ポルトへ
出発から54日目の7月4日。コンポステラ、バイバイの日だ。ポルト行きのバスにちゃんと乗れるかとか、その次のビーゴへ行くことなど色々考えていたら目が冴えて余り眠れなかった。7時ころ起きだしてパッキング開始。食堂に下りて手持ちの食料で朝飯にする。最後だと思って何日もお世話になったアルベルゲ内アチコチの写真を撮りまくる。パシャパシャパシャって、私のカメラは無音設定にしてあるので音は出ないけど気分的に。
8時20、バスターミナルに向けて歩き出す。バスは10時発なので、すんごく早い行動開始だけど、交通機関を利用するときは早いに越したことはない。何しろ言葉が分からないし文字も分からないのでどのバスに乗るかを事前に把握するには普通の人よりずっと時間が必要だ。広いターミナルだが、ポルトへ行くALSAのバスが出る発着所は2ケ所しかないのが分かった。まだバスは来ていないが、ここで待ってさえいれば乗り遅れることはなさそうだ。自転車のグループも同じバスに乗るのか、自転車を分解しだした。分解と言ってもペダルは取らないしハンドルも付けたままなのでこれもスペイン流か、まぁ大雑把なもんだ。自転車を入れる輪行袋は誰も持っていなくて、代わりにお勝手で使うサランラップで全体をグルグル巻きにしだした。へー、これは目からウロコだ。これって飛行機に乗る時のバッグのグルグルサービスにも応用できるな。覚えておこう。
出発20分前になったら荷物をバスのトランクに入れられて、10分前に乗り込むことができる。旅行代理店からは印刷されたA4用紙しか貰わなかったので、一抹の不安があったが問題なかった。バスは指定席ではなかったので、窓が大きく開いていて景色が良く見える席をゲットだぜ。リクライニングも調度いいし、前後の席との距離も申し分ない。快適なバス旅行が楽しめそうな予感がプンプンする。何しろ、ちゃんとポルト行きのバスに乗れたので一安心だ。運転手がポルト市内の地図を配ってくれたのでこれは便利。予定外のポルトなので情報が乏しかったから貰える物は何でもありがたい。長距離バスなのでトイレ付だが、高速道路を走るため全員がシートベルト着用なのでこれは使えんね。
バスはほぼ定刻に出発して、2時間ほど走ったらビーゴの港町が見えてきた。この町にも泊まるか知れないので良ーく見ておく。予想より遙かに大きな町だった。もっと小さなひなびた町を予想していたのだが、大きな町は面倒だなぁ。
ポルト空港ともうひとつのバス停で一部の客を降ろして無事にポルトのバスターミナルに到着。来る前にタブレットでポルトの地図を見ていたのだが、バスターミナルは町の中心にあって都合がいいと思っていたのだが、予想に反して着いたバスターミナルは町の中心から大分外れたところだった。GPSがあるから何とかなるが、ホテルがある中心地へは歩いて1時間近くも掛かってしまう。
途中には見る予定だったサン・ベント駅が偶然あったので中に入って最初の観光だ。壁一面にポルトガル名物のアズレージョ(装飾タイル)が施してあってまぁ立派。駅構内にインフォメーションがあったので電車でビーゴに行く方法を聞いてみると、ここからはビーゴ行きの電車は出てなくて、ポルトにもうひとつあるカンパネラ駅から出ているそうだ。いい情報を得られた。って言うか、そんなことも知らんでポルトに来たんかと言われそうだ。
ホテルを目指して歩いていたら、後ろからブエン・カミーノと声が掛かる。 バックパックを背負っていないが、すぐ巡礼者と分かったので思いがけない出会いを喜び合う。私と同じようにコンポステラ到着後にポルトまで観光に来たのかと想像する。しかし、後で知ったが、ここポルトはサンチャゴ巡礼路のひとつ、ポルトガルの道に入っていた。もしかしたら巡礼中の人だったのかも知れない。
予約したホテルはすぐ前をウロチョロしていても分からないほどホテルらしくなかった。でも、タブレットの地図だとこの建物なんだがなぁと入っていったら、ちゃんとレセプションがあったので間違いなかった。ここも朝飯は無料で食べられるのでとても助かる。シャワーのあと、商店を見つけて1リットルビールやトマト等を買って食堂で飲み食いする。初めてポルトガルという国にやって来て初めての食事がこれだよ。どんだけ貧しいんだって思いそうだが本人は倹約を楽しんでいるからいいのだ。もうどこへ行ってもこのスタイルが身に付いてしまい、レストランなんか食べるところが何所にも無い限り入る気にならない。
二度目の買い物に出たときに日本人顔をした女の子二人に会ったので、日本人だよねと声を掛けたらその通り。ヨーロッパに留学中で、ポルトには遊びに来たそうだ。「こちらでお住まいの方ですか?」とまた言われた。今日もお決まりのビーチサンダルとジャージだし、そう思われるのは無理もない。これは考えようによっては大金を持っている観光客目当ての詐欺やスリに遭わない有効手段かも知れない。
このホテルでもう1泊追加するか、ビーゴで2泊するか思案のしどころだ。ビーゴにはドミトリーがなく、1泊の値段がここの倍くらいするので少し考えよう。
ここは一部屋に12人くらいかな、勿論2段ベッドだけどベッドごとにカーテンがグルッと付いているのでプライバシーはそこそこ守られる仕組みになっている。各ベッドには小さな扇風機と専用ライトまで用意されているのでアルベルゲよりはずっと高級ぽい。でも、カーテンがあると開放感がそがれるので一長一短ありかな。トランクルームは最下段にあり、貸し出された個人のカードをかざすだけで開けることができる。この部屋にはアホみたいに騒ぐグループがいた。みんなが寝る時間でも部屋の電気を遠慮なく点けて大声で騒いでいる。尋常じゃない人間たちで、マリファナとか覚せい剤でもやってるとしか思えない。ひとしきり騒いで静かになったので寝入っていたら、外からやって来てまた電気を点けて騒ぎ出したので、もう朝になったかと時計を見たらまだ3時。本当に頭がおかしいとしか思えない。
ポルトガルの道
出発から55日目の7月5日。食堂で朝飯を食べていたら、昨日騒いだグループもやって来た。見たら若者じゃなくていい年こいた6人グループだった。こんな奴等と何日も同じ部屋にいたんじゃたまらんと、宿泊の延長はしないことにして、取り合えず明日ビーゴへ行く手段を考えることにする。
悪いことばかりじゃなくて、隣のテーブルにはどうやらペリグリノらしい女性がやって来た。そういう人とはブエン・カミーノと言うだけですぐ打ち解けられる。年配のご婦人は、カナダからやって来て北の道を踏破してからムシア、フィステラと歩き通してきたらしい。勿論ソロ巡礼。若い二人はソロ同士で、それぞれ出発して2日目と初日だった。2日目の女性は足にテーピングをベタベタしていたので、初日に随分歩いたのが伺える。あ、そうだと思いだし、部屋からスタンプが沢山押された2冊のクレデンシャルを持ってきて見せたら、グレートとか言いながら多いに受ける。年配のご婦人も部屋から自分のクレデンシャルを持ってきて見せてくれ、4人で大盛り上がりだ。歩き始めたばかりの一番若い女性はポルトガル人かと思ったらイタリア娘のシルビアだった。持っていたクレデンシャルにはまだ一個もスタンプが押されてなかったので、本当に昨日が初日の巡礼一年生だ。私がフィステラ・ムシアルートを歩いた情報をノートに一生懸命に書き写している。
年上の女性は、いったん部屋に戻って旅支度をしてすぐ戻ってきた。大きなバックパックを背負い手にはスティックを2本持ってニコニコしている。お腹にはボトルとウェストバッグが取り付けてあり、中々勇ましい出で立ちだ。三人とハグをしてから歓声に送られながら出発していく。彼女に取って、今日一日を元気に歩けるいい出会いになったことだろう。私も出かけるのでイタリア娘に握手をしようと手を出したら、ノーと言ってハグをしてきた。やっぱり握手は相手と距離を置く挨拶らしいのがこのとき良く分かった。
3kmほど離れたカンパネラ駅までタブレット片手に歩いて行ってビーゴへのチケットを購入する。14.75ユーロ。窓口で日時と行き先を書いた紙を見せれば難なく買うことが出来た。あ〜、来るときもこれが出来ればあんな苦労はしなくて済んだのに返す返すも残念なことをしたと、またぐじぐじと悔しさをぶり返す。明日の朝、8:15発ビーゴ行きだ。ビーゴは終点なので寝ていても大丈夫なので気が楽だ。チケットを買ったので、タブレットからビーゴのホテルを予約しようと試みるが二度ともエラーになってしまった。タブレットからだとセキュリティか何かの関係でエラーになるのかな?そう言えば、ここポルトの予約はアルベルゲのパソコンからしたのを思い出した。でも、ビーゴで空いてるホテルは幾つも確認できるので、直接行っても何とかなるだろう、慌てなくても大丈夫だ。
ポルト観光
今日は一日ポルト観光だ。ポルトの有名どころは集中してるようなので、この町は観光しやすくて便利だ。まず世界遺産になっているドン・ルイス一世橋というのを見に行ってみる。橋は2段構造になっていて、下は自動車、上は路面電車と歩行者だけが渡れるようで観光客がぞろぞろと好きな所を歩いている。橋の遥か下には大きな川の両側に同じ色の屋根をした家並みがいっぱいあって、とてもポルトガルらしい雰囲気がある。ポルトガルってスペインと接しているし言葉も似ているようなので同じようなものかと思っていたが、まったく違う国だった。街の雰囲気がかなり違っていて、スペインにはなかったポルトガルらしい建物が並んでいる。日本のツアーではポルトガルと北スペインの両方を一緒に連れてってくれるのがあるが、いっぺんにこの二つの国を見ると違いが良く分かっていいかも知れない。
橋からゴンドラらしき物が見えて、近づいたら橋の上から繁華街がある遥か下までを連絡するゴンドラのようだ。下までは結構な距離があるので、ゴンドラに乗ってみよう。往復で8ユーロと、ちょっと高いが名物のポートワインの試飲券も付いている。これも是非飲んでみたかったし、日本のツアーでは必ず立ち寄る所だから渡りにゴンドラだ。日本と違い、ゴンドラには1グループしか乗らないのが普通のようだ。10人くらいは乗れそうな大きなゴンドラだけど、私の前も家族3人だけで乗り、私が乗ったら次のグループは乗ってこない。計らずも一人で大きなゴンドラを占有して、これは中々いい気分で観光気分満喫。ありがたいけど不経済だなと、つい貧乏根性が出てしまう。
下まで来ると、まぁ観光客でごった返している。すぐ試飲のできるポートワイン工場へ行ってみる。ここも観光客でいっぱいだった。試飲は赤・白のグラスワインを飲め、甘くてとても旨かったので、5ユーロ出して追加を飲ませてもらう。今度は赤白に加えてロゼの3杯だった。どれも旨いが冷えてる白が一番旨かった。5ユーロと言う金額は、スーパーで買うビールなら3リットル以上飲めるがポルトに来たんだからやっぱりポートワインは飲まないとだ。欲を言えばグラスに8分目くらい入れて貰えると涙モンなのだが。ポートワインにはブランデーが入っているそうなので、5杯飲んだらちょっと気持ち良くなった気がする。日本で見かけるようなら買ってみたくなった。
観光地になっている川岸をちょっとふらついて帰りのゴンドラに乗ろうとしたら係りの女性がパシャッと写真を撮ったので、日本でも良くある短時間で印刷して写真を売る商売だなと推測する。案の定、到着した乗り場で出来上がった写真をいかがですかと勧めてきたが、カメラを見せて「アイハブ3000ピクチャ」と断る。今の時代、カメラを持たない観光客は滅多にいないだろから、滅多に売れないんじゃなかろうか。
橋を戻ってポルトの目抜き通りと言われるサンタカタリナ通りを目指して行くと、レトロな路面電車が調度止まっていたので、益々磨きがかかって来た身振り手振りを使い、指をぐるっと廻して一回りしてここに戻ってくるのか聞いたところ、そうだと言うので乗ってみる。外見も中身も本当にレトロで、停車駅を知らせるためのロープが天井を這っていて、下りる時はそれを引っ張るようだ。イスも室内灯もまぁ本当にレトロ。私が乗って走っている電車を観光客が写真に撮っている。
ポルトはエッグタルト発祥の地ということなので、エッグタルトって何だぁと思いながらそれらしい店に入って頂いてみる。コーヒーがめっちゃ小さいカップで出てきた。普通のコーヒーを頼んだ筈だけど、これは特別なコーヒーなの?スペインで飲むカフェコンレチェは大きなカップで出てきたし、家ではこの5倍は入るマグカップでいつも飲んでいるので何とも飲みごたえがない。隣のアイスクリーム屋でも旨そうなのを売っていたので、これも買い食いする。もう観光気分満喫だ。
この通りにマジェスティック・カフェという有名な老舗がある。店の前まで行ったが日曜で休みだったので入口の写真だけ撮っておく。タイミング悪く誰かが前を通ったようだが、これを後で見てみたらペリグリノだったのでビックリ。ポルトでは朝の女性のほかは一人もペリグリノを見なかったのに、ちゃんと写真に収まっていて奇跡のようだ。しかもド真ん中に二人も。巡礼のシンボルである帆立貝をザックに括り付け、長い木の杖をちゃんと持って写っていた。そのとき気が付けば声を掛けたのだがと、ちょっとだけ残念。この目抜き通りが巡礼路になっていたんだ!さすが千年の道。スペインでもそうだったように、ポルトも巡礼路の周りから町が発展していったのかも知れない。
ホステルに戻ってから食料の買出しに昨日の店に行ったら日曜で休みだった。がーん、ポルトガルお前もか。でも少し歩いた所にも似たような店があったのでちゃんと食料を仕入れることができキッチンで食べられる。隣のテーブルからサンチャゴと言う言葉が聞こえたので話してみたらやっぱり経験者だった。私と同じ、サンジャンからスタートしたそうだが、何時のことだかは聞き取れなかった。
朝、盛り上ったイタリアのシルビアとカナダのおばさんマリッセがやってきた。出発したかと思ったらまだ居たんだ!シルビアは昨日歩き始めたばっかでまだスタンプもひとつも無いのにもう連泊してて大丈夫なんか?私のタブレットと自分のスマホを同時操作してさっさとフェイスブック繋がりにしている。自分のフェイスブックに日本語でコメントを入れてと言うので「こんにちはシルビアさん」と書いてやる。どういう意味かと聞くので「ハローシルビア」だと教えてやる。その後シルビアのフェイスブックを覗いて見たら、ちゃんと歩き続けていて最後はフィステラまで到達していた。何とも素っ頓狂で面白い子だった。(写真はシルビアのフェイスブックから)
昨晩やかましかったバカ奴等は今朝チェックアウトしていったのが分かった。それならもっと連泊してもいいと思ったが明日の電車チケットを買ってしまったので後の祭りだ。でも、主だった観光はしたし、今晩一晩だけでも静かに寝られるからいいや。
ビーゴへ
出発から56日目の7月6日。ポルトのホステル、今日の電車は8:15と早いのでオチオチ寝てられない。カミノでは自分の好きなタイミングで起きて歩き出せば良かったので時間は気にしないで済んだが、乗り物利用の旅は制限が付くので面倒だ。6時に起きだして出発準備をしていたら、朝食用のパンが大量に届いたのでスタッフに断って1個貰っておく。
歩き出してから万歩計の時計を見たら7:42なのでギョッとする。カンパネラ駅まで35分必要なので突然忙しくなった。おっかしいなぁ、ちゃんと昨日のうちに今朝のタイムテーブルを作って行動してたのになぁと思いながら走ったり早歩きを10分ほどしていたところ、あれ?そう言えばポルトガルはサマータイムを導入してないので1時間遅かったかなと気づく。ポルトガル時間を登録してあるタブレットで確認したら、やっぱりまだ1時間以上の余裕があったのでやっとホッとしてゆっくり歩きに変更する。駅には余裕で到着し構内のバルでカフェコンレチェを頼みホステルで貰って来たパンを食べる。コーヒーはビッグカップを頼んだが、スペインなら普通サイズだ。他の人のコーヒーを見てみると、昨日飲んだのと同じ極小サイズだった。やっぱりポルトガルとスペインはこんなとこも違ってる。駅のトイレには入り口におばさんが座っているのが見えるので有料のようだから利用しないでおこう。
ポルトガルでもスペインでも駅のホームには改札と言うものがないのでチケットがなくても自由に行ったり来たりできる。自分のビーゴ行きのホームは13番だけど、どう見てもホームは6番しかなくて、実際に地下通路を歩いてホームの端まで行っても6番しかない。近くに居たポルトガル人に聞いてもさっぱり要領を得ないし出発時刻の10分前になっても解決しないので、焦ってチケット売り場まで聞きに行くことにする。そしたら、13番ホームは1番ホームをずっと奥に行けと手で教えてくれるのでその通りに進んで行ったら改札口を出たところからは見えない所に新しいホームが沢山できており、そこにちゃんと13番のビーゴ行きと書かれたプレートも発見できたので一安心する。まぁ言葉が分からないから何事にも苦労があるよ。(写真のホームは1番で、こっから6番以上のホームは見えないがずっと奥まで行くと新しく付け足したホームが並んでいる。)
足掛け三日をポルトで過ごしたが、やっぱり一般のドミトリーの客は知らない人には誰も挨拶しないし話し掛けもしないことに接し、改めてカミノの素晴らしさが分かった。来る前からカミノの魅力は人との繋がりと思っていたのだが、それは来て見て想像以上に素晴らしいものだと実感することが出来た。カミノでは誰に話し掛けてもそれが普通だし、むしろ出会って挨拶しないことの方が不自然にさえ思えた。ペリグリノはそれぞれ助け合いの精神に溢れ、怪我をすれば助けてくれるし道に迷っていれば聞かなくても教えてくれる。言葉は通じなくても「ブエンカミーノ」と言うだけで友達だ。みんな同じ目的を持って何百キロという道のりを一緒に歩く同士と言う意識を全員が共有しているように思えた。ただし、巡礼証明書が発行されるコンポステラまで100km地点のサリアから歩き始める人たちは少し違うように感じたので、本当のカミノの魅力を体験したい人は是非、それより前から歩き始めるか、コンポステラから始まるフィステラルートをお勧めする。
再再コンポステラ へ続く
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