北の道5 Zumudio − ビルバオ


 5月19日(木)Zumudioのホテルで簡単な朝食を食べられる。失礼な話の気もするが、朝食を食べている客層を見てみると作業着の人が何人もいて、ここは日本で言うビジネスホテルクラスなのが分かった。でも、今の私の金銭感覚から言ったら日本円4,500円は高級ホテルの部類だ。公営アルベルゲの宿泊料金はたったの5ユーロ、600円なのだから。
 海外旅行ツアーで泊まるホテルはどこも大きくて豪華なホテルだが、スペインには写真のような小さなホテルが沢山ある。ここのホテルは従業員がずっと詰めているのでなく、入口には電話番号が記した張り紙がしてあって、客が電話するとオーナーがカギを開けにやってきてチェックインする仕組みだった。オーナーのおばちゃんはゴージャスだった。

 小雨の中を合羽を着込んで出発する。合羽のズボンはデバで暇を出してきたので、これからは上着のみの雨仕度だ。半ズボンは濡れても構わないと思っていたが、ザックから伝わった雨水で腰周りがずぶ濡れになるのは余り気持ちのいいものではないのが分かった。後で考えたら、合羽のズボンを膝で切ってしまう方法があったと思ったが後の祭りだ。

 時折強く降るようになった雨の中、ひと山越えて大都市ビルバオに突入。山の中から途端に大都会になり矢印を何度も見失ってしまう。ここでアンナが言っていたとおり通過するのに大苦労する羽目になってしまう。途中までは黄色い矢印を何とか追ってこれたが、大きな橋を渡ったところで見失ってしまった。頭の中にはビルバオの大雑把な地図が入っていたので、この橋を渡ったところで左方向に遡ればグッゲンハイム美術館やビスカヤ橋があるだろうと歩き続けるが、どうも雰囲気が違うようなので、向こうからやってきたスペイン人に聞いてみたところ、やっぱり間違っていた。スペイン語が良く分からないけど、ビスカヤ橋に行かないのだけは分かったので来た道を引き返すことにする。15分ほど戻り、最初に分からなくなった橋のたもとで巡礼路を探すが、さっぱり分からないので道行くスペイン人に聞くも、これもまた分からない人だらけ。大都会の人はカミノ・デ・サンチャゴを知らない人ばかりだった。田舎の人はみんな知っていて迷っていると聞かなくても教えてくれるのに。

 最初に聞いた人がここ迄やってきた。こんな所でまだ迷っているのかと思ったことだろう。乗りかかった船と思ったのか、一緒に探してくれるがこの人もカミーノを知らないのでさっぱり分からないようだ。近くにあった市街図のところで二人で考え込んでいたら英語を話す夫婦が参加してくれる。皆でまた橋のたもとに戻ってみたら、最初は見落としていたカミーノのサインを見つける。なんだあったんじゃんと思うも、二人のスペイン人たちはサインのことを知らないので協議を続けていて私の言うことが伝わらないので少し困る。サインを見つけたからもういいのだがなぁ。

 最初のおじさんはポルトガレテに行くなら歩きでは無理だから地下鉄を使えバスを使えと盛んに言っているが、英語を話す人は巡礼のことを知っていて、ペリグリノはどこまでも歩いていくんだと言っているらしいのが分かる。でもやっと巡礼路を示すサインのことが伝わったらしく、本来の方向に向かって歩き出すことができるが、英語を話す夫婦は行き先が同じなのか大きな橋を渡りきるまで一緒に歩いてなにやらお喋りをする。パナソニックや大阪と言う単語が聞き取れるので、日本に行ったことがある人なのかな?珍しいのか、噂に聞いた(たぶん)本物のペリグリノに会えたことが嬉しいようで、一緒に写真を撮らせてくれと言うので自分のカメラでも撮らせてもらう。


みんなで夕飯

 何とか矢印を追い続けながら、やっとこさ大都会ビルバオの外側までやってこられた。山道に入り20分ほど歩いたらネットで見覚えのあるアルベルゲが目の前にドーン!?あ、ここだったんだ。でも確かここって夏休み限定のアルベルゲじゃなかったかと思うので安心はできない。ぬか喜びしないように注意深く見渡して見ると、入り口に人影が!やった、夏限定じゃないらしい、今晩の宿はここに決定だ。オープンまでにはまだ大分時間があるが、もうここっきゃないのは確実なので泊まれるなら待つのはなんでもない。外で待つ間、天気が悪いので寒いからフリースを着込んだりする。あったかい。そのうち、イタリア人のレンソとセルジオもやってきたので3人で待つのは心強い。宿泊料は寄付制だったのでいつものように5ユーロを入れる。ここのベッドは2段じゃなくてフラットだったのが嬉しい。大部屋に十数台のベッドがぐるぐるーっと部屋の隅に置いてあり好きなベッドが選べた。アルベルゲの建物は正面から見ると大したことなかったが、側面に回ると巨大で、フラットベッドでも相当な収容人数があるのが分かった。おまけに建物の下側にはバスケットコートなどの体育施設もあるので、やっぱり普通のアルベルゲではないらしい。今日泊まれたのは運が良かったのかもしれない。
 後からやってきたスペイン人バネッサが洗濯をシェアしようと言い出してきたので乗る。でもこの人はお金がないからATMで下ろしたら払うと言ってたが、結局それはなかった。次ぐ日の出発時にも施設の掃除を手伝っていたから、宿泊費も手伝いで勘弁してもらったと想像する。

 今日のアルベルゲは女性率が異常に高い。北の道は過酷なのが分かっているのか、いつもは女性は断然少ないのだが、今夜は男4人に対し女性は7人。ゲルニカで知り合いになった母娘も7時ころにやってきた。午後7時まで歩いていて、アルベルゲがなかったらどうするんだよと心配になった。明日は海岸の町ポベーニャ迄歩くと言う。ここから25.1kmだそうなので、山坂がきつくなければ歩ける距離だ。自分もそうしよう。

 8時から全員で夕飯。英語力がお粗末なので、こういう場合に良く聞く一人一言コーナーがあると嫌だなと思っていたが、それはなかった。でもとても楽しく、一人がカメラで撮りだしたら我も我もと大撮影大会になった。言葉が分からなくてもワイワイととても楽しい夕食になった。一人で料理を用意してくれたオスピタレラのジェルソミーナおばちゃんありがとう。髪の毛にブスッと刺した木の棒がキュートだ。


 食後は全員で皿洗いだが、流しのスペースは限られているので全員が働くことはできない。私とイタリア人のおっさんが突っ立っていたら、太ったおばさんが貴方達も皿洗いしろと言ってきた。国民性の違いか、こういうのは面白いなぁと思った。

 今日はビルバオ抜けるまでは雨の中や道に迷ったりと大変な思いをしたが、このアルベルゲはとても楽しかったので感謝だ。


北の道6へ つづく