フィステラの道5  Muxia 2日目

7月9日
 ムシアの公営アルベルゲ、6時ころ起きだして1階のキッチンへ移動。まだ真っ暗だがキッチンの照明スイッチが見つからないので半分手探りで朝飯の用意をする。暗い中で昨日買っておいたインスタントラーメンにコーン缶詰を1缶まるごと入れて煮込んでみる。ラーメンかと思ったが麺ではなくベビースターラーメンのように粉砕してあるものだった。スナック菓子だったのか?袋の中には小さなスープの小袋が入っていたので、だったらスナックでもないんだな。スープを入れてみると手ごろな塩味だった。ヨーグルトも食べるが、折れたプラスプーンは捨てたのでプラフォークですくって食べなくてはならない。とても食べづらい。早く新しいプラスプーンが欲しい。ここのキッチンには鍋とコップはあってもフォークとスプーンがない。

 忘れ物がないように入念にパッキングして8時過ぎにアルベルゲを出ようとしたら、1階の玄関には鍵が掛かっていた。うーん、ここもそうか。2階には外へ出られる秘密の通路みたいのがあったのを思い出し、あれかと思って2階へ引き返す。内側からはガチャッと開けられるが外へ出ると自動でロックされ戻ることはできない。ルーゴのアルベルゲで締め出されたことを思い出し、出る前にもう一度忘れ物がないかチェックをしてから外へ出る。

 今晩泊めてもらう私営アルベルゲのオープンは12時と言われているので、取りあえず港へ行ってみる。スーパーで買っておいたペプシを飲みながら日記を付けていると、どうやらこれからフィエスタでもあるようで、警官が道路に三角コーンを並べ始めている。何があるんだろう?見た感じ、ロードレースかマラソンでもあるようだ。こりゃ暇つぶしにもってこいだな。

 バックパックをずっと担いでいるのも何なんで、アルベルゲに顔を出して置かせてもらうことにしよう。玄関に入っていくと昨日のおばちゃんとは別の男性が受付にいた。良く分からないスペイン語で交渉を始めると、おばちゃんが奥から出てきて「あら、ホントに来た」と言うような顔をしているので話が早い。バックパックはここに置いていいよと言ってるようなので、身軽になってまたレースの所に戻る。

 ゼッケンを胸に付けたランナー達が続々と集まってくる。中には手回しの競技用三輪車で出場する人が一人だけいて、コーンが並べられたコースで試走を繰り返している。子供と大人は別々に走るらしく、どちらの年代も百人くらいは集まっている。やがてスタートの時間になり、最初に手回し三輪車の男性がひとり飛び出した。続いて白バイ(スペインのは青いけど)を先頭に大人の集団が走り出した。どーっと勢い良く集団が走ってくるのは中々迫力がある。港沿いを走りぬけ、反対側の海岸線を回ってくるコースのようで、また同じスタート地点に戻ってきた。それを数周繰り返してゴールになるらしい。集団が戻ってくるとヤンヤの歓声が沸きあがる。

 どうやら3周してゴールになるようだ。三輪車の男性はマラソンのグループに抜かれることなく1着でゴールしてきた。そのあとはマラソンのランナー達がぱらぱらとゴールを果たしてきた。さすがに一着の男性はテンションが高くなっている。何人も続いて男性がゴールして来た中に最初の女性がやってくると、司会のおっちゃんが一際騒ぎ出した。どうやら混合で走りはするが男女別レースなのが分かった。

 元気に戻ってきて応援に応える人やヘロヘロ状態で戻ってくる人と、色んなランナーがいて飽きない。途中で力尽きる人もいるんだろうが、ここはゴールの近くなので、そういう人を目にすることはなかった。

 12時になったのでアルベルゲDelfinにチェックインしに行く。大きなガラス窓にイルカのイラストがあったので、あー、デルフィンはドルフィンのことかと分かった。今日は私営アルベルゲなので三日ぶりにWi-Fiがあった。MUXIA(ムシア)の私営は平均12ユーロだが、ここはちょっとだけ町外れなのか、ここだけ10ユーロだ。安いのに平ベッドが6つに二段が5台。こっちとしたら願ったり叶ったり。先客が一人だけいて奥まった平ベッドにバックパックを置いて確保していたが、人の姿は見えないので連泊のようだ。沢山残っている平ベッドのひとつを無事に確保。

 昼飯にはスーパーで買っておいた残りのカット野菜に、ハム、チーズを入れたスープを作り、缶ビールも飲んで外から丸見えのくつろぎスペースで頂く。外からだと少し抵抗があったが、中に入ってしまえば素通しのガラス窓は大して気になるものでもなかった。それより気になるのは中高生くらいの息子がここのソファーに腹ばいになってゲームをしてることだ。日本じゃ有り得ないがこっちではこれが普通なんか?ムシアではもう1泊する予定なのだが、こんな子供が泊り客と一緒に寛いでいる宿も落ち着かないので、明日は2年前に泊まったことのあるベラ・ムシアに移ろうかな。

 ムシアに来たなら北の外れにある石の舟の教会と海岸は見逃せない。て言うか、ムシアへやって来る全員がそこへ行くために来るんだから。と言うことで、海岸へ行く途中にベラ・ムシアの下見にも寄っていく。べラ・ムシアは1泊12ユーロとデルフィンより2ユーロ高い。全て2段ベッドだがプライバシーに配慮したベッドルームでベッドごとに照明とコンセントが用意されているのを覚えている。キッチンも広くて綺麗で申し分ない。がきんちょがウロチョロしているデルフィンよりポイントは高いだろう。

 海岸はいつものように荒々しい波が打ち寄せていた。アメリカ映画「The Way」は息子をサンチャゴ巡礼で亡くした親父が旅の最後にここムシアの海岸で息子の遺灰を撒くシーンが印象的だ(蛇足ながら主演はマーティン・シーン)。そこの場所をカメラに撮りたくて、The Wayでのそのシーンをタブレットにダウンロードしてある。今回のムシアはそれを撮る楽しみもあった。タブレットの写真と見比べながら、ここかなここかなと思われる所を数枚カメラに収めるが、若干違う気がして確信が持てない。

 岩場の海岸の後ろにはムシア全体を見渡せる丘があるので、今回も上ってみる。どうせ暇だし重たいバックパックを背負ってないので丘なんて朝飯前だ。頂上には数人がいただけなので自由気ままに周りの写真を撮ることができる。人が少ないのはいいことだ。

 丘の上り口に降りてきたら、フィステラへの道標が立っていた。へー、こっからフィステラへの道が始まってるのかと新発見。道標に従い歩いていくとベラ・ムシアの前に出た。海岸へはこういう行き方もあったのかと新発見をする。これで海岸への行き方を3通り見つけたことになる。

 今日は日曜日で買い物ができないから、久しぶりに定食を食べることにする。海岸に沿ってバルなどが沢山並んでいるので、端からメニューをチェックして、一番安いペリグリノ・メニューの店に決める。定食にはMenu del Dia(本日の定食かな) とPerigrino Menu(巡礼定食)があって、もちろん巡礼定食の方が何かとありがたいことになっている。高めの定食は12ユーロなんてのもあるが、ここんちの巡礼定食は9ユーロだった。当然、巡礼定食を注文。一皿目にはソパデガジェゴ(ガリシア風ジャガイモのスープ)近くのテーブルにはソロの若い女性がいるがコリアンか日本人なのか判別できないし若い子は面倒なので声をかけないでおく。

 後からソロの女性巡礼が入ってきて隣のテーブルに座った。こちらはそこそこ年が行ってるので話しかけてみる。アルゼンチンからなのでスペイン語だ。英語は喋れないらしい。私のスペイン語の先生はアルヘンティーナだと言って盛り上がる。

 今晩は昨日私が泊まった公営アルベルゲで、明日はどこに泊まろうかと言ってるので私のとこは10ユーロで平ベッドだよと片言スペイン語と身振りを交えて教えたる。私の定食に付いてきた白ワインは小さなデカンタだったので、さっさと飲み終わってしまったが、彼女の定食は赤ワインのフルボトルだった。赤の方が安いってことなんかな。グラスが空になっている私に1杯注いでくれる。

 彼女が歩いた道は、リスボンからポルトガルの道を来たそうだ。アルベルゲがなくて苦労したらしい。昨年歩いた写真はカメラの中に全て入っているので、その中からポルトから歩いたポルトガルの道の写真を見せて盛り上がる。同じメモリカードを持って来たので良いことがたまにある。一緒に写真を撮り、アスタルエゴと言ってバイバイする。

 次の巡礼に出られるとしたらマドリッドの道とリスボンから歩くポルトガルの道と決めている。ポルトガルの道はリスボン・ポルト間にアルベルゲが殆どないという情報は得ているので、やっぱりなーと少々不安になった。金に糸目を付けないのならレジデンシャルとかオスタルに泊まれるだろうが、節約を旨としている私には課題が多いポルトガルの道だ。アルベルゲなら私営でも10ユーロと安く泊まれるが、それ以外だと安宿でも30ユーロ前後か。安宿がなくホテル泊まりなら100ユーロも掛かってしまう可能性がある。恐ろしい。

 アルベルゲにはコリアンの二人組みが隣のベッドに入ったほか、数人が入っていた。それでも定員17に対して宿泊者は7人だけだった。

 ムシア迄来たので、ここで穴開き靴下には暇を出すことにする。ここまで履いたら誰も惜しいとは思わないだろう。と言うか、今の時代ここまで履く人いるのかな?


フィステラの道6へつづく