銀の道14  Alcuescal - Valdesalor  ドイツの夫婦

5月10日
 Alcuescalを7時に出発。四国遍路をしたオスピタレラが全員にハグして送りだしてくれる。今にも降り出しそうな曇天なので、バックパックにはレインカバーを装着して出発する。案の定、ちょっとパラついて来たがその程度で済みそうなので助かる。その代わり、膝が痛んでそれがずっと続いている。ボルタレンを塗ろうかと思ったが、面倒なのでそのまま歩き通すことにする。代わりに歩幅は常に小さくして膝への負担を軽くしようと心がける。今日の行程は少し長めの27kmなので、ひたすら前へ進むことを考える。

 最初の村に入っていくと、ベンチとその隣には水道とゴミ箱まである優良休憩スポットがあったので、ここで朝飯にすることにする。4日持ち歩いている8Pチーズを3日持ち歩いていて硬くなったパンに挟み、何ちゃってボカディージョの完成。さすがにパンは硬くて危険なので手で小さく千切っては食べることにする。2年前みたいに途中で差し歯が折れたんじゃたまらん。

 休んでいる前の道路を2輪の引き車に重たい荷物を載せたドイツの夫婦と一輪車を押したベンが揃って通過していった。たまにこの手の台車で巡礼する人を見かけるがとても珍しい部類だ。そんな二人が揃って歩いている光景は更に珍しいだろう。

 食べ終わったところで隣の水道で手を洗う。イスがあってゴミ箱があって水道があるのが最高の休憩所だ。ここは三拍子揃っているので星みっつと言うところか。

 休憩はいいのだが、そこを仲間に抜かれると追いつくのは中々難しい。ベン達が休まない限りは間隔は離れたまんまだろう。そこに昨日ちょっと話したドイツのおじさんが休んでいたのをグーテンタークと言いながら通り過ぎようとしたら、どういう訳か拍手してくれた。考えるに、それほどドイツ以外の人はドイツ語で話しかけてくれないってことなんかな。私の場合は、おはよう、こんにちは、ありがとうの3つのドイツ語しか知らないので、そのみっつを使ってしまうと残りはないのだが。
 この人はここでどの位の時間休んだのか知らないが、ここでの休憩が祟って、今晩のアルベルゲのベッドが品切れになってしまうという憂き目に遭うのを今は知らない。


 今日も羊の移動があった。でも今回は百頭足らずで前回よりは大分少ない。この位ならこちらも脅威に感じることはないようだ。それと今日も簡易橋を幾つも通り越す。御覧のように見事なバラつきがあって微笑ましい。ここんとこ本降りになる日がないので、この橋にお世話になることはなかった。ありがたや。

 二輪車をひっぱるドイツの夫婦は70過ぎに見えるが、二人とも身長が高いこともあって歩くのがとても早い。休んでいる所を追い越しても、そのあと必ず抜かれる。アルベルゲが近くなって来た時にも抜かれたので残念だった。



 Valdesalorの公営アルベルゲは定員14名と少ないのが分かっている。アチコチ痛い私は下段ベッドを確保したいので立ち休みもほどほどに真剣だ。ひたすら前へ前へと27kmを5時間半で歩き切る。膝が少し痛むのもあって、もうヘトヘト。その甲斐あって下段ベッドにはまだ3つ余裕があったが、途中で抜かした人は上段だったりベッドの残りがなかった。その日のアルベルゲ情報でベッドが沢山あると確認できれば焦ることもないのだが、今日のような日は真剣だ。公営アルベルゲは予約不可で先着順。ベッドを指定される所もあるが、多くは先に取ったもん勝ちだ。そして殆どが下段から埋まっていく。

 私が朝飯を食べている横を抜いていったベンは既に到着していた。どういう訳か、ベッドじゃなくて長いソファーに寝袋を敷いているので、ソファーで寝るのが好きなようだ。でもここはみんなが食事をしたりするスペースなので、いつまでも煩くて寝られないんじゃないのかな?

 その後やってきた、あのドイツのおじさんのベッドはなかったので、女の人からこの村にあるオスタルを教わって出て行った。アルベルゲに早く到着するのはとても大事。

 ここにはオスピタレラがいないので、聞いたら離れた村の中にあるバルでチェックインするそうだ。一応、道順を聞いてはみたものの簡単には到着できなかった。そんな大きな村ではないので、うろちょろしていたら巡礼者を発見したので無事にバルに到着。中に入ると3人の巡礼がチェックインを待っていて、ベンはここでお昼を食べていた。今日の宿泊代は休めの6ユーロ。

 バルで2ユーロのビールを一杯飲ませてもらってからスーパーを教えてもらうがまったく見つからない。同じようにスーパーを探している巡礼が二人いたので一緒になって探すのだが、教わった近くにいる筈なのにさっぱり見当たらない。そこへ普通の民家からレジ袋を提げた地元の人が出てきたのでやっと分かったが、そこんちは看板も何もないまったく普通の民家と同じだった。これじゃぁ地元民しか分からない筈だよ。入って行くとちゃんと色んな品が揃っていて店そのものだった。スペインの田舎にはこういう店が時々あるので油断できない。

 今日もいつものように1リットルビールに生ハム、トマト、ヨーグルトにパンで5ユーロちょっと。バルで食べる半額だが流石にワンパターン過ぎる気がする。そのうちちょっぴり冒険してレパートリーを広げたいな。

 アルベルゲに戻る途中、中型のジャーマンシェパードを4匹も連れている人がいた。中型と言ってもシェパードはでかいので普通の犬なら大型に値する。あろうことかその内の2匹が私めがけて飛んできた。襲うとかじゃなくて、レジ袋の食料に気がついて狙って来たのだ。ノーノーと言いながら袋を高く掲げて守る。飼い主もこれはまずいと思ったのか、何か声を掛けながら急いでその場を離れ、犬もその後を追ったので助かった。スペインはリード無しで犬の散歩をさせるのが普通なので困る。

 暑い中での買い物をやっつけたので次はシャワーだ。ここにはシャワーとトイレがひとつになったのが男女共用でひとつしかないのでドアの前の椅子に座って順番待ちになった。先頭はワインをくれたドイツのお父さんだ。その奥さんがやってきて、洗濯機を回すから私の洗濯物も出せと親切に言ってきた。うーん、まだシャワー前だから無いんだけどな。そしたら今着ているものがあるじゃないかと言うので、その場でパンツ一丁になって洗濯物を渡す。その旦那さんと二人してパンツ一丁でシャワー室の前に並んでいるのは不思議な光景。とても開放的だ。私の後ろにはスペインの女性が並んだが、さすがにこの人は同じにはならなかった。当たり前か。

 昼夕兼ねての食事にする。ここは大きなテーブルがひとつしかないので、ドイツの夫婦も一緒に食べだしたが、奥さんが作ったフレンチトーストやワインを私とフランス爺ちゃんにひとつずつくれた。私もビールやハムを勧めるのだが、今日もどちらもノーサンキューだった。近くにいたベンにも勧めてみたが、バルで飲んだからいらないって。ことごとく断られて張り合いが悪かったので、自分が勧められたら欲しくなくても貰った方が親切だなと改めて思った


銀の道15へつづく