フィステラの道4   7月14日(木)   オリベイロア - セー

 明け方気がついたら、近くのベッドで寝ていた筈の足に障がいがある自転車青年が見当たらない。どこに行ったんだろう?青年が昼寝をしていた時にイビキをかくのが分かったが、自分のイビキが大きいのを気にして離れたところに行ったんだろうか? 別棟にあるキッチンに行ってみると長いすに毛布があったので、こっちに越して寝たようなのが分かる。随分と遠慮深い青年だなー。昨日話したときも日本人みたいな感覚を持っていると感じたけど、スペイン人でここまで気遣いする人を見たことないよ。

 カステラ2個と持ち歩いているインスタントコーヒーで簡単に朝飯を摂って6時50に出発する。まっくら。今日はさすがに寒いので、長そでフリースを着混む。日本で7月半ばにフリースは幾ら何でも有り得ないが、スペインの朝は夏でも寒いときがあるので防寒着は捨ててはいけない。

 村を抜けて少し歩くと朝日が上って来たので、その奇麗な朝焼けの様子を撮る。この肌寒さと吹き抜ける風さえも、この抜群の景色に味付けしてくれてるみたいだ。感動がいっぱい。

 昨年間違って歩き続けてしまった分かれ道を横目で見て、眺めの良い山沿いの道を歩く。眼下にはちょっとした渓谷美が見えるし、本当にこのルートは景色が素晴らしい。

 昨年も寄ったバル「O Logoso」が現れたので、2度目の朝飯を食べていくことにする。コラカオとトスターダ(トースト)、あえて昨年と注文も同じにしてみる。店の人に昨年もここでデサジュノを食べたんだよと伝えたら嬉しそうにしてくれた。でも、昨年は男性で今回は女性が切り盛りしていた。

 店内にある表示を何気に見たところ、ここはアルベルゲもやっていることに気づいた。こじんまりしていてバル以外には見えないが、奥には宿泊スペースがあるようだ。そう言えばアナが泊まりたいと言っていたアルベルゲが「O Logoso」だったことを思い出す。何だここだったんだと日記に書いていた所に突然アナが声を掛けてきたのでビックリ。タイミング良すぎだろう。今頃出発するのかアナは。アスタルエゴ(また後で)の言葉が思い出せてよかった。

 立派なインフォメーションはもっとずっと先だと思ったが、意外と近い所にあった。ここでも記念にスタンプを押して貰う。係りのお姉さんもたまにしかやって来ないペリグリノに嬉しそうだ。

 ムシアとフィステラへの分岐が現れた。私は今回ムシアには行かないのでフィステラ方面へ歩いて行く。やっぱり両方行く人でも先にフィステラへ行く人の方が多いんだろな?私の感覚としたら、ムシアの方が荒涼としていて、ずっと地の果て感が強いので、両方行くとしたらやっぱり最後はムシアにしたい。

 アナから30分遅れて出発したが、1時間で追いついてしまう。やっぱり歩くのが遅いんだな。山の中にあった広場みたいな所でぶらぶらしていたから、もしかしたら私がやって来るのを待っていたのか?そのまま一緒に歩き出す。日が昇ってまださほど時間が経っていないので、道に写った長い影を撮るんだとポケットからスマホを出している。色んなアイデアが浮かぶようだ。これは後からメールで送ってくれた。

 ずっとスペイン語の学習みたいなことをやって歩き続ける。相変わらず新しい単語は覚えられないがテストはされないので気楽。だから覚えられないんか?

 良い機会だから、前から発音が分からなかったXUNTAの言い方を教えてもらう。エックスンタじゃなくてシュンタだった。スペイン語のアルファベット読みは一風変わっていて難しい。


 とうとう前方に海が見え出した。すっごい綺麗な景色に感激。加えて下りの坂もすっごいので足を痛めないように慎重に降りていく。坂を降り切れば今日の目的の地、セーは目の前だ。

 どうです、この空と海の青さ加減。やっぱりこのルートは最高です。必ずまた来よう。




 セーでは昨年泊めてもらった私営に泊まろうかと思っているが、アナは別の私営に予約を入れてあるそうだ。昨年のアルベルゲには難点があって、有料で朝晩の食事を出すのでキッチンが自由に使えないことだ。しかしベッドやシャワールームは完璧だった。アナが予約した方はどうかな?

 11:40、アナのアルベルゲは町の入り口にあった。どうせ安い公営はないことだし、ちょっと中を見せてもらおう。キッチン兼食堂スペースは完璧だしベッドも広々と置かれている。ここに決めた。仲良くなったアナが居るのが一番の理由だけどね。12ユーロ、予約がいくつかあるそうだが下段ベッドをゲットできる。

 スーパーへ行ってトマト3、西瓜、ヨーグルト4、缶ジュース2、トロピカル缶詰、1リットルビール、生ハム、チーズ、カット野菜で10.82ユーロ。GADISはレジ袋が無料なのがいい。今日は山ほど買ってレジ袋が2袋になってしまった。

 シャワー、洗濯して干し終わったら食堂で一人宴会。生ハムが少し硬くて外れだ。飲み終わったところにアナ登場。相変わらず何を言っているのか分からないスペイン語を連発しているが、ラテンのボディーアクションと豊かな表情がとても楽しい。泳ぎに行きたいらしく、既にビキニを下に着ていると見せている。海に行こうと誘っているので着いていく。ヨーロッパ映画ってこんな感じじゃなかったか?

 砂浜に下りていくと、さっさと水着になった。私も男なんだけど、そんなことは気にする風でもないようだ。何ともあっけらかんとしている。自分のスマホを渡してさかんに自分を撮らせる。カメラを向けると、ちょっと待ってと言って、フッと大きく息を吐きながらお腹をへっこませておどけている。本当に天真爛漫を絵に描いたような人だ。

 海の中に入って行ったが、思いのほか水が冷たかったので膝までしか入らないから泳ぐどころではないようだ。サンオイルを塗っているので、肌を焼くのも目的らしい。スポーツウーマンで、サーフィン、ボディーボード、クンフー、空手、テニスをやってたって。サーフィンはボードが顔に当たって負傷してからはやってないそうだ。めちゃくちゃ元気な人なので、どのスポーツでもハイテンションで大騒ぎしながらやってたのが容易に想像できる。

 近くの岸壁を見たらムール貝らしき物がびっしりとくっついていた。その数何万個!?誰も取らないのだろうか?それとも漁業権でもあるのか?

 大きな魚の群れがすぐ目の前までやってくるし、何とものんびりした海岸だ。こ1時間ほど浜でプラプラ遊んでアルベルゲに帰るが、アナは砂が付いた足を洗いもせずにベッドに寝転がってスマホをいじくりだした。やはり畳で生活する日本人とは根本的に違うようだ。

 日本人の女の子登場。彼女は千春さんで、フランス人の道を歩き終えてからこっちに来たそうだ。フィステラでスマホが壊れたのでセーに直しに来たと言っている。確かにフィステラよりセーの方が倍以上大きな町だから色々便利な店があるのだろう。でも、幸運にも来る途中のバスで直ったとか。ここのアルベルゲが良かったので、再度泊まりに来たそうだ。無骨なおじさんがオスピタレロだが、見た目よりずっと細やかな心配りをするらしい。寡黙なおじさんだが、言われてみるとアチコチまめに掃除をしていたり、シャワールームの壁に付いた水滴まで奇麗に拭き取っているのを見ると確かにその通りのようだ。大雑把なスペイン人には珍しいタイプかも。ベッドは私の上段になった。もうそこしか空いてないし。(千春さんからは名前顔出しとも了解を頂いてます)

 夕飯は千春さんがサラダを作ってくれると言うので残りの野菜とトマト1個にパンを提供する。ビールが好きだと言うので、手持ちの缶だけじゃ足りないなとスーパーに再度買出しに行く。千春さんに教わったもう1軒のスーパーへ行ってみたところ、ここには冷えた1リットルビールが売られていた。70%OFFと言うリオハワインもあったので、これもゲット。大きなバゲットも1本買って3ユーロとは嘘みたいな値段だった。リオハワインは偶然にも昼間アナとワインの話をしていたときに、「ワインはリオハだ」みたいなことを言っていたので面目躍如か。安かったけど。

 千春さんと一緒に夕飯を食べる。やっぱり女性が作るサラダは1枚も2枚も上手だった。私のは袋から皿に撒けるだけだし。グラスもちゃんとあってありがたい。私は缶ビールもグラスで飲みたがる口なので、ガラスのコップがあるなしは結構重要だ。湯のみ茶碗だって缶から直接飲むよりずっとマシだ。二人で缶ビールと1リットルビールをぐびぐび飲みあう。千春さんは日本から持ってきた貴重なインスタントみそ汁も飲ませてくれた。私にとっては2カ月ぶりの日本食か。

 やっぱり私が予定していた私営アルベルゲよりこっちの方がキッチンも食堂もポイントがずっと高かった。更にいいことは、ベッドは満員御礼なのに食堂を使う人がいないことだった。港町なので、みんな美味しい魚介類を食べに出たのだろうか。広い食堂を二人で占有し、誰に遠慮することなく楽しく日本語で喋りあう。

 メガネを外した千春さんは美人に変身していた。メガネの有るなしでこれだけ変わる人も珍しい気がする。「メガネ外すと美人ですね!」と言ったら、「はい~」と言う返事が返ってきたので自覚があるらしい。サラダとパンの他に、昼間バルで食べた残りをテイクアウトしてきたと言うパエージャもあった。スペインで数回だけパエージャを食べたことがあるが、これは本当に旨かった。冷えててこれなら出来たてはどんだけ旨いんだろう。

 簡単スペイン語講座:パエージャは日本ではパエリアと呼ばれているがスペインではパエージャと言います。同じようにセビリアはセビージャ。LLAはリャじゃなくてジャ。「そうじゃん」は「soullan」と書きます(ホントか?)。


 食べ終わるころにアナも参加して3人で楽しくお喋りする。ワイン好きと言うアナに手慣れたところで栓を抜いてもらいカンパーイ。ここでもアナは身振り手振りを交えて大騒ぎしている。なんとも楽しい人だ。凝った言葉は殆ど分からないが、意味もなく楽しい。

 アナのパパは耳が聞こえないそうで、アナは手話が上手。喋るより手話の方が得意らしい。私の父親も高齢になってからは耳がまったく聞こえなくなったので筆談になったと伝える。千春さんも手話ができるらしく、良く分からないポーズを取っている。スペインと日本の手話に共通点はないらしいが、動作で伝えるものなので言葉を覚えるよりはずっと理解できるのかも知れない。今日はとても楽しい夕げになったので、二人に感謝感謝だ。


フィステラの道5へつづく