北の道01 日本出発 − サンセバスチャン


まずパリへ

 昨年、フランス人の道を歩いて感激したので、今年は北の道を歩こうと早くから決めていた。初めて行った昨年のサンチャゴ巡礼は、ネットで航空券を買うのが初めてどころか、ネットでの買い物も初めてという初めてだらけで大いに緊張したが、今年は2回目なので幾らか余裕を持って準備を進めることができた。
 まず一番初めに手がけるのはやっぱり航空券の手配。北の道へはパリのモンパルナス駅からスペイン国境のエンダイヤ駅までTGVで移動するので、これは昨年のフランス人の道とほぼ同じなので気楽。
 今年は少し慣れたので格安の航空券を探すことにした。カタール航空で、行き:羽田→パリ、帰り:バルセロナ→成田のオープンジョーで往復ともドーハ乗換えが入るけど68,000円ちょっと。昨年買ったANAの半額近くという破格の安さです。ドーハでの乗り換え時間が1時間15分しかないので、もし荷物がロストされた場合を考えて、パリで2泊することにしました。こうすれば、もし荷物が行方不明になってもパリの宿に届けられる可能性が大きいから。でも、何事もなくパリに到着して昨年も泊まったドミトリーに無事チェックイン。
 パリ2泊なので行ったことがないモンマルトル方面へ地下鉄で観光に行きました。モンマルトルを見てからは徒歩で赤い風車のムーランルージュを外から見物し凱旋門へ。昨年は凱旋門屋上へ上るためのチケット売り場には長蛇の列があったが、今回はまったく行列なしなのでテロの影響は想像以上にあるようだ。凱旋門は地上から見るだけならタダなのでそうする。凱旋門からまた地下鉄に乗ってドミトリーへ帰り一日が終わる。


マリエッタ

 北の道のスタート地点はフランス国境のスペインの町イルンです。でも、フランス側からイルンに行くための列車は滅多にないというので、フランスのエンダイユからイルンまでは歩きで国境を越えるのが普通のようなので自分もそうすることにしました。
 5月12日モンパルナス駅。駅ではフランス新幹線のTGVでも出発20分前にならないと出発ホームの番号が発表されない。それはすでに学習済みだし、エンダイユは終着駅なので降りる駅を間違えることもないので随分気楽でいられる。乗り込むときに一応確認のため、近くにいたフランス婦人に自分のチケットを見せて、この列車でいいのかと聞いたところ、「来い来い」と言うので意味が分からないまま着いて行くと、その人は私の隣の席だった。英語を良く話すフランス婦人で、年齢は70ちょっとと言うところか。ボルドーの母親を訪ねるそうだが、有名なボルドーがこの線上にあるのを初めて知った。婦人はサンチャゴ巡礼を知っていて、自分でも短期間を数回刻んで歩いたようなことを言っていたが自分の英語力ではハッキリしない。

 名前はマリエッタで、カタールのチケットの裏に名前を書いてもらったら、「えーっ、カタールを使ったのか!」と言う顔をされた。フランス人はカタールだと何かあるのか?テロ関連?
 いろんなことを教えてくれて、エンダイユはフランス読みで、スペイン語ではアンダイヤと発音するとか、ルルドの発音は難しくて何度やってもOKが貰えなくて、マリエッタの口を真似て発音したらすぐOKがもらえた。ルーは口を横に開き、ドは口をすぼめてルードゥと言うらしい。日本的にルルドと言ったんじゃ通じない筈だ。
ボルドーが近くなったらあれもこれもワイン農家だとか、電車が徐行したら線路脇の草刈をしている人を注意しているのだとか、あの大きな橋は船が通る時には上下するんだとか。お粗末英語の私でも相手が喋るのは身振りも加わるので何となく意味が分かって楽しい。ボルドー駅で握手をしてバイバイ。 
 ボルドーの後は各駅停車になったのか、TGVなのにやたらと停まるようになった。TGVは座席を回転させる機能がないようで、ずーっと後ろ向きのまま走るので気分が悪い。早く走らせるより、こういうサービスの方が重要な気がするのだが。。。昨年降りたバイヨンヌでは巡礼らしき人達が数人降りていった。みんなサンジャン・ピエ・ド・ポーからフランス人の道800kmを歩きはじめる人たちだ。ブエン・カミーノ。


最初のアルベルゲ

 エンダイユ駅を出たらイルンへは右に行けばいいらしいけど、一応駅の前にいた警察官に聞いてから歩き出す。この辺りの地図を印刷して持ってきてあるが、実際とはだいぶ違うし頼りの黄色い矢印は呆れるほど少ない。通りかかったスペインおじさんに教えてもらい、事前にgoogleマップで見ていた陸橋を渡ったところに矢印を発見、無事に今晩の宿に到着できる。2階に行くと二人の先客が受付をしている最中だった。今回初めてのアルベルゲ泊まりだ。シャワーだけして今日は洗濯はナシだ。近くのスーパーで買出ししてアルベルゲの三畳ほどの狭いキッチンで夕飯にする。ここにコリアン、ドイツ、ブラジル、ポーランドと初日から国際色豊かな人たちが集まって楽しく過ごせる。共通語は英語だが、私の英語は昨年より少しだけマシになったけど10%も理解できてない。ここのアルベルゲでは朝飯が食べられるらしいのが分かった。
 充電ポイントが少ないし、タブレットもカメラも余り使ってないので明日くらいは持つだろうと今日は充電はしないでおく。まだ8時だけど天気が悪いので薄暗い。みんなより早めに寝ることにして寝袋に潜り込む。


イルン出発・歩きのスタート

 5月13日。早朝、タブレットが電気不足のお知らせを発したので誰もいない食堂で充電を始める。6時から朝食を食べさせてもらう。パンにコーヒー紅茶と、外国のブレックファーストはいつもこんなもんだ。朝食はしっかり食べようと言っている日本人には物足りない。とても親切で感じのいいホスピタレロに持参の和風マリアカードを進呈し7時に出発。いよいよ歩きのスタートだ。って、既に自宅から前橋駅まで5キロ歩いてるし、エンダイユからイルンまで4キロ歩いているので今更スタートでもない気がするが、クレデンシャル(巡礼必携のスタンプ帳)のスタンプはイルンしか押されてないから記録的にはイルンがスタート地点になる。

 ホスピタレロに教えてもらったショートカットを進み、遊歩道からすぐ山の中に入っていく。天気は小雨、北の道は雨が多いと聞いていたのでガッカリすることもない。なんせ5月の半分は雨だそうなので、降らなかったら儲けものと思っていた方がいいようだ。山の中にあるグアダルペ教会まで順調に進み、フランスのおばさん二人組みを抜かし、その後も4人を抜かすが自分が抜かれることはなかった。抜かされる一方だった昨年とは随分違う気がするが、これは今日の殆どが高齢ペリグリノ(巡礼者)だからか?

 雨の方も順調に降り出してきやがって、ゴアテックスでない安もの合羽は着てても汗でずぶ濡れ状態だ。丘から急坂を降りて船着場に到着。噂に聞いていた巡礼路が渡し舟のところに来たようだ(写真右下に黄色い矢印が確認できる)。船賃0.70ユーロ、向こう岸まで数分だが日本でも乗ったことがない渡し舟なので、ちょっとワクワクするものがある。ここでイルンで一緒だったフランスおじさんと一緒になる。この人の雨装備は完璧で、腰まで届くすっごく長いゲーターに大きなポンチョを被って、更に傘までさしだした。合羽を着ても着なくてもびしょ濡れなので、すでに合羽は脱いでしまって濡れ放題の私とは行って帰るほど違う。下船後も良く分からない英語でお喋りしながら暫く一緒に歩くが、丘の上に上る急坂で差がつき、また一人旅に。

 大きな町ドナステアはバスク語だ。スペイン語ではサン・セバスチャンと言い、ちゃんと二つの地名が標識に書かれている。山の上から見下ろすと、御覧のように大きな街だ。急坂を下ってドナステアに降りたところでオーストリア人夫婦と一緒になる。彼らは二人ともスペイン語が堪能だったので、今夜の宿に当てがない私は後を着いていくことにする。
 1時間以上海岸線を歩いて、今夜の宿Albergue Juvenil La Sierenaに到着。まだオープン前らしく、受付で数人が待っていた。ここはイルンのオスピタレロが「駄目出し」していた宿だが、どうも普通のアルベルゲじゃなくてユースホステルのようだ(巡礼以外の人も泊まっているから)。施設は近代的で値段も16ユーロと高め設定。シャワー洗濯してからタブレットのGPSでスーパーを見つけて買い出しに行く。1リットルビール、プチトマト、ヨーグルト、チーズで5.58ユーロ。別口で何か練りこんであるパンを1本買ったら、これが1.8ユーロと高かった。早速アルベルゲの大きな食堂で一人宴会。

 渡し舟で一緒だったフランスおじさんも到着して同じ部屋になった。て言うか、部屋は沢山あるのに全員をひとつの部屋に押し込む気らしい。おじさんもオーストリア夫婦も明日はサラウツを目指すらしいので、私もそうすることにする。



北の道02 サンセバスチャン − デバ へつづく