サンチャゴ巡礼路900kmを歩いて

日本出発

 4月に二度目の退職をし、翌5月12日にいよいよ出発の日がやってきました。成田へ行く高速バスに乗るために前橋駅へ向かう途中、歩きながら「良くこの日まで諦めずに来たなぁ〜」と何度もつぶやき感慨もひとしおでした。まるで巡礼完歩して帰って来たときのようですが、行きたいと思うようになってから14年も掛かったのですから、そう思いたくもなります。途中のコンビニで朝飯用にサンドイッチを購入して成田行きのバス停で食べていると、思いもよらない人がやってきました。以前、一緒の職場で仕事をして、数年前からは旅仲間になっている、うぶちゃんが、早朝わざわざ見送りにやってきてくれたのです。うぶちゃんは今回の旅を応援してくれていて、山用の高級下着や疲れたときに飲むアミノバイタルや体が痛む時に飲むと効果がある漢方薬までプレゼントしてくれたのです。時間通りにバスはやってきて、うぶちゃんに見送られていざサンチャゴ65日間の旅に出発です。

 バスは順調に成田までやってきて、まずはANAのカウンターでチェックインですが、私には既にメールでチェックインのお知らせが来ていたので何も手続きしなくて良いそうです。受信したメールを係りに見せるだけで3つあるゲートを通過できる筈ですが、初めてのことなので半信半疑です。最初に通過するゲートでは、係員に受信したメールをタブレットで見せても分からず、3人がかりで協議したのちやっと通過することができました。その後の2箇所では何事もなく通過できたので、不慣れだったのは最初の係りだけだったようです。
 パリ到着予定時刻が夕方の7時半で、そっからパリ市内まではバスで1時間。バスを降りて歩きでホテルを探しながら目指すので、どう考えてもホテル到着は9時半前には着かない予想です。途中すんなりバスに乗れるとは思えないので少しでも時間を短縮するために大きなバックパックは機内に持ち込みました。預けてバゲッジクレームで早く出てきたこと一度もないし。そのため、セキュリティに引っ掛かるスティック、爪切り、ナイフ等は現地で買うことにしました。唯一、乾かない洗濯物をバックパックに引っ掛けて歩くための安全ピンが心配でしたが、言われたら捨てればいいやと思ってたのに何のお咎めもなく通過してしまいました。GWが終わった後だったので空港内はガラガラもいいとこでした。こんなに空いている成田は初めて見ました。

 飛行機の座席は正規航空券購入の特権でエコノミーで一番前を行き帰りともゲットできました。約12時間の飛行時間で足が自由に伸ばせるメリットは大きいです。隣に赤ちゃんを連れた女性が座り、泣くかも知れないからとすぐに挨拶してくれたので、私は4人の子供を育てた経験があるので心配いらないと伝えてあげました。でも、この赤ちゃんは親孝行で殆ど泣くこともなく、CAさんが入れ替わり立ち代りあやしに来てくれる程大人気でした。


パリ到着

 予定より30分ほど早く、パリ、シャルル・ドゴール空港に着きました。ホテル到着時間が心配なので、少しでも早いと嬉しい。入国審査を過ぎたらまずはモンパルナス駅行きのバス乗り場を探します。インフォメーションで聞いて32番出口にあるというバス停を目指しましたが、広い空港なので簡単に見つかると言う訳には行きませんが何とか辿り着き、しばらく待った後にバスがやってきました。モンパルナスという文字が正面に見えますが、念のため運転手さんに「モンパルナス?」と確認するのを忘れません。確認は大事です。
 バスは渋滞もなくモンパルナス駅に到着し、ここからは歩きでホテルを目指します。グーグルの衛星地図をカラー印刷してきたので、迷うことなくすんなりホテル到着。予想より30分も早い9時前に着くことができました。ドミトリーに泊まるのはこれが初めてなので、これも初体験です。チェックインしてカードキーを貰い、あとは勝手に部屋に入って2つある二段ベッドの空いている下段に落ち着きました。トイレとシャワーが一緒になった空間の狭さに驚いて、この日はシャワーも浴びることなく寝てしまいました。今日は団体ツアーでは決して体験することがないことを一日中やってました。


パリからSJPPへ

 この安宿のいいところは朝ごはんが付いていることです。でないと知らない土地で自分で朝食を探さないとなりませんから。6時から食べられるというので、6時になったら1階の広い食堂兼談話スペースへ降りて行きました。クロワッサン、フランスパンとコーヒー、牛乳、ジュース類が食べ放題です。特にクロワッサンはとても美味かったので大きいのを4個も食べちゃいました。受付のお兄さんは英語を話すので、私の英語の先生はフランス人だったとか、スペインへ行った帰りの7月にまた泊まりにくるとか、単語を並べる程度の英語力でも結構楽しく会話することができました。
 ホテルから駅を目指して歩いている途中に、モンパルナス駅の裏口みたいなのがあったので近道だと思い入って行きました。だが、着いたところはネットで調べた所とはまったく違う場所なので、どうやったらネットと同じ場所に行けるのか探し歩くがまったく分からない。取りあえず、ネットで申し込んだチケットを発券機で打ち出して貰おうとチャレンジするも、これがまた上手くいかない。インフォメーションがあったので聞いてみるが、二人もいるのにまったく英語を話せなく、ただ指であっちを指すだけです。指すほうに行ってみるがこれまたさっぱり分からずに、ウロチョロした挙句上の階まで行ったり来たりしているのを見かねたインフォメーションのお姉さんがやってきてくれて、係りがいる窓口まで連れていってくれました。ここで係りにネットで購入したパスワードを見せて無事に発券完了。フー、疲れる。
 チケットは手に入ったが、相変わらずネットで見た駅構内とは違うので、どのホームから乗るのか、乗る電車はあるのかと言ったこともまったく分からないのでまた先ほどのインフォメーションに行って列車のことを質問するのだが、あちらはフランス語オンリー、こちらは片言の英語なのでさっぱり捗らず、とうとうお姉さんは文字を書き出しました。10h08hendayeって何だぁ?読んでも理解できないでいたら、もう一人の黒人の係員さんがフランス語ながら分かり易く伝えてくれるのでやっと理解できる。あぁ、10時8分になったら教えるからここにまた来いと言ってたのが分かる。メルシーボクと言って待合室で時間が来るのを待つことにする。
※帰ってきてからアンダイユと言うフランス語の意味を調べたところ鉄道の重要な拠点のようでした。それはバイヨンヌの先にある駅らしいのでバイヨンヌへ行くならhendaye行きに乗れと言ってくれてたらしいのが分かりました。あの時は理解できた気になったけど、まだ間違ってたんですね。

 その待合室に座っている二人の人が、どうも日本語を喋っているようなので話してみるとパリ在住のビジネスマンのようです。二人して「言葉が分からないのに良く来るなぁ」などと言っているので、私とインフォメーションのやり取りを見ていたんですね。困ってるのが分かるなら助けてくれよーと思った。私なら絶対に手を貸すと思うけど、そうじゃない人もいるんだなぁと思いました。でも、インタナショナルの方は階段を下りてずっと奥に行った所にいるようだという情報を得たので行ってみると、それこそ私がネットで見た駅構内の光景でした。大きな電光掲示板があり、大きなバッグを持った沢山の旅行者でごった返しています。最初からこっちに来ていればこれほど混乱しないで済んだだろに、なまじ近道をしようとした為の苦労でした。ここで巡礼のシンボルであるホタテ貝をバックパックに付けたご婦人二人がいたので、私のバックパックにも付けてあるホタテ貝を見せたところ、すぐ打ち解けることができ盛り上りました。やはりこれからSJPPへ向かうそうです。

 ここで時間が来るまで待っていて、このご婦人がたに付いて行ってもいいのだが、親切に時間になったらやって来いと言ってくれた人をすっぽかす訳にはいかないのでインフォメーションのある所まで戻り、時間になったのでチケットを見せて2番線の電車に乗ることを教えて貰いました。フランス鉄道は高速鉄道のTGVでも20分前にならないとどのホームから乗るのか発表されず、電光掲示板に何番線か発表されると同時に沢山の乗客はホームに走らなくてはならないのです。何ヶ月前でも発券と同時に乗るホームも決まっている日本とは大違いです。ここでひとつ知らなかった大切なことが分かりました。バイヨンヌは終着駅で、電光掲示板にもバイヨンヌと表示されるものと思っていたが、実際にはバイヨンヌは通過駅なので掲示板にはバイヨンヌと言う文字は出ない。乗る列車番号のTGV8533でホーム番号を探さなくてはならなかったのでした。これから行く人は注意しましょう。
 さて、階段を下りて2番ホームを目指したが、フランスではチケットに自分で刻印しないとならないらしいのに、ホームに下りてしまうと刻印機が見当たりません。もう一度上に戻って黄色い刻印機に差し込んで見ると、ジッと音がしてバーコードみたいのが記されました。穴を空けるのではなかったんですね。ホームに駅員さんがいたので、もう一度「バイヨンヌ?」と念を押してから乗り込みました。間違って違う電車に乗ったら大変なので、ここでも念押し確認はとても大事です。
 TGVの電車内の床はコンクリート打ちっぱなしのようで、ちょっと意外でした。犬もそのまま乗ってくるし、日本とは大違い。何はともあれ、無事にバイヨンヌ行きに乗れたので一番の難関を突破した気になりました。一時はまったく分からなくなってしまい「俺ってどうなっちゃうんだろう!?」と思ったことでした。
 時計を見ると11時半になっていて、ホテルを出てから飲まず食わずだったのに気づきましたが、それどこじゃなかったから。客車を5両歩いて販売車まで行って見ました。ビールにパン、何ユーロか分からないので10ユーロ札を出してお釣りをもらいます。売り子のおばちゃんが「キャンユースピークイングリッシュ?」と聞くので、反射的に「ちょっとね」と日本語で言いながら指でちょっとのマークを作ったら、「ショットネ」と復唱してくれる。ちゃんと通じるんだなぁ。
 車内検察がやってきたので切符を渡してみると、パンチするのじゃなく持っていた機械に通してピピピとやっていた。ホームで刻印するのを忘れると、このときに無賃乗車扱いになって高い罰金を取られるそうです。海外ツアーでどこへ行ったとしても決して体験しないことをずっとやっている。得がたい経験をしているのかも知れない。
 しばらく立ったので隣のお兄さんに「ネクスト バイヨンヌ?」と尋ねたら「ツーステーション」と教えてくれた。疑問に思ったら自分だけで何とかしようとせずに、近くの人に教えてもらうのが一番いい。そのバイヨンヌ駅には少し遅れて15:37に到着。すぐ窓口でSJPP行きのチケットを買う。繋ぎが悪く次の電車は18:06発なので、2時間半も待たなくてはならないが仕方がない。この駅にはホタテ貝を括りつけたバックパックを背負っている人がうじゃうじゃいるので心強い。時刻表の電光掲示板にはそれぞれホームの番号が表示されているが、SJPP行きだけは数字でなく「CAR」となっているので、そういうホームがあるのかなぁと不思議に思っていたら、これだけは電車でなくバスだった。だから「カー」なのか。予定時間前にもひとつバスがあって、ぞろぞろと巡礼達が乗り込み始めたので自分のチケットの時間とは違うけど一応運転手にチケットを見せたところ「OK」と言うので乗り込んでしまう。ちょっと早めの出発になったので嬉しい。


SJPP到着

 SJPPには夕方7時半に到着。フランスは陽が暮れるのが遅いのだが、山の中なので既に薄暗くなっている。バスを降りた人たちは戸惑うことなく同じ方向に歩き出したので自分もその列に着いていく。着いたところは巡礼事務所で、ここで出発地点のスタンプを押して貰い、必要なプリントも頂けるようだ。長蛇の列なので受付する前に近くにあったスポーツ用品店でスティックを2本求める。1本18ユーロ。事務所の係りの女性は、日本から持参のクレデンシャル(巡礼手帳)を見せるとエライ感激ようで、シャメまで撮っている。現地で買うと2ユーロで日本で取り寄せると千円だが日本から持ってきて良かった。受付が済むと今夜の宿まで紹介してくれるし、何枚もプリントまで貰ったのに無料だった。至れりつくせりだ。
 時間が遅いので紹介された宿へ行ってみると既に満杯で、入り口で4人の女性が次の宿を紹介されてたので自分もその人たちに付いて行く。言葉が分からないので、この人たちが命綱に見える。巡礼用の宿はスペインではアルベルゲと言い、ここフランスではジットと言っている。次のジットは全員OKだったのでまずは一安心。部屋は女性三人の中に自分だけ混ぜてもらうことになったが、すぐ別の女性一人と入れ替えて他の部屋に移ることになり、そこはまだ自分ひとりだけだった。シャワーを浴びてる間に、ブラジル人男性が入っていたので、カタコトの英語で会話してみる。
 ジットを探した女性四人から夕飯を食べに行こうと誘われた。カナダ、ドイツ2人、コリアンだが全員一人旅だ。レストランはフランス語だけだったので、カナダの子は英語が通じないのが分かるとフランス語に切り替えて注文している。この子はどちらの言葉もネイティブだそうだ。かっこいい。日本と勝手が違うし言葉も分からないので女の子たちに任せるほかない。ウェイターがメニューを一人一人に見せて注文を取るのだが、周り順かと思ったら私を飛ばして次の女性を先に注文を取っている。これが本場のレディファーストと言うものかと新鮮な驚きを体験する。周り順かと早合点して手を出さないで良かった。自分はピザと三人で大瓶の水をシェアする。支払い時にシェアした水だけ自分が持つことにする。4ユーロ。水1本が日本円で560円か、高い。ジットに戻ると、部屋にはカナダとスペインの女性が入っていた。私達が二段ベッドの下段を既に取っていたので、二人とも上段だ。

ピレネー越えへつづく