さらばパリ

 出発から66日目の7月16日。とうとう日本に帰る日がやって来た。長いような短いような、終わってみるとやっぱり短かった。朝食タイムではKさんと一緒になったのでお世話になりましたと写真を撮らせてもらう。すっぴんだと子豚ちゃんみたいで可愛い。彼女はこれから日本大使館まで行って新しいパスポートを受け取り、夜の列車でロンドンへ渡るそうだ。凄いね、フランス・イギリス間を結ぶ海底トンネルだよ。3・4日をイギリスで過ごし、その後はドイツを転々とするらしい。まぁ小さな体で大きな闘志と言うところか。とても小柄だけどとても逞しい女の子だ。そのバイタリティーで日本でもきっと良い就職先を見つけることだろう。

 部屋のトイレでモタモタしていたら時計兼万歩計をポチャンと落としてしまった。これはいつもバックパックの腰ベルトに引っ掛けていたので、いつか落として無くすか知れないなぁと思っていたのだが、最後の最後の日にこうなった。無くしたわけではないが水没したので画面は「888888」とエラー表示になって使い物にならなくなった。歩数計はどっちでもいいが時計は重宝していたので残念。これからは面倒でもタブレットの時計を利用するしかなくなってしまった。黒ボールペンも昨日で終わりになったし、二つとも自分の役目が終わるのを待って命尽きたようで何か運命的なものを感じる。(おおげさ)

 捨てる積もりで持ってきたカッパ上下はここで暇を出す。もっと早く捨てたかったが、もしパリで土砂降りに遭ったことを考えると捨てるタイミングは今だろう。チェックアウト時のフロントで馴染みになったお兄さんに「あいるびーばっく」と言ったら受ける。映画、ターミネーターでお馴染みシュワちゃんの決め台詞だが半分は本気だ。
 写真は長い間お世話になった食堂兼談話室。向こうが入口で受付があります。


モンパルナス墓地

 夕方の全日空便だが、昼にはドゴール空港に向けて出発したいので今日はまともな観光は考えてない。歩いて行ける(ってどこでも歩いていけるのだが)モンパルナス墓地に行ってみよう。そんなに複雑な道順でないのでタブレットのGPSを疎かにしたため、通りを一本間違い迷ってしまう。仕方ないからまたザックからタブレットを引っ張り出して確認しながらモンパルナス墓地にやって来る。パリには大きな墓地が幾つか有り、それぞれに有名人の墓があるのでここにも観光客はやってくる。日本のガイドブックでは墓地の紹介もしてるしね。墓地に入るのに入場料はいらないので穴場といえば穴場なのかな。モーパッサンの墓がこの辺りにあるはずなのだが看板が立っている訳ではないのでさっぱり見つけられない。フランス人らしいカップルが入ってきたので「モーパッサン?」と聞くと「あっち」と指差してくれるが、そのあっちへ行ってもさっぱりなので諦めて別の有名人の墓を探すことにする。しかし、ここの墓はどれも凄い。文字で書くより写真を見てもらった方が早いので載せておきますが、どれも個性的で芸術的でさえある。中でおままごと位できそうな家みたいのもあるし映画に出てきそうですって言うか、こういう鉄の扉を開けて入る墓を映画で見たことある。




 名前だけは知っているジーン・セバーグの墓の近くまで来ているのに決定打が放てないで結局見つけられなかった。見つけたのはボードレールだったかな?それともボーボワールだったかな?あ、シモーヌ・ボーボワールだった。他にも何人も有名人の墓がある筈なのだが、いずれにしてもリサーチ不足だった。
 写真:右下はボーボワール。左下はゲンスブールの墓で、私は初耳だったが作曲、作詞、歌手、映画監督、俳優と多才だったそうな。フランス・ギャルが歌った「夢見るシャンソン人形」を作った人だそうです。

 お墓のあとは地元の人が利用するというモンパルナス・タワー近くのショッピングモールに行ってみる。うーん、買いたい物がある訳じゃないし何だか良く分かりませんね。店内をうろついても面白くありません。ここに朝からやっているケーキ屋さんがあったので、ユーロもいっぱいあることだし最後にプチ贅沢してみるかとイチゴがいっぱい載ったタルトとペプシを飲んでパリの最後を飾ることにする。でも、こんなんで飾ったことになるのかな?本当はシャンゼリゼでこれをやりたかった。

 もうやることが何もないので、2ヶ月前に出発したモンパルナス駅構内に行ってみる。これから出発する巡礼さんが居たら話し掛けたいと思っていたが、今日は誰もいなかった。やっぱりここにはそんなに居るもんじゃないようだ。2ヶ月前だってカナダ人のおばちゃん二人組がいただけだったしな。駅から外に出て、バス乗り場に向かう。エールフランスのバスが3台も止まっているので出発順ならこれだろうと一番先頭のバスに乗ることにする。もちろん「シャルル・ドゴール・エアポート?」と、間違いないと思っても必ず確認するのを忘れない。いつもと同じ17.5ユーロだった。


シャルル・ドゴール空港

 バスは1時間ほど走って空港には12時半に着く。夕方5時半のフライトなので相当早いがギリギリよりずっといい。バス内の電光掲示板にはターミナル2〜ターミナル1と表示されていたが、ターミナル1に最初に到着した。ターミナル1の建物を覚えていて、バス停も覚えていたから先に着いても慌てないで済んだが知らなくちゃ乗り越してしまうかも知れない表示だぞ。でも念のために「ターミナル1?」と石橋を叩いてから降りる。成田空港はバスで降りたところがそのまま出国階と分かりやすいが、この空港はそうでないようだ。Departureの文字を探して案内に従い進んで行くとエレベーターで上に上がるようだ。バスが着いた所を出国階にしてくれよ。全日空のカウンターがあるといいなと思って来たが、さすがにそれはないようだ。ANAのアの字も見つからない。きっと、チェックインの時刻が来るとこの辺のどっかにANAの文字が出てくるのだろう。何度かの海外ツアーに行ったお陰で、そういうのも分かるようになってきたので喜ばしい。ベンチに座ってホテルから持ってきたフランスパン2個と、昨日スーパーで買っておいたでっかいオレンジジュースでお昼にする。9日前にパリにやって来たときの最初の夕飯がホテルの残りのパンで、パリを離れる最後の食事もホテルから持ってきたパンとは、この旅の貧乏差加減を象徴しているなと笑える。

 このターミナル1は中央が透明な空洞になっていて、エスカレーターがその中にあるドーナッツ型の回遊形式になっている。その大きなターミナルをふた周りもブラブラして暇つぶしをする。印刷してきたANAの案内ではカウンターは3番とあったが、今日は2番で受付を始めたので早速チェックインをする。今日は客が少ないのか行列もできてなくて具合がいい。行きも帰りも土日を外した効果がこんなところに出ているのかな?ここでもeチケットなんか見せる必要はなくて、パスポートのみでチェックイン完了。バックパックには危険物扱いのスティックやナイフが入っているのでバラケないようガッチリ固定して預けさせて貰う。貴重品は全てベストのポケットに入れてるので、もしバックパックが行方不明になってもいきなり困ることはない。靴もバックパックに入れて預けたのでビーサン履きに手ぶらでジャージスタイル。もう誰が見ても立派な貧乏バックパッカーだろう。(そこ威張るとこじゃないですから〜ってギター侍か:古っ)

 搭乗ゲートへむかうための長〜いエスカレーターに乗る。そう言えば日本から着いたターミナル1にはこんなんがあったなぁと思い出す。スペインからパリに来た時のターミナルなんて、こんな洒落たのはひとつもなくて、まるで片田舎の飛行場みたいだったよ。何だったんだあの飛行機は。
 乗り込んだ機内は予約どおり前に誰もいない最前列席なので12時間を足を伸ばして快適に過ごせそうだ。CAさんは日本人で日本語が通じるのも素晴らしい。隣は若い女性だったので「良い席が取れて良かったですね」と話し掛けたところ「はぁ〜?」なんて顔をしたのでもう放っとくことにする。やっぱり普通のお嬢ちゃんはホテルで一緒だったKさんのように苦労人じゃないのが良く分かる。歳は同じくらいでも、ドミトリーを泊まり歩くような旅行者はそこいらのチャラチャラした若者とは一味も二味も違うようだ。Kさん、ありがたかったなぁ〜と改めて感謝する。


日本帰国

 飛行機が滑走路を動き出しても3列ある内の窓側の席には誰も来なかった。じゃぁ私はひとつずれて間の席をひとつ空けられるかなと期待がでてくる。しかし、窓側の席には窓がなく(脱出用入り口があるので)ちょっと出っ張りもあるので邪魔になるくらい出っ張っているのか触って確かめたり、チロチロと何度も見ていたところ、安定飛行に移ったら目の前に座っていたCAさんが移ってもいいですよと目配せしてくれる。私の思惑を気が付いていたようだ。CAさんは離陸時にずっとこちら側を向いて座っているんだから、あんだけ興味を示してれば、そりゃ気が付くだろうと思った。CAさんありがとう、ありがたく移らせてもらい更に快適度が増す。そう言えば来る時も最前列に加え、間が空席になったんだよなぁ。徒でさえスペシャルな最前列席なのにこんな贅沢していいんだろうかと思うほどだ。

 映画を3つ見てウトウトしてたら意外と日本には早く着いた。入国審査して今回も遅く出てきた荷物をゲットして靴に履き替えたところで、お世話になったサンダルには暇を出す。先端を何度も切り取って靴修理に回したので、見た目はまぁこんな感じです。靴下はスペインのカルサダで買いました。
 高速バスのアザレア号は出発まで1時間以上も待つので今回は初めて電車を使って帰ることにする。もう2ヶ月以上も言葉がままならない外国で暮らしてきたので、日本語が通じて読めるだけで電車もバスも飛行機でさえ何も怖いことはない。電車の方が安いし、前橋まで帰る方法を複数経験しといた方が今後のために良かろう。成田→上野が1,030円で上野→前橋が1,940円で合計2,970円。アザレア号は4,500円なのでずっと安いし早い。日本に帰ってきたことでよっぽど安心したのだろうか、上野までの京成電車内で熟睡してしまい他の乗客に起こされてしまう。上野が終点で良かった。上野駅では是非食べたいと思っていた大盛りカレーを食べられて満足。あとはもう上野から前橋までの電車を見つければいいだけだ。67日間に渡った私の旅がこれで終わる。


 最後まで読んでくれてありがとうございます。歩いている時は夢中でしたが、帰ってきてからの方が巡礼の道で出会った感激アレコレが鮮明になってきて来年また行きたくなってきました。行くとしたら来年はCamino del Norteと言う北の道814kmを目指します。さてさてどうなることやら。

おわり