ポルトガル人の道12  7月3日(日)  Caldas de Reis - Padron

 Caldas de Reisのアルベルゲ。昨日買っておいたエンパナダふたつとヨーグルト、インスタントコーヒーで朝飯とする。巡礼路が分からなかったので、前日に教えて貰っていたので良かった。それでも町を脱出するときはいつも迷うので注意深く歩みを進める。

 家が途切れ途切れになって来たので、さてこれで安心と歩き続けているとその先に歩行者進入禁止の立て看板が!!え、どういうこと?どっかで曲がるべき所を見落としたか。でも、多くの場合はこのまま舗装道路を進めばいずれ巡礼路と出会うことがあるので地図とタブレットで確認したところ、ここを行ってはいけないのが分かった。こっから先は自動車専用道路になってしまうらしいので戻るしかない。同じ道を戻るのはすっごく無駄なことをしている気になって気が進まないのだが、今回ばかりは致し方ない。

 どこで見落としたのか、道路の両側にくまなく目を走らせてサインを探しながら戻ること十数分。良かった、とんでもなく戻ることはなかった。そのサインは白線に沿って歩いていたのでは見落としてしまう、道を外れた端っこに立っていた(写真青い看板)。見つけてみればとても目立つ標識だったが、余り考えずに歩いていると必ず見落とすような場所だった。これまでもそうだったが、田舎の細い巡礼路を行く時は見落とさなくても広い道路で見落とすことが多いので注意しよう。

 山から下りてきた所にパトカーらしき車が停まっていて、警官みたいのが話しかけてきた。車には「何とかプロテクション」と書かれているのでパトカーとは違うのかな?よく分からない。どこの国からやって来たペリグリノか調査しているらしく、スタンプも押してくれた。ポリス?と聞くとプロテクションと答えるだけなので、だから何だよプロテクションて。ガードマンでもないらしいし、訳が分からないがスタンプが貰えたからいいや。


 次の村外れにあったバルでジャガイモのトルティージャとビールでエネルギー補給しておく。3.7ユーロ。トルティージャはいつも高い。買った物を両手に持って外のテラス席に移動して、やってくるペリグリノを見ながら休憩タイム。そしたら近くのテーブルに側溝の中で猫鍋みたいに並んで座っていた女の子3人組がやって来たので、いい機会だから写真を撮ってみよう。「スマイル!?」とカメラを向けたらこちらが驚くほどの好反応で女の子達のテンションが急上昇した。自分たちのスマホでも一緒に撮りたいと走り寄って来る。クールな外見とは違って、とても人懐っこい女の子達だった。じゃぁと、調子に乗ってこちらでも自撮りカメラで一緒に撮らせてもらう。この子達とも何日も一緒になった顔見知りなので、もしかしたら初めて見た東洋人と交流したかったのかなと想像する。この子達はポルトガル人だった。やっぱりポルトガル人の道なのでポルトガルの人が歩いているようだ当たり前だけど。唯一知っているポルトガル語のオブリガードを連発する。
 ところで、この「スマイル!」と言いながらカメラを向けるテクニックはマツコ似のフランシスカに教わったものだ。教わったと言うか、フランシスカがそう言いながら私を撮ったことがあるので覚えただけで、今回初めて使ってみた。無言でカメラを向ける訳にはいかないので、この方法はとても良いと思った。

 私のユーロ調達法はキャッシングなのでWi-Fiのある所では時々ユーロのレートをチェックしているが、イギリスがEUを抜けたというニュースが流れたので一気にユーロが110円に下がっていた。今度キャッシングする時には幾らになっているか楽しみだ。昨年キャッシングしていたときは毎回1ユーロが140円と円安だったので辛かったが、今年は120円前後に下がっていたので大喜びしていた。更に110円とは嬉し泣きレベルだ。キャッシングするときはポルトガルでは200、スペインでは300ユーロを借りているので、30円下がれば同じ300ユーロで9000円も余計に使えると言うことだ。私は一日の経費を20ユーロに設定しているので円高の差額で4日間も賄えるということになる。大儲け。

 今日の目的の町パドロンに入って来たら急に道が混み始めてきた。日曜日なので教会のミサが跳ねたための人出かと思ったが、奥に行くに従って尋常でない混みようなので何かあるようだ。その内、手に手に大きな荷物を持っている人が現れて来て、道の両側には露店も現れ出したので、どうやら市が立っているようなのが分かる。パドロン名物のピニエント(小さいピーマン)の屋台もそこかしこに見えるので、懐かしいピニエントの素揚げが食べたくなった。すっごい人手になって、もうこれは真っすぐ進めないレベルになって来る。パドロンの地図はざっと頭に入れてあったので、アルベルゲはこの河の反対側にあるのが分かっている。そんなことを考えていたら、丁度そこに歩行者専用の細い橋が出て来たので、これ幸いと橋を渡ってGPSで位置を確認する。少し先に行った所で左に曲がり、石作りの急階段を上って行くと、丁度そこがアルベルゲの入口だった。建物の日陰でコリアンの女の子が一人オープンを待っていた。隣にバックパックを置いて、近くの高台にある教会を探検に行ってみるも扉は閉まっていた。

 教会の前は広いベランダになっていて、柵越しに遠くまで見ることができる。20mほど下にあるバルではワインをご馳走したカップルが昼飯を食べていて、フランシスカも一緒にいる。
 昨日のアルベルゲでお喋りしたイタリア娘二人が橋を渡ってこちら側にやって来た。真下でキョロキョロしているのでアルベルゲを探しているのかと思って、上から「あっちあっち」と教えてやったが、探しているのはカミーノだった。二人はもっと先まで進むそうだ。


 30分ほどで受付を開始してくれる。今日も6ユーロ。コリアの子に続いて2番目のチェックインだ。北の道のあと奇跡的な再開を果たした中川夫妻が教えてくれた通り、このアルベルゲは良さそうだ。建て物はすこぶる古いがベッドは木造りで頑丈なので申し分ない。2段のパイプベッドで寝たことがある人なら分かるが、華奢な2段ベッドと言うのは上下どちらかの人が寝がえりを打つだけでその揺れがもれなく伝わって来るのでベッドが頑丈な作りと言うのはとても重要なのだ。キッチンの流しは自然石で時代ものだが調理器具も食器も揃っているのでグー。ベッドを確保したら早いチェックインのアドバンテージを逃すことなくシャワー、洗濯して陽の良く当たっている物干しに掛け終わると、あとは自由時間だ。

 オスピタレラにスーパーの場所を教えて貰い橋を渡って町方面に歩いて行く。ここがこの町のメイン通りかと思われる人通りの多いところにやって来た。そこにホタテ貝を付けたバックパックを脇に置いたペリグリノもどきが物乞いをしていた。前にもこういうスタイルの物乞いを見たが、本物のペリグリノじゃないのは先刻承知だ。路銀が尽きた巡礼者を装っているのだろうが、毎日見ている地元の人には知られてるんじゃないのかね?

 この通りに馴染みの専門学校生の女の子二人組がいて、トレドのお兄さんを見なかったかと尋ねられる。うーん、今のところはアルベルゲに来ていないので、次の町に行ったんじゃないのかなぁと変な英語で言ってみる。彼は若者なので、私よりずっと先に行ってるかと思ったからだ。それを聞いた後で二人して何やら相談している。自分たちもお兄さんの後を追おうとしてるのだろうか?

 スーパー発見。バケツサラダは無かったのでビニール袋に入ったカット野菜、1ユーロの生ハム。1リットルビールもなかったので缶ビールを3本、ヨーグルト4、焼き立てで暖かいバケット1本、ゴルゴンゾーラ・チーズ、カットフルーツの缶詰(大)に持ち歩き食糧用のビスケットで8.54ユーロ。
 アルベルゲのキッチンで一人宴会の始まり。キッチンにはビネガーと胡椒はあったが塩が無かったので持ち歩いているインスタント・玉ねぎスープの素を味付けに掛ける。このスープの素は便利なので切らさないように、いつもストックしてある。こうして野菜の味付け用の他に、本来のスープとしても勿論使える。何も食べ物がないときでもお湯さえ沸かせれば一時しのぎにはなるので私には必需品だ。


 パドロンに来たら絶対に見ておきたい教会に行ってみる。ヤコブの遺骸を乗せた船を繋いだという杭がこの教会には祀ってあると言うのだ。入って行くと私みたいなのがしょっちゅう来るのだろう、係りのおばちゃんは嬉しそうに迎えてくれる。件の舟繋ぎ石は祭壇から一段下がった所にあった。ちょっとおかしなセッティングだなと思ったが、本来この舟繋ぎ石は川の高さのこの位置にあったのかも知れない。それを包み込むように教会を建てたので、こうなったんだろうと想像する。祭壇に上がるのは畏れ多いので離れた所から写真を撮っていたら、おばちゃんが「あがれあがれ」と言うので至近距離から撮らせてもらう。親切なおばちゃんに和風マリアカードを進呈する。壁にはヤコブの遺骸と付き添った二人の弟子が乗った船のレリーフが掲げられていた。今日はええもんが見られた。

 既に先に行ってしまったと思い込んでいた面目が潰れたお兄ちゃんがチェックインしていた。あちゃー、「仲良しの専門学校生にあんたは先に行ったと思う」と伝えてしまったよと言ってみるも、このお兄ちゃんは英語を話さない。話せたとしても私の英語力ではまともには伝えられない。でも、その後、専門学校生二人も運良くここにやって来たので何となく肩の荷が下りた気がして嬉しかった。みんなで一緒に記念写真を撮っておく。



 ベッドで昼寝をしていたら、ポルトガルの子が起こしにくる。この子は英語がほとんど話せないが手に持っているのは花火なので、花火をして一緒に遊ぼうと言うのかなと付いて行くと、マイシスターバースディと言っているので、今日が誕生日の子がいるらしい。キッチンの大きなテーブルには他の二人の女の子もいて、すぐ誕生日のお祝いが始まった。細長いカステラにパチパチと弾ける花火を3本挿して、1本は本人が持っているのが何ともほほ笑ましい。周りに数人いるみんなでハッピーバースデーの歌を合唱する。そしたら其々のお国の言葉で歌ってくれと言うことになったらしく、順番に歌い出した。私にも日本語で歌ってくれと言われるが、日本でもハッピーバースデーの歌は英語なのでなーと断ったが、思い直して「誕生日おめでとー」を繰り返せばいいのだと思いつく。ハッピーバースデーの曲に乗せて歌ってあげたら喜んでくれたので良かった。各国の人たちに祝ってもらって、誕生日の子にはきっと忘れ得ぬ日になったことだろう。

 一通り歌い終わったところでカステラを一口サイズに切ってくれて、その場にいた全員に配ってくれた。折角の誕生日なので何かできないかなと考えてたら、夕飯用に大きなフルーツ缶詰を買っていたことを思い出す。すぐ自分のベッドに戻って缶詰を持ってきて、3人が座っているテーブルにドンと置き「ハッピーバースデー」と言ってプレゼントしてあげる。どうやって食べたらいいか分からないけど、キッチンの大皿に広げてスプーンを3本載せてあげたら、そこから楽しそうに食べてくれたので嬉しかった。背の高い二人が姉妹で、小さくて赤髪の子は友達らしいのが分かった。改めて見ると姉妹はとても顔が良く似ていた。簡単なポルトガル語を教えてもらうが、いつものようにすぐ忘れる。唯一、「おはよう」だけは「ボンディア」と言うのを覚えられた。ポルトガル語とスペイン語は同じ単語が幾つもあるので、知っているスペイン語を使ってお喋りする。通じても通じなくても楽しい。こんなに赤い髪をした人を見たのは初めてだったので、染めているのか自然なのか聞きたいところだが、失礼なので止めておく。

 夕方、隣の教会に写真を撮りに行ったら、偶然その時間にミサが始まった。ミサは出たいと思っても中々チャンスがなかったので、これはラッキーだった。献金袋が回って来たので1ユーロを入れる。アルベルゲに居た高校生達も十人位が参加しに来たので、彼らはミサの時間を知っていたようだ。ミサの後、聖堂の隅っこに集まって神父さんが何か始めるようなので、みんなでゾロゾロと付いて行く。地元の人が何か頼んだらしいのが想像できた。日本で言う法事?最後にこの教会のマリア像のカードを貰った。
 今日は予期せぬバースデーパーティーがあったりして中々楽しい一日だった。


ポルトガル人の道13へつづく