北の道9   犬のプライド

5/23 歩き7日目、ゲルニカのユースホステル。ロシアの女の子に会うといつも唯一知っているロシア語の「スパシーバ(ありがとう)」しか言えないでいたら、今朝は「ドーブロイェウートロ(おはよう)」と言うのを教えてくれる。でもアッと言う間に忘れる。この子とは3日ほど一緒になったが、今日を最後に会うことはなくなってしまったので、メモしといたロシア語も使う機会がなくなってしまった。

 ここは朝食が付くらしいのだが1階をどう見渡しても食堂らしきものは見当たらない。勘違いなのかなぁ?なので昨日買い込んだヨーグルトを談話室で食べ始めたらスペイン人が朝飯は上にあるよと教えてくれる。え?普通はキッチン・食堂は1階にあるものと思い込んでいたから、上の階までは行かなかったので気づかなかった。前に泊まった時もそれで食堂があることに気づかなかったのか。と言う事でエレベーターで移動。大きな食堂があり、そこから更に一歩ベランダに出ると大きな物干しスペースまであった。ぜんぜん気づかなかったよ。既に何人かが朝飯を食べ始めている。食パンの他に自分で切るための包丁まな板セットがあり横にバゲット。焼くためのトースターが2台、シリアルに牛乳、オレンジジュース、コーヒー、コラカオと、品揃えもまずまずあるので3年前は気が付かなくて惜しいことをした。持参の8Pチーズを近くの人たちに勧めてみたが、貰ってくれたのは三人だけだった。欧米の人に朝からチーズは重たいのかな?

 7:20出発。前を4人組が歩いているので何となく後を付いていったら路上にある筈のピカソのゲルニカ壁画を見ないで通り過ぎてしまったようだ。矢印どおりに歩けば脇を通ると思っていたが、ちょっとルートが違っていたらしい。楽しみにしていたのでチョット残念かな。それでも後戻りするほどでもないからそのまま4人の後に続く。その4人組がまた私の記憶と違う道を歩き出した。ま、付いていけばいいだろうと思ったが、すぐ迷いだしたようで交差点でキョロキョロしている。じゃぁ私の出番だ。調度そこはバスク独立の象徴の木がある地点だったので、誘導してやるとすぐ矢印が出現する。この道を歩くのは二回目だと得意げに言ってみる。

 町外れから急な上りが始まったが、20分歩くと少し楽になる。その後は一人旅になり反対方向に歩いてしまい20分のロス。一人で歩く時は常に神経を研ぎ澄ませていないと痛い目に遭う。特にボーっと歩けてしまえる舗装路が要注意だ。3時間近く山の中を歩き続け、見覚えのある石のベンチに到着。3年前はここに来るまでに迷ってしまい、別方向から歩いて来たら、このベンチで巡礼が休んでいる所を見つけて巡礼路に復帰できたと喜んだヘンな思い出のあるベンチだ。

 一山越える途中にあった山村の石垣に座ってヨーグルトを食べていたら大きな犬が寄ってきて催促するように吼えている。ヨーグルトが食べたいのか?スプーンですくったのを舗装路に垂らしてやったら匂いだけ嗅いで食べようとしない。パンを投げ与えてみたけどこれも食べない。でもワンワンと吼えるので何が欲しいのだろう?ためしに投げたパンを拾って手で与えてみたら、今度は食べたな。犬にもプライドがあるんかな。まだワンワン吼えてるけど、もうやらないからあっちに行け。犬がやたら吠えているからだろう、家人が窓の向こうから覗いているのが見える。この犬、写真撮っとけば良かった。

 舗装路を歩いていると「フリーダム バスク」と大きく書かれた文字が目に入る。独立するしないで揺れているカタルーニャは日本でも有名だが、バスク地方もガリシア地方も独立したがっているようだ。この三つは首都のマドリッドとは言葉も文化も違うので別の国と考えた方が良さそうなくらいだ。もしカタルーニャが独立に成功したらバスクの独立運動は活発になるだろうし、ガリシアだって続くだろう。そんな事態になったらスペインの弱体化は火を見るより明らかなので、スペイン政府は絶対にそんなことにはさせないだろう。

 12時半、ララベツの町に到着~。唯一の情報源 Gronze の距離情報が間違っていたらしく、予定より2時間も早く着いてしまった。アルベルゲはどこかなとキョロキョロしながら歩いていると、あのヒッピーみたいな爺ちゃんがベンチに座っていて、アルベルゲはあっちと指差して教えてくれる。近くのバルで4,5人の巡礼が休んでいるので自分もビール一杯だけ頼んで手持ちのチーズを挟んだパンで昼ご飯。殆どの巡礼は一休みしたら5キロ先のLezamaを目指して行ってしまった。ロシアのエラも休んでいたのでここに泊まってくれないかなと思ったが、同じように次を目指して行ってしまう。みんな予定が詰まっているのか、よく歩くよな。Lezamaの公営アルベルゲは夏季限定なので今は閉鎖されている。民間のオスタルに予約してあるのかも知れないな。

 4、5日を一緒になってるヒッピー然とした爺ちゃんもアルベルゲ前のベンチに引っ越して来たので一緒に写真を撮ってみる。見た目は何人か分からなかったが、話を聞いてみるとバスクのフランス人らしい。名前はジルベルトと言った。ローマから歩いてるようなことを言ってるが互いに片言英語なので良く分からない。

 時間になったのでチェックイン開始。ここのオスピタレラはまさか愛想の良いおばちゃんだったのでマリアカードをプレゼントする。スペイン人らしく名前はマリソルだった。大昔にあった映画「マリソルの初恋」を覚えていたので名前はすぐ覚えた。劇中歌の歌詞「めいこんふぉぉーおーるもー」というのを意味も分からずに未だに覚えているが、どんな意味なのかスペルが分からないので翻訳の仕様がない。しょーがないねーとは正にこんな時の言葉だ。


北の道10に続く