マドリッドの道2  カミーノ見つからないし宿もないし

4月24日 歩き初日
 マドリッド・バラハス空港(バラハスだかバハラスだか分からなくなる)。庶民の味方マックで夜明かしして現在6時ちょっと前。ここまで来たら夜明けが近いので気が楽だ。明るくなるのが7時なので、その時間になったらマドリッド市内に向けて行動開始しよう。近くのソファで寝ているカップルは相変わらず熟睡中、中々肝が太い。今頃またコインをくれとヒゲの若い男がやってきた。働けよ。

 外に出てみると空港のバス乗り場が昨年と違うようだ。でも目立つバスが止まっているのが見えたので簡単に見つけることができる。ドアはロックされて乗り込めないが、私の後ろに数人が並び出したら運転手がやってきて開けてくれる。市内まで5ユーロ。この第4ターミナルが出発点で、次は小さなバス停だった。ターミナルではないのかな?その次がT1で第1ターミナルだ。その風景を見たら、昨年はこっちから乗り込んだことが分かった。と言うことは、帰りはT4がバスの終点になるのか。これは間違って乗り過ごすことがないのでちょっぴり安心材料だな。T4sはカタールで、T1はエティハド航空ってことらしい。

※お役立ち情報
 このエアポートバスは運転手からチケットを直接買えますが、使えるお金は20ユーロ以下だそうです。コインか小額紙幣を用意しましょう。

 バスの終点はアトーチャ駅。マドリッドは3年続けてやってきてるので少しは土地勘があるのでマヨール広場を目指してさっさと歩き始める。アトーチャ通りからこの角を曲がって曲がって曲がった先に帰りに予約しているオスタルがある筈だと思ったが、面倒なので確認しには行かない。

 マヨール広場について一息入れてたら物乞いのお婆さんがやってきて、しつこく食い下がるのでビニール財布から1ユーロを上げたところ、それを見たお婆さんもっとくれと言い出した。自分も食べるんだとそれ以上は断る。こんな所にいるとまた別口の物乞いがやってきそうなので目的のサンチャゴ教会を目指して勘で歩き始める。しかし一年ぶりなので勘も錆付いていてぐるぐると迷い狂う。GPSもビルが林立する都会では電波が届いてくれないので使い物にならない。

 何か腹に入れたいなと思ってたところに、チョコレート屋があったので渡りに船と入ってく。このチョコレートとチュロスを食べさせてくれるところが意外と見つけにくくて中々食べる機会がないのだが、偶然あって良かった。狭い店内は地元の人でいっぱい。ここはやっぱりチョコレートとチュロスの一択でしょう。希望して食べたくせに朝から甘くて濃厚なチョコレートと油べったりのチュロスでちょっとげんなりした。

 地元の人3人に聞くも、スペインあるあるで知らないのに教えてくれる人がいる。二人目に聞いたおじさんは想像とは真逆を教えたのでこれは信じず、すぐ3人目を捕まえて聞いたところ、この人は具体的に教えてくれたので信じる。やっぱりさっきの人は間逆だった。「分からない」って言えないんかな。すぐ日本人4人組がやってきたので路上で立ち話。4人は親子でスペインは初めてだそうだ。いいねー、親子4人で海外旅行なんて。しかもツアーじゃなくて個人旅行とは羨ましい。

 9時半サンチャゴ教会の前に辿り着く。今回はマドリッドの道なので、ここマドリッドのサンチャゴ教会が出発地点なのだ。ここでいっとう最初のスタンプを貰ってから歩き始める作戦。10時に開くのは分かっているので目の前の広場に座って待つことしばし、15分前になったらローマンカラーの神父さんがやってきたので、手でスタンプを押すポーズをしたら通じて、5分前に入れてもらえる。スタンプを貰い、今晩の宿情報を教えてもらおうとするが、やっぱり26km先のトレスカントスのアルベルゲは難しいようだ。それなら初日だし軽く歩いて9kmほど先にあるコリアン経営のアルベルゲに電話してもらったところ、フルだとーっ!このシーズン前にそんな筈あるかい。きっとたった一人の為にアルベルゲを開けるのが面倒なのは言わずもがなだけど、そんなこと言ってもしょうがないのでアルベルゲは諦める。せめて安いオスタルが途中にないか聞いてみると、途中のFuencarra(読み方分からない)にはオスタルが何軒かあるそうなので気をよくする。取りあえずそれに賭けるしかない。

※お役立ち情報
 マドリッドのサンチャゴ教会、受付は10:00-13:00 18:00-20:00。クレデンシャルも発行してます。出口には必ず物乞いのおばちゃんがいるのでコインを上げてください。
 でもマドリッドの道、正直お勧めしません。私には素晴らしかったけど今まで歩いたどの道よりも過酷です。

 予想どおり教会の扉の外には昨年と同じおばちゃんが座っていて紙コップを出してきたので昨年同様ペケーニョペケーニョ(少し少し)と言いながら1ユーロ以下のコインをじゃらじゃらと入れたげる。合計しても1ユーロ位だろう。おばちゃん去年の私を覚えていたかな?

 さて準備もできたことだし、いよいよマドリッドの道スタートだ。この道を歩いた日本人のブログはたったひとつだけ見つけて、その人もマイナーなこの道に表示物がなく難儀していた。それによると何しろ地下鉄の駅を辿って行けばマドリッドを脱出できるそうなので地図を頼りにもくもくと歩き始める。幸い、地下鉄駅は大きな通りにずっと続いているので取りあえずは迷うことなく歩き続けることができる。バックパックに下げている帆立貝を見たのだろう、年配のじいちゃんから「おっペレグリノ!」と言う声を背中に2度聞く。大都会でもサンチャゴ巡礼を知っている人は僅かながらいるようだ。

 さて、巨大なラウンドアバウトまでやってきたが、これ以降の目標が分からない。うーんどうしたもんかのーと悩んでいるとご婦人3人組がやってきたのでトレスカントス方面を教えてもらう。でも世界あるあるで女性は道については苦手で地図も読めない人がほとんど。歩いて行くのは無理だから地下鉄で行けだのバスを使えだの言っているが、おおよその方向は分かったので何しろマドリッドの大都会から早く脱出したい思いで歩き続ける。

 のっぽビルが立ち並ぶチャマルティン駅の側までやってくることができる。でもそこを過ぎて暫く行くと行き止まりなのが離れたここからでも見て取れる。向こう側に行くなら乗り越えられるところがあるだろうと進んでいくと、やってきた車が迂回路を教えてくれる。でもまた次の分岐で分からなくなったので、ここでも地元の人を捕まえてトレスカントス方面を教えてもらう。みんなサンチャゴ巡礼路を知らない人ばっか。

 やっとこさマドリッドを脱出できて、神父さんが教えてくれたオスタルが何軒かあると言う町までやって来ることが出来た。時間的にはまだ早いが初日だしマックで徹夜明けなのでここで休みたい。道の両側にくまなく目を走らせてオスタルを探すも中々それらしき建物は見当たらない。1軒CASAと書かれた店があったので、CASAは宿の筈だと入って行き身振りを交えて泊まりたいことを告げたらキョトンとされる。ここは普通のレストランだった。どうも調子が悪いな。

 結局、オスタルが見つからないまま町外れまでやって来てしまう。ここでまた分岐だよ。知らない土地で間違った方向に行ってしまうと修正に莫大なエネルギーを要するのでここでも地元のおっちゃんを捕まえて教えてもらう。あれ?自分が想像してたのと方向が違うことを言ってるなぁ。でも自分の勘はとっくに全滅しているので地元の人の方が正しいだろうと半信半疑のまま進むと、また地元の人たち数人がたむろしていたので再度教えてもらう。やっぱりおっちゃんが教えた方向であっているようだ。でも「20kmもあるから歩いて行くのは無理なのでバスを使え」と親切・真剣に言ってくれる。みんなどこまでも歩いていく巡礼を知らない人ばっかり。それでも方向は合っているようなので安心して進むことにする(ちっとも安心じゃないけど)。

 言われた通りに進んでいくとまた行き止まりにぶつかる。えーっとと考えていると守衛用の建物から警備員さんがやってきてカルテラ(舗装路)を右に行けというのでそうするっきゃない。これが高速道路じゃないかと思うほどの大きな道で(写真)、車がビュンビュン走っている。こんなとこ歩いていいのかなぁとガードレールの前で考え、後ろを振り向くと警備んさんが「行け行け」と手でサインを送っている。じゃぁとガードレールを乗り越えて端っこをびくびくしながら歩くことしばし(スペインって片側1車線の田舎の一般道路さえ制限時速が100㎞だったりする)。パトカーが来たら捕まるんじゃないのかなとドキドキしながら歩き続ける。ガソリンスタンドがあったのでコーラを飲んでまた教えてもらう。この人の言うことには、あそこに見える陸橋を渡って向こう側に行けと言う。もうぐちゃぐちゃだけど高速道路みたいなのから抜け出せたので良かった。その後も数人の人に聞きながら進むのだが、どれもこれも半信半疑のことばっかで精神的に疲れてくる。

 道端に大砲が2門据えてある大きな建物があったので、どっかの金持ちの悪趣味かいなと思いながら塀沿いを行くと、機関銃を構えた兵隊さんが道路から引っ込んだ門の所に立っていたので軍隊の基地なのが分かった。えっと、ここでまた聞いたほうが身のためかなと地図を出そうとしていたら、兵隊さんが向こうからやって来てくれる。想像だが、こうやって道に迷った巡礼がたまに前を歩いているのかも知れない。兵隊さんはさすがに地理に明るくてカミーノも知っていた。今来た道を戻るとサイクリングロードがあるから、それがカミーノだそうだ。ここでやっとやっとやっと光明を見た思いがした。ふー、ここまで長かった。

 さて、サイクリングロードまでやってきたが、この道をどっちに向かえば目的のトレスカントス方面なのかさっぱり分からないので誰か来るのを待っているとちゃんとやって来た。どんなに時間が掛かったとしても、正しい道を歩いていられるなら精神的にもどんだけマシか分からない。今日はもうどうせ宿の当てはないことだし、ゆっくり歩いて途中に手ごろな寝床(ベンチとか屋根とか)を見つけたらそこで寝てしまおう作戦にする。この道でやっと本日初の黄色い矢印を目にする。歩き始めてから6時間以上経過していたよ。記念に写真撮っとこう。

 しばらく歩いていると大きな道路の反対側に大きく「カマ」と書かれた看板を発見する。カマはスペイン語でベッドのことだ。建物は宿には見えないけど泊まれるんかなーと考えていると自転車がやって来たので(サイクリングロードだからね)聞いてみるが、この人も何のことだか分からないようだ。近くに学校があるので、そこの生徒用じゃないのかと言っているらしい。自分は巡礼はしたことないので巡礼宿のことも知らないと言っているようだ。やっぱり駄目か。

 サイクリングロードなのに分岐が現れた。どっちを行けば正しいのか判断できなかったので、じっと自転車がやって来るのを待って教えてもらう。良かった今回も自分が想像してたのと別方向が正しい道だった。延々と歩いて、とうとうトレスカントスの町外れまでやって来た。時間的にもうこの町で泊まる以外ない。ここを過ぎれば大平原が待っているだけだから。大きな陸橋を渡ってトレスカントスの町中へ。幸い黄色い矢印が続いているので、それに従い大きなショッピングモールへやってきた。でもそこで矢印はプッツリ終わってしまった。この町で一番安いオスタルは38ユーロとの情報を持っている。ほかはもっとずっと高いので安いオスタルに泊まれれば御の字だろうと考える。でもやっぱ、アルベルゲがあることはあるんだから、ダメと確認しないまま諦めるのは嫌だったのでタブレットの地図を頼りに行ってみる。

 え、これがアルベルゲ!?と思わせるほどの立派な建物。想像とはまったく違ってたが、地図だとこれなんだよなと恐る恐る自動ドアの立派な玄関を入っていくと女性の警備員さんが応対してくれる。ここアルベルゲ?と聞くと、シー(イエス)とのこと。ジェスチャー交えて寝られる?にもシー。マジすか!!このアルベルゲはベッド数2で希望者は必ず電話で市役所に連絡することとネットでは書かれていたので9割がた諦めていたが、まさか泊まれるとは我が耳を疑った。瓢箪からアルベルゲだよ。しかし、チェックインは夜の10時半で翌朝のチェックアウトは6時。へとへとだから明日は8時に起きようなんて夢はこのとき潰えました。メチャクチャな時間設定だがこの際泊まれるんなら何でもオッケーだ。

 バックパックはここに置いていいから近くのカルフールで食事でもしてきたらと提案される。見ると、受付の後ろにはバックパックが1つ置いてあった。歩いている間は誰にも合わなかったのに先着が一人いて、その人が予約を入れたのかな?これは昨年の初日と同じ、歩いている間に会えてたらどんなに心強かったか。料金を聞くと良くわからないことを言っているので、ドナティーボ(寄付)かと聞くとそうじゃないそうだ。なんと完全無料だった。だから一方的でメチャクチャな時間設定なのが理解できた。ドナのアルベルゲはあちこちにあるが、無料なのは後にも先にもここだけだった。サンチャゴ巡礼に対するスペインの懐の深さを今更ながら有難く思った。

 教えてもらった巨大カルフール。2階にレストランが集まっていたので安そうな店を物色して入る。肉体的にも精神的にも疲れた一日だったので単品でビールとサラダとステーキを頼む。合計9ユーロなのでやっぱり安い店だ。あろうことかこの焼きすぎて硬いステーキを半分も食べられなかった。ビールは余裕で飲めたが疲れすぎて胃が働かないようだ。も、もったいない。ウェイトレスさんが持ち帰るかと聞いてくれたが食欲がないのでそんな気にもならない。

 1階のスーパーに移動して明日の食料を仕入れるが、バナナとオレンジは量りに掛けて値段シールを貼らなかったのでハネられてしまった。くそ。果物売り場の近くに量りがなかったのでレジがやってくれるものと思ったよ(そういうスーパーもある)。

 アルベルゲ前に戻ると長身の巡礼が近寄ってきた。カナダからやって来たジェグメイ。とても発音が難しい。二人して近くのベンチで時間つぶしをする。この人もマドリッド脱出では苦労したらしく、同じ所を撮った写真を見せっこする。でも本物のGPSを持っているので私より早く矢印を見つけられたらしい。小さい画面を操作して見せてくれたが、初めて見る分にはそれほど大した感じはしなかったな。値段は高いしバッテリーもすぐ終わってしまうそうだ。やっぱりマドリッドの道を歩こうなんて人は彼方此方の道を歩いている人で、巡礼は5年前から始めたそうだ。

 真っ暗の中、1台の車がやってきたので係りかと思ったが違って、なぜかガードマン。その人と話している内に今度は本物のパトカーがやってきた。この人が本物の係りだった。施設内を案内されてベッド・シャワールームの説明を受けやっと休めることができた。ベッド数2はそのとおりだが、部屋は広くて雑魚寝なら10人位は泊まれそうだな。2段ベッドのマットレスが下に下ろされていて一人1ベッドになっていた。簡単に洗濯したものをその柵に掛けておく。

 今日は道は分からないし宿情報は全滅。もう野宿でいいやと腹を決めたが、幸運なことにアルベルゲに泊まれることができた。終わり良ければ全て良しだ。もう時間は12時近いが明日は6時にここを出なければならない。さっさと寝てしまおう。初日なのに無理をしたのでちょっと腰が痛い。


マドリッドの道3へつづく