ポルトガルの道34   第二部完結 Santiago de Compostera

7月1日  日本出発から71日目
 キッチンに下りていって朝飯にしようとするが、明かりのスイッチがどこにも見当たらない。どうやら人感センサーだけでオンオフしてるようだ。便利すぎて不便。オスピタレラの女の子がいれば施錠された管理室の中にスイッチがあるだろうが、夜には帰ってしまって戻ってくるのは昼間だろう。仕方ないのでタブレットの明かりと手探りで朝飯にすることに。ヘッドランプも持っているが、やっぱり手軽なのはいつも持ち歩いているタブレットだ。今回ヘッドランプのお世話になったのは2回くらいだったかな。少しでも軽くしたいので、もう持って来なくてもいいような気もするけど、やっぱり無いと不安だ。

 電磁調理器はオフになってなかったので、残りのカット野菜を入れてスープを作りゆで卵3個とパンを浮かべる。6:25、まだ真っ暗だがセリーナは出発するそうだ。また「昨日はありがとう」とお礼を言ってくれる。欧米の人ってその時にお礼を言えば十分で、改めて別の日にお礼は言わないと聞いていたのに珍しいんじゃね?困ってた中での親切がよっぽど嬉しかったのかもね。あたしも嬉しいよ(ちびマル子風)

 6:50、暗い中をでっぱつ。今日も霧がすごい。暗くて矢印が見えずらいので迷わないように慎重に進む。

 時間的には幾らも歩いてないのに、もうパドロンに到着する。2年前にやって来たときは、すっごい市が立っていて、まともに進めないほど大賑わいだったが、今日も市が立つらしく早朝の内から大勢の人達が準備に大わらわしている。そう言えば今日は日曜日だ。前にやって来たときも日曜日だった気がする。

 船つなぎ石のある教会は時間が早すぎて閉まっていた。じゃぁサンチャゴが初めてスペインで説教をしたと言う所に行ってみようか。橋を渡って丘への登り口までやって来たら、暗くてどよーんとした雰囲気に嫌気がさして止めてしまう。このままパドロンを出発してしまおう。

 早朝だけど巡礼者はパラパラと見かけて、そろそろ出発する人達がいるようだ。パドロンを出るときはちょっとだけ複雑な分岐があるので、そこで考えている人達がいる。一度歩いた所なので「こっちだから付いて来い」とは言わないけど自信を持ってさっさと進むことができる。巡礼は大体、先を行く人の後に続く傾向があるので迷っていた人たちがワラワラと付いてくる。


 逆ルートを行くソロの巡礼者二人に時間差で出会う。勿論二人には「ファティマに行くのか?自分もファティマから来たんだ」と話しかける。それだけで友達モードだ。二人は今朝サンチャゴを出発したのだろう。今日からファティマへ向かうのでテンションが高く、とてもいい顔をしている。ここからファティマまでは自分の足で26日間、約500キロの行程だ。元気にファティマまで歩けることを祈ってブエンカミーノとエールを送る。

 立ち木に十字架が打ちつけてあった。書かれている文字を読むと1953年生まれで南アフリカからやって来たKevin。私より3歳年下だ。十字架の下の方にはこの人の顔が焼き付けてあった。亡くなったのが2017年9月で場所にはSantiago Spain とある。ゴールのカテドラルまであと一歩の所で亡くなってしまったのか。しかも昨年の9月なので、まだ1年も経っていない。サンチャゴ巡礼にやって来る人の多くは定年退職を待って決行する人が多く(自分もそう)、途中で亡くなる確率は若い人より多いだろう。自分も今年は雪の峠越えでマジで遭難の二文字が目の前にぶら下がったし、決して他人事ではない。でもやっぱり自分だけは大丈夫ってどこかで思ってるんだろね。運が悪いとそれが命取り。

 サンチャゴ市内のとっつきまでやって来た。2年前はここで道が分からなくなり、ぐるっと大回りしてカテドラルの反対側から到着した経験から今回は注意深く進むことにする。通りに朝から開いている八百屋があったのでファンタオレンジを買って店先で飲む。ここらはまだ矢印があって迷わずに進むことができる。

 いよいよ賑やかな市内に入ったところで矢印がなくなった。うーん、こっちからカテドラルを目指すのは初めてなので皆目分からない。大よその方向を見定めて歩き、あとは道行く人に教えてもらうことに。途中でデカトロンを発見!!おっ、こんなところにデカトロン。ジャージの長ズボンは既にポイしてるので、飛行機に乗るために安い長ズボンが欲しかったのでデカトロンを探していたのだ。飛行機の中はエアコンが効きすぎていて寒いからね。でも今はこんな出で立ちだし何しろ先にオブラドイロ広場に到達したいので素通りする。ズボン買うのはフィステラ・ムシアを歩き終えてからにしよう(荷物になるから)。

 二人目の人に教えてもらったとおりに歩くと、やがて見覚えのある公園に辿り付く。有名な「二人のマリア」の像があるアラメダ公園だ。1月のツアーでやって来たときとは別の像になっていて、今度の方がツルツルで洒落ている。立派な功績があった訳でも無く偉人でもない一般の姉妹の像をこうやって設置するスペインのセンスには好感を持てる。道行く人に写真を撮ってもらってオブラドイロ広場を目指す。公園から一歩信号を渡ると旧市街。もうこの辺りは人人人で大混雑。バックパックを背負っている人もいない人も、その多くは巡礼者だろう。巡礼だけで数千人はいるんじゃないかな。サンチャゴ市の一大観光収入源だろう。

 とうとうサンチャゴコンポステーラのオブラドイロ広場に到着~。第二部完結です。カテドラルから足場が消えていた。まだ工事は続いているが、足場のないカテドラルの姿を4年目で初めて目にした。もしかしたら次は栄光の門から入ることができるかな?

 パラドール前の坂を下ってすぐ巡礼事務所に向かう。ここの入り口にはガードマンが頑張っていて、クレデンシャルを持っていない普通の観光客は入れてもらえない。私の薄汚れた風体をチラッと見ると、クレデンシャル提示を言われることなくすんなり通してもらえる。これは良いことだったのかな?

 いつもは巡礼証明書を貰う人の列が長々と続いているので長いこと待つのを覚悟していたが、今日は何の関係か10人ほどしか並んでなかった。ラッキーだ。すぐ番がやって来る。私のクレデンシャルは5月に到着したマドリッドの道を歩き終えてから連続してポルトガルの道のスタンプが続いているので、その説明をしなければならなかったが、すんなり理解してもらえてポルトガルの道の巡礼証明書をゲットする。今回これで2枚になった。

 庭に出ると行列はぐーんと伸びていて50mほど巡礼が並んでいる。さっき人数が少なかったのは本当に偶然なだけだったのだ。ついてる。アルベルゲ・メノールへ行く前に買い物だ。メノールは谷底を降りてまた同じだけ登り返す地形なので一旦宿に落ち着いてから買出しするのはとても大変。いつも買っているパン屋へ行く途中、凄い雨に見舞われる。小雨なら濡れても平気だが、夕立クラスなのでどっかの軒先を借りてしばし雨宿り。他の人たちもこの降りでは歩けないようで、みんなあちこちに雨宿りをしている。でも夕立みたいな降り方は長続きしないので10分ほどで小雨になる。

 このパン屋は日曜も開いてるしシエスタもしないのでもう3年通っている。通ってると言っても一年にせいぜい3.4回程度しか寄らないが。パン屋だけど冷えた1リットルビールはあるし色んなものを売っているので非常に便利。今日も1リットビールにヨーグルト4、チーズ入りのエンパナダと普通のパンに生ハムで6.65ユーロ。さすがに野菜類は置いてないのが玉にキズだが、パン屋なので仕方ない。ここんちはカードが使えないので、にこにこ現金決済。

 メノールの玄関に入って階段わきでバックパックを降ろしていると、大理石の大きな階段を下りてくるジャンピエールを発見「え、まさか!?」と俄かには信じられなかったので小さい声で「ジャンピエール?」と2度言ったら反応してくれる。おー、やっぱりジャンピエールだー。ジャンは今日でメノール3日目だそうだ。やっぱり私が遠回りしてた分を早く到着したんだな。昨日はフィリップスが泊まったと言っていた。フィリップスは1泊だけだったのか。2泊してれば私と再会できたのになと惜しくなる。チェコのパベルはいないようだが、もしかしたらここで2,3泊してればやってくる可能性あるな。でも明日はもうフィステラ目指して出発してしまうので会うことはないだろう。パベルとはメルアドを交換しているので、日本に帰ったらカメラの写真を送って上げよう。

 受付しに行くとジャンは新しいシーツと交換していた。連泊だとシーツを新しくして貰えるのか。2連泊3連泊はしたことあってもシーツの交換って知らなかったな。それともジャンは少し高い一人部屋だからかな。私は一人部屋って利用したことないから様子が分からない。メノールは月によって料金が違って、今は7月になったので14ユーロと高額だった。15ユーロでシャワー・トイレ付の一人部屋に2度泊まったのに14ユーロ出して大部屋。

 まず地下のキッチンへ行って買ってきたビールを冷凍庫に放り込んでからベッドルームへ移動しよう。そしたら食堂のテーブルにエステルの姿が!!すぐ立ち上がってハグしてきてくれる。明日はフィステラに出発するかもと言う様なことを言ってたな。男友達が出来たようで一緒のテーブルにいたので、それ以上の話は遠慮しておく。

 シャワーしてから再度キッチンへ。ビールが良く冷えてて美味い。喉が渇いていたので1リットルを簡単に飲みきってしまう。エンパナダの大きいのとパンも少し食べてみる。パンは何も付けなくてもとても美味い。まだ喰い足りないので昨日のアルベルゲに残されていたインスタントラーメンを茹でてみる。こっちのインスタントラーメンは味が薄いのが分かっているので、塩少々とキッチンに残されていたピカンテを足してみる。ピカンテは缶に鷹の爪の絵が描かれているので文字の意味が分からなくても何の調味料か分かる。それでもまだ味が薄かったな。ここメノールのベッド数はドミトリー、個室合わせて254人を収容できる巨大アルベルゲだ。そのため巡礼達が残していく食材や調味料が沢山あって自由に使えるのでとも便利。

 足の長い女の子がキッチンにある洗濯機を廻していて、1本しかないズボンを洗ってしまったのか、Tシャツの下は赤いパンツが丸見えになっている。その姿で食堂内のミニスーパーで買い物したりワインを飲んで寛いでいる。欧米の人の感覚は理解できない。


ポルトガルの道完結
次からはフィステラ・ムシアの道が始まる。遊び放題。