北の道28 Vilalba − バアモンデ


6月13日(月)朝から雨が降っている。7時、合羽を着て出発。まず昨日、夕飯を食べた町を目指す。前を二人のペリグリノがポンチョを翻して歩いている。少し後に続いて歩き、彼ら(彼女?)が昨日、夕飯を食べたバルに入って行ったので続いて入る。濡れた合羽とザックを床に置いて店の中に入っていくと昨日一緒に夕飯を食べたスペイン人の若者が先に朝飯を食べていた。私も「デサジュノ ポルファボール(朝食お願い)」と注文し、出てきたのはチョイスした飲み物のチョコレートにミニオレンジジュースと小さなカステラだけだった。普通、バルでのデサジュノは単品で注文するより余計に食べられるのだが、ここのバルは腹にたまるような物が出なかった。ほかの人が食べているトーストはまた別注文のようなので、トスターダを追加してもらう。それを食べたってしっかり食べる日本人の朝食には足らないのだが、少しでも余計に食べておかないと後で後悔する羽目になる気がする。雨降りなので途中で食べられる可能性がふだんより減る気がするし。

 ここのママの名前は昨日既に覚えていた。カルメン。誰でも一度で覚える名前だろう。昨日の夕食からお世話になっているカルメンに写真を撮らせてと言ったら喜んでポーズまで取って応じてくれた。名前を呼んで頼むと反応がいい。

 バルで食べた後、また雨の中を合羽を着込んで歩き始める。この町は思ったより大きくて巡礼路を見失う。歩いていたところ丁度車から降りて来た女性に聞くも、巡礼路は知らないそうだ。二人目に聞いた男性は知っていて、それなら来すぎたからどこそこの角まで戻るんだと教えてくれる。そのどこそこが分からなかったが、取り合えず戻りながら角で矢印を探そう。300mほど戻り、そこにいた年配の人に聞いている最中に子供会(高校生だけど)ペリグリノの集団を発見。渡りに船だと着いていくことにする。先生と思しき大人に先導された30数名の大集団だ。みんな思い思いの合羽やポンチョを着込んでいる。後ろから着いていくと道筋に程なく黄色い矢印を発見する。子供会は途中、固まって何やら先生が話し始めたので、黄色い矢印を見つけた後なのでさっさと先に進ませてもらう。いつもはやかましいとしか思わない子供会だが、たまには役に立つこともあった。

 人家の少ない田舎道でまた巡礼路を見失い、畑のあぜ道を進むも、どうもこれは違ったようだ。引き返してきたらまた子供会がやってきた。今日は何かと縁が切れないようだ。大所帯の長い行列なので、自分もその中に入って進んでいくことになる。今頃気づいたが、この子供会には女の子がいなかった。一緒に歩いていて、男女混合でない子供会はチャラチャラしてなくて悪くないなと言う気がしてくる。スペインの教育省に、高校生をサンチャゴ巡礼に連れて行くなら男女別にしてくれと進言したくなった。

 次の村にはバルがあって、特に用もないので通り過ぎようとしたらバルの中からマルテンが飛び出してきた。ここにいたのかマルテン〜。そう言う事なら寄って行こうじゃないか。店の中にはマルテンの他に一昨日のゴンタンで一緒だった男性と、3日前に歩きながら言葉を交わした小柄なフランス爺さんがいた。オラーフランセスと声を掛けたら凄く嬉しそうにしていた。

 そこからはマルテンとゴンタンで一緒だった人と三人で歩くようになる。昨日のアルベルゲでのこの人の格好はちょっと飛びぬけていると同時に、目つきが鋭すぎるので敬遠していたが、話してみると良い人だった。ドイツ人でトーマス、なんと合気道二段だった。武道の初段はそれほどでもないが、二段というのは大したもんだと理解しているので、そう言うと満更でもないようだ。
 ミチヨと言う日本人女性に日本語を習ったことがあるそうで、片言の日本語を話す。私はミチオで、ミチヨは女性の名前だと教える。週1で二年間日本語を教わったそうだが、その割りに日本語は達者ではないようだ。ひとのことは言えないが。
 二人で並んで1時間以上お喋りしながら歩く。英語は私よりずっと上手だが、ぺらぺらと言うほどでないので、片言の私はそういう人と話す方が楽だ。スペイン語は少しと言っていたが、近くにパラパラ歩いている子供会とスペイン語で話しているのを聞いていると、私から見たらペラペラレベルに聞こえた。

 途中からマルテンが遅れだして、バアモンデのアルベルゲには合気道のトーマスと二人で到着した。今日のスタートは雨降りで大変だったが、途中から好天になり良い歩きの一日だった。チェックインして部屋に行くと、昨日・一昨日も一緒のアルベルゲだったスペイン人カップルと一緒になる。6人部屋だが、この部屋には結局われわれ3人しか入らなかった。二階には2段ベッドがズラッと並んでいるが、ガラガラ状態なので、まだシーズン前で空いているようだ。


 近くのバルに夕飯と朝飯を一緒に食べたスペイン人の若者二人組みがいたので挨拶する。このアルベルゲには泊まらずに、ひとつ先まで歩くそうだ。一人が私のノートを貸してと言うので渡したら、見ないでと言いながら何やら書いているようだ。戻ったノートを見たら、昨日書いてやった名前の漢字が書いてあった。ダビデなので脱美出。一緒のテーブルにいた女の子にも名前も書いてと言うのでモニカなので百似華と書いて上げる。スペイン人は全ての名前は簡単に漢字で書けると思っているらしい。

 マルテンがスーパーで買い物してからアルベルゲにやって来た。マルテン詰めが甘いんだよ。まずチェックインしてベッドを確保してからやりたいことをやりゃいいと思うんだが、アマンディで泊まれなかったことがちっとも懲りてない。
 私もマルテンが行ったスーパーに行って買い物をする。巨大パプリカ、白ワイン、ヨーグルト2、ハム、ジュース、でかいパンにインスタント袋入りコーヒーで8ユーロちょっと。かなり買った方だが円なら千円以内だ。
 ところで、スーパー・スーパーと良く書いているが、スペインでは小さな村の雑貨屋でもスーパー・メルカードと言っている。日本的にはスーパー・マーケットとなるのかな。ちっともスーパーではないのだが、スペインではそう言うものらしい。スーパーにはビールがなかったので、近くのTABASCOに行ってみる。缶ビールを売っていたが、小さいのが1.2ユーロと高すぎるので腹が立った。

 マルテンがツナサラダを作ってくれたので、今日一緒に歩いたトーマスも加えて3人で昼飯を食べる。私も買ってきたハム、パン、オレンジジュースを提供する。食べ終わったらトーマスがさっさと皿洗いを始めた。さすがドイツ人律儀だ。これから近くのバルに行ってサッカー中継を見るそうなので、私も後から行ってヨーロッパ人のサッカー観戦を見物する。残念ながらテレビで見るような大勢が見ているのでなく、バルにはパラパラの客しかいなかったので盛り上がりに欠けたが、重要な場面では小人数ながら大声を出して騒いでいた。

 10日ほど前から一緒になるソロのドイツ人おばさんもチェックインして来て外のテーブルで寛いでいるので名前を教えてもらう。ぺトラ。旦那は東京、京都に行ったことがあるそうだ。お国がらか、ドイツ人は他の欧州人とは違って、慣れるのに少し時間がかかるような気がした。

 マルテンは明日はMirazまでの10.7kmしか歩かないらしい。その次にアルベルゲがあるのは26.1km先になるので良い判断だろう、私もそうしよう。超ゆっくりの工程だ。

北の道29につづく