ポルトガル人の道9  6月30日(水) ポリーニョ ー レドンデラ

 ポリーニョのアルベルゲ。キッチンでチョコデニッシュとヨーグルト、オレンジジュースで朝飯。スペインはどういう訳かパンのトッピングはチョコばっかりだ。悪くはないが手にベトつくのが困る。手を洗うことにボトルの水は使いたくない。隣のテーブルにはグループのための食事の用意がしてあった。家族以上の人数らしいし、どういうグループなんだろう。
 今日は遅めの7時半にスタート。このアルベルゲは巡礼路から少し外れているので、まずは隣の橋を渡って町中に入り巡礼路に復帰することから始める。昨日、ヒマつぶしに下調べをしていた道を10分くらい歩く。ここにはアルベルゲ近くの小さめのスーパーに加え、離れた所には本格的なスーパーマーケットが2つも並んでいる有難い町だった。巡礼路はその店先を通っている。

 道端に巨大な岩がポツポツと出現する所までやってきた。前にテレビでポルトガル人の道を紹介する番組を見たことがあって、そこでは巨大な岩の下敷きになっている教会を紹介していたので、この辺りに有るようだと期待に胸が膨らむ。どこかなどこかなーと、取りあえず目の前に目標が出来ると歩くにも励みになっていい。だが、歩けど歩けどその教会はやって来なくて、結局、この道では出会うことはなかった。
 ポルトガル人の道での情報は、この岩の下になった教会とヤコブの遺体を運んだ船を繋いだと言う石の柱がある教会しか知らないので、その内のひとつが消えてなくなった。あのテレビは巡礼路上の教会じゃなくて、きっと道から外れた教会を取材したんだろう。テレビは面白くっちゃ何でもありだから。クソッ。

 2時間ちょっと歩いた村の中にあったパナデリア(パン屋)でコーヒーを飲もうと入って行き、注文するために店の人を呼んでいたら、ここんちは店内に設置してある自販機から買うのだと先着のペリグリノが教えてくれる。珍しいなぁ、こういうスタイルは初めてだ。よっぽど人出が足りないのだろうか。スペインの自販機はコインの入れ方も日本と違うが、かき回すためのプラスチックの棒がカップの中にどっぷり沈んでいるのが特徴だ。外のテーブル席でコーヒーと一緒に残ったチョコデニッシュを食べておく。

 家がポツリポツリある村の道端に格好のテーブルとイスが設えてあったので休ませてもらう。1リットルジュースを持ち歩いているので、こういう時には便利だ。水分補給と同時にビタミンも補給できる。ビタミンを摂ったと言う実感はないが、気分的には健康になる気がする。隣には石作りの洒落た水道が備わっているので巡礼者のための休憩所だと言うのが想像できる。スペインに良くある、バチンと大きなボタンを押すと短時間だけ水が勢いよく出てくる水道だ。どれもこれも我々巡礼者のために用意してくれているのだと思うと、本当にこの道は歩かせて貰っているという気がしてくる。


 ここを過ぎると凄い上りが現れる。どうやらここからヒト山越えるようだ。ヒーヒー言いながら上り終えると今度は凄い下りがあった。膝が悪い人には大変な道だろう。スティックを前に前に突きながら膝を痛めないように下って行く。背中まるごとタトゥーを入れた女性も膝を痛めていて片方にサポーターを付けている。この人はどっかで拾った2本の棒に布を巻いてずっと突き続けているので大事な相棒のようだ。この辺りに来ると、他のペリグリノ達も集まりだして7、8人のグループとなって歩き続ける。下り途中に次の町が良く見える高台に出たので、みんな同じように写真を撮り出した。

 11時半、レドンデラのアルベルゲ前到着。石作りで重厚な建物だ。今日は4時間しか歩かないショートコース。オープンは1時からなので暫く待つことになる。到着一番は昨日のアルベルゲで面目が潰れたトレドの兄ちゃんで、次がマツコとその相棒。私は4番手の到着だった。今日の行程は殆どの人がここまでなので、待っている間にもパラパラと後続の人たちが到着してくるので、これもまた楽しからずやだ。
 アルベルゲの前は小さな広場になっていて、待つには手頃なスペースだ。そこで待っている間、タバコ吸い達が手巻タバコの講習会を始め出した。初めての人はおぼつかない手つきで、巻き終えた煙草も不格好この上ない。手巻と言っても、片方の吸い口にはちゃんと小さなフィルターを取り付けていた。そういうキットを売っているようだ。ちなみに、左の女性が話に良く登場するマツコ・デラックス似のフランシスカで、縦横にとても大きいです。手巻タバコのやり方を教えています。

 時間があることだし、スーパーの下調べに近くをうろついてみる。幸い、すぐ近くに大きなスーパーがあったので、シャワー後はここにビールを買いに来よう。アルベルゲの裏側に回ってみると広場になっていて、ここで何かイベントがあるようだ。大工さんが大きな舞台をせっせと作っている。明日にでもあるのかな?幾らスペインでも今作っているのに今晩てことはないだろう。

 アルベルゲ前に戻って待っていると、知った顔が何人かこの前を通り過ぎて行く。次のアルベルゲを目指すようだが、そんな手頃な距離にあったかな?日にちが限られている人は私達のようにのんびり小刻みに泊まり歩けないので大変だな。すんごく足を引きづったおじさんもやって来て、さすがにこの人はこのレドンデラに泊まるそうだ。大丈夫かなと心配になるほど辛そうなので声を掛けてみるが助けになることなんか何も出来ないのでこれだけ。
 私も昨年は幾つかマメを作ってしまったが、今年は5本指靴下とウォーキング用靴下の重ね履きが功を奏して足の故障はゼロだ。5本指靴下の威力は想像以上だ。昨年は10日間も風邪を引いてしまったが、今年はそれもないのでここまで絶好調だ。

 チェックイン、今日もガリシア州共通の6ユーロでWi-Fiなし。シャワーしたけど今日は大して汗をかかなかったので靴下だけ洗濯しておく。洗濯が少ないと楽でいい。さっき下見をしといたスーパーEROSKIに行って健康にぴったりのバケツサラダを買う。今回のは生野菜にまあるいトルティージャ(の皮)が別包装になった豪華版だ。もちろん、チーズやクルトンなどその他諸々がそれぞれ個別に付属している。ちょっと高めの2.79ユーロ。今日は缶ビールを買って白ワインも買ってみる。でかい1リットル瓶が1.4ユーロで日本年なら170円ほどしか。勿論、もっと高いワインも売っているが、この位の値段で私には十分旨い。どっちみちワインの味なんて分からないし。生ハムが70%オフと言う張り紙につられて買ってみたが、これは2.85ユーロと今までで一番高くついた。こんな高いと分かっていればいつもの1ユーロのを買ったのだが。高いけど味は1ユーロと変わらなかったのでガチョンだ。明日の朝食用にチーズサンドも買って合計8.98ユーロとかなり買ってしまったが、バルで定食を食べるより遙かに安い。2食分だし。

 前回のバケツサラダは野菜とパスタが一緒になったやつだったが、今回は野菜とトトルティージャ(の皮)なので、野菜が摂れると同時に炭水化物もがっつり摂れるのでこれ1つで一食分として成り立つ。炭水化物が食べられるとご飯を食べたと言う気がして満足する。トルティージャの皮にハムや野菜を挟んで食べると何となくそれっぽい気がして少し豪華な気分になる。
 ビールを飲んだ後、さすがに1リットルのワインは飲み切れないので、近くで食事をしていたカップルに1杯ずつ飲ませて上げたら、男性の方が日本語で「ありがとう」と言ったので驚いた。簡単な日本語を話す人は意外なほどいる。あとになって小皿に入れたピーナッツをくれながら「ワイン」と言ったので、ワインのお礼らしい。ちょっとしたことから交流が生まれるので、なるべく自分から動くように心掛けている。

 ここの図書室に日本の池田なにがしと言う画家が巡礼しながら描いたと言う凄く立派な画集が置いてあった。これのことは知っていたので、おっ、と思って見てみたが、何だがなぁというものだった。見る目がないからだと言われればグーの音も出ないが。

 スイカが食べたいので今持っているのより大きめなナイフが欲しいなぁと町の中を探してみる。レドンデラは大きな町なので、買うとするならここだ。案の定、日本で言えばホームセンターみたいな店があったので入って行く。売っている物がホームセンターみたいなだけで、店番はおじちゃん一人の小ぢんまりした店だ。身ぶりで切ってるところをしてみせたところ、ナイフが沢山入ったカゴを出してくれた。キエロ・バラート(安いのがいい)と言ってカッターのあんちゃん程度の安物を買ってみる3.4ユーロ。早速、スーパーに寄って4分の1のカット西瓜、ヨーグルトに石鹸1個を買ってアルベルゲの食堂で食べてみる。ナイフは安ものだけど新品なので良く切れるのでこれは満足。

 夕方になったら(と言っても9時過ぎても暗くならない)アルベルゲの裏で本格的に音楽会が始まった。練習じゃなくて今日が本番のようですごい観客が集まっている。演奏しているのは子どもから大人まで年齢がバラバラなので、どっかの音楽サークルなのかな?揃いの白い衣装に身を包んでいる。アルベルゲの2階からも見えるのだが、やっぱり舞台の後ろに当たるので窓を開けてはいけないようで締め切ってある。こないだのバルセロスのお祭りの時は午前3時すぎてもやってたので、一抹の不安がある。今回はこの至近距離で何時までやってるんだろう?


ポルトガル人の道10へつづく