銀の道2  セビージャ - Guillena   道がない!

4月28日
 朝の7時すぎ。昨晩からの雨が元気良く降り続いてます。昨日、夕飯を食べながら明日までには止んでくれるだろうとの期待はあっさりと。
 ドミトリーの朝食サービスを食べさせて貰ったときに天気の具合を聞いたら、ずっと雨らしい。聞かなきゃ良かった。初日に雨スタートは嫌なんだが。
 次にアルベルゲがある町までは23km。そんなバカ遠くないのがせめてもの救いか。

 今日は私のカミーノ遍歴で記録に残る日となりました。雨の中を歩き続けるのは珍しくもないですが、今回は一味も二味も違ってました。

 銀の道での名物に水溜まりをジャブジャブ越えると言うのがあるんですが、どのブログを読んでも水たまりを越えるエピソードが掲載されていました。私に取っては出発前からそれが一番の驚異でした。昨日からの雨が災いし、早速それが現れました。銀の道の水溜まりは他と違って、避けようのないのが特徴です。脇を行こうとすると深みにハマるのです。それが最初に出現した場所は延々と麦畑がうねりながら続く道で、地平線が前にも後ろにも見えてます。そのどっちにもひとっこ一人いないと言うシュールな状況。昨日から降り続いている雨水が麦畑の谷部分に集中して川を形成してるのです。

 上の写真、分かりますかね?雨のためにレンズの開閉が中途半端になってますが、真中が道で両脇は洪水状態です。左の方が少し高くて堰を切った水が右側に流れ出しています。冷静に考えたら、こんなとこ近づいちゃいけない所だと思うけど、ここを行くしかないと思い込んでいるのでずんずん進んでいきます。
 初めの数回はくるぶし程度だったのが、膝小僧までの深さになってきました。この深さの流れでは足がすくわれる危険を感じました。足元の水面を見ながら歩くと、それだけでフラフラーっと流れに持ってかれそうなので、ひたすら前方だけを見て踏ん張りながら越えました。一寸油断すると悲しい結果が目の前にぶら下がってます。膝までしかないのに流れる水って怖いんだと感じました。越すに越されぬ大井川は江戸時代の旅人に取って本当に驚異だったのが実感できました。

 そこまではまだクリア可能な障害でしたが、最後に現れたラスボスはレベルが違いました。正真正銘の川です川。一級河川並です。ゴウゴウと流れてます。

 どうすんのこれ!!と思案して持っているスティックをつんつんと水の中に差し込んで深さを測っていると、対岸の車からセニョールが降りてきて何やら叫び出しました。スペイン語なので意味不明ですが、両手を腰に当てているジェスチャーで全て理解しました。そう、この流れは入ると溺れるです。きっとこのセニョールはやってくる巡礼者が溺れないように雨の中をずっと見守ってくれていたのかも知れません。グラシアス セニョール。

 右に迂回しろと言ってるようなので、グラシアスと言って迂回路を探すと、地面に木の枝を並べた矢印を発見!あっ、これネットで見たことある。ここだったんだと喜んで藪をかき分けて入って行くと流れにスノコを並べてあるのが見つかりました。あれー?でもこれってもっと水量が少ない時には有効だけど、今日の流れじゃ役不足だよな。試しにスティックでスノコを突ついてみるとグーッと底なしに沈んでしまいます。その先を見ると、仮にスノコで渡ったとしても(渡れないが)その先は中之島状態でメインの流れが後ろに控えているのは容易に想像できます。状況は悪化するだけだろうと確信できるので残念ながらこのルートは却下です。

 急に今の危機的状況が理解できて、こんな呑気なことをやっている内に周りを水に囲まれたら溺れてしまうことに気付きました。怖くなって少しでも高い所を目指そうと、膝丈の流れをまたふたつ超え、もと来た道を戻ってう回路を探すも近くにはありませんでした。渡れる場所を求めて泥どろの道を歩くことしばし、高速道の脇に細い道を発見したので行ってみるも、これもさっきと同じように流れを越えられない道でした。

 遠くにトラクターを見つけたので、こっちに来い来いと念じていると本当に来たので変なスペイン語で事情を話すと、この辺りでは良くあることらしく、離れた舗装路を教えてくれました。どこまで続いているのか分らないけど、方角だけは私の目指す方に伸びているのでこれを歩くしかありません。雨のなか、タブレットを出すのは面倒なので行けるとこまで行けな気持ちだったので、歩き続けた先の標識に右に進路をとれば目的地のauillenaの文字を見つけた時は嬉しかったです。めでたしめでたし。

 雨の中を歩き続けて、やっと見つけた公営アルベルゲは何故か扉が閉ざされています。まだ管理人が来ないのかなぁ?表の張り紙を見ると電話番号が書かれているので、携帯を持っていない私はやって来た地元の人に電話してもらおうと呼び止めると、なんとこのアルベルゲは閉鎖されているとのこと。ガビーンです。当てにしていたアルベルゲだったので途方に暮れました。このアルベルゲ情報しか持っていなかったので。道行く人に他にアルベルゲがあるのか聞いたり警察署に教えてもらったりとアルベルゲ探しも一筋縄とは行かなかったものの、ようやく私営のアルベルゲを見つけて落ち着くことができました。地獄に仏の気分です。

 こんな雨の日なのにアルベルゲの中には沢山の巡礼者がいました。歩いているときには誰にも会わなかったのに、いったい何処を歩いていたのでしょう。迷っているときに姿を見られたらどんなに心強かったか知れません。

 上段ベッドをあてがわれたので、下段が好きだと言うもありませんとの返事。その後やって来た巡礼のためにソファーにシーツを引き出したので、こっちの方が好きだと言ったらあっさりベッドチェンジ成功。それがこの一枚です。隣のソファーにはオランダのベンが陣取りました。ベンにはこのあと何度もお世話になることになります。

 ベッドも確保できシャワーも浴びて一息ついたところでミニ雑貨屋からビール、チーズ、ハム、パンを仕入れて至福の時間です。明日は天気も良さそうだし距離も短いので余裕の一日になるでしょう。
・・・と、これは糠喜びになるのですが。

銀の道3 へつづく