フィステラの道7 Muxia - Fisterra  最後の地フィステラ

7月11日
 昨日、食べ切れなかった豆のスープを温め直して残りの玉子3個を投入。ヨーグルトも2個食べて朝飯とする。胃腸のコンディション維持のためにヨーグルトは大事。今日は長距離を歩くので出発前に腹を満タンに出来たので良かった。

 今日、サンチャゴへ帰らなくてはと言っていたイタリアの二人組はシェアする人が一人加わったようで三人に増えていた。予約しておいたタクシーが迎えに来て夜明け前に出発して行った。更に一人別のアルベルゲから乗るらしく、道案内をするのか宿の人が乗り込んで行った。色んな方法があるんだな。

 タクシー代はサンチャゴまで70ユーロだそうだ。おっとろしいな、自分としたら3日分の生活費に値する。自分がそんな目に遭わないのを祈るばかりだ。そんな罰当たりなこと祈らないけど。

 薄明るくなってきた7時にスタート。巡礼最後の地、フィステラを目指す。まず公営アルベルゲまで行ってから脇の道を北上してフィステラへ通じる海岸沿いの道に出る。町外れでコリアンの男性巡礼と挨拶、一瞬で抜かれる。出来れば後を付いて行きたかったが、とても足が速いので追いつくのは無理。その後はずっと一人歩きになる。

 朝の清々しい空気の中を歩いてられるのも、この道の大きな醍醐味だろう。大きくえぐられた湾の向こうに朝日が射してきた。ちょうどあの辺りが新しいリゾートホテルぽいのを作っている筈だが、2年前にみたのと同じくまだ工事中のようだ。スペインあるあるで始めたはいいが途中で資金が足りなくなって空中分解したのかも知れない。

 丘を登りきったら遥か先まで見渡せるようになった。一番奥の山の向こう側がちょこんと高くなっているので、そこがフィステラ岬の気がする。フィステラはこの半島の先端だから多分そうだろう。3日振りのバックパックは少々重たかったけれど、これが最後のカミーノと思えばやる気が沸いてくる。

 9時半ころから反対側からやって来る巡礼者とすれ違うようになる。時間的にフィステラをスタートした人がここまで来られる筈がないから、途中の村、Liresをスタートした人と思われる。Liresには私営アルベルゲのほか、オスタルなど数件が集まっているので、いっぺんにフィステラ、ムシアを歩かない人には好都合の村だ。

 今日二人目、珍しくフィステラを目指す女性に追いついたのでスピードを落とし抜かないで離れたところを付いて行く。そのほうが楽しいので。ちょっとストーカーぽいかな。

 以前は川の中を歩いたと言う巡礼路が見えてきた。女性が立ち止まって川の中を見ていたので、川の中を指さしながら「おーるどかみーの」と変な英語で何となく伝えてみる。この新しい橋ができる前は、下に見えるコンクリートの塊の上をズボンを巻くしあげてジャブジャブ歩いたと言う嫌な名所だ。ここは車が通れるほどの道幅があるので、巡礼者のためだけに作られた橋でもないだろうが有難い話だ。

 10時15にLires村に到着。2年前に泊まったアルベルゲ兼バルは巡礼路から100mほど離れたところにあるので今回は寄らないで通過する。そこから30分歩いた村はずれに石のテーブルと椅子があったので靴下まで脱いで大休止。足が汗で湿るとマメが出来やすいので乾かすのは大事。ビスケットみたいのを食べて腹ごしらえもしておく。こういう休憩スポットが所々にあると助かるのだが、そんなにあるものではない。休んでいる前をソロの女性巡礼が通過して行った。

 村はずれの細い道の真ん中に大きな犬が寝そべっていたので、緊張しながら隣を通過したところへ離れた家から声が掛かった。そっちはカミーノじゃないよと言っている。えっ、と思って犬の所まで戻ると確かに黄色い矢印があった。犬に気を取られて見落としてしまったのだ。グラシアスと大きな声でお礼を言って脇道に入って行く。

 山の中なのにパラパラと人家が出てきたので、今までの田舎道とは少し感じが違うな。多くの家が犬を飼っていて、繋がれてたりフェンスの中の家は例外なく吠え立ててやかましい。放し飼いの大きな犬もいたが、そういう犬の方が自由に動けるからか吠えることもなく大人しい。

 そろそろフィステラが近づいて来たのかなと思われるほど人家が増えてきた。前方に三叉路が見えて、ムシアへ向かう女性巡礼が別方向に歩いているのが目に入る。「おーい、カミーノはこっちだよーっ」と手真似と声で教えた積もり。一人が気が付いて、もう一人に声を掛けてストップさせた。三叉路で合流してみると、さらに200mくらい先へ行ってしまった仲間が二人いた。合計4人で巡礼しているらしい。一生懸命大声を出して呼び戻そうとしているが、遠いので気が付かないまま先へ進んでしまっている。今度は一人が大きく指笛を鳴らしだした。へー、女性でも指笛吹ける人がいるんだなぁと感心する。それでも気が付かないので、とうとう一人の女性が走って追いかけだした。

 一人居残っている女性と変な英語でお喋りして待つことにする。4人で歩いているが、全員がソロだそうだ。途中で気があって一緒に歩いているという、カミーノではどこにでもあるお話し。オーストラリアとカナダだったかな?どちらも英語がネイティブなので、そりゃ話も気も合うのだろう。日本語が通じる人に会えるのは千人に一人もいない私としたら羨ましい限り。3人が戻ってくるのを確認してブエンカミーノと言い合ってバイバイする。

 2年前にドイツのイーデンと同じようにフィステラからムシアへ向かう途中に道を間違えたことがあった。どこで間違えたのかさえ気が付かなかったが、きっとこの同じ三叉路だったのかも知れないと思った。そのくらい間違え易い分岐だった。道標があるにはあるのだが、道から引っ込んでいるので、前を向いて歩いていたらこれは普通に見落としてしまうだろう。でも間違った道を歩いていても、左側は海なので丸きりの方向違いへは行かないので心配するほどでもないのがこの道だ。

 見慣れたフィステラの町に入ってきて、予約しといたアルベルゲ、POR FINには2時に到着できる。予想したのより1時間も早い到着だ。このアルベルゲは「ハンガリアン アルベルゲ」と大書きしてあるので、どういう意味があるのかな?ムシアで泊まったアルベルゲもハンガリアンと書かれていたし、ハンガリー出身の人は何か自国に強い思い入れがあるのかも知れない。

 中に入るとオーナーのマダムがいて、すぐ予約してある日本人だとわかってくれる。予約は楽だね、着いて名前を言う前にあちらから名前を呼ばれた。ウェルカム・コーヒーらしき物を淹れてくれ入り口の鍵を渡される。予想通り10ユーロと私営としたら最休。キッチンに置いてあるコーヒーや紅茶などは好きに飲んでいいらしい。フィステラ岬のサンセットは10時15と教えてくれる。

 フィステラには結構なスーパーがある。一息入れたらお買い物しに行く。今日はスイカを買って食べよう。それにいつもの1リットルビールにヨーグルト4、ムースチーズにチョリソー1袋でも5ユーロ弱なので円なら600円ちょいだ。1リットルビールという量は日本なら350ml缶が3本だ。日本で600円ちょいと言う金額ではビールしか買えないだろう。ここならビールに加えてたっぷりのツマミにスイカまで買えてしまう。安くて涙もんだ。スーパーで塗るチーズが欲しかったので、目星を付けたのを持ってレジの女性に聞いたら、これはマーガリンとのこと。字が読めない可愛そうな東洋人を希望の商品棚まで連れてって教えてくれる。教えてもらって助かった。でなかったら使い道の乏しいマーガリンを買ってしまっただろう。

 アルベルゲに戻って塗るチーズを昨日のパンに塗って食べる。旨いです。スペインのスイカは種ごと食べられるのでとても簡単。いつも4分の1サイズを買って食べている。今回そのスイカが大外れで中間までスカスカ。その下はちゃんとしていたが、こんなの売り物にしていいのか?

 10時15を20時15と勘違いして、19時になったので3キロ離れた岬まで歩いていく。今更だけど歩くしかないし。岬に向かって歩いている途中にミニ公園があって、そこにテントを張っている人がいた。へー、こんな所で寝られるのもいいなと見ているとパトカーがやって来て前に止まった。警官が降りて来て車内に置いてあった帽子をしっかりと被ったので、これは自分を正規の警官と主張するんだなと思った。テントの若者に声を掛けて何やら伝えているが、声は聞こえなくても状況で分かった。ここにキャンプしてはいかんと言っているのだ。若者には気の毒だが、考えようによっては交通量の多い道路わきに一晩いて事件に遭っても叶わないだろう。もっと安全な所を見つけてくれ。

 岬であちこち写真を撮りまくる。当然、20時15じゃ日没にならないのでサンセットもなし。この時点でまだおっかしいなー陽が沈まないなーと気が付かない間抜け具合。8時15はスペインではまだ昼間で日没は22時15だった。あと2時間も待つのは嫌なので帰ることにする。今日はガスっているので、きっと午後10時過ぎても夕日は見られないだろうと負け惜しみを言ってみる。

 この近くで着ていた物を燃やしているバカがいた。現代の衣類は化学繊維なので嫌ーな匂いが漂っている。大きく燃やしてはいけないと書かれた看板があるのに、こんな馬鹿がまだいたんだ。臭いし真黒な煤が景観を汚すし誰が後始末をしていると思っているんだろう、地元の巡礼友の会ボランティアの人たちです。

※お役立ち情報
  とは違うが、地の果てフィステラ岬で巡礼中に着いていた衣服を燃やして、自己の再生を願うと言う悪習がありますが、臭い汚す火事になると言う理由で現在では禁止されています。大きく禁止の看板も貼り出されているのに、こういうアホがまだいます。

 写真は濃い霧に煙るフィステラ岬の灯台と、ムシア・フィステラ間に加え岬の往復6kmが加わったのでめでたく5万歩越えした万歩計。

 そう言えば3週間前にサンチャゴで別れたフランスの3人組がフィステラに到着した写真を送ってくれていたのだった。私がプリミティボの道を歩いていた時に、3人はすでにフィステラに到達していた。ギャエレは相変わらずテンションが高そうだしリリアンおばちゃんも清々しい顔をしている。私より年上だが、この写真から想像すると、若い頃はさぞや美人だったと思われる。ルアンもいるし、3人はまた一緒に旅を続けていたようだ。その日のフィステラは羨ましいほどの晴天だった。奇麗な夕日が見られたかな?

 町まで戻ってきてスーパーへ寄り、サンミゲールの缶ビールとKASのレモンソーダにミニクロワッサンの大袋で1.91ユーロ。昼間買って大外れだった同じスイカをまだ売っていた。店の人、それ食べてみてくれよ。

 アルベルゲに帰って夕飯にする。サンミゲールのClaraと言うビールはレモン味だったのでビックリ。アルコールも低めで3.2%しかなかった。ビールのレモンジュース割りと言うところだ。

 私のベッドの上段にはサイクリストが入っていた。隣はムシアからの顔見知りフランスおじさんで愛想が良いようだ。バスがスト中なので、アルベルゲはスカスカと予想していたが、ベッドの上段にまで客が入っていた。POR FINは休めなので人気があるのかも知れない。


フィステラの道8へつづく