プリミティボの道8 Berducedo - Grandas de Salime
              スペイングループに混ざって
6月26日
 5時40に起床。キッチンでチョコパン2個とヨーグルトで朝飯。昨日の轍を踏まないように入念にパッキングする。別のアルベルゲに泊まったスペイングループが7時に朝飯だと言ってたので、しばし時間を潰して6時45にアルベルゲを出てみる。濃霧が巻いているのでザックカバーと雨合羽装着。プリミティボの道になってから、毎日のように雨支度での出発になっている。

 スペイングループが泊まっているアルベルゲの前に行けば賑やかな連中の姿が見えるだろうと思ったが、何の気配も感じない。もしかして既に出発した?考えても仕方がないので一人で出発することにする。

 濃霧の中、ちょっと離れた家に明かりが灯っていて、バックパックを背負った女性の巡礼が出てきた。どうやらあそこもアルベルゲかバルのようだ。その先に3人の連れらしき人たちがいて一緒に歩き出した。もっけの幸いと、このグループに付いて行くことにする。4人は少し行った三叉路で予想外の方向に曲がった。え、ここでいいの?そこには矢印も道標もなかった。そのまま付いて行くとやがて道筋に矢印が現れた。このグループに付いてきて良かったこと。自分ひとりなら曲がらずに間違った方へ行ってしまっただろう。詳しい地図を持ってないので危険がいっぱい。

 追いついたので話しかけてみると、この人たちはフランスからの夫婦2組のようだ。手持ちのフランス語は10個に満たないので、少し喋ると品切れになる。でもこの人たちは言葉は通じなくてもとてもフレンドリー。名前を教えてくれるが聞きなれないフランス名前は覚える可能性ゼロ。私のことはミッチャンと呼んでくれと言ってみる。欧米人には日本語の名前は発音しずらいので、ミッチャンならちょっと欧米ぽいので覚えやすいだろうとの思いで、いつもこう教えている。それに日本でもミッチャンと呼ばれてるし。この人たちは私の名前をすぐ覚えてくれて行く先々で「ミッシャン」と声をかけてくれるようになった。貴重な道連れなので暫く後に続くが4人が立ち話を始めたときに抜いて、その後は一人旅になる。


 ずっと濃霧が続いているし、一人だと怖いような山の中をずっと歩いていくと、前方にやっと人影が見えてくる。近づいて行くとどうもモンセラットらしい。追いついたらやっぱりモンセラットとスペイングループの一人だった。他の人たちはその少し前を固まって歩いていた。私が追いつくとみんな旧知の仲間がやって来たように歓待してくれたのでテンションが上がる。

 スペイングループは7時に朝飯と言ってたと思ったので、後ろにいるかと思ったが出発を早めたのかな。或いは6時を7時と聞き間違えたか。何はともあれ追いつけたのは私も早めに出発したお陰か。早起きは三文の得。この後はずっとこのグループに混ざって歩くことになった。このグループには英語を話せる人は一人もいないが、やたらとスペイン語で話しかけてくるヒョウキンなおっさんがいるので、まぁ有り難いです。喋っている10分の1も分からないけど。

 ここの巡礼路は山火事の後をずっと続いていた。行けども行けども山火事の爪跡だらけ。燃えている時は歩ける訳ないので、そのときここに差し掛かった巡礼は大きく迂回せざるを得ないからさぞや難儀したことだろう。木々は炭になっているが草はもう新しいのが生えだしているので草の生命力に舌を巻く。こんな広い範囲を植林し直すのは大変そうと思うがスペインだから自然に任せるか?

 上りきったら今度は大きなダムを下に見ながら下りだした。どうやらあのダムの方へ道は続いているようだが、ダムの上流へ行くのか下流へ向かうかまでは分からない。やがて舗装路に出っくわすと、山道から平坦な道になったので歩きやすくなる。


 ダムの近くまでやってきたら、一番のひょうきん者がコンクリート壁に付いていた不思議な鉄扉を開けたのでみんなで入っていく。袋田の滝みたいなトンネル状の通路を抜けるとそこはダムの展望台だった。眺めの良さに記念撮影タイムの始まり。何の看板も掛ってないし、自分ひとりでここにやって来たらこんな得体の知れない所には入ろうと思わなかっただろう。大勢で歩くメリットはいっぱいある。

 ダムの上を歩いて行くと遠くの方にレストランらしき建物が見える。ずっと歩き詰めだったのであそこで休んでいかないかなと期待したら、本当にみんなで寄っていくことになった。そこにはフリアンが先に到着していた。喘息持ちのフリアンは山越えをしないで、また舗装路をやってきたと想像する。それでここを待ち合わせ場所にしていたようだ。

 ひとりのメンバーのおばちゃんは名前をドミニクと言った。日本でも有名な「ドミニークニクニク粗末ーななりで~旅~から旅へ~」と日本語で歌ったら、当然のことながらこの歌を知っていた。皆で歩くのは何かと楽しい。


 このグループは殆どが60前後のようだ。最高齢は私より一つ年上の68才。酸いも甘いも嚙み分ける年配者はフレンドリーで付き合いやすい。この中では唯一、モンセラットだけが若い青年だ。誰かがラテン音楽を掛けたら、一斉に踊りだした。60後半と思われるおばちゃんまで腰をぐりんぐりん回しながら「ほらこれを見てごらん」なドヤ顔をしている。歩いている途中でも音楽があると、歩きながらステップを踏んでいたりして、さすがラテンの国。

 途中にあった大きな水場に全員で寄っていく。広場にはゆすらごの木があって、たわわに実を付けているのでひょうきん親父が採って食べだした。私も真似して食べてみたが、やっぱり酸っぱくて美味くない。誰も食べないからこんなに実が付いているのか。ここでも音楽が掛ったら一斉に踊り出している。どんだけダンスが好きなんだよ。

 その名もグランドサリメの町に入ってきて、広場がある公園で休んで行く。野外ステージの上に登ってひょうきん者が何やら始めた。マイクに見立てたボトルを片手にスペイン語でレディース&ジェントルマンとでも言っているようだが、その後の演説は意味不明。どこまでもハイテンションだ。私はこの町に泊まるが、みんなはここから5km先のCastroと言う町のアルベルゲに予約を入れてあるそうなので本日のお別れとなる。「次の町A FonsagradaへはCastroから24kmだがあんたは28kmだ」と言っているらしい。お互いに明日はA Fonsagradaを目指すのなら、明日も一緒になるだろう。再会するのが楽しみだ。

 この町のアルベルゲは私営しかないが、私営でもあるだけありがたい。公園から少し上った坂の上にあって、とても綺麗な建物だった。シャワー、洗濯してから近くのスーパーへ買出しに行くも、既にシエスタに入っていた。シエスタの2時にはまだ少しあるのだが、この町のシエスタは早めになってるのか?

 買い物が出来なかったのでアルベルゲに戻って、ここの自販機で1ユーロの缶ビールを2本飲む。チーズとナッツは持っているので、やっぱり何か食料を持っていると助かることが度々ある。少し重くなっても切らさないのが肝要だ。

 今朝立ち話ししたフランス人4人組とインディラ、アストン組もチェックインしてきたし、先にチェックインしていたのは昨日一緒に歩いたスペインの親子3人組。この親子はたまたまスペイングループと一緒に歩いてはいたが、元々は別だったらしいのが分かった。それに昨日のアルベルゲで初めて知り合いになったイタリア人のアウレイリオもやって来た。この人は騒がしい若者グループとは一線を画していた40台ほどの男で、見るからにローマの兵士みたいな頼もしい風貌をしている。このアルベルゲは知り合いがいっぱいになったので自分ちみたいな安心感も感じられて一層楽しい。

 シエスタが終わった時間になったので再度スーパーへ。さっきアルベルゲで缶ビールを2本飲んだけど、また缶ビールを2本とヨーグルト4、コーラ、トマト、チョコパン、つまみ、桃缶で5.8ユーロ。700円ほどでこんなに買えるんだからスペインの物価はありがたい。このスーパーには例のアホグループが買い物に来ていた。こいつら若いくせにまだこんな所でぐずぐずしてるのかよ。さっさと次の町に行ってしまえばいいのに。顔を会わせてもこちらがニコリともしないので、幾らか感じてはいるかもね。この6人組は買い物したら次の町へ向かったのでせーせーした。

 歯ブラシを無くしてしまってるので、このスーパーで歯ブラシも買いたかったが3本入りしか置いてないようだ。余計な荷物は持ちたくないけど2本捨ててしまうのもなーと悩む。だめ元でお店の人に1本入りがないか尋ねたら、親切にファルマシア(薬局)に行けばあるよと教えてくれる。薬局への道順を教えてもらい歩いていくと、道端でモンセラットが携帯で電話をしていた。あれ、モンセラットはスペイングループと一緒に次の町へ向かったんじゃなかったのかね。ほかの人たちはとっくの昔にCastro目指して歩き出してる筈なんだがな。ま、電話中だし放っといて近くの薬局へ。

 歯ブラシは教えてもらったとおり1本売りをしていた。携帯に便利な折り畳み式で小さな歯磨きチューブまで入っている。ついでに足に塗るためのニベアが終わりそうなので、何かクリームが欲しいな。ニベアは無さそうなので、足にクリームを塗るしぐさで伝えようとしたが旨く伝わってくれないようだ。でもワセリンと言う単語は通じてすぐ小さな缶に入ったワセリンを出してきてくれる。ワセリンってスペイン語だったのか?

 そんなことをしていたら何故かモンセラットが入ってきた。薬剤師さんとなにやら話しているが何が欲しいのだろう。女の子なので日焼け止めクリームでも欲しいのかな。もちろん日焼け止めなんて単語は知らないので「ソル、ソル(太陽のこと)?」とだけ言いながら身振りで聞いてみる。モンセラットの言葉と身振りから想像すると汗で肌がかぶれるようだ。スペイングループが予約していたアルベルゲにモンセラットも予約済みなので、このあと出発するそうだ。アスタマニアーニャと言ってバイバイする。

 でも結局、モンセラットは6時半になってからこのアルベルゲにやって来た。そして予約しといたアルベルゲに携帯でキャンセルの電話を入れている。話し振りから想像すると「疲れてしまったのでそこまで行けないの」とでも言っているようだが、きっと遅くなってしまったのでこの先5km歩くのが面倒になってしまったのだろう。このアルベルゲにはベッドルームが2つあるが、モンセラットは隣の部屋になった。

 今日のアルベルゲはモンセラットと親子3人組の息子以外はみんな年配者なのでとても居心地がいい。あ、インディラ・アストン組も若者だった。要するに馬鹿騒ぎする若者がいなくちゃ快適なのだ。明日は5km先に宿泊しているスペイングループ6人が6時に出発するだろうから、こっちは6時半に出発して追いつく作戦にする。歩くのが遅い人たちだがこの差で追いつけるかな?ここに泊まっている人の全員が明日はA Fonsagradaに泊まるだろう。それに5km先のアルベルゲに泊まっている知らない人たちも同じ町を目指す筈だ。距離的にそこしか泊まれるところがないし。Fonsagradaのアルベルゲは56ベッドもあるから泊まれないことはないだろうが、同じ料金なら下段ベッドを確保したい。明日も頑張る。


プリミティボの道9へつづく