飛騨路は今日も雨だった    その1

 時は1976年の8月1日、いざ飛騨高山へ向かって出発。と、いつもなら一人でつつましく出発するところだが、今回は軽井沢の山荘で中学生会の合宿に参加する中学生3人と、途中の軽井沢までは一緒に走るのです。集合場所の教会には保護者まで見送りに来てくれて賑やかな出発となる。時間は8時45分。団体では集合したりなんだりがあるので一人旅のように朝露払って出発とはいきません。まぁたまにはこういうのもいいだろう。
 中学生ともなると自転車をこぐのは大人並なので、足手まといになるってことはない。ただ、今村君の自転車が調子悪いらしく遅れ気味。釜飯で有名な横川のドライブインで見てみたら、タイヤが車体に接触していたらしく、それで余分な力を必要としたらしい。碓氷峠に入る前に直って良かった。その後は調子良く走れるようになる。
 碓氷峠の旧道を上り、中軽井沢には3時40分に着く。中学生の指導は仲良しのマイケル神父さんなので、俺みたいに余計なのが混じってても気にならない。山荘の宿泊費は千円でいいらしい。


出発から2日目、5時半に起床する。ミサや朝飯を済ませて、山荘はゆっくり目の8時20分に出発。これからはいつもの一人旅だ。
 飛騨へ行くには、まず松本に行かなくてはならない。軽井沢から松本への道は幾通りかあって、どこを通ったとしても山を越えて行かなくてはならないのだ。検討した結果、上田経由で青木村を通り地蔵峠というのを越えて行くことに決めてある。何でこのコースにしたかという決めては、まだ走ったことのない道ってこと。
 前橋側から軽井沢に来るには碓氷峠という難所を越えてくる。軽井沢が一番高いところにあるので、その向こう側の上田へ行くには急な下りがある。下り坂は大好きだけど、ずっと直線の急坂ってのもスピードが出過ぎて怖いものがある。もったいないけど、ブレーキを掛けながら下らなくてはならない。スキーの直滑降みたいのは自転車にしても面白くない降り方なのだ。やっぱり適当にカーブがあった方が楽しめる。

 上田市を通過して田舎道になる。やっぱり車の多い国道よりは田舎道の方がのんびりできていいなぁ。しばらく走ると勾配がきつくなりだし、地蔵峠に差し掛かる所では雨が強く降り出してくる。暫く屋根が付いたバス停で雨宿りをしてみるが、どうも止む気配はないようだ。すぐ前の店でジュースを2本飲んで、店のおばさんに大きなビニールを貰って荷物の上に掛けることにする。親切なおばさんであれこれ気を使ってくれ、新聞紙を持ってるといいよと一束くれる。
 その後もずっと雨の中を走り続け、峠にあったドライブインでざるそばの昼飯にする。まずい。信州てのは蕎麦の本場の筈だけど、こういう店じゃぁ本場もくそもないんだろう。
 今晩、勝手に泊まる予定にしてある松本教会に3時半に到着。司祭館を訪ねて今晩の宿をお願いする。快く了解してくれたのでまずは一安心。走っている間中降り続いていた雨が、暫くしたら止む。どうせ止むのならもっと早く止んでくれればいいのにー。
 松本教会は松本城のすぐそばなので、歩って城を見物に行く。帰りに、教会へのお礼にと箱入りのメロンを購入。こいつは値段の割に高く見えるのでいいかも。教会のまかないをしてくれてるらしい婦人の方に託す。案の定、「マァーッ」と、とても喜んでくれている。ふっふっふ、ホントはそんなに高くないんだよ。
 夕飯は街の中でカツ丼に生野菜、リボンシトロンとバランスのいい食事。
 夜になったら神父さんが温泉に誘ってくれる。どこにあるのか分からないが、美ヶ原高原ホテルというところまで車で連れてってくれる。どうやらホテルのお風呂に入るようだ。外人の神父さんだけど、温泉が好きらしく、時々くるそうだ。感謝のつもりで入浴代は俺が持つ。でっかいホテルの風呂で気持ちがいい。誰かが置いてったカミソリでヒゲをそっておく。
 帰ってきてから明日の予定をざっと立ててシュラフにもぐり眠りにつく。明日は晴れるといいなー。


出発から3日目、5時に起きる。神父さんには朝早く出発するから挨拶しないで行く旨伝えといたので、予定より早いけど5時半に教会を後にする。すぐに雨がポツポツと降り出してくる。何なんだろなーこの雨は。昨日は到着したら止んで、今日は出発したら降ってきやがった。雲の上から誰かが監視してんじゃないだろなー。通りにあった小さな駅のひさしの下に自転車を止めて、荷物が濡れないようにとビニールでくるむ作業をする。昨日のおばさんに貰った大きなビニール袋が大活躍だ。おばさんありがとー。早朝の内はポツポツで、その内ザーザー雨になる。

 松本市街を抜けると、まわりは次第に田舎道になってきて、信州〜って雰囲気になる。こういう風景の中をサイクリングすんのがいいんだよなー。でも相変わらずポンチョ被ってんので今ひとつ景色を楽しめない。

 雨降りも昨日に続いて2日目なのでポンチョの扱いも馴れてきた。京都で買った山岳用ポンチョだが、自転車にももってこいだ。知ってる人は知ってるだろうが、山用のポンチョは一枚のビニールの真ん中に首を出すフードがあって、前後を垂らして着込む物だ。何つってもでかいので、前に垂らした部分でフロントバッグもすっぽり包め、荷物が濡れないから安心するものがある。後ろの部分はというと、ビニールの先端にひもが通っているので、そいつをギュッと締めて腰に縛ると自転車で走ってもバタバタとなびかないからスピードを出しても安心なのだ。まるで自転車で使うために設計されたような機能的で便利なデザイン。
 新島々の駅に着く。朝飯に、駅構内の天ぷらそばと自販機の暖かいココアを飲む。やっぱり雨が続くと山の中なので幾らか肌寒いね、あったかい物がありがたいですー。
 駅をすぎるともう完璧な山道になり、トンネルもしこたまあるおかげで鼻の中は真っ黒け。真っ黒になっても自転車にとってはトンネルはあった方が断然走りやすい。疲れ方が全然違うのだ。トンネルもっとどんどんあってください、構いませーん。

 上高地への分岐が見えてきた。上高地へは帰りに寄る予定なので、そっちは横目で見て本線に沿って高山を目指す。その分岐をすぎると、坂は急にきつくなる。知る人ぞ知る難所で名高い安房峠だ。さすがに凄い急坂。路面も相当痛んでいるので、ちょっとペダルを漕いで上るのは無理な所も出てくる。せめて車がいなくちゃぁヨタヨタしながら上れるか知れないけど、松本方面から有名観光地の飛騨高山へ通じる唯一の道路なので結構交通量がある。おまけにこの雨ときてるから、坂、車、雨の三重苦だ。唯一の救いはサイクリストが多いってことだけ。こんな急坂の山奥なのに自転車野郎にしょっちゅう行き交う。いや、むしろこういう所だからこそ自転車が集まるって言った方が当たってるか。自転車やってる連中ってのはおかしな癖があって、険しい峠道に好んで集まりたがるようだ。少々マゾっ気があるのかも?
 ここで前を走っていたサイクリストが何やら声を掛けてくる。え、ロープを持っていないかって?何だろなと聞いてみると崖下に落ちた仲間を引き上げたいのだという!えー、ホントかいの。下を覗くと確かに人と自転車がある。幸いなことに怪我はなさそうだ、落ちた人は為すすべもなく崖下からボーッと上を仰いでいる。4m程の崖だし、落ちた下も坂になっていたから割合ショックが少なかったのかも。
 東京から来たっていう5人組で、カーブん所でビギナーのメンバーに「アウト回れアウト」とやっていたら外側のラインを取りすぎて崖下に落っこちてしまったてことだ。自転車乗りなら知っているテクで、自転車で山を登る場合、カーブでは外側を回ると比較的楽に上れるのですよ。試しに自転車で坂のカーブ内側と外側を回ってみればすぐに理解できること請け合いだよ。もう行って帰るほどの違いを体感できることでしょう。でも幾ら外側を走れば楽ちんだからと言って、崖から落ちるほど外側を回っちゃあいけねーよ。それにしても落ちた本人はその時どんな気持ちだったんだろう。インタビューしてみたくなっちゃうね。何はともあれ自転車仲間なので引き上げるのを手伝ってから、また雨の中を進む。
 吐く息が白くなっているのに気づく。真夏なのに随分気温が下がってるんだなー。でもポンチョを被って大奮闘している我が身に寒さなどは感じられない。ポンチョの中は汗でぐっしょり濡れているのだ。フーハーフーハー息を切らしながら上っていく。あんまり息苦しいので、頭は濡れてもいいやとフードを脱いでみると幾らかましになる。体だって、雨に直接当たらないってだけで濡れネズミなんだからポンチョは着ても着てなくても似たようなモンだろう。

 峠の頂上付近になると腹が減ってペダルに力が入らず、まったく動きたくなくなってくる。腹ぺこってのは普段でも良くあることだが、腹ぺこの自転車で山を登るってのは今まで無いのでこれは大変なことなんだと気が付く。腹ぺこだと腹に力が入らない、然るにペダルを漕ぐには腹筋も腕の力も必要なのだ。ホントに動けなくなってしまいそうだぞー。坂を下ってくるサイクリストに、その内ドライブインがあるかと聞くと、1Km位上ったところに土産屋があるとのこと。最後の力を振り絞って坂を上る。ぼちぼち峠も頂上が近づいてきたらしく、傾斜は殆どなくなってきたので体力的には大分楽になってきた。何とか店までたどり着く。人間、腹が減ると動けなくなるのがよ〜く分かった。これからはサイクリングで山の中に入るときは必ず何か食べ物を携行しよう。

 茶店みたいな店内に入ると、そこの人たちはセーターに綿入れジャンパーを着込んでストーブにあたっている。こっちは相変わらずの半袖・半ズボンにTシャツは汗でビショビショ状態。何という落差なんだろう。暫くすると体温も下がって震えるほど寒くなってきた。腕にはゾックリ鳥肌が立っているぞ。やっぱりこの人たちの服装の方が正しかったのだ。暖かい山菜そばを食べ、もう一杯月見そばも食べる。腹が減ったのもあるが、暖かい物を腹に入れたいのもあるのだ。デザート代わりにゆで卵と桃も食べたらやっと人心地が付いた。
 崖に落っこちた5人組もそばを食べにやってきた。現在、外は雨と風でちょっとした嵐状態になっている。何だか凄い所に来ちゃったなー。この茶店は地獄に仏ってなもんだ。この辺の写真が一枚もないのが後になって非常に惜しい気がする

 風も緩んできたので茶店を出発しようと外にいたら、盛岡から来たというサイクリストが声を掛けてくる。どういう事情か、車の伴走までいるそうだ。何かの大会じゃあるまいし、伴走付きとは珍しいというか、随分豪勢なツーリングがあったもんだ。
 雨ん中、今度は下りだ。出る前から下りが寒すぎるのは分かり切っているので、長袖ジャンパーを着た中に新聞紙を腹に挟んで下ることにする。それでも寒い寒い。腹に力を入れて息張りながら下っていく。ハフーンッ、フゴーッ。

 下りたところは平湯温泉。通過しちゃおうと町外れまで来たところで平湯峠の巨大な山々が目の前にドーンッと通せんぼをしているかのように立ちはだかる。この雨の中をまた峠越えしなくちゃならないのかよ〜。一難去ってまた一難とはこのことだ。恐れをなしてこの平湯温泉で泊まることにする。人間、引き際も大切だ。なんちゃって、ただビビッただけ。
 びしょぬれの体で野宿ってのは自分でも気の毒すぎる気がする。安い宿を探そうと温泉内を探し歩くがどこも満員。峠からの坂を下ってくるときに目に付いた民宿の看板を思い出し、訪ねてみるとOKとのこと。ここんちは温泉街からはちょっと離れているから空き部屋があったのだろう。何はともあれ良かった良かった。

 宿で仕入れた情報によると、平湯峠は安房峠よりきついそうだ。その代わり、登りが4Kmでいいそうだ。どんなに急な坂でも、4Kmなら押して上ったって何時間も掛かるモンではない。これはありがたやだ。それに平湯峠を登りきれば、多分その先はずっと下りが続いていそうな気がするので、明日は今日よりずっと気楽なツーリングになりそう。どうせならなるべく気楽な方に考えを持ってったほうがお得だ。
 (現在では平湯峠には平湯トンネルがあり、安房峠にも安房トンネルが完成して峠道を通ることはない。だから、松本から飛騨高山へはずっと行きやすくなってます)

 風呂に入ってホッとしたところで本日の日記を書いておく。
 今日は峠が凄いと思ったら、それもその筈、158号は北アルプスを横切ってるような道路なのだ。山ばっかりの峠道だからサイクリストなんか少ないだろうと思っていたら、単独、複数のサイクリストに断続的に出会う。カッパを着込んで上る奴、下る奴、みんな一生懸命にペダルを漕いでいる。こういった峠道で出会うと一段と嬉しく勇気づけられる。狭い道路なのですぐ側で声を掛け合うのだが、一人の奴に「がんばれよーっ」と声を掛けたら「おーっ、頑張るぞーっ」と返してきた。俺は下り、奴は登り、返ってきた言葉が痛烈に分かるね。一人でザーザー雨の中、果てしなく続く気がする山ん中の急坂に長時間アタックしていると心細くなったり情けなくなったりするものだから、同じ苦しさを知っている者同士、心の底から声を掛け合うのであるよ。あの「頑張るぞー」は俺への返事と同時に、自分自身に向けても叫んでんだよね。自動車の連中も声援を送ってくれんのがいるが、雨にもあたらず苦労もしない車中から声援を送るのとは訳が違うのである。ちなみに私は自動車からの声援には大体無視を決め込んでいる。
 民宿から窓の外を眺めると、夕闇迫る山々に深い霧が立ちこめてきた。あー、宿に泊まれて良かったぁ。

 

 

 

 


出発から4日目、 民宿の朝。6時過ぎに起きる。すぐに窓を開けて空模様を見てみると、今日は何とか晴れてくれそうだ。雨がモロに影響する自転車旅行では、晴れそうだと思うだけで大変な喜びがある。普段なら晴れた降ったで一喜一憂するってのは少ないけど、こういいうのも旅の一つの調味料なんだろね。朝食を貰って8時に出発する。
 すぐに平湯峠の急な登りになる。平湯温泉はその名が示すように(て、自分で勝手に解釈してんだけど)山にグルッと囲まれた谷の中にポツンとある平野の中の小さな温泉だ。だからここから外に出ようとすると、いきなり塀をよじ登るような上りになってしまうのだ。平らな道からいきなり上り坂になるので、まるで道路に「こっから平湯峠のぼり口」とでも書いてあるよう。でも、宿で十分休息できたので元気はいっぱいだ。えっちらおっちらと上っていく。(下の写真、この谷底に平湯温泉はある)
 1時間半ほどで頂上に着く。泊まった平湯温泉が、落っこちるような急坂の遙か下に見える。やっぱり相当なのぼりだった。
 ここのドライブインには小熊が飼われていた。檻じゃなく、店先で首輪に鎖で繋がれている。こんなの普通の店が飼ってていいのかぁ?観光客が噛まれたらどうすんだい。

 予想通り、峠頂上からはず〜っとダウンヒルが続く。このままどこまでも続け続け〜っと念じながら下っていく。
 登りの道はえらい時間が掛かるが、下りはいつでもあっという間にすぎてしまう。もっと下りを楽しみたかったらブレーキを掛け掛け下ればいいのだが、そんなもったいないことはやってらんないので危険でない程度の最低限のブレーキ操作しかしない。自転車をなめちゃいけまへん、山の下りでは車と同じスピードが出せるのだ。坂の具合によっては車を追い越すことだって可能だで、やんないけどね。ただし、ブレーキの効き目は車並とは行かないので数十メートル先に何があるかを良〜く見極めながら下って行かなくてはとんでもない目に遭うこと請け合い。

 11時少し前に高山市街着。飛騨高山ってぇと、群馬からはとんでもない距離に感じるが、来てみると自転車でも4日目には着いちゃうんだなぁ。意外と近かったてことか、距離にしたら270Kmほど。
 高山は見るところが沢山ある。今回も事前にガイドブックで丹念に調べてきたので見物するところは盛りだくさんだ。
 古い町並みをそのまま保存してある上三之町〜上一之町。それぞれに小さい郷土館やら美術館がある。
 町屋建築というこの地方独特のお大尽建物では日下部家に吉島家。空町には職人の家並みがあるってことだし、大きな施設では高山陣屋に祭り会館、ちょいと離れた所には、飛騨の郷(さと)に民俗館などホントに盛りだくさんにある。まずは飛騨国分寺からスタートし、しらみ潰しに見て回る。

 


 赤い欄干の中橋のたもとに、名物「みたらし団子」の屋台があったので2つ食べてみる。う〜ん、何てことない味だぁ。ただの甘辛醤油の団子ってだけ。やっぱり回りじゅう全て山だらけの飛騨の名物ったらこんなモンなのかなー。昨日の民宿の食事も山菜主体だったし。でもまぁ値段の許す限り名物は食べた方が楽しい旅になる。今後もなるべくまめに食べるように心がけよう。
 このすぐ前にある高山陣屋は残念ながら休みだった。仕方なく陣屋の門前で記念写真を撮ってみるが、見物もしてない陣屋の前での記念写真ってのもちょっと悲しいものがある。

 1時、昼飯を食べる。高山ってのは意外や高山ラーメンという隠れた名物があるんだそうだ。でもそれよりはやっぱり隠れてない名物の「朴葉味噌」を食べてみたいので、そいつを売り物にしている食堂に入る。当然、「朴葉味噌定食」を頼む。う〜む、こ、こ、これわぁー・・・さっきのみたらし団子から想像力を働かせればある程度予測できた食い物だったのかも知れないけど、何てことないただの味噌をおかずにしたご飯ってだけのことじゃないかぁー。朴(ほう)って葉っぱの上に味噌を乗せて、刻みネギをパラパラと振りかけ下からミニ七輪で炙ったというだけのホントに素朴な料理。食べる前は、味噌に独特の味付けがしてあるとか、挽肉やらクルミやら銀杏なんかが入ってんのだと思ったで。あれ?今気が付いたんだが、朴葉の朴って素朴の朴じゃないかよ。じゃぁ朴葉味噌って読んで字のごとく「葉っぱに味噌の素朴なおかず」ってことなのか。うーむ、新発見をしてしまった。でもこんなんじゃ腹は満足しないね。

 日下部民芸館と吉島家住宅は金払ってみるに値する。一抱えもある通し柱が2階を突き抜け天井まで達している。その他の材木も、まぁよくこんな太いのをあつらえたねと感心するような立派なものだ。座敷に上がって家の中じゅう見物することができる。入場料は安いし、どちらもスタンプも置いてるし、こういうのなら有料で見てもいいね。高山は記念スタンプがあちこちにあるので、あるたびにペタペタと押して回る。スタンプ収集ってのも始めると中々面白い。金もかからんし。
 飛騨工匠館ってのにも入ってみる。ここは飛騨の民芸家具やでっかい木の根っこを飾ってあるだけでつまらない。金払って詰まらないとこだとガッカリする。通りの店で牛乳2本を飲んで栄養を補給しておく。
 今度は高山の町はずれにある屋台会館へ行ってみる。有名な高山祭りで使われる壮麗な山車を展示してあって、まぁさっきの工匠館よりは見でがある。でも、祭りの山車ってのは祭りの中で見てこそナンボのもんだろから少々物足りない気もする。山車を展示してあるだけなら山車の車庫を見てるようなもんだ。

 夕方5時頃、高山の町から一歩外に出た場所にある、飛騨民俗村に行ってみるが今日はもう終わりだそうだ。開館時間をチェックして帰る。朝の9時から夕方5時までやってるそうだ。明日はみさせてもらうでー。
 夕飯は、ラーメンと野菜サラダ。普段は食堂で野菜サラダなんか絶対頼まないが、健康志向に目覚めたサイクリング中は栄養のバランスをしっかり考えているのだ。気分で注文するだけだからあまり当てにはならんけどね。

 さて、今晩の寝床だけど、どこにしようかなーと高山の街の中を物色してあるく。陣屋前のひさしは雨よけにはちょっと小さいなー。で、屋根があって野宿が出来るところって言えば、駅が定番だ。やっぱり高山駅に行ってみる。そしたら、な、なんと!!沢山の先客が駅構内を占拠しているではないか!え!?飛騨高山ってこういう所なの?谷川岳の駅みたいに、登山客が出入りするような駅なら分かるけど、高山って有名でお洒落な観光地だよね。何でこんなに野宿者が駅に集合してんだろ。それぞれの服装を見ると、登山客ではない普通の観光客のようだ。駅で寝るのが嬉しいらしく、新聞紙を敷いた上に寝転がって互いに記念写真を撮りあってるのまでいる。それでもって後で「野宿したんだぜぃ」って自慢しようってのかよ。ヲイヲイ、一般観光客は宿に泊まれよ。俺のような貧乏サイクリストが泊まれないじゃないか。駅のベンチで寝ようと思ってきたんだけど、ベンチどころじゃない、構内さえもいっぱいで入れない始末。仕方ないので外のひさしの下を今日のねぐらと決めてコンクリートに新聞紙を敷いた上にシュラフを並べる。どうでぇ一般観光客、いーだろー、こっちはシュラフ持ってんだぜぃ。

 でもまぁ、混んでてベンチは取れなかったけど、こんだけの人数で一緒に野宿するのって初めてだなー。心強いものがある。普段、野宿っていえば、当然自分一人で見知らぬ土地の暗がりの中で長い夜を過ごさなくてはならない訳で、コツコツという足音にも警戒しちゃったりして、それはそれは心細いものなんである。今晩はそういう心配はいっこもしなくていいのでありがたい。横断歩道の話じゃないが、みんなで野宿なら怖くないってことだ。
 夜が長くて飽きるので、駅前のロータリーを見物したり自販機の天ぷらうどんを食べる、80円。

   その2へつづく

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