北の道14   名物アルベルゲ

5/28 Laredoの修道院付属のアルベルゲ。6時に同部屋のフランスおじさんの目覚ましが賑やかに鳴り出した。二段ベッド上段の場合は睡眠導入剤をいつも飲んで寝てしまう作戦なので、この時間までぐっすり寝られた。朝飯は7:15からなので少し前になったら最上階の食堂に移動。カステラとコーヒー・コラカオがちょこんとテーブルの上に載っているだけ。とても質素だけどここは修道院なのでこんなもんか。

 8:15、雨の中ラレドを出発してすぐさま道を間違ってしまう。昨日、紙に書いておいた船着場方面への地図が頭にあったのが災いして扇形の三叉路で別方向に歩き出してしまう。歩けば歩くほど目的地から離れてしまうという最悪のパターン。途中で間違えたことに気づき、地元の女の子に尋ねたところ、先に行くとサントーニャへの道になるような事を言うのでそのまま進むも、どうも違うようだと不安になる。雨だし人家からは離れているので歩行者はまったく見当たらない。三叉路の交差点に手押しボタンがあったので悪いけど車に止まって貰い尋ねるが、この人は不親切で適当なことを言ってブイーッと行ってしまった。まぁ、無理やり止めさせた自分も悪いんだが。仕方ないから凡その勘で方向修正して歩き続けると何とか海岸に到達する。海岸にさえ出てしまえば船着場はその左延長線上にあるのは明白なので気分的には上向く。靴が浸水しないように水溜りを避けながら先を急ぐ。

 船着場がある海岸に着いたところで時間を見ると25分のロスだった。もっと長い時間を迷ったと思うが意外と少なかったんだな。不安な時間というのは+αがあるってことか。ここは町はずれに現れたしょぼいリゾート地のようだが、渡し船に乗るためのチケット売り場なんかはない。乗る人は直接だだっぴろい砂浜に行かなくてはならないので知らない人は戸惑うかも知れない。

 ここの船着場は砂浜から渡り板を使って直接船に乗り込むスタイルなので桟橋のようなものはないのを覚えている。砂浜を進んでいくと前に二人の男がいたので心強くなった。コロンビアからの二人連れ。片言のスペイン語で交歓できるが知ってる単語には大いに限りがあるので、あとはボディーアクションだ。そうこうしてる間に船がやって来た。窓にはホタテマークがあり、れっきとしたカミーノ御用達船だ。前に乗ったときはある程度の人数が集まるまで出なかった記憶があったが、今回は三人しか乗らないのにすぐさま出航してくれる。2ユーロ。

 サントーニャへの船着場は良く覚えていたが、ここからのカミーノはまったく記憶と違っていた。矢印をよーくチェックしながら町の中へ。途中にバスターミナルがあって、バスを待っている女の子が日本人らしいので声を掛けるとブログで何度かやり取りしたことのある「たまゆり」ちゃんだったのでびっくりポン(ふるっ)。ついでにじぇじぇじぇ。同じ時期に北の道を歩く事を互いに知っていたが、私の一日前を歩いていたので、若い子に追いつくのは困難だから会うのは難しいと思ってた女の子。でも、たまゆりちゃんは雨の中を歩くのが嫌だと、このバス停からサンタンデールへひとっ飛びしてしまうそうだ。折角会えたけどこれでまた一日先を行かれることになった。互いのカメラで一緒に写真を撮ってバイバイ。

 この子はリアルタイムでブログを更新しているので、私と出会ったことが紹介されるかと何度か覗いてみたが、それはなかった。やっぱりバスでスキップするのはちょっと恥ずかしいのかな?私は楽するためのスキップはしなくて荷物の配送サービスも使わないのが唯一の誇りだ。今のところはそれを守り続けているが、偉そうなことを言って易きに流れた場合はどうなんかな?そんとき巡礼記には書かないのかな?

 サントーニャから暫くは巡礼が数人歩いていたが、やがて前後には誰もいなくなる。Caseilloの町にやって来ると道端の公園に手ごろなベンチとゴミ箱があったので、渡し船から降りたばかりだけど渡りに船と休んでいくことにする。靴と靴下まで脱いで大休止体制。ハムを挟んだパンとヨーグルトを食べる。こういうときに近くにゴミ箱があるなしは結構重要だ。巡礼がゴミをばら撒いたと言われないように、ゴミ箱がない場合はある所まで自分で運ぶことにしている。休憩している前を何度も会っている金髪で愛想のない女性が通り過ぎて行く。時間的に私のひとつ後の船で渡って来たのだろう。

 一休みしてから歩き出したところ、正面に特徴のある山が見えてきた。あの山に突き当たった所に今日の分岐点がある筈だ。右を行くとすぐに手を使って登るような急勾配になるが、それを過ぎると絶景が見られる。左は平坦な道を歩くことができ、暫く先で二つの道は合流する。3年前は絶景の道を行ったので今回は歩いたことのない右の道を行くことに前から決めてあるのだ。そこへ先ほどの金髪姉ちゃんが絶景コースの道から戻ってきた。あまりの急勾配に恐れをなしたらしい。凄く根性のある顔をしているが、やっぱり女性なんだな。

 それからグエメスのアルベルゲまでひたすら歩き続ける。山の中に入ってきて風景がグエメスぽくなってきたなと思ったところに「A500m」の看板を発見。AはアルベルゲのAなので、こりゃグエメスのアルベルゲはもうすぐだと糠喜びする。本当に糠喜びだった。あの看板は何だったんだろうな程、グエメスのアルベルゲは遠かった。記憶とまったく違うし、もしかして通り過ぎてしまったかなと不安になる。通り過ぎてしまったらサンタンデールまで16キロを歩かなくてはならない。ほとほと困ったのでタブレットのGPSを頼ろうとしても、これまたさっぱり電波を捉えてくれない。本当にNECタブレットは糞。

 昨夜のアルベルゲで一緒の部屋だったフランス親父3人組が歩いていたので、後に続くことにする。かなりの安心材料。ずっと歩いた先に見覚えのある曲がり角が現れたので、これでやっとアルベルゲが近づいたと確信できる。あー良かった。アルベルゲに到着するとすぐに「お昼は?」と聞かれたので「きえろこめーる(食べたい)」とお願いする。前回来た時も聞かれたのに意味が分からなくて食べられず、手持ちのクッキーで空腹を凌いだ思い出があったので、実は今回はその言葉を待ち構えていたのだ。同じテーブルでは顔見知りの韓国夫婦と昨夜のミサで一緒だった背の高いアメリカ人が食事中だったので片言英語で交歓できる。スープとパンだけの質素な昼飯だが嬉しいことに美味いワインまで出してくれた。日本と違って飲酒は夕方からという概念はないスペインばんざい。迷った分を入れると山坂混みなのに30キロを越えたろう。疲れたので腰が微妙なので残り僅かになった湿布を貼ってみる。大事を取って明日はショートコースにしよう。

 グエメスのオスピタレロにタブレットに保存してある3年前の写真を見せたら反応が凄かった。タブレットを貸してと他のスタッフにも見せて回っている。しかも間を空けて二度もやっている。北の道を2回歩いてこのアルベルゲにやって来る人はそれだけ少ないのかと思った。

 食事が終わってからチェックイン。受付の女性にマリアカードを上げたところ、カードを胸に当てて「パラミッ?(私がもらっていいのっ?)」と満面の笑みとキラキラした瞳で確認している。まぁ、本当はそこの壁にでも貼って貰おうと思ったんだけど、よっぽど気に入ってくれたようなので持ってきた甲斐がある。それとは関係ないと思うけど、案内された部屋は全て平ベットで夢みたいだ(3年前は3段ベットの部屋)。入り口には「Museo del Randrover」と書かれていて、シーズンが終わるとベッドは出されて表に停めてあるランドローバーの車庫になるらしい。

 金髪で愛想のない女性も到着してきた。慣れてきたのか、ぶっきらぼうながら話しかけてくれるようになった。名前も教えてくれてゾイヤと言った。珍しい名前だなぁ。ロシア系アメリカ人とのこと。それでゾイヤか。ロシア系なので元々が色白なのか、顔が真っ赤っかに日焼けしている。折角親しくなれたのに、明日はサンタンデールからバルセロナに移動してアメリカに帰ってしまうそうだ。仕事が待っているようだ。聞けなかったけど、来年続きを歩くのかな?

 7時半から大広間で恒例の大演説会。集まった人をざっと勘定してみたら40人はいそうだった。スペイン語を英語に訳してくれる巡礼を募って2ヶ国語でやってくれるが1ミリも分からない。コロンビア人が通訳をかって出たはいいが、英語がいまいちのようで考えながら通訳している。意味が分からない私はそっちの方が面白かった。それよりメシだよメシ。演説が終わってやっと夕食の時間になり全員がキッチンへ大移動。一皿目はカボチャの濃厚スープ。熱々でとても美味い。お待ちかねのワインも登場してきたので更に盛り上がる。酒が人と人との潤滑剤になるのは世界中同じだ。二皿目はパエージャ。これも美味いが肉の(たぶん豚)小骨が大量に入っているので安心して噛めない。下手すると歯がやられる。デザートは濃厚プリン。みんな美味いので明日のドナティーボは20ユーロに決定だ。

 3年前に演説係だったドイツぽい怖い顔をしたスペイン人がいたので変なスペイン語で言ってみると自分から「むちょあぶら(いっぱい喋った)」と言うので通じたようだ。とても嬉しそうに握手してくれたので一緒に写真を撮らせてもらう。ここグエメスのアルベルゲは名物アルベルゲ。噂に違わず今回も楽しいひと時になったので感謝だ。腹もいっぱいだし心までも満たされる。


北の道15につづく