北の道39  ファンス故障する Sobrado

6/22 Miras のアルベルゲ。嬉しい朝食が用意されている。コラカオとトーストを数枚食べさせてもらう。籠の中のパンが減るとオスピタレロのおっちゃんがせっせと追加のパンを切ってくれている。出発の時、カイゼル鬚ならぬカイゼル眉の親切なおっちゃんと記念写真を撮る。おばちゃん達は7時ちょっとに出発し、自分はその30分後に出発する。すぐ昨日昼飯を食べたバル前に来るとTさんが待っててくれた。約束はしてなかったが、何となくそんな気がしていた。出発時間は互いに言ってなかったので結構待ってたんじゃないのかな?昨晩は団体の高校生がやかましくて参ったそうだ。やっぱりなー、あんなのと一緒だと不運としか言いようがないよ。引率の先生がしっかり管理してくれればいいが、放し飼い状態だとそんな憂き目に遭う。我々が泊まった公営は安いし静かだったのでTさんついてなかったね。気がつきにくいけど、公営アルベルゲの良い点は団体は泊めないってところがある。当然、学校などが主催する巡礼団は私営に予約を入れながら巡礼しなければならない。

 おばちゃん二人には中々追いつかなくて、2時間後に追いついたらファンスがラッフィーのスティックを2本借りて歩いているので変だな。ファンスは踵を痛めていたのだった。その歩く格好からするとかなり痛そうだ。ファンスは68歳、何が出てもおかしくない年齢だ。すぐにバックパック内の重たいのをこっちに寄こせと言うも、ファンスは頑なに拒む。バックパックを後ろから持上げてやると「ノーノー」とそれも嫌らしい。自分の力だけで歩き通すことに拘りがあるようだ。どこも悪くないのにバックパック配送サービスやバスを気楽に利用するお気楽巡礼者にこの姿を見せてやりたい。足を引きずって歩くファンスの横を元気な高校生の一団が颯爽と追い越して行く。みんなナップザックだけの軽装備。この子達に今のファンスの姿はどう映るのだろう。

 開店前なのか人気(ひとけ)のないアルベルゲがあったので、そこの椅子に座らせてTさんが痛み止めのジェルを塗って、私は痛み止めの錠剤を数回分上げてみる。すぐ水と共に飲んだので結構痛むらしい。多少は効いたのか知れないが、相変わらず痛むようで気の毒な格好で歩き続けている。こっちに重たい荷物を持たせればいいのにな。ファンスのスピードに合わせて三人ともゆっくり歩いていく。

 三年前に休んだ屋根付きのバス停があったので、ファンスを座らせて小休止。二人が中で食事をしだしたので、私も持っているパンを食べる。Tさんがまた痛み止めジェルを塗ってあげている。座っているファンスの前で跪いて塗っているその姿を見て「プリンセス」と言ったらラッフィーが声を出して笑った。

 バルがあったのでみんなで休んで行く。ファンスの調子が悪いのでなるべく休みを多目に入れた方がいいだろう。私はビールでおばちゃん二人は今日もアイスを食べている。アイスが大好きらしい。Tさんがカメラを渡してきて、おばちゃん二人と一緒の所を撮ってくれと頼まれる。奥さんが足を故障して巡礼路から離れている最中の友達に見せて上げたいそうだ。一人でもこのとおり楽しくやってますよとアピールしたいらしい。カミーノ初体験のTさんを一人おっぽり出した形になってる友達も、これ見たら安心するだろう。

 その後も痛そうに歩くファンスを気遣いながら歩き続ける。沼みたいな貯め池みたいな脇を越えてやっと修道院の高い尖塔が見えてきた。本日の目的地、Sobradoの修道院前広場に到着~。ファンスを石のベンチに座らせてラッフィーが何やらマッサージをしてくれている。できることはみんなするようだ。どれでも良いから効果が出て少しでも良くなればいいのだがな。

 修道院付属のアルベルゲはオープンが4時と遅いので他の巡礼達も思い思いに待っている。石段に座っているのもいれば広場のバルで寛いでいるのもいる。取りあえず長屋門を潜って中庭に入り入り口を見に行ってみよう。大きな修道院の建物には盛大に足場が組まれていて建物の全貌は見られなかった。もちろん時間前なので扉は開かない。近くにはスーパーがある筈なのでそれの下見もしてみる。

 やっと時間になったのでチェックイン開始。列を作ってぞろぞろ。私たちの前にはそこそこの人たちがいたので、最初に案内されたベッドルームは沢山の巡礼が入っていて少々せせこましかった。でも運良く次のベッドルームを開放してくれたので、割といい位置のベッドを取ることが出来たのでラッキー。早速シャワーだ。ここのシャワールームは入り口は一緒だが入った所で男女別になっていた。もの凄い水量のシャワーで、ボタンを押すと消火栓の勢いでお湯が飛び出してくる。うっかりしていると弾き飛ばされそうだ。隣の女性用シャワー室から「ウーララァーッ、ウーララァーッ」と大声が響いてくる。ファンスが大騒ぎしているようだ。山本リンダの歌で「うららーうららー」と言う歌があったが、あれはフランス語だった。でも本場のうららーは山本リンダの発音とはまったく別だった。ファンスはこのウララーが口癖らしく普段でも時々放っている。

 夕飯はスーパーから食材を買ってきてみんなでシェアすることになった。準備をするにはまだ時間が早いので、二人が修道院の中を見物しようと言ってくる。もちろんTさん共々付き合う。ここは決まった時間に修道院ツアーがあると聞いていたが、今は自由に歩き回っていいらしい。ここに泊まってベッドルームだけ経験したんじゃ勿体ない程の内容だった。すごい歴史を感じる修道院。3年前もここに泊まりたくてやって来たが、雨の中を歩き続けて来ての2時間待ちは辛すぎるのですぐ入れる私営に入ったという経緯がある。今回はぜひともこの修道院に泊まって中を見学したかったのだ。3年越しの願いが叶った。

 夕飯にはパスタを作ることになった。食材を切ってみたりパスタの鍋をかんましてみたり少しだけ手伝う。キッチンには幾つものグループが一斉に料理をしだしたのでコンロも順番待ちだったが何とか完成。みんなでワインも抜いてかんぱーい。隣の女性達が食べ切れなかったパスタを食べないかと勧めてきた。我々もパスタを食べたのでいらないかな。見たらカルボナーラだったので、イタリアのパウロが作ってくれた美味しいカルボナーラを思い出したので食べさせてもらおう。パウロの作ったのとは違ったが、これはこれで美味かった。

 ファンスの足が一向に上向かないので、とうとう明日はバックパックの配送サービスを利用することにしたようだ。その手続きのためにオスピタレロと相談している。これで幾らか楽になればいいのだが。明日はいよいよフランス人の道とアルスアで合流する。


北の道40へつづく