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歌熟るは八色そろいや春吟う

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 生


茜に染まる汐の途が、真黝き岩に砕けた。
星が一段と輝きを増す。
陰と陽の気配が空に交差して。
浩浩と赤瓦を照らす月が、浪間に一条の光を投げた。

先刻まで犇いていた客も今は疎らで。
夜風にあたりながらテラスで寛いでいた海月のような男は
小皿に盛られたオリーヴを摘むと、蒸留酒を舐めた。

――いい身分だな」

俺に運転させておきながら、と毒吐く。
卓子に置かれた燭台の灯が幽かに揺れた。

「あ、そっか。ごめーん。でも沖縄での運転なら、はーさんが適任かなぁって」

「お前専属のドライバーになる積りはない。少しは遠慮しろ。
真逆、このまま沖縄に移住する気じゃないだろうな?」

「やだなー、はーさんってば。突然、何を云い出すのかと思ったら……
いくら僕でも愛する家族を置いて駆け落ちなんてしないよ。
所詮、僕らはうちなーじゃなく、ないちゃーだし。島偏愛狂でもないから安心して。
まっ、職業柄この景勝地に食指が動かなくもないけどね」

「ならば何故――黙って宅を出た?」

一瞬、返答に窮した紫呉が押し黙ったのを、俺は見逃さなかった。

――本当に大切なものは連れて行かない。

この男の良いところであり、同時に悪いところでもある。
当たり前のように共に歩んできたのに。
フと俯向いて顔を上げたら、隣に居ない。
その悲劇なら憶えていた。

護りたかった。護って、やりたかった。
俺たちも、島人も。理不尽な抑圧と隷属の繰り返しで。
人も、そうでないものたちも。奔放に。
誇り高く生きていくためには、誰からも干渉されることのない中間領域が必要だった。

「進み過ぎた技術はさ。多分、便利なんだろうけれど、ほんの少し窮屈なんだよ」

そう云うと、紫呉は手書きの温もりが残る注文票を給仕の男に渡した。
程なくすると、眼前で中煎り珈琲が提供される。
芳醇な香りとほろ苦さ一杯分の想い出が、四方へ漂った。

「時代錯誤だな。お前が情報弱者になりたいのなら構わんが……
その薄穢い価値観を子どもたちに押し付けるなよ」

「そんなことしないって。ただ……みんなほんの少し、倖せになりたかっただけなのにね」

溜め息が珈琲に溶けた。
群青にぽつぽつ灯る真白の燈が、浮きつ沈みつ明滅する。

「彼らだってもう――子どもじゃないだろう?」

「そう、みんな大人になった。立派になった……僕だけ、空っぽなんだ」

そう云って嘆息すると、紫呉は力なく冷眼を伏せた。
それは彼に、最早他人の人生を受け止めるだけの余裕が無くなってしまったことを
示唆していた。
肚に力を込め、息を吐き出す。

「己を視ているのは、己自身だ。誰もお前に、期待していない」

味方になる積りはない。
だが表立って助けてやれなくても、蔭から支えてやろうと。あの日、決めた。
尤も支えられていたのは自分の方かもしれないが。
神が宿るこの王国が、島人の心の拠り所となったように。
俺自身が、紫呉の還る場所になりたかった。

凡てを白と黒で判別することができたのなら。
どんなに楽だろう。どんなに危ういだろう。
世界には未知があるからこそ、先がある。希望がある。
だからきっと、曖昧な部分も必要なのだ。

「お前の――好きに為ればいい。
仮にも当主補佐と名乗るなら、理想のひとつくらい貫いてみせろ」

そのままで良いんだ紫呉、と。
それだけを告げ、今にも機械化されてしまいそうな心を奪い返そうと瘠けた頬に触れる。
途端、瞼が朱に染まり、未だ色香を孕むしっとりと濡れた髪から夜が浸み出した。
ん、と。艶やかな吐息が漏れる。

「君ならそう云ってくれると思ったよ、はとり」

そこに翳りは、ない。穏やかな、それでいて芯のある声だった。
この先、声なきものの声を具に拾うことができるのは、この男だけだ。
果敢に大海へと漕ぎ出し、独自の文化を形成した海の民も。
案外、こんな表情をしていたのかもしれない。

つと白亜の店内に視線を転じる。
誰かに、呼ばれたような心持がしたのだ。
壁に吸い寄せられるかのように立ち上がると、疾風に翻ったボードが見えた。
何気ない所作で裏返す。その古びた一枚の写真に――

空間が、表情を変えた。

――ずっとずっと、この倖せが続きますように。今日子&勝也

来ていたのか。
胸に迫るのは、万感の郷愁。
今此処で生きているものと、嘗て此処で生きていたものが
同じ場所で息をしている、等しく。

ただのありふれた日常がどれほど尊くて、愛おしいか。
仮令幾度、経を唱えられようとも。
決して諦め切れないものが。
諦めてはいけないものが、この世界にあることを。知って、欲しいのだ。

記憶の中で生き延びた二人が、蒼暗に透ける。
そうやって嬉しい哀しいを繰り返しながら、煌めく小宇宙は続いてゆくのだろう。
夜は伸びたり縮んだりしながら、朝が息を吹き返すのを待っている。静かに、だけど勁く。
藍と碧とゆかりの色のが、闇き虚空を抱いた。


めぐるさだめの さいはてよ
そこに徑あり 命あり
あゝたれがため 暮れの海
そこに島あり 愁ひあり








2023.12.31

綾瀬:「どうも。命懸けで帰省して、ただいま衣食住のありがたみを実感しているみのるです」
紫呉:「オーバーだなぁ。ちょっと遠距離になったくらいで」
綾瀬:「正直、飛行機とは無縁の人生だと思ってた。
    こうなってくると、未来人の過去からの予言がホント恐い。とっても恐い」
はとり:「考え過ぎだろう。少しは紫呉を見習うんだな」
紫呉:「はーさんッ!それっ、褒め言葉じゃないからッ!」
綾瀬:「知りたい欲求が強すぎたのが問題ね。
    結局、『時よ止まれ!お前は美しい』だったんだから」
紫呉:「……で、止まってる間、みんな君の我が儘に振り回されるワケ?」
はとり:「地獄のような世界だな」
綾瀬:「そんなに責められても困るけど、せめて一日、36時間あればねぇ」
はとり:「念の為、その振り分けを聞いてもいいか?」
綾瀬:「先ず、12時間は瞑想と睡眠。6時間が家事で、5時間が仕事。
    11時間が妄想と創作と勉強で、残り2時間が運動とリハビリ」
紫呉:「……そんなだから、後の世で<未完子>だなんて不名誉な渾名をもらうんだよ」
綾瀬:「面目ない。ただ、良質な休養の余剰が、良い妄想へ繋がっていくと思うんだけどなぁ」
紫呉:「呑気過ぎるよ。今、僕らが何となく生きている一日は、
    誰かが死ぬほど生きたかった一日かもしれない」
はとり:「およそ夕方まで寝ていた奴のセリフとは思えんな」
紫呉:「はーさんッ!バラすなんて非道いよ!」
はとり:「バラすもなにも本当のことだろう。管理人、そろそろ来年の抱負を交えて
    纏めたらどうだ?」
綾瀬:「来年は先ず、このTopのSSを変更したいと思っています」
はとり:「随分と低い目標だな」
綾瀬:「本当はもっと早く変更したかったんだけどねぇ。
    次は、はとり視点の番だし。丁度いいかな、と」
紫呉:「あ、そっか。はーさんの年だ!」
はとり:「また語弊のある言い方を……」
綾瀬:「ともあれ、今年も何の変哲もない当拙サイトを訪れてくださった皆々様、
    誠にありがとうございました」
綾瀬&紫呉&はとり「どうぞ良いお年をお迎えください☆明年も宜しくお願い申し上げます」

2022.12.31

綾瀬:「ない!ないッ!!ないッ!!!」
はとり:「……相変わらず騒々しい奴だな。如何した?」
綾瀬:「久し振りに帰省したら、フルバ関連の漫画や雑誌が忽然と消えてるんだけど。
    これって一体、如何いうこと?如何いうことッ!?」
紫呉:「実家あるあるだねぇ。ご愁傷様」
綾瀬:「いやそんな他人事みたいに!こっちにとっては、一大事なんですけどッ!」
はとり:「探して見つからないものは仕方ないだろう。諦めるんだな」
綾瀬:「私の年末唯一の娯楽が……」
紫呉:「オーバーだなぁ。その内、ひょっこり出てくるかもしれないよ」
綾瀬:「散らかっている体を装いながら地味に見せたいものだけ並べてある時点で、最悪」
紫呉:「生きてる時間軸が違うから、嫌がらせされ放題だねぇ……
    その点、僕とはーさんは同じ世界線に生きてて本当に良かった!」
はとり:「良かったと云えるかどうかは謎だが、そのくらいにしておいてやれ。
     凹みすぎて埋まってるぞ」
紫呉:「突いたら爆発するかな?」
はとり:「これ以上、俺を巻き込むのはやめてくれ」
紫呉:「大丈夫!何か遭ってもはーさんだけは助けるから!」
はとり:「災禍を齎す張本人に云われても、何の説得力もないんだが」
紫呉:「またまたぁ〜照れちゃってぇ」
はとり:「あまり軽口を叩くと……縫うぞ」
紫呉:「はーさん。その冗談、笑えないから……
    ともあれ、管理人は動かずを決め込んでるみたいだし」
はとり:「はぁ……今年もまた、このパターンか」
紫呉:「ひとつも期待はできないけれど、来年こそ倖せな年になるといいね」
綾瀬&紫呉&はとり「皆様、どうぞよいお年を☆明年も当拙サイトを宜しくお願い致します」

2021.12.31

綾瀬:「ギャアアッ!もうやだ!どーなってんのォ?どーなってんのォッ!?
    なんで冗談でネットに書いたことが、現実世界に反映されてんのォ!?
    脳内妄想の問いかけがメディアを通じて返ってくんの?
    もう、やること 為すこと 思うこと 全部筒抜け!嘘だろ?嘘だろ!?
    なんなのこの世界!?もうイヤ、やめて――ッ!!!!!」(*善逸口調)
はとり:「修行しなおせ、怠け者!敗者には何の権利も選択肢もない!!
    お前はもう死んでいる!」(*冨岡口調)
紫呉:「もしもーし、そこのお兄さん。誰かと半分混ざっちゃってません?
    屍の上に転がってる管理人。毒も盛ってないのに虫の息ですよ?
    ……というか、今頃気付くなんて君、鈍すぎ」(*前半だけ、しのぶ口調)
綾瀬:「うっ、うっ……もうやだ、こんな悪趣味がすぎる世界」
はとり:「そうか?俺にはお前の演技が最も嵌っていたように見えるが……
     というか、いい年して恥ずかしくないか?そのポーズ」
綾瀬:「……自分だって棒読みだったくせに」
はとり:「何か云ったか?」
綾瀬:「いいえ、何もッ!」
紫呉:「くっ、くっ……相変わらずだねぇ。でもいいの。演技なんて、どーだっていいの。
    なんてったって、はーさんは顔がいいから!」
綾瀬:「なんという無茶苦茶な理屈!なんという滅茶苦茶な世界!!」
紫呉:「そう云われてもねぇ……それが僕たちの世界だし」
綾瀬:「いそいそと現実逃避した先が、全部相手のテリトリー内だった時の無力感なんて
    アンタたちには分かんないわよ!」
はとり:「一方的に喚いたところで解決策は降ってこないだろう」
紫呉:「絶賛錯乱中の管理人に、何を話したところで響かないだろうしねぇ……」
はとり:「はぁ……仕方ない。今年も俺たちだけで纏めるか」
紫呉:「はぁい。改めまして、今年も何の変哲もないサイトでごめんね」
はとり:「来年もマイペースにスローペースで活動するそうだ。気が向いたら覗いてくれ」
紫呉:「きっと無理だと思うけど、来年こそ平穏無事な年になるといいね」
綾瀬&紫呉&はとり「明年もよろしくお願い申し上げます。皆様どうか、よいお年を☆」

2020.12.31

綾瀬:「年末の大掃除よろしく久し振りに『徒然日記』をリニューアルしました」
はとり:「単にデータが飛んだだけだと素直に云え」
紫呉:「前と違って日記ボタンを押しても無反応だから注意してね。
    しっかし今年も濃ゆい一年だったねぇ……」
綾瀬:「真逆、今頃になって慊人と花ちゃんの気持ちが解るなんて……ね。
    ホント、人生ってミステリー」
紫呉:「『おめでとう。新しい貴女を歓迎しますよ。
    これからどう生きていくのか楽しみです』」
綾瀬:「嫌あああーー!!それ禁句!禁句だから!」
はとり:「俺は『世界で一番バカな旅人』のままで良かったと思ってるが。
     自分が何をしたか解ってるんだろうな?」
綾瀬:「……勿論。だから繋がりは切らない。でも誰も連れて行かない」
紫呉:「それってちょっと我が儘が過ぎるんじゃ……?」
綾瀬:「いいの。仮令独り善がりと嗤われようと、一度くらい後悔しない道を歩みたいもの」
はとり:「はぁ……好きにしろ。お前のことだ。どうせ止めたって聞かんだろ」
紫呉:「はーさんってば、優しいー」
はとり:「莫迦に付ける薬はないからな。
     お前も……何時までも高みで笑ってないで、さっさと纏めろ」
紫呉:「はぁい。今年もヘタレ管理人の所為で何の更新もなくてごめんねぇ」
はとり:「来年も自由気ままな運営方針を貫くそうだ。気が向いたら来てやってくれ」
綾瀬:「色々ありましたが、皆様の倖せを希い続けることに変わりはありませんので」
綾瀬&紫呉&はとり「来年も当拙サイトを宜しくお願い致します。どうか、よいお年を☆」








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