ポルトガル人の道3  6月24日(金) バイラオ - バルセロス

 キッチンでインスタントの玉ねぎスープを作り、昨日買っておいたチーズとパンを入れる。他にプラム少しとインスタントコーヒーで朝飯。ドイツの女の子がスープを作り始めたので安物のスティックコーヒーを1本上げる。この子は昨日、バルのコーヒーをテイクアウトしたくらいコーヒー好きらしいのでインスタントなんか飲まないかと思ったが喜んでくれた。名前を教えてもらったらアンナだった。ドイツぽくなく聞きなれた名前なので日本なら花子みたいなもんか。

 一人で出発して次の村の中に入って行くと、繋がれてない大きな犬が近くまで寄ってきて吠えてやがる。スティックを2本持っているから攻撃してくるようなら1本は威嚇で突っついて、もう1本の重たい柄の方でぶっ叩いてやると兼ねてから作戦を考えていたが、顔つきからするとただ吠えているだけのようで掛かってはこない。後ろを見せると攻撃してくる可能性が高いので、油断せずにその場を離れる。ずっと歩いていて一番のストレスがこの犬に吠えられることだ。あるときは柵越しに2匹の犬が頭を出して吠えてやがったので、殴るには調度いいと思ったが止めといた。ペリグリノがうちの犬を殴ったなんてことが評判になると、あとの人たちに申し訳ないから。体の小さい女性の場合は更に気の毒だ。犬は自分より弱いと見ると調子づいて更に凶暴になる。逃げれば必ず追いかけて噛みつこうとする。逆に、こちらが堂々としていると吠えているだけだ。ある時は分岐点に立ち止まって考えていたら向こうの方で繋がれていない小型犬がワンワン吠えまくっている。どうせそっちへ行けば逃げるか大人しくなる癖にと思いながら近づいて行ったら、案の定、庭の中にしっぽを巻いて逃げ帰って行った。犬好きには悪いが本当に犬は卑怯だ。

 今日は28キロなのでひたすらひたすら歩き続ける。天気は快晴、昨日のように少し雨が降ってもいいから曇りの方が有難い。
 10時すぎるとメチャクチャ暑くなってくるが、乾燥しているので日陰や風があるととても涼しい。スペイン・ポルトガルでは暑くても熱中症にはなり難い気がする。
 ボトルの水を満タンにすると重いので、いつも500mlの半分ほどしか入れないのだが、これからは満タンにした方が良さそうだ。水はいつも水道の水を飲んでいるが、注意していることは湧き水は飲まないことだ。こっちでは村の中や道の途中に出しっぱなしの水場があちこちにあるが、それらを不用意に飲んで下痢になった話を何度か聞いたことがある。歩いている最中に下痢、考えただけでも恐ろしい。
 先ほど追い抜いて行った自転車巡礼が道端にあった建物に入って行くのが見える。どうやらここはスタンプを押してくれる施設らしい。ボトルの水が心細くなっていたので、一石二鳥と入って行く。男性が一人だけ居て愛想がいいので、やっぱり巡礼関連の施設なのかも知れない。スタンプがちゃんとあったし。水が欲しいと言ったところ、奥からミネラルウォーターのボトルを2本持ってきてくれたが、私は水道の水がいいんだと伝え、洗面所から汲ませてもらう。これで暫くは安心だ。
 ポルトガルの道は何しろとても暑いので、ボトルの水の残りには常に気を使う必要がありそうだ。残り少なくなってくると、あと何口と勘定しだし、最後の一口になった場合は、もしもの時の為に次の宿泊地の目安が付くまでは飲まないようにしている。水と食べ物さえあれば歩き続けることができる。

 歩いていると手書きで作っておいた地図の地名が幾つか出てきたので作りがいがあった。ポルトから2日目までの区間は巡礼路がはっきりしなかったので事前に地図は作れなかった。なので急きょ手書きで作ったものしかないので、今のところは手さぐりで歩いている状態だ。
 途中の村に入ると道沿いに公営アルベルゲがあったが、時間が早いのでパス。そこを少し行った所に小さな教会があって道の反対側にはこれまた小さなスーパーがあったので、簡単に食べられる物とコーラを買って、靴を脱いで教会の石段に座って食べさせてもらう。その横を何人かのペリグリノが通り過ぎて行った。

 今日の目的地のバルセロスが近くなった頃には疲れと暑さでヘロヘロになってしまったが気力で歩き続ける。町の中に入り、見つけたアルベルゲの看板に従い細い坂道を上がって行くと、近所のおばさんが「そこだそこだ」と言うので見てみると、公営ではない私営のアルベルゲだった。おばさんは頼みもしないのに呼び鈴を押して中の人を呼び出してしまった。私は公営に泊まりたかったので、折角出てきてくれたのに申し訳ないが公営アルベルゲの場所を教えて貰う。

 公営アルベルゲは大きな橋のたもと近くにあった。喜んで入って行くと、中にいた人からはいつもと違った反応が。。。今日はフィエスタ(祭り)があるのでここはクローズだそうだ。つまり泊まれないだとーっ!ガクッと疲れを感じ膝が折れそうだった(ウソ)。
 仕方ないのでさっきの私営アルベルゲに泊まろうかと戻る途中、今度は道路の反対側の親父が「アルベルゲはそこだそこだ」と言うのでこの通りにもあるらしい。が、ちょっと見は分からない建物だったのでキョロキョロしていると親父が道路を渡ってやって来て、親切にアルベルゲの中まで入って係りの人を呼び出してくれる。さっきのおばちゃんと言い、この町の人は何かと世話好きのようだ。
 アルベルゲらしからぬお洒落な建物の中に入って行くとシティーホテルみたいな空間だった。ここではチェックインしなくて、2階まで女の子のあとに着いて行く。どうも1階はアルベルゲとは別の施設のようで、アルベルゲは2階から一旦外に出て中庭みたいな空間を渡って行くと、これは最初におばちゃんが教えてくれたアルベルゲと同じ建物で、おばちゃんが教えてくれたのはここの裏口だったのが分かった。とすると、少し前に公営の場所を聞いた人は、今案内してくれているこの人だったのか?ちょっと微妙な空気が漂った気がした。

 チェックインするレセプションにはアンナが受付中だった。あらま、アンナもここに来ていたのか。アンナは暫く前に抜いていたが、私は公営に行ってからこっちに来たが、アンナは直接来たので私より先に到着したようだ。なにはともあれ再会できたのは喜ばしい。

 こんなに綺麗で新しく、Wi-Fiまであって5ユーロと言うので聞き間違いかと思った。ポルトガルってこんなに物価が安いのか!?スペインの私営アルベルゲは10ユーロが標準価格だ。安くても8くらいなのに、ここは5ユーロだと。なんて良いところなんだろうポルトガル。設備が古くてサービスも悪くてWi-Fiもないけど安さだけが売りの公営の存在意義がなくなるだろうと思った。

 ベッドルームもゆったり作られているし、ベッドもとても頑丈に作られた木製だった。これなら上の人が動いても下に震動が来ることもなさそうだ。アンナがシャワーの後、スーパーに一緒に行くかと言うので行くと返事をしたが、私がシャワー後に洗濯までして待たせたのが気に入らなかったのか、干し終わってから「行く?」と言ったら後で行くなんて言っている。ま、いちいち気にしていたら切りがないので一人で行くことにする。

 スーパーは近い所にひとつと大きな橋を渡ってしばらく歩かなくてはならない所の2か所あるが、マップでは近い所はミニという文字が付いていたので遠い方に「暑い暑い」と言いながら行ってみたが、ここんちは大した品揃えでないのに加え、冷えたビールを売っていなかった。色々買ったところで、レジ袋を持ってくれば良かったことに気付いたが後の祭り。スペインではレジ袋が有料のスーパーが半分はありそうなのだ。ここんちも有料で0.10ユーロ余計に取られた。大した額ではないが、レジ袋は雨の日に荷物を濡らさないために常に2つ3つ持ち歩いている。アルベルゲに戻ればそれ以上は必要ないので捨ててしまうことになるので勿体なく感じてしまう。それよりどうしても冷えたビールが飲みたいのでスーパー併設のバルで1杯飲ませてもらう。ここんちのビールは安くて、何と0.75ユーロ(86円)でつまみまで出してくれた。

 買い物から戻ったらアンナは既に買い物が済んだようで、談話スペースで何か食べていた。どこに買いに行ったんだろう?買ってきたビールは常温なので、冷凍庫にあった氷を入れたグラスで飲むことにする。古い氷ではないようで十分に旨い。ビールに氷を入れて薄まることは気にならない。温いビールを飲むより遙かにマシだ。

 このアルベルゲにはアンナの他に二人のドイツ女性がチェックインしていた。3人でドイツ語で良くお喋りしているので羨ましいな。一人は縦横とも大きく、そのファッションと共にインパクト大だ。本物の女性版マツコみたい。もう一人は年配で、私と同い年くらいに見える。どちらもソロで歩いているようだ。夕飯には大きな鍋でパスタを作り3人でシェアしていたので、これもまた羨ましかった。

 大きな橋を渡った所に古城か砦みたいのがあって何かイベントらしきものをやっている。大音量で音楽を流しているので見物に行ってみる。この古城を舞台にしたフィエスタが明日か明後日に催されるようで、そのリハーサルをやっているようだ。それはさておき、古城の中を見物してみると、そんなに大きな城ではないのが分かった。橋を守るための砦か?一通り見終わったのでリハーサル会場に行ってみると、丁度終わったようで女性歌手が引っ込むところだった。え?これってCDを流してのリハーサルじゃなくて、本物の歌手が歌ってたの!?どうりで見物人が何人かその様子を見ていた筈だ。大きなスクリーンには本番で歌う女性歌手が大きく映し出されていたので、その本人が歌っていたらしいのが分かり、凄く残念な気がした。また歌ってくれないかなとカメラを用意して待っていたが、その次はファッションショーのリハーサルが始まって、モデルらしき女性が出たり入ったりしているだけだった。明日がフィエスタの本番なら、もう1泊ここに泊まって祭り見物もいいかなとの考えが脳裏をかすめた。公営アルベルゲには基本的に1泊しかできないが、私営にはそういう制約はない筈なので。

 たまにはまともな食事がしたいので、巡礼定食を食べさせる店がないかと探し歩く。でもこの町にはないようだ。来る途中の町では定食の看板を見たのだが、そこまで戻るには1時間ほど掛かるかも知れない。タブレットの地図に載っていたミニ・メルカードに期待せずに行ってみる。そしたらここんちの方が昼に行ったスーパーより遙かに品揃えが良く、前の店には無かった冷えた1リットルビールや卵、パンも売っている。それに加えてインスタント・スープにスティックコーヒー、桃缶を買ってアルベルゲに帰る。食料がいっぱい手に入ったので嬉しくなる。ここでもう1泊しても、良いスーパーを見つけたので食生活は豊かだなと、また考える。本日二度目のシャワーをしてから卵を入れたスープを作り、カサマシにパンをちぎって入れる。見た目はまぁこんなモンだが元々雑炊やおじやが好きなので、洋風雑炊と思えばいい。デザートは桃缶とヨーグルトと豪華だ。

 バルセロスの町は、来る前にはアルベルゲが確認できてなかったが、来てみたら公営が1軒(やってなかったけど)、私営が2軒もあった。今日泊まった「AMIGOS DA Montanha 」は奇麗で快適、ベッドもがっちりタイプでキッチンも使える。それなのに5ユーロと格安なので絶対にお勧めだ。

 暗くなったら橋の反対側の古城でイベントが始まった。明日かと思っていたが今日が本番だったようだ。カラフルなサーチライトが夜空を照らし、賑やかな音楽とともに女性歌手の歌声が聞こえてくる。このフィエスタは何と夜中の3時頃になっても続いていた。ポルトガルのお祭りやり過ぎ。


ポルトガルの道4へつづく