ポルトガル人の道13 7月4日(月) Padron - Santiago de Conpostera
パドロンのアルベルゲ。コーヒーにハム・チーズを挟んだサンドイッチに乾燥プラムで朝飯にする。ちょっと早めの6時50に出発。まだ薄暗い町の中をかすかに見える矢印を追ってひたすら歩く。
初めて見る顔のおじさんが一人で歩いていた。パドロンのアルベルゲにも居なかったから、私営にでも泊まったんだろうか?年齢的には私より少し上か、しょぼくれ感が漂うおじさんにブエン・カミーノと挨拶して抜かしていく。このおじさんとは迷って立ち止まったりしている時などに数回顔を合わせるが、暫くしたらまったく会うことはなくなった。
サンチャゴが近くなったので建て物が増えたのか、それとも自分の気持ちが高揚してそう見えるのか、今日のコースは今までと違う雰囲気が感じられた。淋しい道を歩いていても何となく「サンチャゴ近くの淋しい道」と言うかんむりが付くのでいつもの淋しい道とは違う感じがするのだ。村の中をくねくねと狭い巡礼路が通っていたり、線路沿いを歩いたり、教会に付属している巨大なお墓の横を通ったり変化に富んだ道を歩き続ける。
途中のバルで一息入れた時に、ポルトガルの3人娘もやって来る。それを過ぎると山道に変わってしまった。3人娘から少し離れた後ろを歩いて行くが、二人の姉妹は背が高く体力もありそうだが赤髪の子は身長が姉妹の肩ほどしかなく、小柄なだけに体力もなさそうだ。おまけに靴づれなのかトレッキングシューズは脱いでしまって小石の道をゴムサンダルで歩いている。バックパックにポルトガル国旗を括りつけているのが微笑ましい。
登り坂になったら赤髪の子は姉妹からは見る見る離されて行って、とうとう先行する姉妹は影も形も見えなくなってしまった。ひとりトボトボと力なく坂を上って行く子が気の毒になり、追い抜く時に何も言わずにスティックの柄の方を差し出したら素直に握ってくれたので、残った1本のスティックを突き立てながら馬力を出してぐいぐい登って行く。赤髪の子もそれに合わせて力を振り絞りながら付いてくるようだ。でも、引っ張るスティックには余り重さを感じないので、赤髪の子は自力で一生懸命に上っているのが伝わって来る。姉妹は想像よりずっと先に行ってしまったようで、中々追いつくことができなかった。この状態で300mくらい上っただろうか、ようやく木陰のベンチに座っている二人を発見する。そしてそこがこの山越えの頂点のようだ。「いたよ!」と日本語で言ったら分かったらしく、握っていたスティックを放したので、立ち止まることなくそこで3人とはお別れする。
そろそろサンチャゴ・コンポステラが近づいて来て、町は見えるけど直線で町には行かないらしく、ぐっと左に回り込んで行くようだ。二人のおばちゃんペリグリノが居たのでちょっとお喋りしながら暫く一緒に歩く。この人たちの顔は一度も見たことがないので、どこからスタートした人たちなんだろう?二人ともアメリカ人でナップザック程度の軽装備なので、その巡礼手段に興味を持った。
やがてビルが立ち並ぶ本格的な街中に入って来た。やっぱり「都会あるある」で巡礼路を見失ってしまった。おばちゃん達はスペイン語はゼロらしいので、私が道端にいた紳士にカテドラルへの道を教えて貰い、こっちだよと言う感じで先導する。見た記憶がありそうな通りまでやって来たら、おばちゃん達は当てがあるのかどっかに行ってしまったので一人でカテドラルを目指す。
あー、このパン屋は何度か買いに来た店だったよなと言う所までやって来たので、このまま進んでいけばカテドラル前のオブラロイド広場に出る筈だ。案の定、そこから10分も歩かないうちに広場に到着する。今更感激のカの字もない。サンチャゴ巡礼とは歩いている途中こそが全てだとここに宣言しよう。何ちゃって。
早速、巡礼証明書をゲットすべく事務所に向かう。差し出したクレデンシャルにサンチャゴのスタンプをポンと押して難なく証明書をゲットする。この同じクレデンシャルで次のイギリス人の道を歩きたいので、クレデンシャルの空きスペースを指さしながら「カミノデ・イングレス、セジョ(スタンプ)、OK?」と聞いてみたところ問題ないそうだ。これで安心して同じクレデンシャルを使い続けることができる。確認せずに使い続けて最終的にこの事務所で駄目だしされたんじゃ叶わんから。
さてお次は同じ館内にあるスペイン国鉄RENFEの窓口に行って列車チケットを購入しなければならない。取りあえず明日のフェロール行きが必要だ。フェロール(Ferrol)はサンチャゴから北へ122㎞行った港町だ。私が乗りたい早朝の直通列車はなく、あるのは午後の3時のみだったので困ったなぁ。これだとすぐ歩きだしても15㎞先のネダのアルベルゲには夜の9時頃に到着だろう。かと言って、フェロールで一泊余分に日数を消費すると、その後に一日の余裕もなくなり厳しいことになる。困った顔をしていたら親切な係りのお姉さんが、その手前にあるア・コルーニャ(A
Coruña)で乗り換えれば7時半の早い電車があると教えてくれたので、それをお願いする。
ア・コルーニャを出発点とするイギリス人の道もあるが、そちらはサンチャゴまで百キロに満たないので証明書は発行されない。なので、イギリス人の道を歩く多くの人はフェロールを出発地に選ぶらしい。もちろん私もそうする。
ついでに全ての巡礼が終わった後に移動するマドリッド行きと、マドリッドからトレド往復、更にマドリッドからバルセロナ行きのチケットも購入する。これらは行き先は元より乗車日時のどれを間違ってもまずいので、事前に紙に書いて行った。係りのお姉さんはそれらをひとつずつ丁寧にチェックしてくれて、マドリッドに到着する駅はチャマルティン駅で、バルセロナに行くための駅はマドリッド・アトーチャ駅だとか、時間はどれにしたい?とパソコン画面を見せて選ばせてくれる。その他のチケット購入でも同様に親切に応対してくれたお陰で無事に6枚ものチケットを購入することができた。最後に乗るバルセロナ行きチケットは2種類の価格を示してくれて、1つはキャンセル可能、もう1つは不可というもので、値段は数十ユーロも違った。私には予定の変更はないので勿論、安い変更不可のチケットを購入する。
よかったー、このチケット購入がかなりのストレスだったのだ。混雑する駅の窓口だとこう親切には応対して貰えないし、こちらも慌てるだろうから心配していたのだ。1対1で時間をたっぷり掛けて親切に応対して貰えたことに感謝だ。親切なお姉さんを写真に撮らせてもらう。
広場に戻ってうだうだしているとポルトガルの3人娘がゴールしてきた。良かったぁ最後に会うことができて。こんなに人懐こくていい子達と分かっていたらもっと早い時点で仲良くなっていれば、数日間が更に楽しかったと悔やまれるが、人の縁とはこう言うものだ。私は自分からはハグをしないので、今回は握手をして別れる。それがマナーらしいので。
メノールのアルベルゲに行く途中で、あのアメリカおばちゃん二人に遭遇する。向こうも私に気が付いて道路の反対側から「あーっ」 という声を上げている。な、なんとこの二人はまだカテドラルに辿りついてなくて、迷い狂っている最中だった。じゃぁ何であの時、自信ありげにスタスタと行ってしまったんだよ。私がカテドラルに着いてから、かれこれ2時間は経っているだろう。よくもまぁ念入りに迷ったもんだ。ここからカテドラルへの行き方を教えてやって別れる。
パラドールのタダ飯に有り付こうと5時半に行ってみたら誰も待っている人がいないので、暫く後に来ても大丈夫だろうと予想し、カテドラルの聖年の門に行ってみるべく歩いていると日本人のグループに話しかけられる。ツアーでやって来たそうだ。男性がこのツアーでは全てパラドールに泊まっていると鼻の穴をふくらませている。全然羨ましくないが、凄いですねと褒めてやる。そこで暫く立ち話したのが悪かったのか、再度パラドールのタダ飯待合所に行ってみたら5人が順番待ちをしていた。じゃぁ自分は6番目だと言ったら、先頭の人が仲間が他に5人いるのでコンプリートだと抜かしやがる。じゃぁ他の5人は一体どこにいるんだと言ってやりたかったが、水かけ論なので諦める。
癪に障るので1リットルビールでも飲んで気を紛らわそうと歩いていたら、今朝から数回会ったしょぼくれタイプのおじさんと再会する。こちらが戸惑うほどの感激を表してくれて汗臭い体でハグされる。大した接点もないのにこれだけ感激するということは、この人は他のペリグリノとの交流が余りない人なんだろうなと想像する。それともコンポステラに到着して気分が高揚していたのか。いずれにしても、おじさんの数少ない巡礼の友として私がいたことになるのだろう。
そのすぐあと、ウィンドーショッピングをしているドイツのマリアを発見!!おー、マリアどこに行ってたんだTuiで別れて以来6日振りの再会だ。マリアも予期せぬ再会に大喜びしてくれた。この後はアルベルゲに戻ってビールを飲むんだと告げたら、どこのアルベルゲで何時から飲むんだと聞いてくるのでマリアも一緒に飲みたいようだ。マリアは私がチェックインしているメノールのアルベルゲを知っていたので前にも巡礼しことがあるらしい。パラドールのタダ飯にあぶれたお陰でマリアに再会できたので、こっちの方が百倍も価値があった。あのままタダ飯の時間まで待っていたらマリアとは永遠に会えなかっただろう。世の中、何が幸運で何が不運なのか分からない。
マリアと再会を約して何度も通っているパン屋でビールその他を買っていたら、なんとまたマリアがやって来た。店員と話す様子を見ていると、マリアもこの店を贔屓にしているらしいのが分かった。この店はシエスタもしないし、日曜日だって開いているので私は昨年から何度も足を運んでいる。「日曜日も開けてくれてありがとう」と訳の分からないスペイン語で店員さんに伝えると笑っている。マリアは缶ビールを2本買っている。私はいつものように1リットルビール(ここんちは冷やして売っているのが嬉しい)、ヨーグルト4、ポテチで5.50ユーロと少し。その内の端数をマリアが出してくれた。
買い物袋を提げてメノールの玄関までやって来たら、マツコ似のフランシスカと背中全面入れ墨の女性が外のテーブルに座っていた。二人とは3日振りの再会だ。やぁやぁと近づいて行ったら二人ともハグしてきた。この二人とは何度も何度も一緒になったがハグされたのは初めてだったので、やっぱり到着の感激は別モノらしい。入れ墨の子はターニャは歩いてフィステラに行ったことを知っていたので、ちったぁ連絡を取り合っているらしい。
シャワーを浴びて地下の食堂で飲みはじめようとしていたら、マリアがやって来た。パン屋で買った缶ビールもちゃんと持っている。時間も正確だし自分の飲む分も持ってくるし、ドイツ人らしくきちんとしている。マリアは英語が堪能なのでやっぱり聞き取りづらい。私にはターニャくらいが調度いいなと再確認した。お互いにメールアドレスを交換したので、それぞれ国に帰っても付き合いは続けられそうだ。最後にハグしてお別れする。
ターニャは今頃フィステラの道を歩いているだろう。明日か明後日にはコンポステラに戻って来るかも知れないが、私は明日の早朝にはフェロールに移動してイギリス人の道を歩きはじめるので会うことはないだろう。ベッドに戻ってから明日の朝の行動予定を細かく記しておく。
これでポルトガル人の道は完了。明日からはイギリス人の道が始まる。
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