北の道32  カテドラレス海岸計画 Ribadeo

6/15 Caridad のアルベルゲ。6時半に起きる。何も食べずに7時10スタート。空はどんより暗い。今まではアルベルゲで朝飯を食べることが多かったが、1、2時間歩いて休憩がてら朝飯にする方がいいかなと、歩くスタイルを変えてみる。今日は途中から巡礼路が二つに分かれる。3年前にマルテンと歩いた海沿いのコースが景色が良かったのでそっちを選ぶつもりが何となく歩いている内に内陸コースに入ってしまう。

 見た覚えのないミニ・サーキットコースが現れたので海沿いの道でないのがハッキリ分かった。あっちの方が景色が良かったのでちょっと残念かな。こっちは平凡で余り面白くない。道端の石に座り込んで朝飯にする。昨日作っておいたチーズとチョリソーを挟んだサンドイッチとリンゴ。前歯の差し歯が危なくなっているので大きなサンドイッチをぱくつくときは注意が必要だ。

 Brul、Tol と、ネットの紹介サイトGronzeにあった村を通り過ぎて行くと二つ目の分岐が現れた。上のホタテ貝には「Camino」と書かれているが、矢印がないのでどっちへ行けばいいのか分からない。作った人は貝殻の向きで分かるんだろうが、余所からやって来る巡礼者にはいまいち親切じゃないよ。ガリシア州ではホタテ貝の開いた方が進む方向で他の州ではその逆と言うらしいが(逆だったかな?)、それもマチマチで信用できない。ここは勘で歩きだす。まぁここの場合は間違ったとしても両方とも巡礼路らしいから大怪我はしないだろう。

 リバデオが近くなってきた町はずれでまた巡礼路が分からなくなる。ちょうどそこへ四つ角の向こうからパトカーがやって来たので走り出した車に向かって手で「カミーノはこっちかな?」と合図をしたら停車してくれて、わざわざ警官がやって来てくれる。「えーとね、リバデオに行きたいんだよね」と何となくスペイン語で言ってみると伝わって、「まっすぐ行ってどーとかこーとか」と教えてくれる。まぁ他の言葉は分からなくても「トドレクト(真っ直ぐ)」だけは聞き取れたのでお礼を言ってトドレクトに歩き出す。

 Figueras 村を過ぎると正面に大きな橋が現れる。あーここか、じゃぁ今日のアルベルゲは橋を渡りきった右にあるな。この橋が偉く高いところにあって距離も長い。下を見るのも怖くて出来ないほどの細い歩行者用通路をまっすぐ前だけ見てひたすら進む。渡り終えるとちゃんと矢印が続いているので、右に左にぐねぐねした道を進んでアルベルゲに到着。まだ時間が早いのか一番の到着でドアには鍵が掛かったままだった。張り紙を見たら「電話番号の所に電話するとブラックボックスを開ける番号を教えて」くれるらしい。ブラックボックス~?怪しい響きだが近くを見渡してみると確かにそれらしい金属の黒い箱が壁の上の方にあった。ダイヤルを合わせれば箱が開いて中にドアの鍵があるようだ。でもなー、電話は持ってないんだよ。こういう時にダイヤルをひとつ二つだけずらして施錠するズボラな人がいるので(自分)、試しにやってみるが箱は開かない。まぁそうだよね、駄目元だよ。

 しばらく巡礼は来なそうなので、地元の人に頼む作戦にする。ここは公園みたいになっているので前の道路をときどき人が歩いているのが幸いだ。あいつは駄目、こいつは信用できなそうなんて品定めしてると中年の夫婦がやってきた。あ、この人なら信用できそうだし親切そうだ。早速お願いするけど私のスペイン語じゃ伝えることができない。でも身振り手振りを加えて何とか伝わり電話して貰うと簡単に番号を聞きだしてもらえる。ムチャグラシアス、感謝して親切な二人の写真も撮らせてもらう。「1977」これがブラックボックスを開ける番号だ!!ここに書いても読むのは日本人だけなので地元の人間が悪用することはない。これ見てリバデオのアルベルゲに泊まろうとする日本人がいたら思い出してください。

 誰もいないアルベルゲに入ってベッドに荷を広げたら早速シャワーに洗濯。どこへ行っても最初にやることは同じだ。少ししたら顔見知りのアルゼンチン女性が到着。アウレイリオ達と一緒にいた女性だが、今日は一人で歩いているようだ。どうしちゃったんだろう、最後に会った時は男女二人ずつで歩いていたので恋のさや当てで火花が散ったのか!?と勝手なことを想像してみる。この人は牛と同じ鼻カンをしている。普通にしてればそこそこ美人なのに何が悲しゅうてこんな真似をしてるんだろう。親が見たら泣くぞ。

 次に到着してきたのは小柄なチャリのフランス婦人だった。公営アルベルゲでは歩き巡礼が優先されてチャリ巡礼は歩きが一通り入った後の5時くらいからチェックインしなくてはならないのが一般的な決まりなのだが、どっちみちここは管理人が来るのは夕方なので構わないだろう。ベッドを案内して上げて自転車が盗まれないように夜はここに置けば?と、管理人でもないのに何となく伝えてみる。

 何しろここリバデオに来たらカテドラレス海岸に行きたいので、地図を頼りにまず駅まで行ってみる。ここから駅までは30分も歩かなくてはならなかったが時間はたんまりあるので問題ない。アルベルゲは北の町はずれで駅は西の町はずれなので町を突き抜けて歩き続ける。着いた駅は無人駅だった。高校生のカップルがいたので、電車の時間を尋ねてみたが何を言ってるのか分からない。男のほうが「Can you speak English?」と英語で言うのだが、その割りに自分からは英語を話さないのでスーパー美少女の手前格好付けただけなのか?前にもこんな小僧に会ったことがある。中に時刻表があるようなことを言うので構内に移動。壁には簡単な時刻表が張り出されていた。どうも行きは1時間待ちの3時がカテドラレス方面へ行く電車で、帰ってくる電車はカテドラレス最寄の駅発が6:34らしい。3時の電車に乗ったとして、カテドラレス近くの駅から海岸まではそんなに近くないので往復40分は掛かりそうだ。しかも地理がまったく分からないのですんなり行けるとも思えない。帰りの電車に見事乗れたとしてもオスピタレロがやって来る時間に帰ることは不可能だからチェックインが出来ない。それを逃したら次は夜10時過ぎなので危険すぎる。取りあえず今日の所は諦めるのが賢明かも知れない。明日、歩いて海岸へ行って、見物したあとそのまま大回りして次のロウレンサまで歩く案を考える。一応、そのコースを想定して日本で地図も作って来たのでやって出来ないことはない。

 せっかく遠くの駅まで行ったのにすごすごと引き上げてくる。途中のスーパーで買出しして丸きり無駄足にならないようにしてみる。入り口には健康そうな青年の物乞いがいて手をだしてくるが、可愛そうでも何でもない身なりなので興味がない。1リットルビールにカットスイカ、トマト2、カット野菜にハム、スープの素にセブンアップ缶にYatekomoの不味いインスタントラーメンで7.95ユーロ。帰りの出口にさっきの物乞いはいなかったな。

 アルベルゲに戻るとスペインの凸凹三人組が元気に迎えてくれる。今日も若者二人と年配の人が一緒だった。若者二人は同級生か何からしいが年配者との関係が分からない。後から女性二人組が到着して来たので残り二つだけになった二段ベッドの上段を案内したげる。上段が嫌なのか部屋の雰囲気が嫌なのか、別の所へ行くと言ってるのでタブレットに登録してある私営アルベルゲとオスタルの場所を教えてあげる。私には快適に見えるアルベルゲだが女性だとそうでもないのかな。お嬢様か?

 二人が泊まらなかったお陰で後からやってきた二人のおばちゃんがその上段ベッドに泊まれることになった。管理人でもないのにまた案内して上げる。一人がスペイン語ぺらぺらだったのでスペイン人かと思ったが、この二人は互いに話すときはフランス語で、話の中でボルドーと言ったので数日前に歩きながら少し話したフランス人だったと気づく。

 食堂で明日のカテドラレス海岸どうする計画を練っていると、近くのテーブルで話し合っている声が聞こえてくる。まぁ聞こえてくると言っても勿論詳しいことは理解できない。その中でプラジャカテドラレスと言う単語が何度も出てきたので、私が行きたいカテドラレス海岸のことを話し合っているらしい。すぐ同じテーブルに移動して話に加わらせて貰うと、二人のおばちゃんもカテドラレス海岸に行きたくてオスピタレラと相談していたのだった。相談には凸凹コンビの兄ちゃんも加わっていた。前日からカテドラレス海岸に行きたいんだと言い触らしていたお陰でスペイン兄ちゃんが気を効かせてくれ「一緒にタクシーで行けば一人5ユーロで行けるよ」と提案してくれる。もちろんノータイムで話に乗る。帰りは列車で帰ってくることが出来るのでアルベルゲにバックパックを置いたままで身軽にカテドラレス海岸見物ができそうだ。明日朝はアルベルゲを最後に出発する人がドアを施錠するのでバックパックが閉じ込められるのを心配してるようだが、鍵をしまうブラックボックスの番号はこれだよと紹介すると喜ばれる。一度は諦めかけたカテドラレス海岸だが、これで行けることが決まった。嬉しい嬉しい。

 スペイン語が話せるおばちゃんの両親はスペイン・バレンシアの出身だった。それでスペイン語が喋れるのか。明日三人で巡礼路を離れて行動するには強い味方だ。このおばちゃんはラッフィー(写真左)でフランス語しか喋らないおばちゃんはファンス(右側。中央はアルゼンチン女性))と言った。名前は聞いてもすぐ忘れるので持ち歩く地図に書いておく。二人とも60代だがラッフィーの方が少し若いらしい。二人が来る前にベッドがいっぱいになればこの話はなかった。前の二人が別の宿へ行くと言ったお陰でカテドラレス海岸へ行くことができるし、フランスおばちゃん二人とはこの後サンチャゴまでの十日間を一緒に行動する旅の仲間になって行くので縁とは不思議なものだ。


北の道33へつづく