北の道15 Pineres − La Isra


5月31日(火)曇り。Pineres。
 この小さなアルベルゲでは朝食が用意されていた。朝食付きで10ユーロなら私営としたら格安だ。ミニカステラ、ビスケット、コーヒー、牛乳で腹を満たし7:45に出発する。今日は26.5km先のLa Islaを目指す。
 牧場の中なのか、牛が草を食べている所が巡礼路になっていた。これはどうみても私有地だろう。歩いた跡がうっすらと道のようになっているが、いいのかなぁ?牛を驚かさないように、そろりそろりと歩いて行く。山から町に下りてきたら、巡礼路に格好の公園があったので靴を脱いで休んでいくことにする。こういう公園がそこかしこにあると気持ちよく休めて助かるのだが。
 町を離れて山の中を歩いていたらどっかの年配男性ペリグリノと一緒になる。田舎道なのに分岐点の矢印があいまいで迷い易いところが2箇所もあったので、しばらくカミーノを探しながら一緒に歩く。途中の村にやって来たらこの男性は泊まることに決めたのか、良く分からないが別行動になった。こんな村にアルベルゲがあるなんてひとつも知らなかった。ガイドブックを持ってないとやっぱり情報不足だ。

 また分かりづらい分岐点でどっちに行くのか考えていたらカタリナが追いついてきた。カタリナはスマホにカミーノのアプリを入れてるので、そういう時はすぐポケットからスマホを出して道を確認してくれる。自然とそこからは一緒に歩くようになる。もっとも、歩く方向が一緒で一本道なんだから「じゃまた」なんて分かれる方が不自然か。
 Vegaの村に差し掛かったところでカタリナがコーヒーが飲みたいと言い出したら、偶然にも村の中の一般家庭がコーヒーのサービスをしてくれていた。そこには年配の二人の男女がいて、入っていくと早速コーヒーをすすめてくれてクッキーも召し上がれと言っているらしい。二人とも揃っておでこに大きなコブがあるので、この辺りの水にでも何か問題がと思ったが聞くわけには行かないので謎のまま。カフェコンレチェを大きなカップで入れてもらいスタンプも押してくれた。親切な村人に和風マリアカードを進呈する。この人に聞いたら目的のLa Israまではまだ11キロあるそうだ。コインが沢山入っている皿に1ユーロずつ入れてグラシアスと言い残して出発する。

 海岸にでたところで、カタリナが浜辺を歩きたいと言い出したので付き合う。山国オーストリアには海がないので珍しいようだ。水着を持ってきているそうなので、いつか海で泳ぐつもりらしい。暫く砂浜を歩いて、さて巡礼路に戻ろうかという段階でカタリナが迷いだしたので、道が分かって砂浜歩きを始めたんじゃないらしい。道でもない所を無理やり15分ほど上って行ったら何とか普通の道路に戻れる。調度そこへバックパックを背負ったペリグリノがやって来たのでカミーノと確認でき、カタリナは「私達カミーノに戻れたわ!」なんて喜ぶ真似をしておどけているが、その前に知らない道に入って行ってはいけません。

 炎天下を歩き続け、大きめな町に入ったところでビールを飲もうということになって通りのバルに入る。ここのビールはカタリナがおごってくれた。ひとと歩くのは楽しいのだが、こういうのがちょっと煩わしいときもあるが流れにまかそう。

 海岸に出たところにアルベルゲがあったので、カタリナが「もう見つかった」と喜んでいるが、私は「これはムニシパル(公営)じゃないよ」と素通りする。そこへ昨日一緒のアルベルゲだったミリアムと若いスペイン男が追いついてきたので4人で公営アルベルゲを探すことにする。

 町の中に入ってぐねぐねと細い道を歩いて4:20La Israのアルベルゲ到着。昨日も会った手がぶるぶる震えるおじさんが椅子に座って待っていた。家からおばあさんが出てきて、この人がホスピタレラだった。受付をして5ユーロ払ったので、二階がアルベルゲになっているのかと階段を上がっていったら下でおばあさんが何やら騒いでいる。アルベルゲはここじゃなくて、離れたところだそうだ。ここは受付だけするところで、おばあさんの自宅だって。全員受付が終わったところで、おばあさんが本物のアルベルゲまで皆を案内してくれる。

 着いたアルベルゲは大きな建物で、一部屋に全員が寝るタイプだった。二段ベッドと平ベッドが同数置いてあり、私はもちろん平ベッドだ。シャワー洗濯したあと、日本から持ってきたペペロンチーノのインスタント粉末を使いたいので夕飯はシェアしようと提案する。食料を仕入れにカタリナと村のスーパーを目指す。地元の人に教えてもらって離れたスーパー前にたどり着いたら数人のおっさんペリグリノが外のベンチでビールを飲んでいた。手がぶるぶるの人と、そのほかの人も顔見知りだった。一人が「フェリー」と言って来たので、サンタンデールへ渡る渡し舟乗り場で一緒になった人だと思い出す。その中の一人はスーパーの店員さんだった。暫しの間たのしい交歓会になってスーパーの人に写真撮影をお願いする。おっさん達はアルベルゲじゃなくて別のオスタル等にチェックインしたそうで、別方向に散っていった。

 缶ビールはハイネケンをカタリナの分も出してあげる。固形石鹸がちびってきたので買い足し、スパゲッティなど食料を6.2ユーロ買って帰る。
 ここのアルベルゲのキッチンでは何人もの人たちが自炊を楽しんでいる。ポベーニャのバルで夕飯を一緒に食べたマルテンは一人で大量のパスタを大きめの鍋で黙々と作っている。あの量を一人で食べるのか?でも後で見てたら食べきれない分をほかの人にも食べさせているようだった。


 スパゲッティを作るのは昨年のフランス人の道で初挑戦したが、それ以来日本でも作るようになった。今回もアルベルゲのキッチンで作ってみようと、インスタントのぺぺロンチーノを4人前持ってきたのがやっと役に立った。
 買ってきたトマトを切って皿に盛り、チョリソーは袋を開けたままテーブルに並べる。ワインはカタリナが買ってくれた。多めに作ったスパゲッティだったが、カタリナと二人でペロリと平らげてしまう。百均で買ったペペロンチーノだったが好評で、日本で食べたときより美味しく感じた。
 先に食べ終えたカタリナが鷹の爪のかけら十数個を皿の中に残していたので辛いのは苦手らしい。そしたら「食べる?」と言いながら、私が返事をする前にフォークを使い全て私のスパゲティの上に振りまいてしまったので密かにびっくりした。日本人は自分の食べ残しを人に上げるなんて、しかも食べている中に混ぜるなんて絶対にやらないことだろうが、こういうのも文化の違いと言うのだろうか、非常に面白いものを見せてもらった気がした。帰ったら何度も旅ネタとして使わせて貰えそうだ。食べさせてくれたお礼のつもりなのか、カタリナが「YOUと出会えて良かった」と嬉しいことを言ってくれた。

 そろそろ北の道が二つのルートに分かれる地点まで近づいてきた。ここからなら二日後になるかな?北の道は分岐点から山に入っていくプリミティボの道と、このまま海の側を歩き続け後になって山の中に入ってサンティアゴへ向かうラコスタの道とに分かれる。さてどうするか。私としては北の道に来たんだから、このままずっと海沿いを歩きたい。取り合えず明日はVillavisiosaから1キロ入ったAmandiのアルベルゲを目指すことにする。そこには新しくオープンした私営アルベルゲがあるという情報が入ったから。だが、Villavisiosaの町から北の道は分岐するのか、それともAmandiから分岐するのかがハッキリしない。カタリナはAmandiが既にラコスタに入っていると思い込んでいるようだが、これもはっきりしない。これは確認する必要があるのでマップを見直してみたらAmandiはプリミティボの道に入っているらしい。カタリナに伝えたら、だったら1キロ戻るなんて言っているが、私は1キロでも戻りたくないぞ。手前のセブラド辺りで考えた方が良さそうだ。
 こないだから顔見知りになった手がぶるぶる震える人はオランダ人でテオ74歳だった。体が大きく身長は180cm以上だろう。横にも大きいので重い体で歩くのは大変な気がする。歳も歳だし。同じくオランダのマルテンもラコスタを選ぶそうなので、道ずれが増えて嬉しい。カタリナのスマホによると、今日は32km歩いたらしい。炎天下の下で山坂有りの32qは大したもんだが、テオも同じ距離を74歳ぶるぶる震える手と重い体で歩いているので、テオの方がずっと凄いと思った。


北の道16につづく