プリミティボの道10  A Fonsagrada - O Cadavo(Baleira)
               今日も一緒に
6月28日
 アルベルゲの広いキッチンで朝飯。ヨーグルト2、パン数個にアルベルゲにあった本物のコーヒー。珈琲フィルターは無いのでどうやって飲めばいいんだろう?昨年仲良くなったターニャが大のコーヒー好きで、いつも挽いた粉を大きなカップに直接ぶち込んで飲んでいたのを思い出す。ターニャにそれどうやって飲むのか聞いたら、暫くすると粉は下に沈むので、上澄みを飲むんだと身振りで教えてくれた。それを真似してみる。まぁ多少粉が気になるが飲めることは飲めるようだ。

 6時半にスペイングループに混ざってスタート。真っ暗闇で(写真は自動露出なので明るく写ってる)強い風と小雨が降っている中、みんなポンチョを翻して黙々と歩く。なんか普通に考えれば凄い光景だろう。一人なら修行の心持ちだが団体ならむしろ楽しささえ感じてしまうから不思議。こんな状況でも深刻な顔をする人は一人もいない。降ったり降ったり止んだり降ったりの中を歩き続ける。

 舗装路を歩き続け、途中から細い山道に誘導されて入っていく。暫く登っていくと小さな祠みたいな不思議な建物がポツンとあった。マリア様を祭る祠のようだがハッキリしない。信仰心の篤いスペインにはこういう祠があちこちにある。日本で言えばお地蔵様みたいなもんか。その前で全員で記念撮影。

 深い山の中にポツンと雀のお宿みたいなバルがあったので、雨支度を解いて全員で休むことになった。外のテラス席には昨日一緒に歩いたスペインの親子3人組がいたので再会したことに全員のテンションが上がる。ひょうきんものはバルで飼っている小型犬にそこまでやるかと言うほど挑発を繰り返している。目と鼻の先であれだけやったら噛まれるんじゃないかと冷や冷やした。私は1.4ユーロのコラカオだけ頼み手持ちのパンをちまちまと食べるが、ほかの人たちは朝飯のつもりなのか、全員が飲み物とボカディージョを豪勢に注文していた。こんな寒いのにビールを飲む人もいたな。

 この店は建物の中に入るなら外でポンチョを脱げと、店のセニョーラがやかましく指導していた。店の人が客より威張っているのはスペインではお約束。でも店内に入るのはトイレを借りる人くらいで全員が外のテラスで過ごしている。寒いのにみんな外が大好き。

 ずっと山の中を歩いて来て初めてのバルなので、あとからやって来る殆どの巡礼がここに寄っていく。暫くしたらモンセラットが一人で到着してきた。モンセラットまた一人歩きかよ、よくやるよなこの子も。スペイン語が堪能ならそのモチベーションはどこから来るのか聞いてみたいところだ。

 バルを過ぎると小さな村があったが、すぐまた山道に変わる。喘息のフリアンはきつい山歩きの行程は舗装路を歩き、ところどころで我々と一緒になる作戦のようで、舗装路から道標に従い山道に入っていく所で「じゃぁ」と言う感じで一人で舗装路をそのまま行ってしまう。大人の喘息があるのに山歩きなんて命に係るんじゃないのかね。フリアンも大したもんだ。喘息で亡くなった歌手、テレサ・テンを思い出す。

 この後は今日一番の上り坂が続いていた。女性3人はみんな60台なので息が上がり始めている人も出てきた。その中でも一際大変そうなおばちゃんの事を一番のひょうきん者が盛んに気遣っているので、どうやら二人は夫婦らしいのが分かったが他の人たちの素性は未だにさっぱり分からない。

 私の履いている水色の短パンは温泉の町オウレンセで買った海パンだ。雨合羽と合わせるとベストマッチ。海パンで歩く利点は洗濯が1枚少なくて済むことなのでお気に入りになった。次の巡礼もこれで行こう。

 今晩泊まる予定のO Cadavo4km手前の村に差し掛かった所にバルがあって、中からフリアンが出てきた。ここに先回りして我々が来るのを待っていたようだ。みんなで雨具を脱いで一休みしていく。そろそろ目的地が近づいて来たのでビールを飲んでしまおう。1.4ユーロで小皿のピンチョスがおまけで付いてきた。みんなも目的地が近いのが分かっているので気楽になっているのが感じられる。遅れて一人、モンセラットが入ってきた。大きなポンチョのまま入ってきて美女がビショビショ。モンセラットはいつも女の子一人で頑張っているので本当に感心する。

 下り坂が終わるころに突然大きな建物が現れる。標識を見たらここが公営のアルベルゲだった。村に入る手前にあるのは探す手間が省けて助かる。来る前はフリアン達が予約しているという私営のアルベルゲに一緒に泊まろうかと思っていたが、中に入って見ると広くて近代的。騒がしい若者連中もいないのでここに泊まることに決める。先着が3名いたので自分で4人目だ。ふたつのベッドルームがあり、イビキ大王の顔が見えたので他の部屋にベッドを確保する。

 シャワーしてから洗面所でパンツ一丁で洗濯していたら、玄関に誰かやってきて大きな声で呼び掛けている。ここは自分しか応対する者がいなそうなので出てみたところポンチョを着たままのモンセラットだった。パンツ一丁のまま受け答えをするが、モンセラットも特にどうと言う事もなさそうだ。お互いとても開放的。誤解のないように書いておくが、ここではパンツ一丁で寛ぐ男は珍しくない。女性も下着でウロチョロしているから決して私が特別なのではない。郷に入れば郷に従え。

 モンセラットはスペイン語しか話さないので何を言っているのか良く分からないが、どうやら若者グループが泊まっているか確認しに来たらしい。自分としたらやかましいだけの連中だが、同じ若者のモンセラットには波長が合うようだ。ここには居ないよと言ったら私営アルベルゲを探しに行ってしまった。

 洗濯したはいいが、相変わらずの雨降りなので外に干すことができない。他の人たちも廊下に渡したロープに工夫して干しているので自分もそうするが、こんな湿度の高い室内では絶対に乾かないだろな。荷物を軽くするために最低限の衣類しか持っていないので、乾かない衣類というのは死活問題だ。ま、それも大げさだが着替えがなけりゃ同じのを着続けるだけの話だ。

 イタリア人のアウレイリオと長身の男がチェックインしてきたのに続いて、インディラ達もびしょ濡れで到着して来た。こっちの部屋はイビキだよと豚の鳴き声で教えて上げると自分と一緒のベッドルームに入って来た。出来ればアルベルゲにはイビキ専用部屋を設けて貰いたい。

 濡れた合羽をまた着て雨の中を買い物に行くのが億劫なので、とりあえずインスタント珈琲を入れてナッツと干しぶどうで空腹をごまかしておく。何か食べ物を持っていると淋しい思いをしないで済む。

 雨がやんだ所で買出しに出て行く。このアルベルゲは村の取っ付きだが、5分も歩けば村の中心に行くことができる。スーパーへ行く途中には私営のアルベルゲが2つあって、両方ともとても綺麗だ。公営だって負けないくらい立派なのに、スペイングループは予約ができる私営に泊まりたがるようだ。

 この村の小さなスーパーはシエスタをやってなかったので助かった。冷凍のCanelones Italiana と言うのが旨そうなので買ってみる。もちろん、アルベルゲに電子レンジがあるのはチェック済みだ。これは3.4ユーロもしたが、たまにはいいだろう。小さいトマト2個、ヨーグルト4、チョコレート、少し甘い主食用のパンと明日の行動食に甘いパンの袋詰め、それに勿論1リットルビールも忘れない。占めて10.33ユーロと大量買いだが3食分と思えば安いもんだ。店の定食なら1回分の値段だし。スペイングループは良く私営に泊まってるし外食してるので、余り節約はしないようだな。

 アルベルゲのキッチンで一人宴会の始まり。冷凍の何とかイタリアナはレンジでチンを繰り返して7分もチンしたら、やっと熱々になった。高いだけにチーズたっぷりでとても旨い。インディラ達も色々買い込んできて調理を始める。いつも男のアストンが料理をしてるようだ。銀の道のギャエレ達も男のルアンがいつも料理を作ってたし、女性が料理すると言うのは日本人の偏見なのかも知れない。

 今頃になってまたモンセラットがやってきた。下見に寄ってからもう2時間くらい立ってるんじゃなかろうか。どこまで行ってきたんだよ。結局、このアルベルゲに泊まることにしたようで、私のベッドルームに落ち着いた。こないだも良く分からない行動の果てに遅くなってから同じアルベルゲに入って来たし、何を考えてるのか良く分からない子だ。まぁ言葉がほとんど通じないんだから分からないのは当たり前だが、思ったより子供なのかも知れない。

 今日は一日中雨降りの山の中で結構きつかったけど目的のアルベルゲに落ち着ければ結果オーライだ。Wi-Fiもないし昼夜兼ねた食事を食べたら寝ちゃおうかと思ってたら、私営にチェックインしたフリアンとひょうきん者がわざわざ訪ねて来てくれる。これからセナ(夕飯)だから一緒に食べようとのお誘いだった。お腹は一杯なので飲むだけと手真似で言って着いていくと、何が好きなんだと途中で寄ったスーパーで白ワインを買ってくれる。良く分からないけど今度はセナの前にバルに寄って一杯やるようだ。ワインを買ってくれたことだし、ここは二人に奢ってやろうとしたら「いいからいいから」とここもご馳走してくれた。至れり尽くせりで会社の接待のようだ。どこでセナなんかと思ってたら彼らがチェックインしているアルベルゲだった。

 食事付のアルベルゲなんかなと思ったが、自分たちで夕飯を作って一緒に食べようと言うことだった。生ハム、チョリソー、オリーブにパン、色んな物に交じってスナック菓子みたいのに加えポテトチップまであった。これってスペインでは食事になるんか!どうやらこの中で調理したのは卵焼きだけらしい。

 ビールを飲む人はいても誰もワインは飲まないと言うので一人でフルボトルを1本飲んでしまう。残してもどうせ捨てられちゃうだろうから。さっきビール1リットル飲んでるし、昼と、ここに来る前もバルでビール飲んでるし今日は飲み過ぎ。


 ここで、みんなはどういう仲間なのか知ってるスペイン単語を駆使して聞いてみた。これまた知ってる単語を拾って要約すると、一組が夫婦で他の4人は全員ソロでCaminoで知り合って一緒に歩いているそうだ。そう、私もまさにその内の一人として仲間に受け入れてくれたのが分かった。そんな人たちにちょっと感激した。明日は6時に出発と言うことを約束して、一人で寝ぐらのアルベルゲに帰る。


プリミティボの道11へつづく