銀の道48  Cea - Monasterio de Oseira - Dozon  迷う迷う

6月13日
 アルベルゲでインスタントスープを作り、チーズ、パン、ヨーグルトの朝飯。三年間の巡礼で毎回来ていたチェックの長袖シャツをここで捨てていくことにする。このシャツは最初の年にどこで捨てても惜しくないのを選んで着てきたものだが、段々と愛着も湧き、これを着ると一気に巡礼モードになれるのが好きだった。でももうここいらで暇を出してもいいだろうと言う気になった。坐骨神経痛も相変わらず大事に抱えていることだし何しろ少しでもバックパックを軽くしたい。長袖はフリースが一枚あるので十分だ。



 昨日立てた予定どおり、今日は三角形の二辺を行くというモナステリオ経由Doson泊のコース。4人でまずはモナステリオ目指して7時に出発。トムだけは日程の都合なのか一人だけ別行動になった。

 一緒に出発と言っても我々は連れ立って歩くということはなくて、みんなそれぞれのペースで付かず離れず歩くのが基本だ。なので姿が見えなくなるなんてのは普通だが目的地が決まっているので心配することもない。迷ったとしても全員がなんとか目的地には必ず辿り着くのが分かってるから。田舎道、山道を2時間歩いて9時10分、予想より早くモナステリオに到着する。霧で煙った中に大きな石作りの修道院が浮かび上がり幻想的な風景だ。

 修道院の中はツアーで見学することができるそうだ。まだ時間が早いし小雨模様になってきたのでバルにでも寄って時間つぶししようか。閉まっているバルの前にいつも会う奥さんがプラチナブロンドの夫婦が立っていた。全員が知り合いなので再会を喜び合う。この夫婦はどうもここモナステリオ村に泊まったようだ。修道院の中は既に見てしまったらしく、バルで朝飯を食べてから出発したいらしい。

 バルのおかみさんが外からやってきて店を開けてくれる。寒いのでコラカオ。たまには私が3人にご馳走してあげる。ドイツの夫婦とは仲良くなっているが名前をまだ知らないのでノートに書いてもらう。旦那がヨセフ、奥さんがインゲでドイツのハンブルグの人だった。ドイツと分かると必ずグーテンタークとダンケシェーンを言ってみる。するとこれも必ず喜んでもらえる。

 時間になったので修道院に移動する。ツアー代3ユーロ。受付の女の子が我々4人を連れ歩いてくれて、行く先々で扉の鍵を開け閉めしながら説明してくれるが、スペイン語なので相変わらずチンプンカンプン。説明も分からないし教会の建物は散々見ているので特にこれと言ったことはなかったかな。

 見終わって受付の所まで戻ってくると雨は益々強くなってきたし、雷まで鳴っているのでここに泊まろうってならないかなと密かに期待してみたが、みんなそんな気は更々ないようで当たり前のように雨支度を始めだしたので私も腹を決める。

 11時、モナステリオを後に雨の中を歩き始める。村を出て暫く歩くとずっと先にいたルアンが戻ってくるようだ。巡礼路を見失っているらしい。4人も居るのに全員でcaminoを見失ったことに気づく。先を行くルアンばかり見ていたので、誰も矢印に気を配っていなかったのだった。ガビーン。

 さて、どうしたもんじゃろうと全員で雨の中で協議をするが決定打が見つからない所に車がやってきた。すぐ止まってもらって尋ねる。うーん、良く分からないまでも大よその方向は教われたのでそっちに向けて歩き出す。その後また分からなくなってきたので、少し離れた農家のベルを押して聞くことにする。こういう時、スペイン語を話せるメンバーがいるのは心強い。出てきた人は雨の中をさ迷っている巡礼者を見ていささか驚いたようだった。その様子でここは巡礼路からは大分外れた所らしいのが分かった。ギャエレが教わっている間、私はタブレットの地図ソフトで目的地を探す。現在地はGPSが勝手に見つけてくれるので、ここから目的地までの経路を求めさせると田舎の細い道なのに見事に一筆書きで表してくれる。それを家人に見せたところ、じっと詳しく見てくれて、これでムイビエンとお墨付きをいただける。

 ギャエレが教わった経路は分岐があったら左へ左へと教わったようだが、沢山ある分岐では必ずしもそうではなかった。そんなときはタブレットを出して進む道を決めるようになった。雨の中、タブレットを広げるのは故障の危険があるので嫌だったが、この状況ではそうも言ってられない。バックパックから出し入れするのは更に面倒なので、ずっと合羽の懐にしまって必要な時に出し入れすることにする。いつも先頭を行くルアンも分かれ道で分からなくなると私の方を見てタブレットを指でなぞる仕草をしている。車1台がやっとの泥道なのに、地図アプリの示す経路は優秀で取り合えず迷うことはなかった。

 そろそろDozon村に近づいてきたところ、上空にこの世のものとも思えない雲が出現した。うひゃー、これ何じゃい!映画のインデペンスデーに出てきそうなスケールの禍々しい雲が空一面を覆っている状況にびびる。
 さて、地図上ではDozon村に入ったらしいがアルベルゲのアの字も見当たらない。私の地図にもここのアルベルゲの位置は登録されてない。数少ない村の家で尋ねても分からないらしいので、目指すアルベルゲはここよりまだ先のようだ。でもギャエレが根気良く二人の人に聞いてくれたお陰でやっと村の中心部に辿り着くことができ、アルベルゲの標識が現れた。一安心したところで、途中にあったスーパーに寄って買出しするそうだ。ギャエレはいつもアルベルゲに到着する前に買出しするのが習慣らしい。チョコレート、チョリソー、トマト大、パプリカ、1リットルビール、皆に飲ませようと1リットルの赤ワインも追加する。

 みんなで買い物して200m離れたアルベルゲには4時半に到着。先に入ったルアンが「ミチオ、下のベッドがあるよ」と教えてくれる。下段は2つ空いていたのでリリアンおばちゃんに下段がいいかと尋ねたら上で良いというので下段は私とルアンになった。ギャエレはいつも上段ベッド。先に進んだと思っていたトムがちゃっかりベッドに座っていた。トムはモナステリオを経由しないで直接ドソンを目指したのか。別コースを取ったと思ったのは私の勘違いだったようだ。シャワーは1部屋に朝顔が5つ並んだだけのワイルドなものだったが、私が使っている間は誰も入ってこなかった。4時半到着なんだからそれもそうか。

 みんながキッチンで飲み食いし始めたので、買ってきたチョリソー、トマト、パプリカを切って皿に並べてビールと共に勧めてみたが、みんなノーサンキューだったので張り合いがなかった。外のテーブルにインゲ夫妻がいたのでワインを勧めたら飲んでくれたのでうれしい。二人はモナステリオからカミーノを見失うことなく此処までやってきたそうだ。じゃぁ我々はどこで見失ったのか!?
 
 小雨の中、経由地のモナステリオを11時から歩き出してDozonのアルベルゲに辿り着いたのが4:30だった。雨降りの中なので休憩することも出来ずに迷いに迷いながら歩き続けた。タブレット大活躍だったが肝心のアルベルゲの登録がなかったので迷いに拍車が掛かってしまった。でも雨の中一人でこんだけ迷ったら気ぃ狂いそうだが4人いるので良かった。後で思い出すと苦労は消されて良い思いでだけ記憶に残ることだろう。


銀の道49へつづく