの待ち時間が40分になった。転ばぬ先の杖で出発ホームを確認しておこう。言葉が不自由なので、早め早めの行動は重要だ。この駅のホームは3本しかないのに、私が乗るポルト行きは15番ホームとなっている。またこれだよ。立っている駅員さんにすぐ聞いてみる。そしたら1本のホームでも乗る位置によってホーム番号が異なるらしい。ずっと先の方に行くと15の文字が見える。あぁこれが15番ホームかと安心する。スペインもポルトガルもこのタイプの駅があるので油断できない。やっぱり早めの確認は大切だ。

 ポルト行きの電車は短い車両で、今まで利用した列車と比べ明らかに古いようだ。折りたたみテーブルもリクライニングもなく小物を入れるカゴさえないので時代物のようだ。国境をまたぐ国際列車なのにこんなんでいいのかなぁ?それともこれはポルトガル国鉄の車両なんだろか?唯一良いところは座席が進行方向を向いているところか。日本の長距離列車は必ず進行方向を向くことができるが、ヨーロッパではそんなの関係ない。だからこの列車も逆に走る時は後ろ向きに座らせられることだろう。座席もさっきの列車より幾分狭く感じる。今のところ私の隣りは空席なのでポルトに着くまでに誰も来ないといいな。

 電車は定刻通りに動き出した。やればできるじゃんスペイン(ポルトガルか?)。もっともここが始発なので当たり前なのかも知れない。車内はガラガラのままだ。いいぞ、この調子でポルトまで行ってくれ。ビーゴ湾に沿って線路が続いているので景色がとてもいい。ほどなくして検札の車掌がやってきたのでチケットを渡すと、そのチケットを見もしないで近くの人とお喋りしながらボールペンで一本の線を引いて行ってしまった。さすがスペイン(ポルトガルか?)。でもそのあと思い出したが、乗り込む際に列車を確認するためにチケットを見せた車掌だったようだ。それで私のチケットを覚えていたのかも知れない。
 途中の駅に停まっても駅名のアナウンスは一切無いし、もちろん次の駅名なんか言う訳ない。海外は何でも自己責任の世界だ。私の降りるポルトは終点と分かっているので心配はしてないが、じゃないと駅が近づくごとにずっと緊張してないといけないだろうと思った。

 ポルト手前のViana do Casteloと言う駅に停まったらさっぱり動き出さないでいる。ポルト到着時刻は10:18の予定だが既に10:22を回っているので、もしかしたらここがポルトなのかと心配になり、近くに座っているおばさんに「ポルト?」と聞いてみる。フランス語で返ってきて「あと2駅でポルトで、1時間掛かるよ」と言っている(らしい)。5つ程知っているフランス単語の中からメルシボクと言ってみる。ポルトは終着駅と思っているのでまぁ大丈夫なんだろうが、アナウンスがあっても理解できないので一抹の不安はある。
 フランスおばさんはリスボンをスタートしたペリグリノだった。それにしてはリュックが小さいので全部歩く巡礼とは違うようだ。ボンベイロ(消防署)で寝たのかと手まねを交えて聞いてみたら、そうだそうだと言っている。やっぱり北の道とは違った苦労がありそうだが、おばさんは良いガイドブックを持っているので大丈夫なのだろう。ひとの苦労は何でも軽く考えがち。

 駅の時計を見たら、私のとは1時間遅れていることに気がつく。え、何で!?それで大事なことに気がついた。ポルトガルはスペインと違ってサマータイムを導入してなかったんだ。だから電車が1時間遅れていると思ってたのは間違いで、定刻どおりに運行していたらしい。そのポルトの新しいホームに電車は停止した。一年ぶりのポルトだ。

 駅の改札(日本みたいに改札はないが気分で)を過ぎて駅前広場に出たら、すぐ金をくれと言うのがやって来たが無視して歩き出す。ここから予約したダトバ・デザインホステルへは歩きで往復したことがあるので、これも随分と気楽だ。25分ほど歩いて、この辺りを曲がればカテドラルの近くに出るかなと当たりを付けて歩いていくとピンポンだった。今日は勘が冴えている。

 カテドラルの中に入っていくと、ネットで紹介していたとおり絵葉書を売っている小さな売店があって、そこでクレデンシャルを求めることができた。2ユーロ。出発地点であるカテドラルのスタンプは押されているが、パスポート情報は自分で記入すればいいらしい。クレデンシャルはペリグリノのパスポートと称されることもあるのに、ここでは随分と雑な扱いなんだな。カミーノの地図が欲しいと言ったら近くのインフォメーションで貰えるようなことを言っている。そのインフォメーションは昨年スタンプを貰ったところなのだが、建物は別の所に引越ししていた。でもすぐ近くなので問題なく地図をゲットする。

 巨大な街ポルトを脱出するためのカミーノを確認しておきたいので捜し歩くが、黄色い矢印も埋め込みコンチャ(帆立貝)もないので貰った地図を頼りに遠くまで捜し歩くことしばし。そこに警官がいたので教えてもらうことにする。警官はカミーノのことを知っていてペリグリノに好意的だった。丁寧に教えてくれた後にアルベルゲの場所も教えてくれるので、自分はホステルを予約していることを告げる。知っているポルトガル語は唯一オブリガード(ありがとう)だけなので、オブリガードと何度も言って、親切な警官と一緒に写真を撮ってからその場を後にする。日本のカチッとした警察官と違って、ご覧のようにお気楽スタイルだがちゃんと腰にはピストルを挿している本物だ。

 昨年も見たけど通り道にあるのでまた世界遺産のサン・ベント駅を見物しに中に入ってみる。世界遺産がタダなのは良いことだ。もちろん、撮影禁止なんて無粋なことは言わない。壁のアズレージョ(装飾タイル)がほんと見事。

 まだ1時だが、予定していたことは全て終わったのでホステルに向かうことにする。途中、ブエン・カミーノと声を掛けてくる青年がいた。アメリカ人でリスボンから歩いているそうだ。気の良さそうな若者だが私の予約したホステルには泊まらないと言うので残念。今日のホステルはアルベルゲと違って観光客がほとんどだから、同じペリグリノが一人でも居ると心強いのだが。

 ホステルのチェックインは2時からだけど、バックパックを預かってくれるので空身で買い物に出かける。1リットルビールが2ユーロもするので、小瓶を2本買ってみたが、小瓶も高額設定の0.95ユーロもしていた。だったら1リットルビールの方が安かったかな?「やっぱり1リットルビールを買う」と言うのも何なのでそのまま。つまみのハムも買ってホステルに戻ったら、時間前だけどチェックインさせてくれる。Hotels.comで予約したとおり一泊19ユーロだが、5ユーロがどうのこうの言っている。カードキーのデポジットなのかな?理解できないが5ユーロ払う。女の子に案内されて部屋に行ったら、残念ながら今回も2段ベッドの上だった。女の子に下のベッドの方が良いと言ってみたが、この子に決裁権はないらしいので一旦諦める。

 シャワーを浴び少し洗濯してからキッチンのテーブルで飲み始めたら、ペドロウソのアルベルゲでメロンと辛いインスタントラーメンを試食させてくれたコリアンの女の子がやって来たのでビールを一杯ご馳走する。名前はサラちゃんだった。昨年もそうだったが、カミーノの後にポルトにやってくる巡礼は結構いるので、ここで出会うこともるあようだ。
 さて2泊することだし、どうしても上段ベッドは嫌なのでフロントに行って交渉したら、パソコンを操作していとも簡単に下段に変えてくれたので拍子抜けした。やったね、これで2日間は快適に過ごせそうだ。カタコト英語なのでネットの翻訳機能を使い、用意した交渉の文を見せただけだけど、Wi-Fiがあるとこでは私のコミュニケーション力は飛躍的に向上するのだ。

ポルトガル人の道2へつづく