フランス人の道14   コリアツアー添乗員

5月23日 歩き30日目
 サリアのアルベルゲ、5時過ぎに起床。団体行動してる訳じゃないので目が覚めれば何時に行動開始するのは自分の自由だ。階下のキッチンに下りて冷蔵庫に入れといたヨーグルト、チーズ、チョコパンで朝飯とする。

 洗濯物は室内干しだったのでやっぱり乾いてないな。ここは町の中なので物干し場が無いのが玉にキズ。特に厚手の短パンが乾かないこと著しい。今回初の海パンの出番となる。この海バンは昨年のオウレンセでオンセンに入るために買ったもので、これで歩くと下着のパンツを履かなくても良いので洗濯物が1枚減って楽チン。雨が降ったとしても海パンなので濡れて構わないし。て言うより濡れてナンボの海パンだし。本格的に暑くなってきたら海パン主力にして荷物を軽くするために厚手の短パンは捨ててしまおう。まだ寒いので海パンの上にジャージズボンを履いて、暑くなったらジャージは脱ぐ作戦。

 6時過ぎには出発準備が完了したが、外は真っ暗なのでキッチンで日記を書いている。面倒でも日記を付けるのは大事。毎日せっせと書いている。

 まだ暗いけど6:40に出発、今日はポルトマリンまで歩く。フランス人の道は真っ暗な内から歩く人が何人もいるので心強い。少し離れた所にも数人が歩いているから自分で矢印を探す必要ないのでそれも気楽。その代わり前の人が道を間違えたらアウトだけど。

 昨日はサリアのアルベルゲは避けようと思っていたのでサリア通過後のアルベルゲをチェックしていた。その中の私営アルベルゲは凄くおしゃれだったが周りには何もないので併設のレストランで食べざるを得ないようだな。金を使いそう。次に公営の新しいアルベルゲが現れたがこちらも周りには何もないので食糧持参しないと喰いっぱぐれそうだった。サリアが記憶より良かったのでサリア泊は正解だった。

 3日前にトラバデロ村を出発したときに少しお喋りした日本語ぺらぺらのコリアン青年に再会した。軽装の青年は歩くのが早いが私と歩調をあわせてくれたのでずっとお喋りしながら歩くことになった。ツアーの一員かと思っていたが、この青年はその添乗員だった。もう何度も同じフランス人の道を添乗員として歩いているそうだ。面白い話をいっぱいしてくれる。

 今回は総勢22名のツアーだけど食事や泊まる宿はそれぞれメンバーの自由らしい。アルベルゲに泊まる人もいればホテルを希望する人もいるそうだ。全部歩く人もいるけどまったく歩く気はなく、全て車で移動して巡礼の気分だけ味わう人とか、想像もできないような形で巡礼(それじゃ巡礼じゃないけどね)してる人たちの凸凹集合体だ。観光気分の人は一食50ユーロの豪勢な料理なんかも平気で食べる人がいるそうだ。一番の苦労はメンバー同士で喧嘩が絶えないことだって。韓国は儒教の影響で年配者を敬わなければならないお国だ。2段ベッドの下に若いのがいると年配者は当たり前のように下段を譲れと言うそうだ。時には上と下のベッドで喧嘩を始める始末。たった一人でその仲裁をして回るのでストレスも溜まるようだ。そんな話を聞いていたら「あれ?これはどっかで聞いた話だぞ」と思い出した。以前読んだブログと同じだよ。旦那はコリアンで奥さんが日本人のサンチャゴ巡礼ツアー添乗員の話。それを尋ねたら「それ多分私です」と!間違いなかった。嘘みたいな出会いだった。ブログは奥さんが作っていて、自分は見たことがないそうだ。夫婦で巡礼したのに、そんなもんなんか。奥さんが一緒に歩いたのは一度きりだったようで、今回も一人で添乗していた。

 韓国人はあまり人のことを考えない国民性との話をしたので、私が昨日キッチンで体験した「無断で人の物を動かすんじゃねえよ」を話したところ、ごめんなさいと謝られてしまう。「いやいや、あなたが悪いんじゃないですから」とダチョウ倶楽部みたいな受け答えをする。韓国は受験勉強に直結するような教育には凄く力を入れる。時期になると日本のニュースでも紹介されるよね、試験に遅れそうになった学生をパトカーが送り届けたとか。しかし道徳面の教育は一切しないそうだ。なのでその子供たちも当たり前のこととして他人の荷物を無断で動かしたんだろうと言っていた。この青年は奥さんが日本人だし日本でも働いた経験があるので、そう感じることが出来るようになったんだろう。急成長を続ける韓国の歪(いびつ)な面を垣間見た気がした。

 日本人が巡礼しながら何を考えているのか非常に興味があるそうだ。歩きながら考えることねー、そう言われても特に伝えられるようなことはないんだがな。今は脛を怪我してるので痛くならないように歩くことかなー。「痛いのに歩くのを止めようと思わないんですか?痛いのに何で巡礼を続けるのですか?」。「それが巡礼だから」と簡潔に答えたら、予想外の答えだったのか「なるほどー」と、ひどく感心したようだった。そうなの?

 2時間ほど一緒に歩いたけど、ポルトマリンの町が近づいて来たら、添乗員なのでみんなが到着する前にやることがあるからと速度を上げて歩き出した。みるみる内に姿が見えなくなる。

 楽しくお喋りしながら2時間ほど一緒に歩いたので、思ったよりずっと早くポルトマリンには到達できた。でも青年に合わせて少し早めに歩いたのと下りが多かったので脛がいつもより痛くなってきたので悪化すると困るなーと心配になった。今の状態では自分のペースで歩くことはいつにも増して大事。

 そう言えばフェイスブックで脛の騒ぎを読んだカルロスが(昨年の銀の道で仲良しに)、「その怪我は私が昨年経験したのと同じだ」と投稿してきた。カルロスは足の怪我で病院に行ったことがあって、医者で処方された冷却スプレーが効いたと言ってたのを思いだした。あの時のカルロスは膝の故障と思い込んでいたが、脛の疲労骨折だったのかと1年後に気がついた。

 とんでもない高さのある長い橋を渡り終えて長い石段を登りきるとポルトマリンの町。ダム建設に伴い現在の湖底から高台に引っ越した町だ。町の教会も湖底に沈む筈だったが、町民が教会の石を一つ一つ担ぎ上げて高台に再構築したという歴史がある。大きくて石つくりの教会なのに、すごいことをやったもんだね。スペイン人が教会を大切に思っているのが感じられるエピソードだ。町に入ると道端には巡礼グッズを売る店があったので、後でスティックを見に来ようかな。

 12:15に公営アルベルゲに到着。チェックインは1時なのでまだ待たなくてはならない。入り口にはバックパックが1つ立てかけてあるので先着が一人いるようだ。中には入れないけど勝手知ったるアルベルゲなので、裏の物干し場に回って生乾きの衣類をロープに掛けておく。脛を冷やしたいので水を探していると、上手い具合に近くに水道があったので蛇口からかけ流しにして冷やすことができる。

 1時少し前になったら受付を開始してくれる。脛が痛いので下段をお願いしたけど、部屋の番号「B」とだけ告げられる。ここは早いもん順に好きなベッドを取れるスタイルだった。こういうのが一番好き。隣はイタリアの親子で青年になった息子と親父の巡礼なんて羨ましいなと思った。イタリア人と分かると必ず言う魔法のことば「ぴあっちぇーれ(始めまして)」を言うと間違いなく距離が縮まる。ときどき「ぐらっちぇ、ぷれーご(ありがとう、どういたしまして)」の両方を言うと苦笑いされる。まぁこっちもギャグの積もりで言うのだが。

 シャワー、洗濯して干し終わったら買い物に出かける。キッチンに何もないのを確認したので、今日は1リットの瓶ルビールじゃなくて500ミリの缶ビールだ。イチゴ1パックに YATEKOMO のカップ麺。不味いと承知のインスタント麺だがコリア青年とこの話をしたら無性に食べたくなってしまった。パン大袋にヨーグルト4、それに石鹸がちびてきたので固形石鹸を買って合計7.9ユーロ。キッチンには食器類は何もないが、電子レンジだけはあるので麺のカップに水と手持ちのスープの素を加えてチンする。このカップ麺は非常に薄味なので、少し味付けをした方がいくらかマシになる。久しぶりに箸で麺を食べたので意味も無く嬉しい。食べ終わっていいことを思いついた。ガリシア州の公営アルベルゲはここと同じく食器類がない。だったらカップ麺を食べ終わった容器は捨てないで再利用すればビールもスープも飲めることに気がついた。洗ったのをバックパックの外付けポケットに大事に仕舞っておく。

 巡礼で持っているような町なので土産物兼巡礼グッズの店が近くに2店もあった。スティックは幾らかなと覗いてみるとどちらの店も1本が10数ユーロと高い。ポルトマリンに来る途中に道端の店にスティックがあって、1本8ユーロ、2本なら15ユーロと表示されていたが相場が分からないので買わなかった。あれは格安だったのかと今頃気づいたが後の祭りだ。ここでは買わないことにする。

 教会前の広場にフリーの Wi-Fi 電波を拾いに行く。一応あることはあったが、鈍すぎて使い物にならない。でも放っといたらメールチェックだけは勝手にしてくれたので読むことが出来た。ここで広場を歩いていた小林さんと再会。この人ともアチコチで良く会うなぁ。小林さんはどっかで日本人のカップルと会ったそうだ。まだ私は会ってないけどチャンスはありそうだな。楽しみ。

 ジュースを買ってアルベルゲの玄関前にあったベンチで飲んでいたら、勝手に荷物を動かした親子がやってきた。父親は満面の笑みで「こんにちは」と日本語で挨拶してきたので人は良さそうだ。コリアンの印象が少し上向いた。勝手に動かしたのは子供だったのかも知れない。

 やっぱり今日の歩きは無理したようで、脛が膨れて筋肉のように硬くなっている。熱もあるのでちょっと心配になる。もう一度水道で冷やしてボルタレンを塗っておく。


フランス人の道15へつづく