ポルトガルの道26   アルベルゲ難民 Espana

6月23日  日本出発から63日目
 朝になって気が付いたが、他の人たちはベッドに紙の枕カバーとシーツを敷いていた。べたべたするビニールのベッドだったので、寝心地が悪いアルベルゲだなーと昨日の内に感じていたのだが、ちゃんとシーツを支給してくれてんじゃん。私とイタリアおばちゃんは早いチェックインだったので、老いぼれた爺ちゃんが受付してくれたが、後からやって来た人たちは若い女性から受付されていた。その差でシーツが貰えなかったのかと分かった。爺ちゃん勘弁してくれよ。

 今日はフェリーで対岸へ渡る。出向時間は10時なのでのんびり。キッチンへ移動すると何人もが朝飯を食べたり出発の準備をしている。いま出て行くという事はやっぱりセントラル・ルートと合流するバレンサへ向かうのだろう。イタリアのセレステとドイツの二人組みはゆっくりしているので、もしかしたら私と同じ海沿いを行くのかな。だったら嬉しいけど。

 長年使っていた半ズボンと長袖のポロシャツ、それに穴が空いた5本指靴下をアルベルゲのゴミ箱に捨てる。ポロシャツはそんなに古くはなかったが、バックパックのベルトのお陰で穴が空いてしまった。まだオンボロのTシャツが捨てる候補だが、もう暫く着る予定。それを捨てちゃうと予備の着替えが1枚になってしまうので、雨が続いた場合は着るものがなくなってしまうから少し慎重にする。

 朝飯には青リンゴにコーヒー、ヨーグルト。ポン菓子みたいのにはチーズを挟んで押しつぶすといけるのを発見する。ここは9時がチェックアウト時間なので10時のフェリーまでねばることも出来るが、殆どの人達が出発しちゃったのでフェリー乗り場に行くことにする。

 8:15、フェリー乗り場。フランスからの年配4人組がいて、片言で話をしたらテレビのクルーが自分たちを取材しにやってくると言っている。ほんとかな?どういう手づるでこの人たちが取材対象になったのか謎だったが、暫くしたら本当にやって来てカメラを廻している。まぁ見てても放送自体を見られる訳じゃないのでどうでもいい感じ。

 10時のフェリーで仕方ないと諦めてたら、少人数なら随時出発するタクシーボートがあると売店のおばちゃんから勧められる。フェリーは10時の筈だが、タクシーに乗せたいのか10時半の出航と嘘っぽいことを言っているな。タクシーボートは5ユーロで、フェリーは1.50ユーロ。その差で朝飯くらいは楽に食べられるので一旦は断る。エステルがやって来て、この子はタクシーボートを使うそうなので気が変わり、だったらと自分もお願いする。今日はフェリーを降りてから25キロ先のアルベルゲまで歩かなくてはならないので、歩き出しが遅い時間だと到着が夕方になりそうだ。文字通り時間を金で買うことにする。

 ボートはちょっと高かったけど、ブィーンとスピードのある小型ボートはテンションが上がり楽しかった。エステルの他に女性の巡礼が一緒に乗ったので3人だけの乗客だ。そりゃ売店のおばちゃんも必死になるだろう。向こう岸までの短い距離なので、5分も乗ってないようだった。降り際に運ちゃんを記念に撮らせてもらう。オブリガード。ボートを降りると女の子はさっさと歩き出した。矢印も続いているのでその後を追いかける。

 港からは一山越して反対側の町に出るのが分かっているので気合を入れて歩き出す。最初は結構な坂が続いた。エステルは歩くのが早いので、徐々に置いてかれることになった。途中で二人組の婦人が歩いていたが、フェリーはまだ出発しないのでどういう経路でここまでやって来たのか不思議だった。やっぱりタクシーボートだったのかな?

 山を越えて着いたのはそこそこ大きな町だった。道端で朝市をやっていたので、果物でも買おうかなと思ったが素通り。この町には公営アルベルゲがあるがチェックインは午後の4時なので利用する人がいるのかな?あ、向こう岸のアルベルゲに泊まらない人ならフェリーで移動してきて泊まるか。

 アルベルゲを示す看板を見たのを最後に巡礼路を見失う。うろちょろしている所に年配のおじさんがやって来たので、こういう人は巡礼路を知っているだろうと声を掛ける。「アルベルゲか?」と逆に言われるが、「オープンが4時なので泊まらない」と応え、巡礼路を教えて貰う。ちょっと教えるには複雑なのか、一緒に歩いて矢印のある所まで連れてってくれる。まことにありがたい。

 おじさんにお礼を言って歩きだすとやがて町外れに出る。石段を海に向かって下りて行くと人家のない方角からエステルがやって来た。おっかしな方からやって来るんだな。エステルは若いだけに足が速いので、徐々にその差は開いてきて、やがて見えなくなってしまう。貴重な旅仲間だが自分のペースで歩く方が大切だ。

 ずっと歩き続けて暑いしのどが渇いたのでバルがないかなーと考え出す。やっと出てきた村にバルがあったのでこれ幸いとビールを頼み、エネルギー補給にピンチョスも頼む。テレビではワールドカップをやっていて、地元の人たちが真剣に見ているがどこの対戦なのか興味がないので知ろうともしない。この村は観光地になっているのか、ツアーらしい団体が海岸沿いの道を徘徊していた。

 道路沿いに私営のアルベルゲが現れた。大きめで清潔そうだ。ここもサイトで紹介していたアルベルゲだが、これより進んだところのアルベルゲに泊まる予定なので素通り。更に歩き続けるとやっと遠くに目的のアルベルゲが見えてきた。やれやれやっと着いたかと安心したのも束の間、玄関には巡礼の女の子が座り込んでいたので嫌な予感が。どうしたんだろうと声を掛けると女の子は恨めしそうな顔で「フルだって」と。え、こんなに歩く人が少ない道なのにフルとは!?オーナーも一緒に居て、ポルトガルのグループが予約で買い占めたそうだ。公営アルベルゲは予約はできないし団体には他を進めるんだけど、私営アルベルゲは多くが金儲けでやってるので、時にはこんなこともある。なんだよ、アルベルゲって巡礼のためにあるんじゃなかったのかよ。そう言えば4月に雪の峠越えをやっとのことでやっつけた町のアルベルゲがフットボールチームの予約でフルだったのを思い出した。女の子はタクシーで次の町を目指すそうだが、私の辞書にはタクシー利用は存在しないので、隣のカフェで冷たいコーラを一杯のんで、オーナーが教えてくれたキャンピングを目指す。

 キャンピング場(写真)は2キロ先だったので、割合簡単に着くことができる。でもやっぱりここもフル。何となくそんな気がしていたよ。そこで気がついた。今日は土曜日だった。しかも周りは海岸だらけのビーチだらけ。だからかーっ。受付の女の子から2キロ先にもキャンピングがあると教えて貰い、どうせフルさと思いながら歩いているとアビタシオン15ユーロの看板が!?これは駄目元で尋ねなければ。立派で伝統がありそうなホテルの外観に若干びびるが、こっちも真剣だ。ここで使えるスペイン語は「ドルミール?」しか知らないが、東洋人の喋るスペイン語は想像で理解してもらえる。部屋はあるらしく、担当を呼ぶから待ってと言われる。

※今朝ボートで渡ったところがポルトガル・スペインの国境で、これからは何ちゃってスペイン語が使えるので幾らか気楽。アビタシオンは部屋のこと。

 ホテル側のスタッフは立派だけど、ホステル側の担当はその辺のチンピラみたいなおっちゃんだった。でも見た目と違ってこの人は割りと親切のようだ。一応、確認で「15?」と聞くと「ごめんなさい、15はグループで一人なら20」と言われたけど、こんな立派なのに20なら御の字だ。ということで今晩の宿、無事にゲットだぜ。良かったー、マジで野宿コースかと思ってた。今回の巡礼では何度も野宿を覚悟したが、運良くまだ一度も野宿をしないで済んでいる。幸運に感謝だ。

 ホテル側とホステル側は棟続きだが大きなホールを挟んで別になっていた。庭から直接ドアがあって、カギを開けて入るとちゃんとしたホテル仕様だった。部屋にはベッドが1つと2つの部屋があった。一人なんだから一人用でいいかなと陣取ったが、やっぱり2つの方が広いので移動。どうせ私しか使わない部屋なので好き放題だ。小さなキッチンが付属していて、もちろんバス・トイレも室内にある。こんな豪勢なのは久しぶりだ。これが20ユーロなら格安かも知れない。

 隣のホールでは結婚パーティーが開かれていた。大音量の音楽がガンガン掛かってダンスの真っ最中。ホールの扉が開けっぱなしなのでスペインのパーティーを外から見物できる。ニコニコしながら写真を撮っていたら中の人からは「入れ入れ」と声が掛るが、メ、滅相もない。みんな白いハンカチを頭上でくるくる廻しながら踊って大盛り上がり。こんな風景、テレビで見た気がする。みんな楽しそうなのでこっちも楽しくなる。チンピラおじさんは煩くて済まないと恐縮しているが、おめでたいことなので「てんごのーぷろぶれま(問題ない)」だ。

 おっちゃんにスーパーがないかと聞いたら、さっきのキャンピングの中にあるとのこと。早速行ってみるが運悪くシエスタで扉にはカギが掛かっていた。ポルトガルもシエスタやるんだっけか?あ、今日からもうスペインかと思いだす。

 大音量のダンス音楽は一時も止むことがないので、おっちゃんはよっぽど悪いと思ったのか商売物のホタテの貝殻をプレゼントしてくれた。赤い下げ紐も付けてあって少しばかりの装飾も金色で施してある。マジックで私の名前まで書いてくれていた。ありがたく頂く。今回の巡礼では毎年持ち歩いていた貝殻が大きくて重たいので、今回は過去の巡礼で拾ったフィステラ産の小さいのを下げている。折角だからチェンジだ。小さいのは部屋の引き出しに置いていこう。

 夕方になったので再度キャンピングのスーパーへ。まだ開いてないんだがな。隣の土産物屋に行ってスーパーは?と聞いたら担当の女性を呼び出してくれ、無事にオープンになった。他にも待ってる人がいたようで、同時に数人がスーパーの中に入る。まぁキャンピング場のスーパーなのでそれなりだった。330mlの缶ビール3本にコーラ、ハム、チーズ、ポテチ、ヨーグルト2とハンバーガー用のパン1袋で9.15ユーロ。今日はタクシーボートから始まっていっぱい金を使ってしまった。

 部屋にあった簡易キッチンには大きなガラスのコップがあったので有りがたい。ビール3本をコップに注いでコーラまで立て続けに飲み干す。パンにチーズ・生ハムを載せて味付けにヨーグルト。こういう時に小袋のケチャップが欲しいなぁ。どっかで手に入れたいもんだ。ヨーグルトは胃腸のためでポテチは油の補給。

 暇なのでネットしにホテルの本宅の方に出かけて行くと、二人の女性巡礼が外にいた。やっぱりあのアルベルゲがコンプリートだったので、タクシーで次の町まで移動するそうだ。ここは15ユーロだよと教えて上げたが、もう移動を決めたらしい。まったく何てアルベルゲだ。もしかしたらここの結婚パーティーの人たちが買占めたのかな?

 ファンタオレンジが飲みたくなったが、キャンプ場まで歩くのがかったるいので、ホテルのバーで高いのを飲ませてもらう。でも1.50ユーロとカフェ並の値段だった。

 隣のパーティー会場では大音量で音楽が流れていて、延々とダンスが続いている。すんごい体力。でも10時がお開きタイムのようで、ピタッと止んだ。今夜は久し振りの一人部屋なのでゆっくり寝られそうだ。


ポルトガルの道27につづく