マドリッドの道9   旅の仲間ボビー登場

5月1日 歩き8日目
 エレナが昨日「明日はフィエスタで店は休み」と言ってたのはメーデーだかららしい。スペインではメーデーは休みにするのか。そう言えば今日は5月1日だ。

 フランス人二人は既に出発したが、エレナはまだ準備をしているようだ。キッチンに昨日は見かけなかった男がいたので、え?と思ったが、これがエレナの旦那だった。今朝到着したようだ。今日と明日だけ一緒に歩くらしい。エレナはとても嬉しそうで終始ニコニコしているのでこっちも幸せな気分になれる。

 遅めの8:55に出発、早速昨日教わった「メボイ」を二人に言ってアルベルゲを後にする。スペインの村はその境が極端にはっきりしているので村を一歩出るともう完全に無人地帯の田舎道。歩いて行く手に雪を被った山が見えるので、もうあんな雪道は御免だなーと少しビビる。

 歩き続けると分岐路に見たことないような金色の大きな矢印があったので、へー、珍しいもんがあるもんだと矢印に従って右折。しかしこの後ひとつも矢印が現れない。一本道ならそれもありだが次に分岐があっても矢印がないので、あの金の矢印はカミーノとは別の矢印だったらしい。でも方向的には同じなので途中で合流するだろうと安易に進んでいくと、やがて小さな村に入ってきた。ここで道は二手に分かれている。うーん、これは判断が難しいなと考えて村人がやってくるのを待つことしばし、地元民を捕まえられたので教えてもらうと左に行くとカミーノだそうだ。良かった、感覚的には右だと思ってた。少し歩いただけでちゃんと黄色い矢印が現れたのでホッとする。

 小さな広場にベンチがあったのでついでに小休止にしていると、昨日のフランス組が前を通りかかったので手を振って挨拶する。フランス組は私より大分先にスタートした筈だが、もしかしたら迷い込んだ道がショートカットだったのかな?

 広大な松林の中は道のような道でないような自然の中を歩いていくので途中でカミーノを見失う。うーん、またかよ。今回も大よその方向だけは押さえている気になっているので(危ない)、何しろ直進すればどっかで道に出会うだろうとずんずんと進んでいくと遠くから子犬の鳴き声が聞こえてきた。声はどんどん近づいて来たかと思ったら目の前をウサギが猛スピードで走りぬけていった。「リアル脱兎のごとく」を始めて見たよ。その20m後を子犬がキャンキャンと吠えながら追跡していった。なんか凄く珍しいものを見たな。

 松林が開けたところ、前方に農道らしき道が見えたのでそこまで行ってからタブレットのGPSで位置を確認する。時間が掛かっても電波をキャッチした方が身のためなので今回は粘ることにする。すぐ地元の夫婦が散歩なのか歩いてきたので聞いて見ると、目指すアニェ村はこっちだと教えてくれる。タブレットもそのときに位置をキャッチしてくれたので問題解決。ビルの多い都市だと望みは薄いが、こういう田舎なら待てば電波は捉えることができる。松林の中で迷ってもとんでもなく大回りをしたんじゃないのが分かる。気を良くしてずんずんとアニェに向かって歩いていくと30分でアニェ村に到着することができる。

 アルベルゲはデータとは少し違ったのでちょっとだけ迷ったが無事目的のアルベルゲに到着。時間も手ごろな2時半だ。既に昨日一緒だったフランス二人とスペイン人がいて玄関の鍵を開けるところだった。スペイン人が言うにはこのアルベルゲには昨日まで5日間巡礼が一人も泊まらなかったそうだ。やっぱり少ないんだなぁ。管理人かと思ったこのスペイン人、実はイギリス人で我々と同じ巡礼だった。名前はボビー、このあとサンチャゴまでの20数日間を共にする旅の仲間となる。

 先着してた3人と一緒にアルベルゲの管理をしているバルにビールを飲みに行く。看板も何もないし中も見えない店なので一般家庭となんら変わらない、一人で来たら絶対に分からない店だった(写真)。ボビーが最初に到着して、このバルから鍵を借りてきてくれたようだ。中に入るとメーデーで休みなので小さいバルは地元の人達で大賑わいだ。みんなテレビのフットボールを見て盛り上がっている。フランス人が巡礼全員にビールを奢ってくれる。

 みんながクレデンシャルにスタンプを貰っていたので、自分もアルベルゲにクレデンシャルを取りに戻ってスタンプを貰う。テーブルでは先ほどは見かけなかった別の巡礼が食事をしている。さっきもスタンプだけ貰いに女性巡礼がやってきたし、急にここから巡礼が増えだしたようだ。3人にスタート地点を聞くと、フランス組は前日のセゴビアでボビーはマドリッド。急に増えたと感じたのは大きな町セゴビアをスタートにする人が多いからかな。ボビーも雪の峠越えでは苦労したらしいが、私と違ってセゴビアへの分岐を間違わずに一気にセゴビアまで到達したようだ。私は25ユーロのオスタルに泊まったと言ったらボビーは15ユーロだったと得意げだ。

 みんなは帰ったが美味い白ワインを一杯貰って暢気にネットをしていたら店のセニョーラから「メボイ」と言われる。覚えたばかりのフレーズなのですぐ理解できた。これから家に帰って昼飯を食べるそうだ。あ、それは済まなかったとすぐに店を退散してアルベルゲに戻る。

 キッチンには塩がなかったのでスープの素を2個入れて濃い目の味付けにしてパンを浮かべる。チーズとハムも持ち歩いてるので取り合えず食べ物には困らない。店は休みと言うエレナの助言があって助かった。

 5時にエレナ夫婦が到着してくる。いつもエレナの早い到着には驚かされるが、今日は旦那と一緒に歩いたのでペースが遅かったか。我々は講堂みたいな大部屋だが二人用の小部屋がひとつあるので、そこを案内したげる。我々の部屋はベッドルームとキッチンと寛ぎスペースが一緒になった教室サイズで、周りにベッドが無造作に置かれている。2段もあるがシングルベッドが5台もあるので全員がシングルベッドに陣地を敷いている。ボビーが何故かスティックコーヒーを1本くれたな。

 7時過ぎたのでバルが再開しただろうと行ってみる。みんなも三々五々集まってきて、フランス組が二人して白ワインを1杯ずつご馳走してくれる。ボビーはいつもノンアルコールのビールを飲むようだ。自分はモスリムだと言ってるが、きっとギャグだろう。エレナ達もやってきて、旦那がワインを奢ってくれる。8時半になったらフットボール中継が始まったので地元民が集まってくる。テレビの他にスクリーンに映し出して騒いでいる。みんなフットボールが大好き。

 フランス組はジャン・マリーとクリスチアンと言った。この二人ともこのあと10日間に渡り珍道中を繰り広げることになる旅の仲間だ。今日までエレナのお陰でアルベルゲでは楽しくやってこられたので感謝だ。明日エレナ夫婦はマドリッド方面に帰ってしまうので残念。寒いのでフリースの上にポロシャツを着込んでから寝袋に潜り込む。


マドリッドの道10へつづく