銀の道25  Fuenterrble de Salvaterra - Morille  最高地点通貨

5月21日
 今日は銀の道で標高が最高地点の所を通過するそうだ。それなのに次のアルベルゲまでは28.6kmと少し長めが分かってるので全員が気合を入れて歩き始めた気がする。6時半から7時ちょっとのあいだに、このアルベルゲに泊まった20数人が一斉にスタートしたので、銀の道で初めて巡礼者の行列を見た。と言っても一度に見渡せるのはせいぜい7,8人だが心が躍った。アンドレアも私の少し前をショートカットの女性とお喋りしながら歩いている。後で分かったが、この女性もアンドレアと同じオーストリアからのソロだったので互いにドイツ語でお喋りできて楽しかったろう。

 緩やかな上り下りが続き、道があるような無いようなだだっ広い森の中を歩いて行くが、前の人を見ていればいいので気楽だ。ずっと気持ちよく歩くことができるが一人だけだったら迷ってしまいそうな森だ。グリム童話なんかで子供が森の中で迷う話がよく出るが、そう言ういかにもな森は銀の道ではそこかしこにある。

 1時間ほどでベルギー夫婦を抜いて1時間半でエディスに追いつく。この人たちは一緒にスタートしたのだろうが、歩く速度の違いが如実に現れている。エディスは鈍いけど2本のスティックを使いながらいつも変わらぬ足取りで淡々と歩いている。

 徐々に山道になってきたのでいよいよ最高地点を通過する山道に入ってきたようだ。ずっと上っていくと風力発電の風車が何機も立っていて十字架も立っている所までやって来た。雰囲気からして頂上に見えなくもないが予想した時間より1時間早い。じゃぁここはまだコブで向こうに見える山が最高地点の山なのだろう。これからこの山を下ってからあの山を越えるには、どう考えてもあと3時間は掛かりそうなので今日は遅い到着になると覚悟する。

 下りがスッゴい急なので膝を守るためにスティックを前に突き出しながら滅茶くちゃ慎重に降りる。こんな山の中で怪我したらエライこっちゃだ。

 降り終わると左に見えている山には向かわずに右回りして平地に出てしまった。そのまま行くと今度は舗装路が現れ、このまま谷あいに道は続いているのが分かった。え?キツネにつままれたようだが知らない内に最高地点を越えてしまったようだ。じゃぁさっきの十字架のあった所が最高地点だったのか。そこをタブレットでバッチリ撮ってフェイスブックで応援してくれてる人達に見せようと思ってたのに残念なことをした。

 
 最高地点を越えたはいいが、ここからの丘越えが長かった。だらだらだらだらと道が続き、あの丘を越えたら村が見えるのかなと何度思ったことか。丘が続く道は遠くまで先が見通せるので始末が悪い。結局なだらかながら大きな丘を5つほど越えた気がする。途中に日陰があったので持参の食料を食べながら小休止にする。休むと誰かがその横をブエンカミーノとか言いながら通り過ぎて行った。

 サンペドロ村へ向かう分岐が現れた。サンペドロにはアルベルゲがあることを知っている。前後して歩いていた巡礼4人がここで立ち止まっで数分間の協議をする。全員、次の村Morilleに行くことになった。そっちのアルベルゲの方が良いと言う評判があったので。

 サンペドロ村とMorille村の両方が見える地点までやって来た。サンペドロ村からこちらに向かって歩いてくる巡礼も見える。Morille村は近そうに見えるが歩くとやっぱり1時間は掛かった。予定より4km余計に歩いてしまったので今日は山越えしたのに32.6kmになった。ようやる。

 ここのアルベルゲのチェックインは隣のバルでやると言う情報を得ている。そのバルに入って行くと数人の巡礼が受け付け待ちをしていて、その中にアンドレアの顔を見つけて喜び合う。宿代は私営なのに6ユーロと安め設定。隣にあるアルベルゲは小さくて満杯だから、少し離れた別のアルベルゲまで案内されてぞろぞろと付いていく。歩いて5分くらいか。


 このアルベルゲはアンドレアも昨日、良いアルベルゲだと言ってたしネットでも評判が良かったが実際チェックインしてみるとロクなもんでなかった。
良くないところその1、シャワーとトイレが男女共用で2つずつ同じ部屋にあるのだが、シャワーは両方とも刷りガラスなので異性が使用してるとトイレにも入ることができない。そんなの気にしないと言う人はこの限りではないが。
その2、キッチンがない。これは節約派には大きな問題。電子レンジはテーブルの上にちょこんと有るもののコンセントを挿しても動作しない。
その3、ベッドルームは2階でトイレは1階なので、狭くてギシギシ音がする階段を下りなくてはならない。音なしで階段を使うのは不可能。これは夜中にトイレに起きる私には問題。
その4、私営なのにWi-Fiがない。それで6ユーロなんか!?

 良いところを上げるとしたら、6ユーロと安いところとベッドが割合ゆったりと置かれているところの2点か。

 いっぱい歩いたので早くシャワーを浴びたいが、なかなか前のおばちゃんが出てこないので長らくシャワー室前で待たされる。私の後ろにはアンドレアがやって来た。やっと空いたので使わせてもらうことになったが、終わってガラス扉を開けたら向かいのシャワー室にはアンドレアの影が!いい度胸してるなアンドレア。坊主頭にするくらいだから並みの神経でないのは想像していたが、こう来たか。細長い部屋なので奥の洗面スペースに移動して服を着ることにする。さて、アンドレアのシャワーも私に続いて終わったことは音で分かっているがどうしたものか。ま、あんまり気にしてる風でもなさそうだから隣を歩いても平気なんだろうと出口に向かったら、途中にあるトイレの中に入って着替えているようでアンドレアの姿はなかった。安心と同時に拍子抜けした。やっぱり女性なので恥ずかしいようだ。

 オーナーのバルに二人でビールを飲みに行く。2杯目はアンドレアがおごってくれたので、アンドレアが次に飲んだコーラはおごり返してやる。外のテラス席に座っているが、ここでもアンドレアは盛んにエリコさんの巡礼日記サイトを見まくっており、自分の写真を見つけると「これ私だよ」と嬉しそうに報告してくる。ワイルドな見た目に反して意外と無邪気な面も感じられて楽しい。

 私がほぼ毎日メールで巡礼ナウを送っている九州の人もエリコさんのサイトを見ていた人で、アンドレアのことを良く覚えていた。グーグル翻訳を使ってそれをアンドレアに伝えて上げたら嬉しそうにしていたので、その人に送るからと言ってタブレットで写真を撮り、その場で送ってあげる。遠く離れた日本に自分を知っている日本人が何人もいることに驚いたことだろう。同時に、不思議な出会いをとても喜んでいるように見えた。

 アンドレアは仕事を持っているけど、いまはバケーションを利用してカミーノを歩いているそうだ。そうやってここ数年は毎年別のカミーノを歩いているらしい。でも、ここ銀の道は1,007kmもあるんだよ。さらにフィステラの道まで歩くそうなので合わせて1,100km以上ある。バケーションが何日あるのか聞いたら35日間だけだそうなので計算が合わないだろう。じゃぁ一体一日何キロ歩いているのか?なんと40kmだそうだ。それなら1ヶ月で1200kmは歩けるので可能なんか。私が一日最高に歩いた日が40kmだったが、それを毎日歩くとは。いやはや凄い女性がいたもんだ。スーパーアンドレアと呼ぼう。

 明日はサマランカに到達する。大都市だからユースホステルの部屋を二人でシェアすれば一人10ユーロなのでアルベルゲより安く泊まれるよとアンドレアが提案してくる。それもいいなと思ったが、歩くスピードが違うので今日みたいにアルベルゲ集合なら再会の可能性があるが、別の宿だと難しいんじゃないのかな。案の定、これを最後にアンドレアとは会うことはなかった。一日40kmも歩くんじゃ一度距離が開いたら残念ながら再会することは無いだろう。

 アンドレアはここで8時まで待って夕食を食べるそうだが、私は前に買っておいたパンにチーズ、生ハムを持っているのでアルベルゲに戻って簡単に済ますことにする。この村には店があるらしいが、今日は日曜日なので閉まっているようだ。


銀の道26へつづく