銀の道12 Merida - Carrascalerjo  たった一人で

5月8日
 私はスペインに到着する日と離れる日が決まっているので、そこだけは宿を予約しているのだが、いつもHotels.comという、世界中の宿が予約できるサイトを利用している。そこは10泊ごとに1泊が無料になるという有難い特典があって、今まで特典は2回使わせてもらった。ただし、ホテルの価格は過去10回の利用料金の平均なので、私の場合は安宿しか泊まれないが。

 今年は既に1泊分の特典があるので、ここメリダで連泊しようかと思ったが、このアルベルゲにはWi-Fiがないので予約どころかホテルのチェックすら出来ない。私営のアルベルゲの場所も確認できなかったことだし、連泊は諦めて出発することにする。

 狭ーいキッチンで立ったまま簡単な朝飯にして8時出発。次に予定しているアルベルゲまではたったの16kmなので、早めに着いてゆっくり養生する作戦だ。メリダで2泊することを考えれば十分な距離だろう。

 メリダの町外れまで来たらローマ時代の水道橋が現れた。これ見たかったけどどこにあるのかも知らないし遠回りも嫌だったので、偶然見られて嬉しい。これって巡礼路沿いだったんだ。
 途中で誰か亡くなった人の墓碑が立っていた。メリダの町からそんなに離れていないのに、こんな所でも人間て死んじゃうんだな。

 田舎道になったら、今度はローマ時代の人造湖が現れた。千年以上昔なのにこのスケールの人造湖を良く作ったもんだと呆れる。日本なら縄文時代じゃなかろうか。土で鍋を作って喜んでいる時代だよ、凄いねローマ帝国。所々に説明の標識が立っているので文字は分からないけどいちいち覗いていく。その脇を昨日の謎のカップルが通り越して行く。どういう組み合わせなのか興味が沸くが、凄いオーラにオラと言うのがやっと。

 10:50、疲れてきたころ手ごろな木陰があったので靴下まで脱いで大休止。マメ対策で足を乾かすことは割と大切だ。
 今日は朝から膝が痛くないので具合がいいが、何かの拍子に痛くなりそうなので慎重に歩き続ける。階段があると痛くない方の足で一段上がり、続いて痛いほうの足を揃えて一段ずつ上がるようにしている。これ結構大事な気がするので面倒でもやった方が身のためだ。どっちみち普通に上がること出来ないし。

 ずっと緩い上りが続き、上り終えたらそこが今日の目的地 El Carrascaleho の村だった。とても小さな村で、スーパーなんかは無さそうなのが分かった。村を通り過ぎた所に真新しいアルベルゲがあって、完成からまだ1年しか経ってないそうだ。12時と早めだがオスピタレラがいてチェックインできる。ここは公営アルベルゲにしては珍しく3食付で27ユーロだった。高め設定だが、コルドバの安宿が素泊まりで30ユーロだったのを思えば破格の値段だろう。取りあえず缶ビールを1杯戴こう。

 広い建物には幾つかベッドルームがあって、私は2段ベッドが3台ある部屋をあてがわれる。旨くすると独り占めか!?感じのいいホスピタレラに日本から持参の和風マリアカードをサンタマリアデハポンと言いながら上げる。このカードは上げた人全員が喜んでくれるので持って来た甲斐があると言うもんだ。シーツと枕カバーに新しぽい毛布を支給されたので、今日は寝袋じゃなく毛布で寝てみよう。新しそうだからダニもいないだろう。寝袋のパッキングは朝の忙しい時にそこそこ手間が掛かるので、その作業がないのはありがたい。

 シャワーは暫く出しておいたら熱いのが景気良く出てくるようになったので、少しでも改善するように腰にたっぷり浴びておく。洗濯場はどこ?と聞いたら、無料で洗濯機を貸してくれるそうだが、日本の洗濯機も良く分からないのにスペインのが使える筈がない。操作もお願いする。洗剤も入れてくれてスイッチオン。

 金を入れておくビニール袋が見当たらないので、ポケットに入れたまま洗濯機に入れたかと思って、お姉さんにお願いして一旦止めてもらったが、勘違いだった。止めたついでに入れ忘れた白のTシャツも放り込ませてもらう。いつも手洗いなので、白は段々と黄ばんでくるようなので調度いい機会だ。確かに洗い終わった洗濯物を手にとってみると、手洗いしたのとは肌触りがまったく違ってフワフワしていて気持ちがいい。どっかのCMみたいだ。

 ホセとジヌ夫婦がやってきたが、飲み物一杯だけで休憩して次へ進むそうだ。ホセはフランス語とスペイン語、ジヌも同じようだが、ジヌは少しだけ英語が喋れるようだ。坐骨神経痛だと言ったらアルニカンと言う特効薬を出してくれた。手に取ると暖かい。二人してストレッチを教えてくれるので、タブレットに保存してあるストレッチの画像を見せると安心したようだ。

 1時過ぎているのに二人してこの後20km歩いて次の村まで行くと言っている。ホセは私と同い年だしジヌは女性だ。大丈夫なんか?ここに泊まる私と一日分の距離が開いてしまうと再会することは難しいだろう。一緒に写真撮っておいて良かった。ここにはまだ私一人しか泊り客がいないので一緒に泊まってもらいたかったな。


 外のテラス席でランチを頂く。さっき飲んだのと同じ缶ビールが出て、1皿目はガスパチョだった。人生2度目のガスパチョが昨日に続き連ちゃんとは。昨日の店で食べたのと違って、スープだけのガスパチョだったので、ちょっと寂しい気がするが、その代り量は多めだ。冷たくて酸っぱくて美味い。パンを浸して食べるとこれも美味い。日陰になったテラス席で風に吹かれながら戴いていると、なんかとっても贅沢なことをしている気にさせてくれる。2皿目はサイコロステーキだったので、これも昨日とデジャブル気がするが、こちらは同じ皿にトルティージャにトマト、レタスが付いているので昨日より豪華だ。ランチでこれなら夕飯はどんなだろうと期待が高まる。

 5時半、昼寝から覚めて施設内をフラフラしていたら、オスピタレラが来い来いと言っている。キッチンに行くとテーブルの上に包みがあって、セナ、デサジュノと言ってるので夕飯と朝飯のようだ。この二包みで2食分らしい。ランチは豪華だったが、あとは簡単なんだな。缶ビールが1本氷の中で冷やされているのとミルクが冷蔵庫に入っていると説明される。どうやらこの後は帰ってしまうらしい。彼女の友達なのか、男がやってきて片言の英語で同じことを言っている。じゃぁこの人もオスピタレロか。

 宿泊者がたくさんいれば管理人も常駐したのか知れないけど、一人だけじゃこういうことになるのか。明日はこの裏口の扉を開けて出てねと説明され揃って帰ってしまった。ポツンと残されたけど凄い気楽。

 どうやらこの大きな建物に今夜は私一人と決まったらしい。そう思うとちょっと不気味なので全ての扉の鍵をチェックして回る。まだ外は明るいので、誰か巡礼がやってこないかな、今なら無料で泊まれるよと期待したが、そういうことはなかった。

 アルニカンが効いたようで、立ち上がっても痛くならない。ボルタレンより効くと力説した筈だ。でも少ししたら同じようになったので気のせいだったか残念。やっぱり立ち上がるときは注意しよう。


 6時過ぎたので置いてってくれたボカディージョと缶ビールで夕飯にする。チーズ、ハム、野菜がたんまり挟まった30cmもあろうかと言う巨大ボカディージョで、とても食べ切れる物ではない。それとヨーグルト。後で気がついたが、スペインって昼飯は豪華だけど朝晩は軽く食べるらしいと聞いた覚えがある。それでか。日本人は夕飯こそ一日の終わりに相応しいものを食べるので、期待しすぎだった。

 後は歯磨きして寝るだけだが、この時間になっても誰かやって来ないかなと期待して薄暗くなった外を見ている。

銀の道13へつづく