2019. 11. 10

京都 福田美術館

 11月9日(土)、京都の福田美術館に行ってきました。
 主たる目的は奈良の正倉院展で、そちらは全面撮影禁止です。ついでと言っては失礼ですが、せっかく京都、奈良方面に行く機会ができたのですから、「アイフル」が母体で話題の福田美術館を見学しない手はありません。10月に開館したばかりで、SNS公開OKという触れ込みにも興味をもちました。


 渡月橋と桂川沿いの大勢の観光客の喧噪からわずか数メートル離れただけで、落ち着いたたたずまいを見せる美術館エントランス。

 美術館受付前の吹き抜けスペース。左手の緩やかな階段を上らないと、会場には入れません。このスペースにはエレベーターが見当たらなかったので、バリヤフリーが心配。 

 第1展示会場(ギャラリー1)への入口。黒い壁と天井。一見行き止まりのトンネルのような薄暗い空間に戸惑いながら前へ進むと…。

 とうとう行き止まりです。左を向いた小さな矢印だけを頼りにさらに一歩壁に近づくと、不意に左手の黒いメタル調の壁がスライドしました。正面ではなく、横の壁が自動ドアだったのです。

 目の前はすぐに展示会場で、工夫された演出でした。暗い通路を通ってきたので、会場全体の落とした照明が気になりません。むしろ作品に当たっている照明の明るさが心配なくらい。貴重な作品(特に紙本着色の作品)が長期間の光に弱いでしょうから。

 展覧会では、いつも出迎える第一の作品を気にします。どの作品で迎え入れるか、展示者(学芸員)の腕の見せ所だからです。福田美術館は、「斑猫」(国宝)で有名な竹内栖鳳の絵で出迎えてくれました。私の大好きな日本画家の作品なので、自分的にはうれしいです。これは「金獅図」(1906年)。

 2番目も同じく竹内栖鳳の「猛虎」(1930年)。動物画の第一人者とは言え、犬や他の動物も描いている訳ですから、ネコ科の動物でそろえてくるあたり、例の「斑猫」を意識してるなと思ってしまいます。

 いくつかの作品をはさんで、伊藤若冲の「群鶏図押絵貼屏風」(1797年)。墨の濃淡だけで表現し、色はありませんが、色を感じます。足の踏ん張りから始まり、尻尾?の筆遣いまで勢いに溢れています。

 伊藤若冲「群鶏図押絵貼屏風」の全体の様子。

 撮影禁止マークがついていたため、ここにぜひ載せたくても載せられなかった加山又造の「猫ト牡丹」は秀逸でした。シャム猫の青い瞳と牡丹の赤との対比の他、省略と描き込みのめりはりがあり、参考になりました。もっと加山又造のコレクションが見たいです。

 なぜか「パノラマギャラリー」と呼んでいる展示空間に、わずか7点ですが、洋画がありました。これは、クロード・モネの「プールヴィルの崖、朝」。

 カミーユ・ピサロの「エラニーの積み藁と農婦」。「積み藁」はモネの代表作の一つとばかり思っていました。

 ここになぜかアンリ・マティスの「窓辺の婦人」。
 シャガールの大きめの作品は撮影不可だったので、載せられません。

 コレクション的に気になったのは、(ここにはあえて取り上げていませんが)日本画で言えば竹久夢二の前期展示4点(後期展示は別の4点)、洋画で言えばマリー・ローランサンの3点が、他の作家の作品点数より多いことです。つまり力を入れて収集したということであれば、今後のコレクションが大衆迎合の流れになりはしないかと心配になりました。コレクションは財力ばかりではなく、コレクターの目利きが命ですから。松方コレクション、ブリヂストン、ポーラ、山種等のコレクションはもちろん今に始まったことではないにせよ、当初からブレはないと思います。

 家に帰ってから作品リストの印刷物を見て気付いたのですが、自分のスマートフォンから音声ガイドができるサービスは、イノベーションだと思います。(この手があったか、と思いました。)もう帰ってきてしまいましたが、後でじっくり試して振り返りたいと思います。展示を見る前にチェックするという使い方もありそうです。解説という先入観の入った鑑賞はお勧めできませんが、世間一般の人には役立つ技術だと思いました。