ポルトガルの道33   救いの神? Pontecesures

6月30日  日本出発から70日目
 Variante Espiritual の道3日目、アロウサのアルベルゲ。キッチンで昨日仕入れたチョコロールケーキとコーヒーで朝飯。チョコロールケーキがもの凄く甘くて一口ごとに震えがくる(うそ)。青リンゴは水道で洗ってバックパックのサイドポケットへ。これは行動食の積もり。雨がぱらついているので、止んでくれないかな。

 アルベルゲ入口の廊下には自転車組が出発準備をしていた。日本では許可されないのか見たことがないけど、御覧のように自転車本体の後ろに運搬用のサブ自転車を引っ張るスタイル。スペイン巡礼ではときどきこういうのが走っていて、時には中に子供が入っているのを見たこともある。さすがに子供を入れて引っ張るのは危険を感じるが、許可されてるところを見ると、事故の確率は普通の自転車と同じなんかな。

 7:15、雨のため薄暗い中を出発。海沿いをぺたぺたと歩き続ける。この区間を歩く人は殆どいない筈だが、ちゃんと矢印は備わっているので取り合えず一安心。町を出るまではあっちに行ったりこっちに曲がったりを繰り返すが無事に脱出に成功する。

 次に出てきた大きな町の中で完全に迷う。もう何が何だかわからない。暫く立ち尽くしてGPSと睨めっこするが、相変わらず電波をキャッチすることができない。ビル街がある訳じゃないのに電波が捉えられないと言うのは、この厚い雲のせいかな?こういう場合に当てにならない勘を頼りに進んでしまうと痛い目に遭うのは学習済みなので、誰かやってくるのを待っていると、スーパーらしき建物から男性が出てきたので走りよって教えてもらうことにする。この人が又親切な人で、私のタブレット地図を見て現在地を教えてくれる。「今はここで巡礼路はこっち。目指す方向はこっちだよ」と。自分が想像していた方角とは全然違う方を示すので不思議のようだった。まったく方向を見失っていたことに改めて気づく。だから迷ってるんだけどね。でも、教えてもらったお陰で現在地と方角が分かれば一安心。むちゃグラシアスとお礼を言って来た道を戻ることにする。

 さっき通り越したラウンドアバウトが現われて、その脇に大手スーパーの LiDL と Dia が隣り合っている珍しい地点があった。ここは目立つので良く覚えている。ここでヘアピンカーブのように左に曲がるべきところを道なりに右に行ってしまったのだ。大きな町の中で右に左に曲がりくねったお陰で方向感覚が狂ってしまったようだ。「道なり」は時として危険。

 やたら長い海浜公園のような所にでる。散歩している人や犬を連れた人々がのんきに歩いている。その脇にベンチがあって水道とごみ箱も設置された優良お休み所なのでなので青りんごをかじって休んでいく。天気はずっとすぐれないが一度も本降りにならないのでまだマシか。町を過ぎると何の養殖なのか、浅瀬の中に石を積んで区画を作り、その中で作業をしている人が沢山いる。貝かな?

 11:40、山の中にバルがあったのでコラカオとクロワッサンで2.4ユーロ。小さなカステラがおまけで付いたが、昨日の巨大ボカディージョ・ビール付きが同じ値段と思うととても高い。でもこれが通常価格だ。昨日が安すぎたのだ。

 舗装路から矢印に導かれるまま、雑草が生い茂る道とも言えない所に入っていく。まったく道でない。人が歩いた形跡さえない。きっとだーれも何年も歩いてないんじゃないかな。たまに出てくる矢印も何年前に描かれたものか分からないほどに消えかかっているし。短パンなので草のとげとげがやばい。このルートはやっぱり歩く人がいないんだろなと想像する。暫くそんな道を歩き、やっと普通の道に出られたのでホッとする。だがまた同じような草ボーボーの道に引きずり込もうとする矢印が出てきたので、今度はそれを無視して舗装路を進むことにする。これ以上足を傷だらけにされたんじゃたまらん。

 小山の上から遠くを眺めたら大きな町が見えたので、目的の Pontecesures の町と確信する。でもタブレットでチェックしたらまだ4kmもあるので残り1時間と言うところか。今は山の上なのでGPS電波のキャッチも上々。現在地が記録されると、そこから目的の地点までのルート設定もできるし距離も出せる。Maps.meは旅の相棒。

 小山を降りて舗装路に向かっていると民家から子犬がキャンキャン鳴きながら飛び出してきた。攻撃色丸出しなのでこちらも持っているスティックを攻撃用に持ち替えると家人が慌てて犬を制止したので、それ以上近づくことはなく丸く収まる。そういう犬は繋いどけよ。

 通りに大きな八百屋があったので缶ビールを買って隣の駐車場でごくごく。余りに先が長いと途中で飲むことはしないが(ほんとかな?)、もう目的地が近いので飲んでも大丈夫だ。八百屋でもパン屋でもビールを売ってるのでとても便利。

 街に入って来て、そろそろ3日前に分かれた巡礼路との合流地点が近いかなと思っている所に道路反対側を歩くおばちゃん巡礼を発見する。じゃぁここが本線と合流する地点だと喜ぶ。おばちゃんに挨拶しようとしたが、私には気付かずフラフラと民家の玄関先に腰掛けてしまった。あんな所に座りこんでしまうとはよっぽど疲れているようだ。顔をあげてこちらを見たので手を振って挨拶。そのまま進む。すぐ屋根つきのバス停があったのでバックパックを降ろし、タブレットを出して位置をチェックしていたら、道路を渡っておばちゃんがやって来た。この人、カミーノを見失ってたので仕方なく大きな舗装路を歩いていたらしい。そこへ私が現れたので救いの神と思ったようだ。GPSでアルベルゲを探してた所だったので、「あんたもアルベルゲに行きたいのか?」と聞いたら「そうだ、あと何キロか?」「あと400メートルだ」おばちゃんビックリして「 only 400m !? 」と聞きなおしている。道を見失い疲れ果ててたようでアルベルゲが近いと知って更に喜ぶ。良かったねー、おばちゃん。

 二人でアルベルゲを目指す。GPSが機能しているのでタブレット片手に巡礼路から脇道に入り、角を二つ曲がったらアルベルゲ。でもここは扉は閉まってるしヒト気がないんだがな。張り紙を読んだら隣が本物のアルベルゲでこっちは幼稚園なのかな?すぐ隣の白い建物に移動。レセプションには女の子が待っていて受付してくれる。ガリシアなので6ユーロ。もう夕方になっているのに、我々二人が今日最初の巡礼だそうだ。この2キロ先には有名なパドロンがあって、そこにも公営のアルベルゲがある。みんなそっちに行ってしまうと嘆いていた。大きくて綺麗なアルベルゲなのに勿体ない。もっとパドロンから離れた所に建てれば良かったのにと思うが色んな事情があるのだろう。

 パドロンはサンチャゴの遺体を乗せた小船が漂着した町で、小船を繋いだと言う船つなぎ石が教会の中に祀られている。アルベルゲの隣には大きな教会と、すぐ近くにはサンチャゴがスペイン宣教で最初に説教した丘もあるので、ポルトガルの道では超有名な町だ。みんなパドロンに泊まりたいと言うのは当然のこと。私も2年前はパドロンの公営アルベルゲに泊まって楽しい一夜を過ごしたことがある。でも今回は泊まったことのないこっち。こっちにして正解だった。

 ベッドルームは二階で数部屋あった。でも二人が指定されたベッドは同じ部屋の隣同士。一人一部屋にしてくれても良かった気が。セリーナおばちゃんはポーランドから一人でやってきた現役の教師で年齢は55と言ってたかな。ポーランドの人と会うと必ず「ポーランド、ろーまんぱぱ」と言う。すると「あなたはカトリックか?」と聞いてきたのでイエス。まぁその前にへっぽこが付くんだけど欧米人には伝わらないのでイエスだけ。「ミーツー」とのこと。まあポーランドは教皇が出るほどのカトリック国だからね。

 後から女性がやって来たが、この人は巡礼ではなくオスピタレラの一人のようだ。女の子が「今日は巡礼が二人泊まる」と報告している。この様子だと、きっと誰も泊まらない日がしょっちゅうある気がする。来ても来なくても受付はいなくちゃならないので張り合いがないだろなと気の毒になる。誰かポルトガルの道を歩く予定の人がいたら、ここ Pontecesures に泊まってやってください。パドロンの公営よりずっと快適です。

 女の子にスーパーの場所を尋ねたら女性と二人で教えてくれる。とても近いと言ってたが、教わったとおりに歩かなかったのか、随分と離れたスーパーまで行ってしまった。大手チェーンの Froiz でカット野菜に、いつもよりちょっと良いチーズ、1リットルビール、ヨーグルト2、バゲットパン、バナナ、ネクタリンに玉子6個で合計5.12ユーロと格安。今回もカードでお支払い。カードとても便利。パンは焼き立ての熱々なので帰りながら千切って食べ出してしまう。

 キッチンで玉子は全部ゆで卵にする。3個はサラダに乗せて、残りは明日の朝食用だ。カット野菜には一昨日のバルで残ったのを貰っておいたビネガーとオイルで味付けする。確保しといたのがいきなり役に立った。カットしたネクタリンとチーズも乗せて豪華サラダの完成。我ながら凄いサラダが出来上がった。そう言えばここはガリシア州なのに食器等が充実していたな。それが当り前のようだがガリシア州では無いのが普通なのでとても有難いことだ。まさに「ありがたい=有難し」の原型そのもの。(この使い方であってるかな?)

 セリーナがガリシアの Wi-Fi パスワードを受付の子に教わったと言ったので、そんなサービス聞いたこと無いけどダメ元で自分も言ってみる。すると女の子は自分のスマホに保存してあったパスワードを設定してくれた。やった、ひょうたんからコマ。ガリシアのアルベルゲにある Wi-Fi は、初めに通信機能のあるスマホなどから Wi-Fi 元に電話番号を送って、そっからスマホに送り返されたパスワードを設定して初めてネットが使えるようになるクソ Wi-Fi。通信機能のない私のタブレットではいつも悔しい思いをしていた。セリーナも同じだったのか。しかも一度設定してしまえば別のガリシアの公営アルベルゲにある Wi-Fi でもパスワードは生きていると想像する。人が沢山泊まるアルベルゲでは絶対にしてくれないだろう。本来の使い方からすればルール違反なのだから。滅多に巡礼がやって来ないここならではのサービスだ。すんごい幸運。

 お陰で明日泊まる予定のサンチャゴ・メノールのアルベルゲに予約を入れられた。メノールは巨大アルベルゲなので予約無しで行ってもほぼ泊まれるが、Hotels.comから予約すると結果的に10%の値引きと同じになるのが分かったので、出来るときは予約するようになった。

 セリーナはへとへとだったが、シャワーして一息入れたら復活したようだ。今度はベッドで足のマメをつぶしだした。針で突き刺すようなので携帯用の消毒ガーゼをあげるとさっさと拭いている。結構痛むらしいから沢山持っている痛み止めを5回分上げてみると、すぐ1粒を口にした。よっぽど痛いんだな。それなのに巡礼路を見失って精神的にも肉体的にも疲れ果てていたので大層辛かったんだと思う。みんなマメが出来ても歩き続けるのでエライです。

 この痛み止めは40日も前のポンフェラーダの薬局で処方してもらったのだが、医者の処方箋のお陰で3ダースを1ユーロの激安で手に入れたものだ。今はもう飲まないで済んでいるが、有意義な使い道があってよかった。


ポルトガルの道34へつづく