銀の道49  Dozon - Lalin   迷子のルアン

6月14日
 ドソンのアルベルゲを7時15にスタート。もう殆どの人は出発した後なので残っているのは数人程度。ここも正面玄関は施錠してあって、朝は裏口から出る方式だった。それはいいけど昨日のうちに今日の巡礼路を確認してなかったので、確かこっちだったよなな感じで歩き出す。まぁ間違ってはいなかったが精神安定上よろしくない。間違いないと思っても次ぐ朝の巡礼路確認は大事。

 3時間歩いたところで町に入ってきた。遠くからルアンがこっちに向かって歩いてくるのが目に入る。巡礼路を示すモホンは別方向を指しているのがここからも見えている。学習しないやっちゃな、また間違えて突き進んだようだ。ルアンは歩くのが早く道連れのギャエレを置いてけぼりにしてグングン進む。なので時々道を間違える。どうも注意が散漫のようだ。大きく手を振って、巡礼路はこっちだと知らせる。

 Lalinまで11kmの標識が現れた。サンチャゴまでも残り61kmと出ている。千キロを超える銀の道も残すところ61キロか。長いと言えば長いけど、私は銀の道のあとプリミティボとフィステラ・ムシアの道を400km近く歩く予定が控えてるので名残惜しくも何ともない。一度スペインに入ってしまえば往復の飛行機代は同じなんだし、何日いても滞在費は節約してるから幾らも掛からない。シェンゲン協定内ギリギリまで遊び放題。

 A Laxa村(Lalin?)らしいのが近くなってきた所にアルベルゲまで1kmだと知らせる有難い標識が立っていたので気を良くする。いつもこういうのが立っていると励みになるし安心するので有難いのだがなぁ。更に進んでいくと村に入ってきたところで通りにバルがあった。アルベルゲがこの近くだと便利だなぁと思っていると、カミーノは細い田舎道へと誘導してくれる。ぐんぐん進んで行くも、そろそろ現れると思っていたアルベルゲは一向に姿を現さないので、これは変だと感じてタブレットを引っ張り出して確認することに。とっくに通り過ぎていた。同じ道を戻るのは癪なので、すぐ近くを舗装路が走っていたのでそれを使って戻ることにする。やっぱりさっきのバルの辺りが目的の村だったようだ。バックパックを下してタブレットを出すのを面倒がって横着してると往々にして余計に歩く羽目になる。私も中々学習しないのはルアンと同じか。

 バルの近くまで戻ってくると、トムとリリアンが連れ立って歩いていた。アルベルゲは13時オープンなので、3人してこのバルで休んで行くことになった。店に入って奥まで突き抜けると中庭があり、そこにはギャエレが一人で寛いでいた。ルアンの行方は分からないが特に心配する風でもないので益々二人の関係が謎になってくる。ルアンは携帯も持ってないし、お金だってギャエレだけが持っているようだ。いつもこんな調子で旅を続けているようなので妙なことに慣れっこなのかも知れない。

 暑い日だけどこの中庭は程よい日陰になっており、とても気持ち良く過ごすことができる。ギャエレが美味そうなのを飲んでいたので聞いてみたら、ティント・デ・デラードと言う飲み物だそうだ。赤ワインを炭酸かファンタで割ったものらしい。同じものを注文して飲んでみたところ、暑い日にピッタリの飲み物だった。冷たい飲み物はビールばかりじゃなくてこれもいいな。名前を覚えておこう。ティントは赤なのでティントティントと覚えておけばいいだろう。

 用事を済ませたトムがやってきて話に加わった。3人の話を聞いていると、どうもトムはここには泊まらずに先へ進むようだ。途中は分からなかったが、巡礼後はマラガへ観光に行くらしい。と言うことで、トムとはここで本当のお別れになり、一足先に出発するそうだ。トムがここの支払いは持ってくれ、ハグしてお別れする。トムはメルアドを教えてくれてたので、帰ってから写真をたくさん送ってあげることができた。

 ギャエレがトイレに行った隙にリリアンにギャエレとルアンの関係を聞いてみるが、どうも要領を得ない。殆どのバルにはWi-Fiが完備してあるのでこういう時は好都合だ。しかしグーグル翻訳に返事を書いてもらっても「奉仕」なんて単語が表示される。奉仕という言葉から想像すると、ギャエレはルアンに対して何か奉仕的な立場なのかな?ギャエレが戻ってきたので、もう本人に聞いちゃえと質問してみるも、リリアンは頓珍漢なことを伝えたらしく、ギャエレが翻訳で伝えてきたのは、トイレとか尿という単語!?これでは私がギャエレは何所に行ったのかという質問になってしまう。どうもリリアンは二人の関係をストレートに聞くことに配慮してるようだと推察し、もうこの話はお仕舞いにする。謎は一層深まっただけ。

 1時が近づいて来たので3人でアルベルゲへ行こうと歩き始めたら、後ろからルアンが近づいて来るのをギャエレが気づいた。ここを通り越していったいどこまで行ってしまったのか、顔も髪も汗でびっしょりだ。ルアンはフランス語しか喋れないし携帯も持ってないし、地図さえ持ってないのでもっと慎重にするべきだよ。ルアンがここに差し掛かった時に、我々がまだバルの中だったらまた通り越して逆走だよ。行ったり来たりで夜になっちゃう。ギャエレとは多分50日前後をそうやって歩いていたのだろうことを想像すると、二人の心の内には計り知れない葛藤があったことだろう。

 今日のアルベルゲにみんなでチェックイン。6ユーロ。Wi-Fiは相変わらずだがキッチンには鍋と僅かな食器があったので、いつものガリシアよりマシだ。小さな村なので店がないのはすぐ分かった。なので夕食にはさっきのバルに行くしかない。一人で入っていくと、ドイツのヨセフとインゲが居て自分たちのテーブルに誘ってくれる。二人はいつも愛想良く接してくれるので嬉しい。二人は英語が話せるので私の片言英語でお喋り。バルにはWi-Fiがあるのでグーグル様の翻訳が使える。少し難しい英語でもこれを利用すればオッケーなので非常に便利。二人からはカミーノのモチベーションについてしつこく聞かれる。やっぱり一番興味があるのはそこだよね。そんな難しいことはグーグル様の出番だ。「カミーノの一番の魅力は人と人との繋がり」と翻訳した画面を見せる。「家族がいるので最初のカミーノに出かけるまで14年も待った」ことも伝えられる。グーグル様があれば何でもござれだ。

 バルのおかみさんがやって来てオーダーを取り始めた。そのスタイルがこれまた驚き!私たちの隣のテーブルに腰を下ろしながら注文をとり始めたのだ。こ、これは面白い!その姿を写真に撮って帰ったら土産話にしてやろうとカメラを出して撮っていいかとお願いすると、その魂胆など知らないオカミさんは上機嫌で応じてくれる。そのあとドイツの夫婦に日本じゃ有り得ないと言ったところ(お堅い国)ドイツでも同じだと言っていたので三人で大笑い。日本とドイツの国民性は似ている。

 隣のテーブルにはギャエレ達もやってきた。リリアンはアルベルゲで夕飯はどうするのか聞いたとき、チーズなど持ってる物で済ますようなことを言っていたが、誘われたので一緒に来たようだ。ギャエレはカメラを向けるといつも両手ピースで応じてくれる。最初の怖いイメージとは真逆だ。

 ドイツの夫婦は先に帰ったので、今度はギャエレ達のテーブルに誘われる。ワインをボトルで取っていたので、一杯飲ませてくれた。みんなはこれからサンチャゴ迄残り40数キロを3日間かけてのんびり歩くそうなので自分もそうしよう。一日に10数キロだけだから、随分とのんびりした道中になりそうだ。ドイツの夫婦もそんなようなことを言ってたし、ここまで来たらみんな急がないようだ。

 ギャエレとルアンはサンチャゴに着いたらフィステラ迄歩いて、それから北の道を逆に11日間歩くそうだ。昨年歩いた北の道を動画でユーチューブにアップしてあるのを見せてあげる。ルアンがこれから行く北の道に興味を示して真剣に見ている。

 バルで食べたのはエンサラダとビール、最後に昼間飲んだのと同じティント・デ・デラードで7ユーロくらいかな。店がないのでバルで売っていた小さなカステラを2個明日用に買って帰る。これは1ユーロ。アルベルゲへ戻る途中、ギャエレが満面の笑顔で写真に納まってくれる。


銀の道50へつづく