銀の道19 Canaveral - Riolobos   キャンプ場の宿

5月15日
 ここのアルベルゲの朝食は最高だった。パンにチーズやハムを挟んで3枚食べ、コーンフレークも牛乳を掛けて食べる。ジュースも2種類飲んで、仕上げにはカフェコンレチェ。普通、朝食があると言ってもパンにマーガリン・ジャム。それとコーヒーがせいぜいだ。下手するとビスケットとコーヒーだったりする所もある中で、チーズ、ハムなどが供されるアルベルゲは初めてかも知れない。同じテーブルに座ったおじさんなんか、チーズを挟んだパンを昼飯用にしようと紙ナプキンに包んで持ち帰った。朝早く出立するので買い物もできないし、次に店があるのは20数キロ先になるだろう。食料の確保は大切だ。私は袋入りのミニカステラを貰っておく。

 朝7時半から歩き始めるが、赤と白のマークをカミーノと勘違いして山の中に入って行ったら迷ってしまう。フランス国内ではこれがGR65と言ってカミーノの筈だが、ここいらでは別のハイキングルートらしい。でも山の中を15分ほどさ迷っただけで本来の黄色い矢印を見つけて合流できる。


 前方に冗談みたいな急坂が現れる。しかしカミーノはそこは上らずに、右に折れて行くだろうと安易に考えていたら、その急坂を登らされる羽目に。ずっと上の方ではフランスおばちゃんのエディスが喘ぎながらも一歩一歩ゆっくりと上っているのが見える。余りの急坂なので、狭い山道だが小さく斜めにジグザグ上りを駆使して登りきり、ほどなくエディスにも追いつく。ゆっくりゆっくりと歩く人で、距離を保って後ろを歩いていくと、リハビリみたいにのんびり歩くことが出来る。

 森の中の小さな分岐にやって来ると、泊まろうと思っていたGrimaldoアルベルゲの看板があった。エディスにはGrimaldoに泊まると言ってあったので、そこで立ち止まって「ここだよ」みたいな事を言ってくるが、まだ9時半なので通過する。


 ここはコルク樫の森のようだ。コルク樫はテレビでは見たことあるけど日本にはないので初めて見た時は驚いたが、ここ銀の道にはコルク樫の森があちこちにある。ほかの巡礼路では見たことなかったので、これはこの地方の特産なのかも知れない。コルクにするために途中から木肌がひんむかれた木も見える。こんなことして枯れてしまわないのか心配になるが、その状態で大きくなった樫の木もあるので大丈夫のようだ。


 今までも通って来たが、コルク樫が東京ドーム百個分ほどの面積にこれでもかと言うほど植わっている。ワインが水並の国なのでコルクの需要もこれでもかと言うほどあるのだろう。エディスと前後してコルク樫の森を散歩気分で歩いていたが、途中で大休止にするらしいので、それからは一人旅になる。

 今日は開けたり閉じたりする門を何度も何度も通過する日だった。そこへ謎のカップル登場。この二人の歩きパターンはいつも同じで、少年がかなり先を後ろも見ることなく黙々と歩き続け、女性がその後を追っていくというパターンだ。最初に会ったとき女性はニコリともしなかったが、今日は4回目なので笑顔で嬉しそうに話しかけてくれた。スペイン人らしいが英語も喋るのでゴチャ混ぜ会話で楽しい。そのあと会ったときは少年だけだったので、女性はトイレにでも行ってるのかと思ったが、その後2回会ったときも少年だけだったのでどうしちゃったんだろう?一本道の巡礼路なので途中に別の道があるとも思えないのだが?

 今日はGrimaldoまでのショートコースの予定だったので背中のタンクには500mlしか入れてなかったが、そこは通過してしまったので今晩の宿に辿り着く前に水が尽きてしまった。緊急用に持っているペットボトルの水1口分は村の目鼻が付くまで飲まずに我慢する。

 今日の宿はルートから少し外れたところにキャンプ場があるという情報を得ていたのでそこを目指す。ここはまったく選択肢に入ってなかったので事前調査ゼロだったが、フランスおばちゃんが泊まると言ってたので行ってみることにした。距離も手頃だし世界遺産があるらしい次のガリステオまで9キロと近いので泊まる人が少なく穴場だそうだ。テント持ってないけどと言うとバンガローがあるようなことを言っていたが、それも良く分かってない。

 舗装路に出てから歩き続けると、分岐に意味深な矢印を発見する。黄色じゃないから巡礼路とは違う。これがキャンピング場への誘導なのかなと思い、タブレットで確認するのだが、キャンピング場を知らないのでさっぱり分からない。そこへ少年がやって来て無言で通過していった。また女性は一緒じゃなかったので、どうなってるんだろうと謎が謎を呼んだ。

 この矢印は関係なさそうなので先に進むと大きな建物が前方に現れだしたので期待に胸が膨らむ。近づいてみると壁には巨大な帆立貝が描かれているので間違いないだろう。気をよくして入って行き良く分からないスペイン語ながらチェックインに成功する。キャンプ場なので手続きは勝手が違うと思ったが似たようなものだった。15ユーロで朝食付き。


 キャンプ場なのでバンガローにでも泊まるのかと思ったが、案内された部屋はオスタル以上のツインルームそのものでセミダブルの平ベッドが2台置いてある。トイレ・バスルームも広くて快適だしバスタオルまで付属していた。今回の旅で最高の宿じゃない!?これで15ユーロは涙モンだ。こんな幸運は滅多にないだろう。

※お役立ち情報
 このアルベルゲRiolobos(キャンプ場)は本当にお勧めです。城塞都市ガリステオが近いので泊まる人が少なく穴場なのに施設は素晴らしいしスーパー近いし言うことありません。

 少し遅れてフランスおばちゃんが到着、私と同じ部屋になる。そのあと到着した夫婦は隣の二段ベッド2台の部屋になったが、私たちの部屋がシングルベッドだったのが羨ましいのか、1ランク上の2階の部屋を所望した。後で値段を聞いたら1部屋40ユーロなので、われわれよりも5ユーロ高いだけだった。

 受付のセニョーラにスーパーの場所を教えてもらったら歩いて10分と言われたが5分で着いた。村のスーパーも近くて便利。今回は初めて洋梨に挑戦してみた。皮を剥いて食べるのは想像できたが、念のため店員さんに身振りで聞いたらその場で皮を剥いてラップに包んで売ってくれる。日本もスペインも田舎の人は親切。ほかにはいつものように1リットルビールに生ハム、バナナ、トマト、肉団子缶詰、ヨーグルト4つで6ユーロと少し。細かいのが0.02ユーロ足りなかったらそれは負けてくれた。

 ビールを冷凍庫に放り込んで建物の写真を撮ろうと表の道路に出たら、向こうからホセが一人で歩いてきた。ジヌは足を怪我しているのでバスを使ったそうでホセ一人で歩いている。律儀なやっちゃな。良い宿だからホセも泊まれば的なことを言ってみるが、ジヌと待ち合わせしてるだろうからそうは行かないだろう。キャンプ場受付になっているバルでビールを1杯飲んだら出発していった。ここは巡礼路から外れていると思っていたが、少年やホセも来たのだから満更外れてもいないのかな?ホセ達とはこれが最後になり、もう会うことはなかった。

 エディスがスーパーへ行きたいと言ってるが、今はシエスタの時間だろう。なのでここのバルでビールを飲み始めた。昨日も飲んでいたし、エディスはビールが好きらしい。

 夕方、中庭のテーブルでエディスと明日以降の相談をする。明日はカルカボソまでの21kmで決まりだが明後日が問題だ。ローマ時代のカパラ遺跡が中間にあるが、次にアルベルゲがある村まで38km村なし店なし水なしが続く最難関の日なのだ。来る前から銀の道の脅威は大きな水たまりと、このカパラの38キロ行程だった。このために背中の水タンクを採用したと言っても過言ではない。それがいよいよ明後日に近づいて来た。

 ブログの情報によると、ルートから4km遠回りになるが中間地点にアルベルゲがあるよと提案して見ると、カパラに着く前にオスタルに電話しておくと車で迎えに来てくれると言う。そして次ぐ朝にまた同じ所まで送ってくれると。その方法もネットで見てはいたが、携帯もない言葉も不自由な私には出来ない相談だった。エディスがその方法を取ろうとしているとはビックリした。それが可能なら願ったりだ。ウィスミーと言ったら通じたらしい。このやり取りは全てフランス語と変な英語スペイン語混じりでやっていて、半分は身振りなのだが何となく通じてしまうから面白い。

 伝わらないのはグーグルの翻訳を使ってと言ってみるも、エディスは入力が嫌だから使いたがらない。私が見当つけて翻訳してみるも2回とも外れ。でも明日は7時半に一緒にスタートすることだけは決まった。

 その後、ここのマスター(左から二人目)が予約の電話を入れてくれることになった。マスターはフランス語が喋れたのでエディスの言うことは全て通じて、ほかにも私営アルベルゲの予約を入れてくれたらしい。外国人同士で言葉が通じるって素晴らしい。エディスに感謝してビールを一杯奢らせてもらう。

 ワイン片手にやてきたベルギー夫婦も同じように予約を入れてもらっていた。ベルギーって国はドイツ語、フランス語、オランダ語(だったかな?)のみっつの言葉を使う国だと教わった。夫婦ともスペイン語が使えて奥さんは加えて英語も喋れる。日本では良くバイリンガル、マルチリンガルなどと言って持てはやされるが、ヨーロッパ人は4カ国5カ国語を喋れる人は珍しくない。欧米の言葉は元が同じなので、きっと方言を覚える程度で習得できる気がする。羨ましい限り。
 夫妻は私とエディスがツインルームなのをからかっているが、アルベルゲの延長と思えば何てことない。4人で中庭で酒盛りして一気に仲良しになった。

 お開きになってからエディスがトマトをナイフとフォークで食べだしたのでびっくりした。フランス人ってトマトをナイフとフォークで食べるのか!初めて見たよと、ポーズを取らせて写真に撮る。じゃぁ日本ではどうやって食べるんだと聞いているので普通にフォークで食べるのかなぁと曖昧に答えてみる。あとで真似してナイフとフォークで食べてみたら、これが意外と食べやすくて目からウロコだった。

 遅くなってからアジア顔をした女の子がチェックインしてくる。この子とは二晩ほど一緒の宿になったが、なんとなくきつい顔をしてるので敬遠していたが、話してみるとそうでもなかった。フランス語がぺらぺらなので中国系フランス人かと思ったがカナディアンと言ったのでカナダ人か。そう言えばカナダも英語とフランス語の国だ。おまけにスペイン語も良く喋れるようだ。この子はいつも出発が遅くて、着くのも人一倍遅い。途中に水があると靴下を脱いで足を休ませるそうだ。あなたもやると良いようなことを言ってるが、アルベルゲに到着するまでは落ち着かないので性格的に無理。

 今日はずっと上り下りで疲れたけど終わってみれば良い一日だった。明日は城壁の町カルカボスを見物したいのでショートコースを考えてるが、風の向くまま気の向くままなのでどうなることやら。
 広くてきれいなキッチンで今日は2回目の肉団子。初挑戦の洋ナシも美味い。


銀の道21へつづく