ポルトガルの道2   リスボンの休日

5月30日  日本出発から39日目
一眠りして目が覚める。ていうか腹ぺこで目が覚める。ここは朝食が無料で付くが8時なんだよなー。現在6時なので2時間もある。昨日は朝飯を手持ちの食料で食べただけで後はずっとバスだったから食べられなかった。あー早く朝飯食べたいなー。昨晩は真っ暗な中で路地と石段を2時間さ迷い続けたけど、まぁ後になればそんなリスボン特有の坂の町を実体験出来て良かったと思えることだろう(かな?)。

 下段ベッドのおばちゃんが何故か1ペソのメキシコ硬貨をくれた。内側が金色で外側が銀色のユーロ硬貨を一回り小さくしたような綺麗なコインだった。こちらもお返しに和風マリアカードを進呈させてもらうと、裏に日本語で私とおばちゃんの名前を書いてと頼まれる。愛想のいいおばちゃんで名前をビアネイ・ロドリゲスと言った。おー、ロドリゲスなんていかにもメキシコの名前だね。おばちゃんは私が簡単なスペイン語を喋るのが嬉しいようでとてもフレンドリー。

 同じ部屋の下段ベッドを使っていたシンガポールの兄ちゃんがチェックアウトしてったので、もう1晩あるからここは下段と交換だ。勝手にベッドを交換してもいいんかなと思ったが、念のためオーナーのおばちゃんに申し出たら、なんとベッド交換には3ユーロ掛かると言われる。えーっ、フランス、ポルトガル、スペインの安宿でベッド交換してもらったけど、有料なのは初めてだ。でも上段は暮らしづらいのでここは3ユーロ払っても下段に移る価値があるのでお願いする。なんか評判のいいホステルと聞いてきたのにがっかりだな。オーナーと二人でベッドルームを確認しにガチャッと開けたらメキシコおばちゃんが着替え中で「キャっ」と年に似合わない声を上げたな。オーナーはそんなことにはまったくお構いなしにベッドの説明をしている。今日の3時から下段ベッドを使っていいそうだ。

 ベッドチェンジではがちょんだったが、このホステルからの眺めは抜群だ。広ーいベランダから眼下に見えるリスボンの町は「これぞリスボン」の景色だった。評判の良さはこれかな?だれかが右の丘の上からの景色もいいんだと教えてくれたが、あそこまで歩いてくのは勘弁だな。良くもまぁこんな坂だらけの所に首都を作ったもんだ。東京も坂があるけどリスボンはその殆どが坂と言っても過言ではない。

 待ちに待った朝食は色々あってグッドだった。パン、コーヒー、ミルクにココア。各種ティーバッグにオレンジジュースに3種のシリアル。マーガリンに数種類のビン詰めジャム、チョコレートムースと盛りだくさんなので腹いっぱい食べておく。キッチンに生卵がたくさんあって自由に使っていいそうだが、フライパンで料理するのは面倒だなー「でぃふかると」と言ってしないでいたら、知らない女性がスクランブルエッグを作ったのを皿に載せて私にくれた。「オ、オブリガード」。この妙齢の女性はTシャツの下は下着で足丸出しでキッチンを闊歩している。自分ちにいるのと同じ感覚のようだ。

 このホステルにはこれからポルトガルの道を歩くという人が二人も泊まっていた。まじすか!ポルトガルの道をリスボンから歩く人はとても少ないと知っていたので数日間は一人歩きと覚悟していたが、これは嬉しい誤算だ。一人はフランスからやって来たフィリップス。50代半ばという所だ。もう一晩ここに泊まって、明日は私と同じアルベルゲを目指すそうなので嬉しくなる。もう一人は隣のベッドルームだが開け放しのドア続きなのでメキシコのおばちゃんが「でどんでえれす」と2回も言っているのに言葉が分からずポカンとしている。私が英語で「どこから来たの?」と聞いたらやっとオーストラリアと答えが帰ってきた。この50前後と思われるご婦人もポルトガルの道を歩く人だった。

 千春さんからメッセンジャーで連絡が入る。待ち合わせ場所は昨日降り立った地下鉄駅前の噴水に11:45とする。それまでは時間があるので、ポルトガルの道のスタート地点であるカテドラルに行ってスタンプをゲットだ。タブレット片手に歩き出すと、さすが坂の町でどこに行くにも坂だらけ。近くにはポルトガル名物のファドを聴かせるカフェ・レストランが幾つもあった。ファドは特に興味がないので歩いて数分でも来ることはなさそうだ。

 少し歩くと路面電車の線路に出る。この線路に沿って行けばカテドラルに到着なので迷うことはない。でも道が狭いなー。この狭い道を車や路面電車がひしめき合っている。歩道も一応あるが、向こうから人が来るとどちらかは車道に下りないとすれ違えないレベルだ。うっかり歩道じゃない方にいようもんなら電車にゴリゴリすり潰されそうだ。

 カテドラルにしては珍しい形のキューブ型。普通は大げさにとんがった鐘楼があるのだが、何でこういう形になったのか謂れを知りたいところだ。見たことあるような形だなーと思ったら、パリのノートルダムに少し似ている。勿論あんなお洒落なのじゃなくて質実剛健なカテドラルでいかにもポルトガルぽい(これ偏見?)。中にも入れて無事にスタンプを押してもらいポルトガルの道、出発準備完了だ。

 近くにはサンチャゴ教会がある。マドリッドの道をスタートしたときもマドリッドのサンチャゴ教会でスタンプを貰っての出発だったので、ここのスタンプも欲しいから行ってみたけど扉が閉ざされていた。入口には「Aqui comeca o Caminho (これよりカミーノ始まる)」と書いてあるのにな。マドリッドのサンチャゴ教会みたいに、受付時間も書いてないのでどういうことなんだろう?ここのスタンプを貰って歩き出したい巡礼が沢山いるんじゃないのかな。

 昨晩迷い狂った道なので、待ち合わせ時間より早めにホステルを出発する。でも明るいし一度歩いた道なので今度はすんなり待ち合わせ場所の駅前広場に到達できる。やっぱり知らない土地では明るい内に到着するのが吉と思うが、そうは問屋が卸さないときもあるから仕方ない。広場には大きな噴水がふたつあり、その下側が待ち合わせ場所だ。左の地図、右下の青丸がホステル。黄色い矢印の先端が地下鉄の駅と待ち合わせ広場だ。昨晩は黄色い矢印の通りに歩ければ到達できたが赤いバツ印にぶつかった場所で狂った。最後にこの角を曲ればホステルだと喜んだ地点も赤い線の左はじ。この通行止めさえなければあんな苦労をしないで済んだのだが。

 広い公園内をあちこちウロチョロしていると誰かのモニュメントがあって碑に何やら有難そうな文が書いてあるが、文字が読めないので何も分からない。路上にはダンボールに包まって寝ている人もいるな。こういう所で長居すると物乞いや詐欺みたいのがやってくる可能性が高い。

 手を振りながら千春さんがやってきた。やぁやぁ久し振り。ハグして再開を喜び合う。日本人はハグに抵抗がある人もいるので欧米人の女性はもとより、日本人とハグする場合は更に相手の様子を見てからするようにしている。でも、海外暮らしをしている千春さんはドンと来いで、そんな心配は無用だった。日本で計画を立てている段階からリスボンで会いましょうと約束していた。途中まで半信半疑だったが、本当にこうして日本から遠く離れたリスボンで再会できるなんて嘘みたいだ。これもカミーノマジックのひとつかも知れない。カミーノマジック万歳。

 千春さんは友達の日本人レストランにランチを食べに行く計画があったようだが、私は朝飯をたらふく喰ったので腹はいっぱいだし何しろリスボンではジェロニモス修道院に入ってみたかったのでお願いする。そこは今年の1月にトラピクスのツアーでリスボンにやって来た時に閉館日の日曜で入れなかった所だ。天正使節団の少年も訪れたと言う有名所なので入れなかったのは非常に心残りだった。一人でリスボンにやって来たとしても何とかして来ようと思っていたので、千春さんに連れてってもらえれば何の苦労もなしに行くことができるからとても有難い。

 アロマスタイリストと言う称号(?)を持っている千春さんは通りにあったガラス瓶専門店に興味があり覗いていくことになった。お店の人に商品を写真に撮っていいかと許可を求めるあたりはさすがと思った。私なら何も言わずに勝手に撮りだすだろう。こういう所は見習わないといけないなと思ったが面倒なのでこれからもやらないかな?

 ジェロニモス修道院へ入るための行列が続いている。やっぱりこんなに人気があるんだな。1月にやって来たときは観光客がまばらだったので想像してなかった。そりゃそうだよね、日曜閉館日だったんだから。列に並ぶのは好きではないが、ここは別だ。おとなしく長い列の最後尾に並びだす。入場料は10ユーロと予想を超える高さだったが何があっても入るの1択だ。専属ガイドをしてくれている千春さんの分も当然持たせてもらう。

 入るとすぐ中庭があって、その刺繍のような繊細な彫刻に圧倒される。いっぱい見るものがあって思いだすのに苦労するが、修道院と縁が深そうな人の特別ブースにはポルトガル語で色々なことが書かれているが勿論意味不明。こういうのがスマホでそのまま翻訳できるといいねーなんて言ってたら、驚いたことに千春さんが言ったことを実行中だった。カメラをかざして画面に写ったポルトガル語をリアルタイムで日本語に翻訳している。えーっ、もうそんな時代になったの!?そう言えば暫く前にテレビのニュースで紹介してるのを思いだした。あれって既に実用化されてたんだとビックリ。私のタブレットにも入れられると便利だな。

 2階から下を覗くと修道院付属の素晴らしい聖堂が見えていて、そっちにも沢山の観光客が入っている。あそこへはどこから行けるのかな?方向から想像するとこっちだけど、これ行くと外へ出てしまうんだがな。出て気がついたが、聖堂へはチケットなしで行けるんだった。へー、さすがポルトガルだね、聖堂に入るのは無料だったよ。聖堂だって有料ゾーンに負けない位の立派さなのにタダで入れるとは大したもんだと感心する。

 この近くにはポルトガル名物エッグタルトの店がある。ツアーで来た時にも食べさせて貰った老舗タルト屋。ポルトガルには数々のエッグタルトの店があるが、伝統的の製法で作られているのはここんちだけと言う話だ。店内で食べるのも思い出になっていいかと思ったが、大混雑なのでテイクアウトして隣の公園に行って食べることにする。ここは千春さんがご馳走してくれる。陽射しが強いので日陰になったベンチで本場のエッグタルト。本当に観光している気分満開だ。久しぶりの日本語でのお喋りなので突っ込んだ話でも何でもオッケーなのが嬉しい。こんなに自由に喋れるのは1ヶ月以上振りだよ。

 知らない女性が近づいてきて、恵まれない子供のために学用品を売って資金にしてるようなことを言っているらしい(後で千春さんに聞いた)。千春さんはポルトガル語の短期留学で来ているので淀みなく会話をしているのでさすがと思った。私はこの手の人を100%信用しない天の邪鬼だが、千春さんは寄付をしたので私みたいに世間ずれしてないようだ。

 連結バスで市内に戻る。一人でこんなバスに乗ろうものなら乗り方から降りる所まで緊張のしっぱなしだろう。リスボン住まいの千春さんと一緒なら言われた通りに動けばいいだけなので不安も何もない、ボーっとしていれば目的地に到着だ。観光客で賑わった通りを歩いていたらホステルで一緒になってる巡礼のフィリップスと会った。フィリップスも精力的に観光してるようだ。

 千春さんお勧めのリスボンの良い所に案内してもらえる。その中のひとつ、聖アントニオゆかりの教会に連れてって貰えて、聖アントニオが生まれた場所が教会の中にあった。こんなとこ一人で来たんじゃ絶対に気がつかないよ。

 ここの売店に千春さんが夢中になっているレジストと言う物の作り方を知っている女性がいて、熱心にアドバイスして貰っていた。まだ日本では知られていないので、ネットで見つけることも出来ないほどのレア物だそうだ。手芸のひとつらしいが良く分からない。検索しても千春さんの目指しているレジストは出てこないようだ。

 暑い日なので千春さんの提案で途中のカフェでビールを1杯いただく。そう言えば2年前に会ったときも「私ビールが大好きなんですよ」と言ってたのを思い出した。あのときも二人でビールをがぶがぶ飲んで楽しかったなー。ひょうきん者のアナも加わって楽しかった港町 Cee を思い出した。ここのビール代も千春さんがご馳走してくれた。すいませんね、案内してもらってご馳走までしてもらって。

 その後も、観光客も行かないと言う素晴らしい眺めのスポットとか、カテドラルからのカミーノを矢印を追って途中まで辿ってみたり、あちこち連れてってもらえる。最後に夕飯を食べましょうと言う事になって、どうせなら友達がやっていると言う日本料理のレストランがいいな。ずっと日本のご飯食べてないし。そこんちはランチは安いけど夕飯は高いそうだ。でもせっかくなのでそこへ連れてってもらうことに。

 店内は日本風に飾られており、スタッフもおかみさんも日本人だった。「いらっしゃいませーっ」と日本語で迎えられて、日本にいるような錯覚を覚えるほどだ。お酒も日本のがずらりと並んでおり、その中に「森伊蔵」まであった。料理も日本の惣菜と同じ味だし米も勿論日本の米なので美味しい。そうそう、ここんちの店名は「米」だった。美味い米を食べさせようとの意気込みが感じられる。当然のことながらここは私がご馳走させてもらったが、どうしても千春さんも出させてほしいと言うので10ユーロを頂かせてもらうことに。丸半日案内してもらったのでいいんだけどな、律儀な人だ。

 ホステルの近くまで送ってもらい、握手してハグしてお別れすることに。千春さんはアントニオ教会でペンダントトップを買っていたが、それは私へのプレゼントだった。千春さん色んなことを考えてくれてたんだなー。実はリスボンで会いましょうと言ってもこんなムサイおっさんなので、ランチしてバイバイかなと想像していた。でも千春さんはあちこち案内してあげようと計画していたようで、ずーっと付き合ってくれたので想像より遥かに素晴らしい「リスボンの休日」を過ごすことが出来た。親子ほど年の違うおっさんなのに良くしてくれて、もう感謝感謝だ。Muito obrigado ありがとう千春さん、私の一生忘れないアルバムにリスボンの一日が追加されました。

 石段をあがって行くと誰かが石の上に腰掛けてスマホをいじっているようだ。私に気がつくと手を振っている。あれ、と思って顔を良く見たら同じ部屋のメキシコおばちゃんビアネイだった。そこらの道端で会ったら分からなかったよ。相変わらず愛想がいい。ビアネイが自分のスマホで撮った写真をフェイスブックから送ってくれたので、折角だからここで使わせてもらおう(写真)。
 隣の部屋のおばちゃん巡礼が明日のアルベルゲを知らなかったので、私のデータを教えて上げる。リスボンからだと殆どの人は同じアルベルゲを目指す気がする。再会率90パーセントか。

 今頃になって私とメキシコおばちゃんの部屋にはフィリップスが引っ越ししてきて私が昨晩寝ていた上段ベッドに落ち着いた。どうやら後からやって来た女性客のせいで割を喰ったらしい。ホステル側の都合でのベッド移動なら3ユーロ貰えるんじゃ!?な訳ないか。写真は3ユーロも余計に出した私の下段ベッド。


ポルトガルの道3へつづく