ポルトガルの道7   幸運は山の中に

6月4日  日本出発から44日目
 昨夜、雨が降ったのか2階の部屋から外を見ると道路が黒々と濡れている。今も小雨、出発までには止んでくれるといいんだが。朝飯は8時から食堂という事なので、その前にのんびりとパッキングをしておく。同じ部屋の自転車爺ちゃんもせっせと出発準備をしている。年は70ちょっとと言うところか。仲良くなっても自転車巡礼とはスピードが違うのでもう会うことはないだろう。

 食堂に行くと既に何人もが食事中だった。ここには珍しくカップヨーグルトが沢山置かれていた。知ってれば昨日、ヨーグルトを買わなかったんだが。パンにチーズとハムを挟んで、シリアルにミルクをたっぷりかけて食べる。疲労骨折もどきにまたならないように、なるべくカルシウムを取るように心掛けている。オレンジジュースは水っぽかったな、100%ジュースではないようだ。そんなら飲みたくないよ。最後にコーヒーも飲ませてもらう。腹いっぱい食べたので、これで昼すぎまで持たせられる。昨日買っておいたヨーグルト2個は持ち歩くことになった。

 朝食を食べた顔触れの中には昨日、村のカフェでコーヒーを飲んでいたおっさんと鼻にピアスの女の子が顔見知りだったな。ここサンタレンから巡礼路はファティマを目指す道とトマールを通過して直接サンティアゴへ行く道とに分かれる。10名近くが一緒に朝飯を食べたが、聞いてみるとファティマへ行く人は誰もいなかった。数日間は一人歩きが決定の気がしてちょっと寂しい。昨日のアザンブジャで聞いたところでは、フィリップスだけはファティマ経由だがジャンピエールとパベルは直接サンチャゴへ向かうと言っていた。サンチャゴ巡礼のついでにポルトガル最大の聖地ファティマへ寄れるのに、何でみんなファティマへ行かないのか不思議だ。

 願い虚しく雨はやまなかった。8:50、小雨の中サンタレンを出発。サンタレンのアルベルゲは閉鎖されたのか、それとも最初から存在しなかったのか、多くの巡礼はN1ホステルに泊まってた。サンタレン迄あんだけN1ホステルの看板があれば嫌でもここにやって来るだろう。

 今日の宿は当てがない。日本人がファティマを歩いたブログでは、山の中にある村のホステルに泊まったそうだが、行ってみないとそれも分からないだろう。まだサンタレンからトマールを目指すサンチャゴのメインルートの方がアルベルゲ情報があるが、ファティマへの道はこんなんばっか。

 ファティマまで40キロと迫った。ずっと山の中なのであと2日にする予定。みんな予想以上にこっちには来ないし、ここ数日は独り歩きになる気がする。今晩の宿あるのかな?サンチャゴ巡礼路から外れるのでやっぱりアルベルゲ情報は皆無!!毎日それが心配の種。

 日本人の女の子がホステルに泊まったと言う村にやって来た。でもファティマ巡礼路は村に入らずに外側をかすめて山の中へ入って行く。うーん、どうしたもんじゃろう。この村を過ぎるとぐんぐん上りになるし、次の村までは大分ある。途中にはキャンプ場がある情報だが、そこまで暗くなる前に着けるかなと自問自答する。まぁキャンプ場に賭けようとずんずん山に入って行く。

 小さな集落があったので、こんな所だけど泊まれる宿があるならここでもいいやと思ったが、ここには人気もないし宿どころか店の一軒、カフェのひとつもなかった。ここを過ぎると奇妙な建物が現れた。えー、これなんだ?エバンゲリオンにでも出てきそうな建物だ。あの先端からビームが出てもおかしくない。それともあの巨大なやりが飛び出して使徒に突き刺さるとか。

 農家の横を通ったら、3匹の犬が飛び出してきて吼えまくっている。まぁ小型と中型犬なのでそれほど脅威には当たらない。戦いになったとしても2本スティックでこちらの勝利だろう。先頭の犬は足元まで来ると攻撃するつもりはないようなので「よしよし」と日本語で愛想を言いながら汚い頭をなでてやったら子分の2匹もおとなしくなったので無事通過することが出来る。こういう犬は珍しい。

 次はまた2匹の犬が吼えてきた。今度は懐柔に失敗して目の前まで来て吼え続けてやがる。スティックで殴りたくなるが、噛み付かれるほどではないのでスティックで威嚇しながら隙を見せないようにして通過。町中の犬は吠えかかってもフェンスの中だったり繋がれたりしているが、田舎の犬は放し飼いが多いのでストレスが溜まる。

 やっと山道から舗装路に出られる。ここでタブレットを出して位置の確認。よしよし、キャンプ場に近づいている。キャンプ場は本線から外れて脇道に入るのでその分岐を間違えないようにしなくてはだ。やがてその分岐が現れたところに、また黒い犬が2匹で吠え掛かってくる。大きいのは離れたところで悠然と寛いでいるが、子分がやかましい。ためしに「よしよし」とやったら、また成功して頭をなでさせてくれて、しまいには後ろ足で立ってはしゃいでいる。多分、この三叉路を横に入っていけばキャンプ場だよなと思うがGPSが不調なので自信がない。やって来た車に教えてもらおうと待っていると、そんなに交通量が多い道でもないのに乗用車が近づいてきた。それをみた子分の犬共がまた車に向かって吠え出した。こいつら車にも吼えるんだな。飼い主の積りになって「やめろやめろ」となだめてみる。キャンプ場は予想通り、このわき道を行けばあるそうだ。犬っころに別れを告げてキャンプ場を目指す。

 さて、暫く歩いたのに期待のキャンプ場はかけらも見えないので少し心配になる。そこへ景気の悪そうな工場が現れたので、ひっそりとしたドアから入ってキャンプ場を確認したところ、このまままっすぐ行けばあるそうなので気をよくして歩き続けると、やがて立派なキャンプ場が現れる。予想と違って、すごく立派なリゾート施設と言ったところだ。意気揚々と木の橋を渡り、大きな建物のレセプションを目指す。

 えーと、喜び勇んで来たのにどこからも入れないんですけど!?ぐるっと回っても開くドアどころか人の気配さえない。どうなってるのか分からないので同じ敷地内にあるレストランへ行ってみる。オーナーらしい男性に聞いたところ、今日月曜日は定休日だって!!!がーんだ。せっかくここまで30キロも野越え山越えやって来たのにそれはないよー。もうここまで来たら次へ行く時間も体力も気力さえ残っていない。野宿決定だ。庇の下を指差して「ここに寝ていい?」と身振りを交えて打診すると、このオーナーは親切に「トイレなら中から鍵が掛かるからそっちの方がいいよ」と提案してくれる。もうこの際どこでもオッケーです。


 ビールを飲ませて貰っている間に施設に電話してくれたようで、私一人のために大きな宿を開けてくれることになった。もう感謝感謝だ。オーナーの付き添いでレセプションに行ってチェックイン完了、7.5ユーロだった。入り口の鍵を預かったら、ここの人たちは帰ってしまうので、次ぐ朝は鍵は中に入れっぱなしにして出て行っていいそうだ。もう完全に野宿と思っていたのでこんな有難いことはない。シャワー・洗濯してから先ほどのレストランに行って晩飯を食べさせてもらう。時間が時間なのでちゃんとしたのは出来ないらしいが、スープに焼肉のサンドイッチを食べさせて貰えた。帰りに明日の朝飯用にセブンアップとファンタ、それにパンを1袋買って帰る。

 山の中のこの大きな施設に私一人。まぁ鍵はちゃんと掛かっているので怖いことはない。むしろあり得ない幸運に喜ぶばかりだ。昨日は32キロ、今日は山ばっかりの中を31キロと年齢の割りに歩きすぎるんじゃないのかね。腰痛と坐骨神経痛の爆弾を抱えてるし、またスネが再発したらどうしようと心配になる。明日は大事を取ってショートコースにするか、それともファティマまで一気に行ってしまおうか。


ポルトガルの道8につづく