北の道17  世界遺産アルタミラ洞窟

5/31 同じ部屋のコロンビア人たちは6時に行動を始めた。まだ真っ暗だよ。年配者ばかりの4人グループなので足の鈍いのを出発の速さでカバーする作戦のようだ。やはり同じ部屋のチャリのスペインおじさんも出発の準備を始めている。隣の部屋に泊まったハイジはまだ行動を起こさないようで静まり返っている。

 外に出てみたら大きな大きな黒いビニールバッグにコロンビアの人たちのバックパックがどっさり入っているようだ。荷札が括り付けてあり今晩のアルベルゲ迄配達してもらうらしい。年配者なので毎日こうやって重たいバックパックは運んでもらい、身軽になって歩き続けているようだ。全員が年配者なので、この手段なくしては歩けないのだろう。無理して途中で潰れて巡礼を断念するよりずっと良い。年配者には賢明な選択だ。

 3年前はこのアルベルゲで酷い腰痛を発症したので、今日は何とか記念日みたいなもんだ。今回は最初から無理をしない行程で歩いているので今のところは何の問題もないから気をつけてきた成果が現れているってことか。このままずっと故障なしで歩き通したいもんだ。7時20に出発。

 今日の巡礼路は前とは違っているようで、見覚えのある交差点からは別の道へと矢印は伸びていた。ふーん、まぁ矢印どおりに行けばいいんだろうと矢印に従って左の道に入っていく。すぐ田舎道になってゆるやかな丘を登ったり下ったりして前回歩いた幹線道路沿いの道とは大分違う。車が来ないのはいいことだ。地図で確認すると、やっぱり山方面に入って行くようだ。どこまで続くのか少し心配になったので地元の人に確認すると、ちゃんとサンティージャデルマルに向かっているようだ。その町からはアルタミラ洞窟へ行くことができるので、新しい巡礼路がそこを迂回されては困るのだ。そう、日本の教科書にも載っている石器時代に描かれた動物の壁画で有名な、あのアルタミラ洞窟だ。前に来たときは腰痛を抱えていたので見物どころではなかったが、今回は元気なので行く気満々。反対方向から巡礼がやって来たので、もちろん話しかける。何処へ行くのか尋ねると、私の出発地イルンだと言うので、自分はイルンから歩き始めたことを伝え、これを行くとデルマルかと再度確認する。一安心。

 前方にこじんまりした集落が見えてきて、近づくとちゃんとした町と言うか大きな村のようだ。入っていくとどういう訳か観光客ぽい人たちがうじゃうじゃいてやたらと写真を撮っている。そこでやっとこの町は中世の面影を色濃く残した観光地なのだと気づく。デルマルってこういう町だったのか。この町からアルタミラ洞窟へ行くためのバスが出ている筈。バス停に行くと顔見知りの女性巡礼がバスを待っていた。次のバスまで1時間半もあることを教えてくれる。こっから洞窟までは2キロ強のようだから、バスを待っている間に歩いて行けちゃうので歩きが仕事になっている私としては当然歩いて行く事に決定。洞窟まではひたすら上りが続くが、歩きやすい舗装路なので何てことなく30分でアルタミラ洞窟に到着~。門から入った所にチケット売り場があって、ここで買ってから少し離れた本館(?)に移動する。バックパック背負ったまま洞窟ツアーに参加できるとは思えないのでウロチョロしてたら預かり所を発見。無料で預かってくれるそうだ。引換証もちゃんと貰える。


 ここの洞窟は発見後にわんさか人が入った為に劣化が進んでしまったそうだ。なので現在は寸分違わぬレプリカを作って、我々はそのレプリカ洞窟に入れるとのこと。一度に入れる人数は制限されてて、運良くすぐのメンバーに潜り込めた。真っ暗な洞窟の中には随所に明かりが点いてるし、安全に歩ける歩道もあるので危険なことはない。ただ説明してくるのはスペイン語だし紹介プレートもスペイン語なので詳しいことはさっぱり分からない。それにレプリカと思っているので若干興ざめなところがあるのが残念かな。

 洞窟ツアーが終わると、好き勝手に他の展示施設を見て回ることができる。当時の暮らしぶりや壁画をどうやって描いたのかの説明が図やビデオで見られるのが面白かった。文字は読めないしね。目玉はレプリカの洞窟を背景にして、その前に大きなガラス板を配して、そこにホログラムのように当時の人間を登場させるシステム。思わずガラス板の後ろを覗いてしまう。

 一通り館内を見て周り、出口にあるチケット売り場まで戻ったらあのコロンビアのグループがやって来た。やぁやぁみんなも来たんだねと互いに笑顔で挨拶を交わす。このグループは私より1時間ほど先に出発したと思うが、追い越した覚えはないので中世の町でお昼でも食べていたのかも知れない。そして1時間半後のバスで到着したってことか。この人たちは今夜どこに泊まるのだろう?昨晩は予約ができない公営アルベルゲだったので、バックパックを送った先が満杯で泊まれない可能性だってある筈だろう?そんな時はどうするんかなと人事ながら心配になる。少し余計に金を出せばアルベルゲ以外の宿だってあるし、タクシーと言う手もあるので大丈夫なんだろな。おまけに4人なら何かあっても心強いし部屋貸しの宿が基本のスペインでは一人旅の私より安く泊まれるだろう。それにコロンビアはスペイン語ネイティブなのが最大の強みだ。

 アルタミラからは下りばかり歩いてデルマルの町まで戻って巡礼路に復帰。町を通り越して歩き続ける。町外れから巡礼路は山の中に入っていくようだ。記憶があやふやだが、前は酷い腰痛だったので山の中には入らずにこのまま幹線道路を行ったのかも知れない。今回はもちろん山の中へ入っていく。なんもない山道が続くが、そんな中に1軒だけポツンとバルが出てきた。へー、こんな所にバルを開いてお客なんか来るんかねと言うような所だが、1.5ユーロのコーラを飲みながら休んでいる間にパラパラと地元の人たちが昼飯を食べにやってくる。何もない山の中だからこそ離れた所からも客が訪れるってことなんかな。それなりに需要があるようだ。

 また暑い暑いと言いながら歩いて行くと、遠くに村が見え出した。あれが今日の目的の村なんかな?巡礼路は村に真っ直ぐに向かわずに、高い丘のてっぺんに誘導していた。丘の上にはポツンと教会があるだけ。うーん、こういうパターンって時々あるんだよな。余計な苦労を巡礼にさせやがってと腹を立てる時もあるが、今回は折角なので素直に回り道してお参りしていくか。


 教会の前まで来ると鉄柵が開いて男性が快く迎え入れてくれる。暖かいのと冷たいのとどっちがいい?とウエルカムドリンクの用意までしてあった。もちろん冷たい方。冷えた自家製ジュースを飲ませてくれ、これがさっぱりして美味かった。教会の中を色々説明してくれるのだがスペイン語なのでさっぱり分からない。適当に相槌を打っておく。今度はいったん外に出てから鐘楼に案内してくれるそうだ。鍵を開けた1階には立派な石の棺があり、これも説明してくれるがさっぱり分からん。立派なのだけは分かるので教会と深い関係の人なのか位は分かる。壊れそうな木の階段を登って最上階の鐘のある所へ到達。とても眺めが良い。眼下に見える村を指差して、あそこの建物がアルベルゲだよと教えてくれている。鐘も鳴らしていいよと言ったりミイラになったヤモリみたいなのを持たせてくれて写真を撮ってくれる。このミイラの由来がいまだに分からん。しかしサービスのしすぎだろう。3日振りにやって来た客をもてなす暇な店員のようだ。

 受付の所に戻り、今度は裏表とても綺麗にペイントした帆立貝を幾つも見せてくれ、その中から好きな物をプレゼントしてくれるそうだ。じゃぁ遠慮なくひとつ選ばせて貰い、私がこれまで付けていた小さな帆立貝は代わりにプレゼントさせて貰う。表に赤いボールペンで剣十字を描き、裏には「2017 Fisuterra」と自分で書いて来たものだ。互いの帆立貝を首に掛けて記念写真を撮ってハグしてバイバイ。回り道を面倒がってスルーしなくて良かった。こんな良い事もあるんだな。

 少し歩きCaborredondo という村に入ると少し前を菅笠の巡礼が歩いている。あんなのを被るのは日本人だけだろう。きっと同じアルベルゲに泊まる筈だからと想像して特に急いで距離を詰めようとしなかったが、この人はアルベルゲを素通りして行ってしまった。ちょっと惜しかったかな。

 オレナのアルベルゲに到着~。ここは二食食べさせてくれてドナティーボ。私は4番目の到着で日本人のSさんが既に入っていた。オレナは小さな村なので店がない。みんな買い物はどうしているんだろうと不思議になる。仕方なく村一軒のバルで高いビール大ジョッキ3ユーロ。バルは地元の人の唯一の社交場なんだろう、村人で大賑わいだった。ビールを飲んでいると男性巡礼が入ってきた。アルベルゲはすぐそこだよと教えると、何も飲まずに行ってしまった。アルベルゲの場所を聞きたくて入ってきただけなのかな?

今日の宿泊者は私を入れても5人だけ。ベッド数も少なめだし食堂もご覧のように広くはないので丁度良かった。夕飯は無骨なオスピタレロが作ってくれた無骨な料理でかなり質素。ドナティーボで食べさせてくれるんだから不平を言うどころではないけどワイン位は出してほしかったな。買えるものなら自分が提供しても良かったけど(安いの)、生憎この村にはさっきのバルが一軒だけで店なんかひとつもなかった。

 オスピタレロに聞いたところ、明日泊まろうと予定していたComillasの公営アルベルゲがクローズになっていた。こりゃ困った。公営がやってないと私営アルベルゲに巡礼が集中するだろう。私営は予約可能なので早く到着しても満杯の危険がある。Gronzeのサイトから同じ町の私営へ予約入れるとコンプリート。次にアルベルゲがある町までは+13kmで合計29km。この暑さでは辛い。bookingcomで同じ所を検索したら同じ私営を予約できてしまった。bookingcom恐るべし。オーストリアの婆ちゃんに明日のアルベルゲを予約したと言ったら「へーきへーき」と予約なしで平気だと言っている。大丈夫かな?次の行程の公営アルベルゲもクローズとのこと。今年はこういうの多過ぎるよ、困ったもんだ。


北の道18へつづく