北の道3  踏んだり蹴ったり

5/17 歩き初日
 朝の5時半、外は音を立てて雨が降っている。やっぱりかー。日本語で「イルンの天気」で検索すると週間天気予報が見られます。日本語でどこの天気予報も見られるのは有りがたいけど今後4日間は雨だそうだ。しかも今日は大雨。写真を撮るどころじゃないかも知れない。北の道5月の半分は雨というので覚悟はしてるけど、できればなーです。今日は多分サンセバスチャンまで歩くと思う。中間地点にも公営アルベルゲがあるが、オープンが夕方4時なのでたぶん素通りする。

 ここは朝飯が付いていた。だったらドナに5ユーロじゃ悪かったかな。最初見た時はなんだかピンと来なかったが、大鍋でコーヒーが沸かされてて、おたまでカップによそいます。こんなのも珍しい、どこの国だよ。写真だけで見ると昆布か餡子を煮てるみたいだ。みんな真っ暗な早朝からパンを食べたりして活発に行動しています。殆どがリタイアした年配者に見えるけど、とても頼もしい。

 出発は7時。外は相変わらず雨がザンザン降ってます。みんなアルベルゲの中で合羽やポンチョを着込んで準備に余念がありません。こういう状況だと一層連帯感を感じられます。私は今回、ゴアテックスの合羽(上だけ)を奮発してきているので、雨でも少しだけ楽しみがあります。下は合羽のズボンをはくと腿上げが大変なのが学習済みなので、今回も大きなビニール袋の底を抜いたのを履きます。見た目なんか構っちゃいられません。

 平地を20分歩いた後は山登りが始まる。幅2,3mの坂道を泥流が流れ落ちている。流れに足を突っ込まないように、右に左に行くから中々進みません。でも、そんな努力も虚しく暫くしたらゴアテックスって何?!なくらい靴がガボガボ言い出した。濡れた靴を履きつづけるとふやけた足にマメが出来るのが心配だが、朝塗ったワセリンと5本指靴下に頼るしかありません。ずっと雨の山道を行くけど、ときどき同じ苦労をしている巡礼がいるのが救いです。

 山を下りだしたら見るからにへろへろの男性がいたので一声掛けて追い越す。その先にはコリアのおばちゃんが立っていて、コリアの男を見なかったかと声を掛けてきた。この人の連れだったのか。彼はとても疲れていたようだと教えて先を急ぐ。みんな自分の力だけで乗り越えるっきゃない。

 11:20、高台から眼下に入り江が見えてきた。急な石段を下って渡し舟の村に到着する。この村には公営アルベルゲがあるが、やっぱり時間が早いので素通りすることにする。ここを越えると暫くは村が現れない。冷えた体に暖かい物を飲みたいので通りに一軒だけあったバルに入る。びしょびしょ姿の客は嫌だろうけど、そんな顔はされないのが嬉しいかな。店には他の巡礼もいるし。コラカオとボカディージョでエネルギー補給。店を出ると軒先で雨宿りしながら立ったまま何か食べている顔見知りの女の子巡礼がにこやかに挨拶してくれる。若い子は金がないからあんな所で休むのかと思ったが、若いから悲壮感もみすぼらし感もないし3人だから尚更。

 ここの渡し舟はあっという間に対岸に着く。ポケットをまさぐっている間に着いてしまったので、海をわたったと言う感覚がなかった。そこから暫く港沿いを歩いた後は急階段のおでまし。3年前とまったく同じで雨の中ばっかり歩いているなー。前に年配の夫婦がいるので、山の中でも寂しくないのが有難い。


 やっとサンセバスチャンの町が遥か下に見え出した。町に入る手前には恐ろしい程の急坂があるのを覚えている。坂と言うより崖だ。よくもまぁこんな急坂を作れたもんだと言うような急坂で、転ばないように注意してたにも係わらずスッ転んでしまう。スティックを持つ手が離せないでコブシを強打してしまった。余りの急勾配なので起きるのがままならずにいたら後ろから来たフランス夫婦に心配されてしまった。幸い、擦り傷だけで打撲がないのが不幸中の幸い。合羽も破けてないしと喜んだけど、スティックが曲ってしまってた。使うことは出来るけど、短く縮めることは出来ないので帰りの飛行機に乗るときには1本は捨てることになりそうだ。昨年買ったばかりなのに、一年目でこれかー。

 イルンの管理人に教えてもらった安いオスタルを探したけど見つからない。この辺りに違いないと近くの洋品店で聞いたら、そこは廃業しただとーっ!!がっくし。じゃぁ第二候補のユースホステルを目指そう。雨が上がったけど雲が厚いためか、GPSが不調で現在地が分からない。でも3年前に泊まったことがあるので強気で地図だけで探すことにする。取りあえずはコンチャ湾をぐんぐん行けば左に入る道がある筈だ。多分この道で良いはずと思っても心配なので、向こうからやって来た地元のご婦人に尋ねるとOKとのこと。「シンプレ(単純・簡単かな)」と言っている。しかし、幾ら歩いても目指すユースが現れないので、やってきた年配の夫婦に再度尋ねるとアルベルゲならそこの教会に泊まれるとか言い出してラチがあかない。面倒なので「バレバレ(OK,OK)」と言ってやり過ごす。次に若い男に尋ねると、タブレットの地図をよく見て、ずっと左だと言われる。やっぱり道を間違えてたんだと嫌な予感が的中する。でもこの男は大雑把な教え方しかしないので、また近くの別れ道で悩む。この辺りの道はミミズの巣みたいにぐちゃぐちゃなのだ。兄ちゃんとの様子を見てたんだろね、道路反対側のおじさんから声がかかった。この人が良い人で、20分位を一緒に歩いて案内してくれました。地元の人しか歩かないような狭い路地をグネグネと進みユースの裏側まで来ると、あれがそうだから回り込めば入口があるよと言い残して戻ろうとしたので待ってて貰ってマリアカードと、前橋を発つときに見送りに来てくれた近藤さんが持たせてくれた新品の日本手ぬぐいをプレゼントする。おじさんは恐縮しながらも喜んで貰ってくれた。最後は握手してバイバイ。自分も困ってる人がいたら同じように親切にしようと思った。

 さて、話はここでめでたしめでたしとは行かなかった。タイトルが「踏んだり蹴ったり」だし。やっとのことでユースの受付に行くとコンプリートと残酷な答えが!!勘弁してくれ。3年前は予約なしでも難無く泊まれたけど、今回も予約はしてないので一抹の不安が現実になってしまった。「じゃぁ安いホステルを紹介してくれ。電話で予約もしてくれ」と、ズーズーしくお願いしたけどこっちも今晩の寝床があるかどうかなので真剣だ。予約してくれた宿は、迷わなくちゃ20分程で着くようだが、結局迷って地元の婦人のお世話になりました。無事にホステルにたどり着いてめでたしめでたしとは行きません(またか)。18ユーロとデポジットで5ユーロも取る癖に極狭の6人部屋2段ベッド上段。更に自分の陣地はベッド以外はバックパックが入るロッカーのみ。洗濯もできないしキッチンも食べるスペースさえなかった。アルベルゲの方が10倍快適です。ただしトイレとシャワーは6人部屋にひとつずつありました。もちろん部屋もトイレも男女共用。同じ部屋に年配の巡礼が居たのが唯一の救いか。

 気を取り直して、まずバルを探してビールを一杯とトルティージャで落ち着いてからスーパーでパン2種類とコーラ、ファンタを買ってきて自分の陣地で食べました。胚芽パンにムースチーズを塗ってコーラと共に食べたら取りあえず気が済んだ。長いこと巡礼の旅してるけど、2段ベッドの上で食事したの初めてだろう。最初で最後であってもらいたい。今日はハード過ぎて腰が痛いので湿布を貼って睡眠導入剤飲んでさっさと寝ます。明日もどうせ雨だし、ショートコースにする積もり。


北の道4へつづく